目指せベストパートナー!編

第66話 目指せベストパートナー!①/テスト開始とパンチとキック

 体育祭も近づく今日このごろ。

 ついにその前哨戦となる、二学期の中間テストが始まった。


 すでに一日目を終えて、今日は二日目。

 苦手な英語と数学のテストがある日だ。


 俺は覚えた英単語を思い出しつつ、教室で静かに目を瞑って精神統一をする。

 教室内は、最後の追い込みをする者、諦めた者、余裕な者が入り乱れてカオスになっていた。


 耳を傾ければ、愛奏たちの声が聞こえてくる。


「雫玖、大丈夫? 顔色悪いよ?」


「大丈夫じゃない。ゴメン。今は話しかけないで。覚えた事が、穴という穴から出ていきそうだから」


 それはまた大変な話だ。

 風見さん。赤島との勝負が決まってから、ものすごい頑張ってたからなぁ。

 おかげで、こちらも気合が入ったものだ。


 別のところから聞こえてくるのは幸治の声だ。


「今日の英語は自信あるぜ。神薙のおかげだな」


「私も今日の数学は自信ありますよ。八条君のおかげです」


 どうやら神薙さんと話しているようだ。

 あの二人も、最後の三日間は集中して頑張ってたらしい。

 最近、妙に仲良さそうなのは気のせいだろうか。


 また別のところからは、力石君と竜一の声がする。


「藤門。物凄い顔になってるぞ。大丈夫か?」


「大丈夫だ。今日は苦手な科目だからな。緊張するとこういう顔になる」


 竜一はここ最近、俺や幸治以外のクラスメイトと積極的に話している。

 良いことだと思う。


 クラスメイトも竜一が単純に顔が厳ついだけと分かって、話しかけやすくなったようだ。


 そんなことを思っていると、テスト監督の先生が入ってきた。


「はーい。筆記用具以外は全部仕舞ってくださーい」


 俺は目を開いて、準備を始めた。

 さぁテストが始まる。

 命、燃やすぜ。


 ■□■□


 さて、英語のテストが終わり、現在は数学のテスト中。

 まもなく終了だ。


 俺は最後の見直しを終えて、自分の名前を書いたか確認する。

 よし。問題ない。


 その時、終了のチャイムが鳴った。


「はい。それまで。筆記用具置いてください」


 クラス内にため息が満ちる。

 数学の試験監督を担当した、本郷先生が指示を出す。


「では後ろの人、回収をお願いします」


 テストが回収され、先生が枚数を確認する。


「はい。全部ありますね。では二日目はこれで終わりです。最終日も頑張ってくださいね。お疲れ様でした」


 というわけで今日の日程は終了。

 あちこちで答え合わせの声が聞こえてくる。

 心配されていた風見さんは、勉強できる側のクラスメイトに確認を取っていた。


「問六の選択肢って(イ)で合ってる!?」


「いや、あれは(ウ)だね」


「ヒエッ! じゃ、じゃあ設問三の最初の答えって、『8』で合ってるよね? ねぇ!?」


 希望に縋るように尋ねる。

 だが、現実は無慈悲だった。


「いやー。あそこはどう考えても整数にならないかなぁ?」


「そっかぁ。ならないかぁ……」


 風見さんは遠い目をして窓の外を眺める。

 そして一瞬で切り替えた。


「よしっ。済んだことは仕方ない。次、次。切り替えてこ」


 メンタル強者だなぁ。彼女。

 俺はそんな事を思いつつ、帰り支度をする。


「優真君。今日はテスト勉強会に行かないんだっけ?」


 愛奏がやって来た。


「ああ、うん。今日は竜一の道場で体動かそうかと思ってさ」


 基本的に日曜日に稽古を入れているが、それ以外でも道場は開いている。

 バイトや他の予定との兼ね合いで、日曜日にいけないなら、別の曜日で稽古する事に決めていた。


「そっか。体動かすのも大切だもんね。頑張ってね」


「ありがとう。というわけで竜一。今日はよろしく」


 俺は竜一に声をかけた。


「ああ、今日は俺も体を動かすぞ。清道流の教えには『机に向かった後は、体を動かせ』とある。一緒に稽古だ」


 その言葉を傍で聞いていた風見さんが、大きく頷いた。


「なんて素敵な言葉! というわけでアタシも今日は……」


「アンタは私たちと最後の追い込みよ」


「雫玖。明日のために切り替えていくんだよね?」


 真田さんと愛奏が、彼女の両脇をガッチリ抱えた。


「ですよねぇー。わかってますよ。ハイ」


 風見さんは項垂れた。

 彼女も懲りない人だ。


「じゃあ行こうか。優真」


「あ、うん。おーい。幸治、駅まで一緒に帰……あれ? もういない」


「ああ、アイツなら終ってすぐに、カバン持って出ていったぞ」


 竜一が教室の出入り口を指差して言う。


「んー? 珍しい。アルバイトでもあったかな?」


 まぁそういう日もあるだろう。

