第58話 束の間の休日③/愛奏と秋のデート

 秋晴れの日曜日の朝。

 今日は待ちに待った愛奏とのデートだ。

 俺は洗面台の鏡の前で指さし確認する。


「洗顔よーし、歯磨きよーし、髪型よーし、服装よーし」


 うん、完璧だ。

 今日は特に入念に準備した。

 なにせ、今回のデートはひと味違う。


 映画見終わって街をぶらついたら、夜は愛奏のお家で晩御飯である。

 なんと、誕生日プレゼントは愛奏の初めての手料理なのだ。


 正直に言おう。めちゃくちゃ嬉しい。

 だって、愛奏の手料理だぜ。


 俺の! ためだけに! 作ってくれる! 料理だぜ!

 ヒューゥ! テンションがバモラムーチョだ!


 俺は鞄を手に取ると、玄関に向かう。


「お兄ぃがいつも以上に浮かれてる。愛奏さんにドン引きされないようにね」


 咲良がジト目で見送りに来てくれた。


「大丈夫だ。問題ない。ということで、今日は晩御飯は食べて帰るからよろしく」


「はいはい。私も友達と出かけるから、その辺よろしく。いってらっしゃい」


「いってきまーす。ヒャッハー!」


 俺は勢いよく家を出た。


「お兄ぃはもう、ダメかもしれない」


 そんな咲良の声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。


 ■□■□


 愛奏との待ち合わせは光珠駅にした。

 夏の時の反省を活かして、媛神駅は避けたのだ。

 ルンルン気分で駅に向かうと、すでに愛奏が来ていた。


「おーい。おはよう。愛奏」


「あ、優真君。おはよう」


 今日の彼女は、落ち着いた秋コーデでまとめられていて最高だった。


「近衛愛奏、秋フォームだね。バッチリ可愛い」


「イェーイ。優真君も秋バージョンで、格好いいね」


 あはは、うふふと二人でテンション高めに感想を言い合う。


「さて、それじゃ行こうか。今日の映画館は凄いよ」


 俺たちは駅の改札に行く。


「そうなの? なにかイベントあったっけ?」


「いや、そういうんじゃなくて。見に来てる小さな子供が、プリティナイツのコスチューム着てたり、子供限定でもらえる特典おもちゃで映画館がピカピカ綺麗なんだよ」


 仮面ファイターやスーパー戦団と違って、プリティナイツ独特の雰囲気があるんだよなぁ。


「へぇ。噂じゃ聞いてたけど、やっぱりそんな感じなんだ」


 愛奏が感心したように言う。


「映画に集中したいなら、遅い時間もありだけど、やっぱプリナイの映画は、そういうライブ感が大事だからね。あえて朝の回にしてみました!」


「楽しみだなぁ。子供の頃は映画見に行けなかったんだよねぇ。お父さんは日曜日とか休日が出勤だし、お母さんはあんまり映画好きじゃないらしくて」


 おや、それはちょっと悲しい話だ。

 ウチの親なんて、自分が行きたいからって俺や咲良を連れまわしたからな。


「なら、今日は存分に楽しもう。たしか、今回の映画は結構感動した記憶あるし」


「ああ、そういえば、優真君は既に見てるんだよね。なんかゴメンね」


「気にしないでよ。俺だって十年ぶりくらいだしね。良い感じに記憶が薄れてるからだいじょーぶ」


 そんな事を言いながら、俺たちは電車に乗り、媛神の映画館に向かった。


 ■□■□


 そして映画を鑑賞後。

 俺たちは、駅裏の喫茶店に向かった。


 なんでも、一周目の愛奏がレオンと行ったところらしい。

 これは何としても俺が上書きせねばなるまい。


「実は、そこの喫茶店って、コーヒーとオムライスが美味しんだよ」


「おお、オムライスとは。それはまたタイムリーな」


 さっき見たプリナイの映画。

 そこで出てきたオムライスがもの凄く美味しそうだった。

 今の俺の胃袋はオムライスを希望していて、オム腹になっているからな。


「あのオムライス見てたら、急に思い出したの。あそこのオムライス美味しかったなって」


「映画途中にフラッシュバックしなくて良かったよ」


 映画を見てて落ち込んでたら大変だった。


「それはないよ。だって、可愛い映画を可愛い子たちが、みんな応援するんだよ。あれはライブだよ! ライブ! 最高の空間だった!!」


 愛奏は興奮気味に言う。

 たしかに、ライブと同じ感覚はあるよな。

 応援上映とか盛り上がると聞くし。


「楽しんでくれて何よりだ。ちなみに来年の映画はもっとすごいよ」


「えー! それは楽しみだなぁ。来年も行こうね!」


「もちろん。絶対に行こう」


 そんな未来の約束をしつつ、目的地に着いた。


「あ、ここだよ」


「へぇ。なかなか雰囲気ある喫茶店だなぁ」


 レトロというか、隠れ家というか。

 夏に行ったあの焼きカレーを出す店とは、ちょっと趣が違う。


 店名は「喫茶 たいむりーぷ」か。

 なんとも俺たちにピッタリというか。

 凄い名前だな。


 そんなことを思いつつ、昭和チックな扉に手をかけて店内に入った。


「いらっしゃいませー。って優真!?」


 んん!?


