第62話 体育祭に向けて④/クラスみんなで勉強会!

 みんなで大縄跳びを練習してから数日。

 合図だけなら力石君たちでもいけるが、結局、大縄跳びの回し役は俺と愛奏に決定した。


 また、二人三脚の練習は放課後など空いている時間を使って、彼女と練習中だ。


 そんな中、いよいよテスト一週間前となった。


 ここ最近、俺たち一年二組は勉強出来る者が、不安がある者たちをフォローすべく勉強会を開いている。


 今日も俺と愛奏は居残って、みんなと勉強する事にした。


「さて、今日も頑張ろうね。愛奏」


「テストもいよいよ間近だし。今日は私、重点的に数学やろうかな」


「お、イイね。今日は数学得意な磯野君がいるし、俺もそうしようかな」


 俺の言葉に磯野君は胸を叩いた。


「おう、任せろ! 数学はカードゲーマーの嗜み。ロジカルにフォローするぞ」


 まぁ確かに、リソース計算やドロー確率とか、数学要素は必要だからな。

 すると、同じく残ることにした幸治が横から言う。


「数学なら、俺もフォローできるぜ。代わりに誰か英語教えてくれ」


 幸治って何気に勉強が得意なんだよな。

 教科に偏りあるけど、普通に勉強できるチームの方だ。

 ちなみに俺と愛奏は、勉強出来ないチームだ。


「あ、それなら私がフォローしますよ。八条君」


 神薙さんが小さく手を挙げて言う。


「お、そうか。よろしく頼むぜ」


 というわけで、他にもそれぞれの得意教科を活かして、勉強会が始まる。


「にしてもいい加減、諦めないのかね。風見は」


 始めて数分。幸治が呆れた顔で、教室の出入り口に目を向ける。

 そこには竜一と風見さん、そして真田さんがいた。


「さぁ風見。今日から追い込みをかけるぞ」


「今日くらいは解散って事でよくなーい? ほら、詰め込むのも良くないでしょー?」


 風見さんが逃げ道を探して目を泳がせる。

 その様子を真田さんがジト目で見ていた。


「雫玖。あんたの場合は、ほぼ空っぽでしょうに。はい、今日は私も付き合うから、教室に戻るわよ」


 彼女は、風見さんの右側をガッチリ抱える。


「瑠姫には分かんないかもだけど、世の中、勉強が出来なくたって生きていけるんだよ。なら人生を勉強以外に頑張るべきじゃないかな」


 真田さんはアホの子を見る目で言う。


「雫玖。確かにそれでも生きることは出来るわ。でも悪人から搾取されるだけの人生になるわよ。あんたはそれで良いの?」


 妙に実感がこもっている発言だな。

 俺の隣の愛奏が激しく頷いている。


「そ、それはぁ。まぁ、ダメだと思うけどぉ」


「なら勉強して、せめてアホの子を卒業しなさい。今のあんたは、悪い人に心も体も利用されるカモにしか見えないわよ」


 バッサリと切り捨てた。

 おぉう。厳しいけど彼女の場合、当たってるからなぁ。


「はい……。頑張ります……」


 とうとう、風見さんは観念して渋々と机に向かった。


「真田、ありがとう。俺だけでは説得できなかった」


 竜一も机に向かう。


「大したことないわよ。それより、藤門君もちゃんと勉強できてるの? 雫玖ばかり気にかけてたらダメよ」


「おっと、手厳しいな。ちゃんと勉強するさ」


 真田さん。子供っぽく悪ノリするときもあるけど、基本的にドライというか、本当に厳しいなぁ。


 こりゃ、俺も愛奏とイチャイチャしてたら怒られる。

 集中しよう。

 俺は問題集に取り掛かった。


 ■□■□


 その日の帰り道。

 俺と愛奏はいつものメンバーと駅に向かう。


「あ゛ー。一生分の頭使った気分だぁ」


 風見さんが呻いた。


「大げさねぇ。普段から勉強していれば、苦労しない程度よ」


「瑠姫と違って、アタシはバカですよーだ」


 どうやらちょっと、へそを曲げているようだ。


「雫玖。悪い人に利用されないようにせめて、高校卒業までは勉強も頑張ろうよ」


 愛奏が心配そうに言う。

 まぁ彼女の末路を考えると、ちょっと不安になるか。

 彼女も赤島たちに狙われているのだから。


「んーまぁ、それもそうかなぁ。でももし悪人に襲われたら、前みたいにフジモンに守ってもらおっかなぁ」


 ニシシと彼女は竜一を見て笑う。

 ちょっと待て、何か聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。


「前みたいに? おいおい、なんかあったのかよ」


 幸治が竜一と風見さんを交互に見る。


「あー。そういや言ってなかったっけ。アタシ、この間の後夜祭で松葉たちに囲まれたんだよね」


 そう言って話した内容は、松葉たちに追い込まれて危なかった話だった。


「でも、フジモンがたまたまやって来て、バーンってやっつけてくれたんだ」


 嬉しそうに言うが、竜一が来なかったらそのまま犯されてたんじゃないか。

 まさか、風見さんが奴隷になったタイミングって、その時だったのか?


