第61話 体育祭に向けて③/大縄跳びと二人三脚の練習

 体育祭も近づく今日このごろ。

 体育の時間。


 今日は特別に、体育祭の競技練習をして良いとのお達しがあった。

 そこで我がクラス一年二組は、大縄跳びの練習をしていた。


「ほら行くぞ。せーの」


 回し役の力石りきいし君といぬい君が、大縄を回す。

 それを俺達はリズムよく跳ぼうとするが、どうしても五回が限界だった。


「うーん。これはいよいよ、この競技は捨てる方向で動かないとダメか」


 力石君が難しい顔をする。

 クラスのみんなも、仕方ないかと言う感じになる。


「その前に一回だけ試しに、回し役変えたらどーよ?」


 幸治が提案した。

 なるほど。

 そういえば念のため、事前に愛奏とネットで調べたら、回し役が重要とあったな。


「しかし、誰がいいだろう?」


 力石君が思案する。

 クラスのみんなもうーんと考えた。


 回すとなると体力いるしなぁ。

 竜一とかかな?

 でも相方をどうしようか。


 などと考えていたら、女子のほうから声が上がった。


「ねぇ。深影君と、近衛さんはどうでしょう?」


 提案したのは神薙さん。

 俺と愛奏だって?


「いや、でも俺達は運動苦手で、跳ぶのもやっとだよ」


 うんうんと愛奏も同意する。


「競技としてあまり重要視しないなら、息ピッタリの人に回してもらって、可能な限り跳ぶ。そういう作戦はどうですか?」


 クラス副委員長らしい、真面目な意見だ。


「一度、やってみたらどうかしら?」


 真田さんが促してくる。


「まぁ確かにそれもそうか。愛奏、やってみよう」


 という事で回し役を交代。


「じゃあ、いくよー。せーの」


 俺と愛奏が回す。

 みんなが跳ぶ。


 あ、ダメだ。

 タイミングが合わない。


「ダメかー。回し役変えても一緒だなぁ」


「みんなのリズムも合ってないよね」


「深影と近衛の夫婦でダメなら、本当にダメじゃないか」


 口々に諦めムードになる。

 だが、愛奏が手を挙げて言った。


「はい。提案。優真君、掛け声変えたらどうかな?」


 ほう。掛け声とな?