 俺はカバンを持って立ち上がる。


「竜一。お待たせ。行こう」


 というわけで俺と竜一は道場に向かうのだった。


 ■□■□


セイッ。セイッ。セイッ』


 俺は竜一と一緒に、道場で正拳の打ち込みをしていた。

 今日は少年部の男の子である玲司れいじ君も一緒だ。


 道場に釣ってある二つのサンドバックに、俺と竜一は気合を出して打ち込む。

 玲司君はまだ小学生なので、サンドバックは使っていない。


 さて、俺はドスドスと打ち込んでいるけれど、何かしっくりこない。

 隣の竜一を見る。


「勢ッ! 勢ッ! 勢ッ!」


 ドズンドズンと重い音を立てて撃ち込んでいる。

 単純にパワーが違うのだろうか。

 様子を見ていた竜厳さんが声をかけてきた。


「優真君、腕で振っとるの。竜一、ちょっとストップじゃ。玲司君はそのまま続けて」


 指示を出して、竜厳さんが続けて言う。


「優真君。竜一との音の違いで首傾げとったの」


「はい。なんか重さが違うなぁって感じで」


 ドスとドズンだからな。

 漢字で書いたら「打つ」と「撃つ」くらい違う。

 竜一のほうがより強そうなのだ。


「優真は腕だけで打っているからだ。大切なのは腰だ」


 竜一が腰に手を当てて胴を回す。

 竜厳さんが大きく頷く。


「左様。正拳とは、腰を起点にして、全身で撃つんじゃ。そのプロセスを分解すると、姿勢を意識し、腰と連動して脚、腹、肩、腕、手首に力が伝わるようにする」


 竜厳さんが鋭く突いて実演してくれる。

 俺は真似してゆっくり動いてみる。


 ははぁ。なるほど。

 なんとなく、わかる気がする。


「さらにいえば、対象に拳を当てるのではなく、殴るでもなく『穿うがつ』んじゃ」


「優真。拳を相手の背中に通す感覚でやってみるといい」


 ふむふむ。突き刺す感じかな?

 俺は二人のアドバイスを聞いて、実践してみる。


 腰を意識して、脚を踏みしめ、腹から拳まで全身の力を伝えるように動くイメージ。

 そして穿つように撃ち込むっ!


「勢ッ!」


 ドヅンとこれまでより鋭く音を立てて、サンドバックが揺れる。

 竜一とはまだちょっと音が異なるが、手応えが違った。


 もう一回。

 全身を意識してぇ……撃つ!

 ドズンと音が鳴る。


「優真兄ちゃんすげー。さっきと全然違う」


 玲司君が手を止めて言う。


「ふーむ。言って簡単に実演しただけで、これとは」


 竜厳さんが感心したように言う。


「優真、普段から何か殴ってないか?」


 竜一が物騒な事を言う。


「いやいや。殴ってない、殴ってない。ただ、参考にしている筋トレ本が、特撮ヒーローのスーツアクターの人が書いているから、パンチとかキックとか家で真似できる動きも書いてあったんだよ」


 そう言って俺は開脚して、上段に蹴る真似をする。

 実は夏から筋トレするついでに、本に載っていた柔軟をやっていた。


 始めてからまもなく三ヶ月。

 ようやく脚が開くようになって、ちょっと嬉しい。


「ほう。そこまでいけるか。ならば、優真君。こう構えて正拳と同じく全身使って、このように蹴ってみるとええ」


 そう言って竜厳さんは実演してくれる。

 俺はその動きを真似して、サンドバックを蹴ってみた。


 ドシンという音とともに、サンドバックが揺れた。


「ふむ。やはり見様見真似で出来とるの。勘所が良いようじゃな」


「ありがとうございます。小さい頃からヒーローごっこしてたからですかね?」


 仮面ファイターの変身ポーズから、プリティナイツのダンスまで、こっそり自分の部屋で完コピして遊んでたのが功を奏したのかもしれない。


「ふーむ。見取り稽古のようなものじゃな。面白いの」


 竜厳さんがカッカッカと笑う。


「優真。ここからは、正拳突きに加えて、蹴りも稽古しよう」


「わかった。竜一。よろしくお願いするよ」


 というわけでメニューが追加された。

 目指せファイターパンチ、ファイターキック。


「いいなー。優真兄ちゃん。師範、俺も蹴り教えてくれよ」


 玲司君が羨ましそうに言う。


「お前さんは、もうちょい体を鍛えてからじゃな。ほれ、腕が下がっとるぞ」


「ぶー。けちーっ」


 ぶーたれながらも玲司君は腕を上げて、突きの練習をする。


「では竜一、優真君。もう少し、この稽古をするぞ」


『はいっ』


 竜厳さんの号令の下、俺達は汗を流すのだった。


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ここから体育祭編の後半戦です。

お付き合いよろしくお願いいたします。



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