第57話 体育祭に向けて②/変化する過去
教室に秋の日差しが入る午後。
我が一年二組はイベント前のLHRをしていた。
すでに詳細は先生から説明されて、クラスの体育委員である
ちなみに書記は真田さんだ。
「よーし。じゃあ一年生の男子リレーは佐野、山城、俺、
ウチのサッカー部の佐野君、山城君。
野球部の力石君と乾君。
そして陸上部の天道君。
足に自信を持つ精鋭だ。
力石君の提案で、我がクラスはガチで勝ちにいくという事になった。
なにせ文化祭で目覚ましい結果を残せたのだ。
ならば体育祭でもトップを取ってやろうぜ! なんて事になるのは必定と言える。
一周目の体育祭は、ここまで熱量が高くなかった。
それに比べると、みんなノリノリなのだ。
バタフライエフェクト。
ある意味、俺が過去を変えた影響だろう。
こういうポジティブに変わるのは歓迎だ。
さて、次々と出場種目が決定していく。
必ず一つは出場するルールなので、俺は玉入れに参加する。
タイムリープしようが、イメチェンしようが、運動苦手なのは変わらない。
一応、バイトとかない日に走り込みを始めているが。
焼け石に水、付け焼刃というヤツだろう。
ちなみに借り物(人)競争もあるのだが、それは幸治と真田さんが出ることになった。
そして、重い物を持って競争する重量物競走に竜一が出る。
愛奏は俺と一緒に玉入れ。
風見さんは小柄な体を活かして、障害物競争に出る。
「それじゃあ次。ベストパートナー二人三脚に出たい人はいるか?」
力石君がクラスを見渡す。
「はい! 俺が愛奏と出る」
「はい! 私が優真君と出ます!」
俺達は勢いよく手を上げた。
するとクラス内が騒がしくなる。
「だよなぁ。知ってた」
「ウチのクラスから出すなら、深影と近衛の夫婦だろうな」
「相変わらず仲良しだよねぇ」
などと声が上がる。
俺はドヤ顔で言った。
「ありがとう、みんな。俺と愛奏は自他ともに認めるベストパートナー。彼女と誠心誠意、頑張るよ」
「だね。私達は二人で一人の最高のパートナーだから。任せて!」
ふんすっと愛奏が胸を張る。
「いや、ベストパートナーというより、バカップルだろ」
「いい加減にしろー。泣いているヤツもいるんだぞー。俺とか」
「二人三脚で密着したいだけなんじゃない?」
「ありえる! あの巨乳だもんね」
クラス内が喧々諤々。
「はい! 意見があるなら手を上げてください! あと、深影さんと近衛さんは、もう少し周りに気を遣うように!」
教室の後ろで様子を見ていた、本郷先生から注意が飛ぶ。
というか、ピンポイントで言われてしまった。
反省。
ちょっと静かになったので、話が進む。
「じゃあ、深影と近衛の二人で決定ということで」
『意義なーし』
ということになった。
■□■□
一通り全ての種目の振り分けが終わった。
「じゃあ、次に団体戦の大縄跳びだけど、体育の時間以外で、放課後に練習を一回でもしたい。どうだろう?」
「えー、流石に面倒だぜ」
「そこまでしなくても」
力石君の提案に、当然のように否定の声が上がる。
まぁクラスの大半がやる気あっても、中には嫌だというクラスメイトもいる。
一周目の俺なら当然、嫌だっただろう。
「流石にやりすぎじゃないか」
「部活とかあるし無理かも」
ワイワイとあちこちで声がして、ちょっとクラスの熱が冷める。
「そ、そうか」
ふむ。力石君がちょっと意気込みすぎたな。
でも、この熱を冷ますのはもったいない。
だから俺は手を上げた。
「あら? 深影君、どうぞ」
書記に徹していた真田さんが促してくれた。
「力石君。ガチで勝ちに行くなら、あえて大縄跳びに比重を置かないという戦略もあるんじゃない? もちろん、どれもガチで取り組むけど、その力の入れどころを見極めて、高得点を獲りにいける種目を選ぶのも一つの手だよ」
「それは、そうだ。うん。良い事言うよな。深影!」
消沈していた力石君に笑顔が戻る。
「みんな、今の意見はどうだろう。俺は深影に賛成だ」
彼がクラスに呼びかける。
「深影っちにさんせーい」
「となると、他のクラスの出場情報が欲しいな」
「ガチの運動部が出る種目だけでも知りたいよね」
などなど、再びクラスに熱が入り始めた。
これなら、大丈夫だろう。
俺は心の中でほくそ笑んだ。
■□■□
その後、体育祭の重要な話になった。
「じゃあ、最後に。中間テストの事だ」
力石君が深刻そうな顔で言った。
運動部所属のみんなが目をそらした。
さもありなん。
本郷先生から本日、例年にない珍しいルールが追加されたという話があったのだ。
