第59話 束の間の休日④/愛奏のお家で圧迫面接

 喫茶たいむりーぷを後にした俺と愛奏は、街を適当に見て回った。

 そして、花屋で小さな花束を購入。

 

 媛神の街中を外れた小さな公園で、誕生日プレゼントの目覚まし時計(録音機能付き)と共に渡した。 


「はい。改めて誕生日おめでとう! 愛奏」


「わぁ、ありがとう。優真君」


 愛奏は嬉しそうに、花束とプレゼントを受け取ってくれた。


「それじゃ、私も。優真君、お誕生日おめでとう!」


 そう言ってくれて、キス待ちの顔になる。

 俺はちょっと周りを確認しつつ、口づけした。


 すると彼女は、がばっと抱き着いてきて、舌を入れてきた!

 ちょっと慌てたが、俺はそれを受け入れて、しばらく絡め合った。


「ぷはっ。えへへ。サプライズのディープキスでした」


 彼女は照れ笑いで告げる。


「ビックリしたなぁもう。でも、ありがとう」


 たぶん、俺は顔真っ赤だろうな。


「もう一回する?」


「あーそれも良いけど、たぶん俺の理性がヤバいのでまたの機会に」


「なら、次を楽しみにしてるね!」


 俺たちはそう約束して、もう少しだけ街を歩くことにした。

 ちなみに渡した花束とプレゼントは俺が持っている。


「なんだか、もらったのにまた渡すの変な感じだね」


「プレゼントの交換だけは、先週やるべきだったかなぁ?」


 段取りがちょっと悪い感じになってしまった。

 反省点として来年は活かそうと思う。


 気を取り直しつつ、手をつないで歩く。

 十月ともなると、ハロウィンの装飾が目立つなぁ。


「ハロウィンかぁ。ねぇ、優真君は私のコスプレみたい?」


「コスプレって、例えばどんなの?」


 場合によっては、NGを出す必要がありそうな話だ。


「んーと、こんな感じ」


 愛奏がスマホの画面を見せてきた。

 なんということでしょう。

 そこには、おっぱいを強調した小悪魔風の衣装が写っていました。


「アウトーッ!」


 俺は思わず叫んだ。

 下もかなり際どいぞ、コレ!


「どこで着るの! 外は絶対にダメだし、家でもレギュレーション違反でしょ」


 久々に愛奏のズレた感覚が出た。


「そっかぁ。やっぱNGかぁ」


 愛奏はちょっと残念そうに言った。

 そして小悪魔っぽく笑う。


「でも、見たいか、見たくないかで言えばどっち?」


「そ、それは……」


 落ち着け、俺。

 ここで返答をミスると、好感度が下がるような気がする。


 俺は赤島と違うが、性欲は普通にある。

 で、コスプレを見たいか聞いてきてからの、この質問。

 正直に答えるのが正解だな。


「そりゃ、正直に言えば見たいよ。でも俺は決して強要したり、望んだりはしない」


「ふむふむ。優真君は私の身体に興味があると」


 なにやら満足そうに頷く。

 急にどうしたんだ。


「どうしたの? 何かフラッシュバックした?」


 唐突に質問してきたところを考えると、何か思い出したのかもしれない。

 俺は心配になって聞いてみた。

 愛奏は苦笑していう。


「あはは。実はそうです。こうして、季節感じる光景見てたらさ。レオンに色々と着せられたなぁって。そんで、そういう時は決まって私の身体を褒めるの。エロいとか抱きたいとか」


 アイツ、最低すぎるだろ。

 俺は憤りを覚えた。


 それにしてもエロいとか、抱きたいが誉め言葉か。

 良いのか悪いのか分からないな。


「爛れた関係はこりごりだけど、優真君って私の身体をどう思ってるのかなぁって、気になっちゃった。ゴメン」


 愛奏は申し訳なさそうに謝った。

 俺は彼女の手を優しく握り直した。


「謝る必要ないよ。俺は愛奏の全てに興味があるし。まぁ、抱くことだって望んでる。だから安心してよ。最終的には、君の全てを奪って幸せにするからさ」


 往来でいう事ではないだろうが、彼女に告げた。


「うん! 心とキスは奪ってもらったから、次は何を奪われよっかなー?」


 愛奏は嬉しそうにぎゅっと俺の腕に抱き着いてきた。


「そりゃ、愛奏の愛情手料理でしょ。赤島は愛奏の手料理を不味いって言って食べなかったんだよね?」


 何の時だったか、ふとそういう話になって、愛奏から聞いて腹がった。

 不味いって言って、暴力を振るったそうだ。


 あの野郎。機会があれば絶対にブン殴ってやる。

 二周目の赤島はやってないから、理不尽な怒りではあるが、そう思わずにはいられなかった。


「そうそう。まぁ料理下手な私も悪かったんだけど。今日は大丈夫だからね。お母さん監修の元、一品だけだから。他はお母さんの料理だから」


「だいじょーぶ。俺はどんな物が出ても食べるよ」


「ふふふ。ありがと。一生懸命、作るからね♥」


 きゅんとする甘い声で言われた。

 わーい! 楽しみだなぁ!

