体育祭に向けて編
第54話 束の間の休日①/計画の見直しと家族団らん
文化祭が終わった翌日の朝。
平日の月曜日だが、学校は文化祭との振替でお休みだった。
ここしばらく精力的に動いていたので、今日は家でゴロゴロするつもりだ。
俺はパジャマのままで、ベッドに仰向けになる。
「それにしても、昨日は大変だった」
後夜祭が終わって、みんなで帰っていたのだが、途中で風見さんや幸治にあーだ、こーだと屋上で何があったのかと質問攻めにあった。
さもありなん。なにせ俺と愛奏はお互いに、ぽわぽわの状態だったのだから。
雰囲気が甘ければ、何があったか察したのだろう。
風見さんは興味津々に。幸治は嫉妬増々に。
勢いづく二人を相手取るのは大変だった。
まぁのらりくらりと躱しつつ、追及から逃げ切れたんだけど。
「愛奏の唇、柔らかかったなぁ」
俺はその感触を思い出して、独りごちる。
正直、未だにあの屋上でキスした事が信じられない。
一回じゃ足りなくて、何度もお互いを見つめ合って口づけした。
きっと俺は、下手だっただろうなぁ。
キスの練習でもしてやろうかな。
いや、それすると上手くはなるけど、浮気を疑われそうだな。
赤島がなんかそんな感じだったらしいし。
「そういや、ロードマップ見直さないとな」
どうもゴロゴロするのが心地悪い。
俺は着替えると、朝飯を食べることにした。
■□■□
リビングに降りると、誰もいない。
咲良は当然、学校。
一時的に帰ってきた父さんは、母さんとデートである。
あの二人、ほんと仲いいよなぁ。
俺も愛奏とああいう関係になりたいものである。
俺は適当に朝食を取ると、歯磨き等いつもの朝のルーティンを行い、部屋に戻る。
机に向かうと夏に立てたロードマップを眺めた。
二学期開始したらランチに一回は誘う。
文化祭までに連絡先ゲットする。
十月中に一回はデートに誘う。
などなど。
「今見ると全然、計画通りじゃないな」
いや、タイムリープしてきた矢先に立てた計画だ。
そうもなるか。
普通に考えて、文化祭までに愛奏と付き合えるなんて想像もできなかったからな。
良い意味で、結果は前倒しで動いているといえる。
「こりゃ、大幅な見直しが必要だ」
まずは夏休みから文化祭までに追加した「やること」を書き出す。
その中からすでに達成したものを消していく。
愛奏と勉強する。
愛奏を晩御飯に招待する。
愛奏とキスする。
この三つは消せるな。
一番ハードル高いと思っていたキスが早々に消えた。
俺は残った「やること」を確認する。
最優先事項として挙げた「愛奏と色々なところを回る」が目に留まった。
「そうだ。このロードマップの目的は、愛奏の未来を変えることだ」
ロードマップの一番目立つところには最終目標が書いてある。
『俺は近衛さんの最悪の未来を変える』
それがこのロードマップのゴール。
俺は「近衛さん」を「愛奏」に書き換えた。
未来を変えるため、赤島と過ごした場所や出来事を俺との思い出で全部変えてやる。
愛奏の最悪の記憶を全て奪って、俺との幸せな記憶でいっぱいにしてやる。
決意を新たにして、俺は「未来を変えるロードマップ」と「やることリスト」を更新していくのだった。
■□■□
さて、とりあえず計画を見直した俺は、そこからは筋トレしたり、見てなかったニチアサ見たり、洗濯物を畳んだり、掃除したり、思い思いに過ごした。
昼飯は買い置きしていたカップ麺を食べた。
こういう完全オフ日は、タイムリープしてから初めてだなぁ。
最近は目まぐるしい日々だったから、ゆっくり時間が流れるのも良いものだ。
ふと、スマホが震えた。
ん? 母さんからの電話だ。
「何だろ?」
俺は不思議に思いながら出た。
『あ、優真? 今いいかしら?』
「大丈夫だよ。何かあったの?」
『今日の晩御飯、お父さんのリクエストで、あんたの料理が食べたいってさ。いける?』
ほほぅ。いつもなら二人のデートは、ディナーを食べてから帰ってくるのだが。
今日は、シェフ優真をご所望か。
幸いにして、今日はバイトを入れていない。
『良いよ。何か食べたい希望ある?』
俺が快諾すると、後ろから父さんの声が聞こえた。
『パスタが食べたーい!頼むぞ優真』
『だってさ。そろそろ帰るから、足りない材料は買って帰るわ』
どうやらスピーカーにして、父さんも聞いているらしい。
ふむ。パスタか。
何度か母さんと咲良には振る舞っているが、今日は父さんがいる。
ちょっと特別なやつにするか。
デカいエビが入った海鮮系トマトパスタ。
となると、アレとコレとソレの材料がいるな。