曰く、体育祭前に実施される二学期の中間テストの点数が、本番の体育祭に影響するらしい。
詳しいルールは至って簡単。
クラス全体の五教科の合計点数を、クラス人数で割って出た点数が、体育祭開始時の得点になるのだ。
ようは中間テストで下手を打つと、体育祭で不利になりかねないという事だ。
なんでこんなルールが出来たのかというと、運動が苦手でも、体育祭に参加できるようにするためだそうだ。
これには俺も驚いた。
愛奏も驚いていた。
なにせ一周目ではなかった話だ。
なんでこんなことに。と思った時、ふと思い当たる言葉があった。
『例年通りの対応になりがちな学校行事です。長く続けるなら、テコ入れするのも必要ですね』
文化祭の時に本郷先生が話していた事だ。
まさかとは思うけど、いやひょっとしたら俺とのやり取りで、話が転んだのかもしれない。
「俺も勉強に不安があるんだが、ウチのクラスにはブッチギリに勉強苦手な奴がいるのはみんなも知っての通りだ」
クラス全員の視線が風見さんに向く。
「ちょっとー! 力石君。アタシの事、遠まわしにバカって言いったでしょー。事実だけど酷い!」
彼女は、ぷんすか怒る。
「ちなみに、雫玖。一学期の期末は何点だったかしら?」
真田さんが尋ねる。
「んー? 確か五教科で百十点」
つ、つまり平均二十二点か。
ブッチギリでダメじゃん!
一学期の俺でも赤点はなかったぞ。
「でもそんな点数取ってるのアタシだけじゃなくて、他にも愛奏とか、佐野君とか、山城君とかいるよ!」
「ちょっと、雫玖!」
「あ、コラ! バラすなよ風見!」
「そうだぞ。全教科赤点はお前だけだぞ!」
やり玉に挙げられた三人が慌てて叫ぶ。
「いいじゃん。みんなで赤点取れば怖くない。テストを捨てて、体育祭本番に頑張れば問題なし!」
とんでもないダメな宣言だ。
「風見さん。私の前でいい度胸をしてますねぇ」
あ、本郷先生が笑顔でキレてる。
南無。風見さん。
だが、先生の雷が落ちる前に、スッと手を挙げた男がいた。
真面目な顔をした竜一だ。
「風見。大丈夫だ。また一緒に勉強しよう」
その発言に「おおー」っとどよめきが起きる。
「え? 藤門君って、勉強できるの?」
「そういや、文化祭で風見さんと一緒にいたぞ」
「仲いいのか。あの風見と」
ざわざわと教室内が騒がしくなる。
「いや、フジモン。だから私は勉強を……」
風見さんが言い訳しようとしたが、それに被せるように声が上がった。
「そういえば聞いたことがあるぞ」
「何か知っているのか、磯野」
力石君がその声を拾って、クラスのみんなが彼に注目する。
「風見さんの夏休みの課題を、藤門が協力して終わらせたらしい。しかも二日で」
磯野君の発言にまた「おおー」っとどよめきが起こった。
「あのちゃらんぽらんの風見を机に向かわせたのか」
「俺、見たぞ。風見さんが、アイツに連行されていく姿を」
「凄いですね。雫玖って普段から『絶対に勉強したくない』とか言ってるのに」
などなど口々に言い合う。
力石君が竜一を見る。
「藤門。やれるのか」
「任せてもらおう。俺も勉強は苦手だが、最低限、赤点を取らないよう風見を鍛える」
「そうか。頼むぞ藤門」
そういう事に決まった。
みんなが賛同の拍手を送る。
「え、ちょ、アタシの意思は? ねぇ」
風見さんが力なく抵抗しようとするが、先生がトドメを刺した。
「風見さん。無駄な抵抗はやめて、大人しくテスト勉強しなさい。でなければ、みっちり三者面談しましょうか」
先生のプレッシャーが凄い。
「そ、それだけは勘弁してください!」
親の呼び出しはさすがに堪えるのか。
風見さんは抵抗をやめた。
先生が続けて言う。
「はい。皆さんにも通達です。今回で酷い点数を取ったら三者面談します。覚悟してくださいね」
冷徹な笑顔で予告した。
クラスの何人かは青ざめている。
こりゃ俺もうっかりしたら、母さんを呼び出しか。
頑張らないといけないな。
俺は気合を入れ直すのだった。
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ちなみに優真君。一学期末テストの五教科合計点数は270点。
何とか、全教科で赤点を免れて補習がなかった。
愛奏は二科目で赤点出して、実は夏休み補習を受けていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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