 というわけで、しばらく街を回りながらイチャイチャするのだった。


 ■□■□


 それから、早めに街デートを切り上げて。

 俺たちは近衛家に向かった。

 ところが、家に着いたら思わぬ状況になってしまった。


「はっはっは。深影君。そういえば、今日の映画は楽しかったかい?」


「ええ。誠司さん。彼女もライブだーって言って、楽しそうでしたよ」


が男とデートとは。大人になったものだ」


「お義父さんもそう思いますよねぇ。あの大人しかった愛奏が。ううっ」


「まぁ、誠司君。飲め」


「あ、賢太郎けんたろうさん。俺が注ぎます」


 俺は今、愛奏のお父さんである誠司さんと、お爺さんである賢太郎けんたろうさんの相手をしていた。


 どーしてこうなった!!

 キリキリと胃の軋む音が聞こえる。


 思い返せば、ほんの小一時間前。

 愛奏と帰ってきて、近衛家に着いたところまでは良かった。


 ダイニングに通されたら、そこには誠司さんといかめしい顔をした見知らぬ老人がいた。

 この人こそ、愛奏の祖父の東堂とうどう賢太郎けんたろうさん。


「お父さんはともかく、なんでお爺ちゃんがいるの!?」


 愛奏は物凄く驚いていた。


 賢太郎さん曰く「孫に彼氏が出来て、その彼氏が今日、孫の手料理を食べにくると聞いた。ならばこの東堂賢太郎、可愛い孫に変な虫が付かぬよう見極めなければならない。だから婆さんと来た」との事だ。


 アグレッシブすぎるお人だ。


 ちなみに誠司さんは、今日は仕事のはず(家電量販店は土日が稼ぎ時)だが、娘の彼氏が食事に来るからと、早上がりしてきたそうな。


 それで、夕飯が出来るまでせっかくだから飲もうということになり、今に至る。

 俺は誠司さんにビールを注ぐ。


「とととと。いやぁありがとう。深影君、注ぐの上手いねぇ」


 誠司さんに注いだビールは、泡立ちも完ぺきな一杯だった。

 なにせ、一周目でさんざん練習したからな。


 お世話になった先輩曰く「お酌なんてやらなくてもいい時代だけど、出来るなら武器になる」と教えられて、それなら出来るようにしようと練習したのだ。

 まさか、こんな場面で役に立つとは。


「確かに手慣れているな。深影君。まさか、普段から飲酒してるんじゃないだろうな」


 ギロリと賢太郎さんに睨まれる。


「いえ、お酒は興味ありますが、まだ飲んでいません」


 明らかに値踏みされてるなぁ。

 一周目を思い出す。怖くて厳しめのお客さんの事。

 愛奏じゃないけど、フラッシュバックしそうだ。


「はははは。ご両親にでもしてあげてるんでしょう」


「ふむ。それもそうか」


 納得してくれたようだ。


 それにしてもこの賢太郎さん。

 話によると、光珠の幾つかの企業に関りを持つ御仁なのだそうだ。

 ぶっちゃけた話、富豪という事だ。


 そして愛奏のお母さん、愛実さんは実の娘で御令嬢。

 つまり愛奏もちょっとしたお嬢様という事である。

 今更ながら、驚愕の事実だ。


 さて当たり障りなく、飲み会という名の俺への面接は進んでいく。

 何度目かの質問の際、清道流の道場に通っていることを話した。

 すると、賢太郎さんは少しだけ驚いたようだった。


「ほう。竜厳の道場に通っているのか。なるほど、体を鍛えるとは良い心がけだ」


「おや、師範とお知り合いですか?」


 俺は尋ねた。


「ガキの頃からの腐れ縁だ。強敵と書いてダチと読む関係だ。とにかくアイツと一緒に色々と殴ったものだ」


「ははは。お義父さんもやんちゃな時があったんですねぇ」


 誠司さんがツマミのきゅうりの浅漬けを食べながら言う。

 年齢的に考えると、ツッパリ文化とかそういう時代かなぁ?


「若気の至りだ。ふむ。竜厳の道場に行っているなら、俺から厳しく鍛えてもらうよう言っておこうか?」


 ニヤリと笑って俺に提案してくる。

 あ、これ、たぶん返答を間違えたらダメな奴だ。


 考えろ、俺。

 短いやり取りの中で分かった事は、賢太郎さんは厳しめで実直な人だろう。

 ならここは、これでどうだ。


「お気遣いありがとうございます。必要なら自分から申し出ますので。お気持ちだけ、いただきます」


 ど、どうだ? 正解か?


「ほほぅ。若造なのに随分と生意気な」


 おもしれぇヤツだ。と言わんばかりに笑う。

 とりあえずセーフ的な感じだな。


 怖ぇーっ。いつまで続くんだこの圧迫面接。

 愛奏ぁ。早く来てくれぇーっ!


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 東堂賢太郎。かつて藤門竜厳りゅうげんと「竜賢リュウケンコンビ」と呼ばれて、光珠地域の悪ガキ共をシメていた。

 

 二話で終わらなかったので次回に続きます。

 

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