「幸治! 何してんの?」


 出迎えてくれた店員は、なんと幸治だった。

 お洒落なエプロンしていた。


「えー! すっごい偶然」


 愛奏も驚いたように声を出す。


「幸治君。まずはお客さんを通してくれ」


 カウンターに立つダンディな男性が言う。


「あ、すんません。どうぞ、こちらへ」


 俺たちは幸治に案内されて、二名がけのテーブルに座った。


「で、なんでここに?」


「アルバイトでもしてるの?」


 俺と愛奏は首をかしげて尋ねた。

 すると幸治は照れくさそうに言う。


「いやよ。バイト探してたら親父が、自分の知り合いが経営してるこの喫茶店はどうだってさ。ちょうど、求人募集してるって」


 なんとまぁ。そういえばアルバイト探すって言ってたからな。


「いつからやってんの」


「実は二週間まえからだ。まだまだルーキーだよ」


 おいおい、そりゃまた。


「早く言ってくれれば良かったのに」


「言い出すタイミングがなかったんだよ。文化祭とかで忙しかったし」


「まぁいいや。こうして偶然に客として来れたし。メニューこれだよね」


 俺達以外にも客はいるので、あんまり引き留めるのも悪い。

 だから俺はテーブルに置いてあるメニューを手に取った。


 ほほう。オムライスはデミグラスソースだけか。

 メニューが一択とは硬派だ。


「じゃあ、このオムライスとコーヒーで。コーヒーは食べた後で持ってきてよ」


「私はオムライスとココアで。私も飲み物は後でお願いします」


「はいよ。オムライス二つにコーヒーとココアな。マスター、オーダー入りました」


 幸治がきびきびと動く。

 ふむ。なかなか様になってるじゃないか。


「こりゃ適度に来てやらないとな」


「そーだね。なんだか、楽しい」


 愛奏がニコニコと笑う。

 しばらくして、オムライスが運ばれてきた。


 どーれ、お味のほどは。

 口に含んだ瞬間、電流が走った。


 美味い! これは確かに思い出に残る美味さだ。

 お腹空いているのもあるが、これはスプーンが止まらない。

 よく見ると愛奏も笑顔で食べていた。


「美味いなぁ。これはちょっとマネできないぞ」


 俺は思わず呟いた。

 すると幸治が言う。


「そりゃそうだ。マスターが三十年かけて完成させたそうだぜ。いくら優真でも簡単にはマネできねーよ」


「幸治君。自慢できることじゃないさ。バカ一筋でここまで来た。それだけの事だよ」


 マスターさんは苦笑する。

 なんだか大人の格好良さが漂う人だな。

 そして食べ終えた後に来た、コーヒーも格別だった。


「美味い。これは良い店だ」


「優真君。よくコーヒー飲めるね。苦くない?」


 愛奏がココアをちびちび飲みながら、感心したように言う。


「あれ、愛奏ってコーヒー苦手?」


「うん苦いのキライ。それに猫舌だから熱いのも苦手」


 なるほど。愛奏は苦いのダメっと。

 ココアをふーふーして飲んでいるのが可愛い。


「で、甘い物が好きなんだね」


「そのとーり。甘いのだ~いすき。糖分取ると太るから、ホントはダメなんだけどねぇ」


 あー。女性はそこ気にするよなぁ。

 俺はあんまり気にしないのだが。


「今、気にしないのにって思ってるだろうけど、ブクブクの私と、ムニムニの私ならどっち取るの? どっちもはナシだよ」


 おっとぉ。さては、答えが決まってる質問だなぁこれは。


「どっちも俺は平気だけど、あえて言うならムニムニ」


「でしょー。だから適度にお肉付けて、体型維持するの。女の子は大変なの! 私をぎゅーってする時は感謝して抱いてよね」


 ふふんっと彼女は満足そうに笑った。


「チクショウ。優真が羨ましい……」


 おーい。嫉妬ダダ漏れてるぞー。幸治。

 俺が心の中で苦笑していると、マスターさんが言った。


「こらこら。幸治君。お客様に嫉妬するんじゃないよ。モテたいなら、できる事をちゃんとできる男を目指すと良い」


「うっす。すみません。精進します」


 なるほど。幸治はマスターさんから、ダンディズムを勉強中か。

 会得した暁には、どうなるか楽しみだなぁと、思いつつコーヒーを飲むのだった。


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幸治は、優真や竜一と違う方法でイケメンを目指す。

モテるかどうかは未定です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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