 俺と同じ結論に至ったのか愛奏が青ざめている。


「雫玖! それ先生とかに言った?」


「それがアイツら、私を囲っただけで暴力振るわなかったし。言ったら、やっつけたフジモンの方が不利になるかもだし」


「先生に報告してないのね」


 真田さんがため息を吐きながら言う。

 聞いた話の内容からして、確かに見方を変えれば、竜一が松葉たちに暴力を振るった形になる。

 いや、しかし、それでも言うべきだろう。


「みんな、安心しろ。俺がすでに言っている。もちろん俺が松葉を投げたこともな」


 今まで黙っていた竜一が告げた。


「え!? フジモン大丈夫だったの?」


 風見さんが驚いた。


「大丈夫だ。アイツが夏から風見に付きまとっていることは、なんとなく察していたからな。それ含めて本郷先生に伝えている。先生には『自分を守るためにも、やり過ぎないように』とだけ注意された。その後の松葉たちの指導は分からない」


 竜一、かっけぇ!

 さらっと言ってるが、ファインプレーじゃないか。


「おお、これが清道流のイケメン術か」


 幸治がアホな事を言いながら感心している。

 風見さんは、ちょっと顔赤くしてもじもじしていた。


「ふーん。ほーん。へー。先に言ってくれたらいいのにぃ」


「すまない。風見が言い辛そうだったから、俺が言った。爺さんからも学校生活で技を使ったなら、先生に必ず報告しておけと言われている」


 なるほど。スマートな後始末だ。

 勉強になる。


「それで、風見さん。松葉たちとはあれから会ったの?」


 俺はその後の事を確認した。


「ん-ん。ぜんぜん会ってない。ていうか、アイツら学校に来てるのかな?」


 確かに姿を見かけないな。

 ひょっとして、謹慎処分にでもなったのか?

 松葉はありえるけど、赤島はどうだろうか。


「いずれにしても彼のいる一組には、ちょっと近寄らない方がいいわね」


 真田さんが、そう結論付けた。

 だがその結論は、駅に着いた数分後に打ち砕かれた。


 ■□■□


「やあ。こんばんは。勉強ご苦労さまだねぇ」


 駅前で赤島が待ち構えていた。

 松葉や他にもウチの学校の制服を着た奴がいる。


 数は赤島と松葉を含めて五人。

 熊のように大きな男子。

 日焼けした金髪のギャル。

 なぜか俺を睨んでくる猫背の眼鏡男子。


 この三人は知らない顔だ。

 一周目でも会っていない。


 不穏な空気を感じたので、俺は愛奏の前に出る。

 風見さんはサッと竜一の後ろに隠れた。


「あーらら。嫌われてるねぇ。タイガ」


 赤島がクククと笑う。


「うるせーよ」


 松葉は不貞腐れたような態度だ。


「何か用かな? 赤島君」


 俺は平静に言いながら、離脱できるルートを探す。


 いや、ダメだな。

 赤島の連れが塞いでいる。

 俺は乗り切る方向に切り替えた。


「用事はいくつかあるけど、まずはウチのタイガが悪いことしたね。ごめんね風見さん」


 赤島は竜一の後ろにいる風見さんに声をかけた。


「別に謝るなんていらない。もうアタシたちに関わらないで」


 彼女はプイッと首を横に逸らした。


「松葉。俺は言ったはずだが? 二度と彼女に近づくなと」


 竜一が恐ろしく低い声で告げる。


「あ? お前には関係ねーだろ」


 松葉が前に出て行こうとした。

 だが彼の隣にいた熊のような男が止める。


「やめとけ。お前じゃコイツは無理だぜ」


「そうそう。タイガァ。ちょっと引っ込んでろ」


 赤島が松葉の肩を掴んで下がらせた。

 俺は赤島を見据えて言う。


「もう遅い時間だ。そろそろ行きたいんだけど?」


「まぁまぁ。せっかちは、女に嫌われるよ。だよねぇ愛奏」


「知らない」


 愛奏が短く冷たい声で言った。

 俺と握っている手が震えている。

 なんだ? いつもより震えてるし、握る力が強い……?


「あーあ。なーんで嫌われたかなぁ」


 貼り付けた笑みで首を傾げる。


「まぁ良いや。なぁオタク君。もうすぐ体育祭だろ?」


「それがどうしたんだ」


 俺は愛奏の不調を感じて、警戒レベルを引き上げる。

 何を言うつもりだ。

 赤島はあのねっとり絡みつく声で告げた。


「体育祭。俺たち二組と勝負しようよぉ。愛奏と風見さんを賭けてさ!」


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特撮ヒーローで言うところの敵幹部登場、みたいな回でした。


何とか体調が戻ってきているので、更新です。

ただリアルがプチ繁忙期なんで、まだ不定期更新になりそうです。

すみません。


読んでいただき、ありがとうございます。

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