「え、何にするの?」


「ほら、私達なら仮面ファイターの変身で出来ない? Are you ready?」


 クラスのみんながざわつく。

 なんだかブッ飛んだ意見だが、得心がいった。


「あー! 仮面ファイタークラフトか!」


 俺の言葉に、クラフトを知ってるクラスメイト達が納得顔で頷いた。


「なんでも良いからやってみよう」


 力石君が促した。

 よし。なら誰かに、ベルト音声役をやってもらおう。

 大声を出すことに慣れてる、風見さんにお願いしようか。


「風見さん。悪いけど『Are you ready?』ってリズムで合図してくれる?」


「良いよー。任せてー」


「それで、愛奏と俺は『変身!』のリズムで回し始めるから、よろしく」


 というわけで再会。


「じゃ、いくよー。Are you ready?」


「「変身!」」


 俺と愛奏は同時に言って、大縄を回す。

 お! いけるんじゃないか。

 手応えがさっきと違った。


 跳ぶ方もタイミングバッチリで合った。

 あとは勢いでリズムよく回すだけだ。


「いっち、にっ。いっち、にっ」


 五回を越えて十回。十回を越えて十五回。


「うわっと!?」


 磯野君が、バランス崩して止まった。

 記録十六回。


「すまない。みんな」


 磯野君が謝罪する。

 だが、みんなそれよりも、上手くいったことに喜んだ。


「いや、今の結構行けたんじゃね?」


「だよね。合図が二回だから、跳びやすかったよ」


「回す方はさすが息ピッタリだったから、後はこっちの問題だな」


 口々に言いって、感触を確かめ合う。

 まさか、変身の掛け声で上手くいくとは。

 何が役に立つか分からないものだ。


「みんな、まだ時間あるし、もう一回やって見よう」


 力石君が声をかけて、再度挑戦する。

 結果なんと六十回という記録が出た。

 これにはみんな驚いた。


「やれんじゃん、俺等」


「後は、私達の、体力が、持つか、だね。ふぅ」


「右におなじ。まぁでも、下手な事にはならないかな?」


 跳ぶだけでも体力いるからなぁ。

 回す方は勢いついたら、ほぼ力がいらない感じだけど。


「掛け声がちょっと子供っぽいが、これで行こう。確か、本番では一回か二回練習時間があるはずだ。今のタイミングを忘れないようにすれば良いだろう」


 力石君が結論付けた。

 確かにそこまで力をいれる競技じゃないので、数回で終わりじゃなければ、それで良いだろう。


 様子を黙って見ていた体育担当の梅田先生が言う。


「よし。もうそれでいいなら、後の時間は個人競技の練習に使っても良いぞ。備品はあっちだ」


 という事になったので、俺と愛奏は二人三脚の練習をする事にした。


 ■□■□


「愛奏。紐、痛くない?」


 俺は彼女と白い紐で連結する。


「うん、大丈夫」


 ちなみに、体育祭は一年生から三年生までの同じクラス番号が、合同チームになる。


 識別は四色で分け、我が二組チームの色は白だ。

 光珠の白紐伝説とかければ、縁起が良い色と言えるだろう。


「じゃ、肩を組んでっと」


 俺と愛奏は背丈がだいたい同じだから組みやすい。

 事あるごとに密着しているので、いまさらドキドキすることもなく、平常心でいられる。


「ふふふ。なんだかこういう怪獣いなかったっけ?」


 愛奏が楽しそうに言う。


「あー。いたような気がするな。二人一組で操演する怪獣」


 ペスタンだったか。ペースターだったか。名前うろ覚えだな。


「にしても、随分古い怪獣知ってるね。愛奏」


「小さいころ怪獣図鑑持ってて、可愛い怪獣だなぁって思った記憶があるの」


「えぇ。可愛かったっけ?」


 良く分からん感覚だ。

 まぁ、今は練習に集中だな。

 気を取り直して、俺たちは歩いてみる。


「「いちに、いちに」」


 愛奏の歩幅が俺より小さいから、そっちに合わせる方が良いかな?

 俺は調整して、歩いていく。


「よし、軽く走ってみよう」


「おっけー」


 とっとっとっと。軽く小走り程度に動く。

 うーむ。走れてはいるんだが。


 走るたびに愛奏の豊かな胸が揺れる。

 それが密着状態のため、ぽむっというか、ゆさっというか、そういう感触が体に伝わってくる。


 平常心でいろ、俺。

 そういうのを乗り越えてこそのベストパートナーだろ。


「優真君。私のおっぱい揺れて嬉しいでしょ」


「ノ、ノーコメント」


 愛奏。指摘しないでくれ。答えに困る。


「えー。もっと揺すった方が良い?」


 愛奏は悪戯っぽく言う。


「止めてください。他の男子に見られたらどうするんですか」


 ガチで注意した。

 束縛するつもりは微塵もないが、そういうのは二人きりの時だけにしてほしい。


 あと、揺らすのって胸を痛めるって聞くし、止めてほしい。

 乳揺れはスパ●ボだけで充分だ。


 俺たちは立ち止まる。


「んー。でもガチで走ったら揺れも結構激しいしねぇ。こう、私が下を支えるから、優真君が上を押さえて固定したら、大丈夫かなぁ?」


 むにっと持ち上げてくる。

 あ、揶揄いじゃなく真面目に言ってるなコレ。


「流石にそれやったら、全校の男子を敵に回すからNGだね」


 戦わなければ生き残れないような、状況にはなりたくない。


「それにガチで走るのって、そんなに距離ないし大丈夫でしょ」


 このベストパートナー二人三脚。

 実は障害物レースなのだ。


 最初はハードルの潜り抜け。

 次に重量物を二人で運ぶ。

 どちらかのパートナーに関する質問を、同時にハモッて答えるなんてモノもある。


 面倒なことにハモらないと、進むことが出来ないのだ。

 そして最後に普通の二人三脚競争になる。


「うーん。じゃあ、勝負のカギは質問コーナーだね」


 彼女が思案する。


「愛奏はどんな質問が出たか覚えてる?」


 一周目は体育祭が嫌いで、適当に参加したので覚えてないのだ。

 愛奏のトラウマを掘り返すかもしれないが、聞いてみた。


「そうだなぁ。好きな色とか好きな食べ物、あと誕生日だったかな?」


「それなら、どこかで時間作って、質問し合おうか」


「あ、それ面白そう。優真君の事もーっと知りたいし」


 愛奏がワクワクした顔になる。


「俺も愛奏の事知りたい。じゃあそういう事で。とりあえず、もう少し走ってみよう」


「うん。よーい、どん!」


 俺たちは時間が許す限り、二人三脚を練習するのだった。



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ちなみに大縄跳びの掛け声のネタは、言わずもがなビルド。「よーい、ドン」の二段階の合図と同じっぽいので採用。

そして愛奏が想像した怪獣ネタは、オイル怪獣です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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