「それじゃこのあと、買ってきて欲しい材料をRINEで送るよ。今日はデカいエビが入った海鮮系トマトパスタにしよう」
『エビ! よーし渚沙ちゃん。急いで買いに行こう!』
『わー! ちょっと章太郎君。まだ材料のメッセージ来てないわよー!』
プツっと通話が切れた。
おそらく父さんが母さんを引っ張って、歩き出したんだな。
仲良しさんだ。
さーて、それじゃ冷蔵庫の中身を確認して、準備を始めようか。
■□■□
「うーまーいーぞー!!!」
父さんがまるで、口の中から光の柱を噴き出す様に叫んだ。
そうだろう。そうだろう。
エビを殻付きで入れて、ホタテやイカといった海鮮系の食材と煮たトマトソースパスタだ。
見た目のインパクトはバッチリで、味に関しても出汁が利いて実に美味い。
「優真、俺は今感動しているぞ。いつの間に料理上手になったんだ」
キラキラとした目で俺を見てくる。
「まぁちょっと一念発起して、頑張ってみました」
ボッチ極めて、料理上手くなったなんて言えないから、適当に誤魔化す。
「お兄ぃの料理は美味い。特に今日は豪華で好き」
「そうねぇ。ひょっとしたら、私より上手いかもしれないわねぇ」
咲良と母さんが褒めてくる。
照れるなぁ。
「まぁまぁ。俺の事はいいから、食べる事に集中しよう」
俺は照れ隠しに話題をそらす。
家族が喜んでくれる。
頑張って作った甲斐があった。
そして食べ終わり、俺と父さんはそのままテーブルで雑談をする。
ちなみに、片付は母さんと咲良がやってくれている。
「へぇ、愛奏ちゃんと誕生日同じなのか」
「そうなんだよ。それで、誕生日プレゼントってどうやって選んだらいいか。父さんって母さんのプレゼントってどう選んでるの?」
「ん? 自慢じゃないが、俺が選んだものを母さんが喜んでくれた事はない! だから、母さんに欲しい物を聞いてそれをプレゼントしている!」
ふんすっと胸を張って言い放った。
まったく自慢でもないし、聞いた俺がバカだったかもしれない。
「そりゃそうよ。お父さんが選ぶと、やれ恐竜のグッズやら、発掘セットやら、小難しい本やら。自分が欲しい物しか買ってこないもの」
「とーさん、最低」
洗い物をしている母さんと咲良がツッコミを入れる。
「仕方ないだろー。女の人の好みなんて分からないんだから」
父さんが口を尖らせて目をそらした。
「お兄ぃは何か考えてるの?」
「んー。これから寒くなるし、マフラーとか手袋とか?」
「あら、良いんじゃない? すでに持ってる物でも好きな人から送られたら、使っちゃうわよねぇ」
母さんがニコニコと賛同してくれた。
「なるほど。勉強になる」
父さんが感心するように頷いた。
アンタはもうちょい、空気読めるようにしてほしい。
「だからと言って、高い物とか選んじゃダメだよ。お兄ぃ」
「わかってるよ。で、ご相談なのですが。給料日がまだちょっと先でして、お金をおろす事を許可してください!」
俺はテーブルに頭を付けてお願いする。
「ああ、それな。実は母さんと相談して、このルールを停止しようかと思うんだ」
父さんが真面目な顔で言った。
なんと、それは嬉しい話だ。
母さんも微笑んで言う。
「買い出しの時も、他に買い物する時も、まともな金銭感覚だと思うし。バイトも始めて優真が大人になったと思うからね」
「ありがとう! 父さん、母さん」
これでいざという時に使える金が自由になる。
「ただし! 停止だけだ。一線超えたらすぐに戻すからな」
「はい! 肝に銘じます! 父さん!」
俺は誠意をもって返事した。
咲良が片付けを終えて、椅子に座る。
「でも、お兄ぃに通帳預けるの随分と急だね。もう少し様子見るかと思った」
「ああ、ちょっと事情があってな」
父さんが含みのある言い方をする。
母さんもエプロンを解いて、居住まいを正して座る。
「実は二人に聞いてほしい事があるんだ」
ん? なんだ急に。
なんかこの時期に大事な話ってあったっけ?
俺は記憶を探るが思い当たらない。
「父さんな。今の大学辞めて、恐竜研究のためにアメリカに行くことにしたんだ。母さんも連れてな」
アメリカ?
アメ、リカ。
「「アメリカ!?」」
俺と咲良はハモッて叫んだ。
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体育祭編開始です。
文化祭編の反省を生かして、なるべく短くまとめる所存です。
引き続き、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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