幕間 それぞれの文化祭③/アタシは恋なんてしない(前編)
タイムスリップした日の夜。
私は夢を見ていた。
愛奏と遊ぶ夢だ。
当事者のような、傍観しているような、ちょっと曖昧な感覚だ。
私は愛奏と街を歩いていると、知らないイケメンに声をかけられた。
なぜか私と愛奏はそのイケメンに驚いて、少し話すと、カラオケに誘った。
それから三人で楽しそうに遊んでいる。
そこで目が覚めた。
「んあ。なんだったのー?」
寝ぼけ眼で呟く。
やっぱり若い時のしゃべり方だ。
どうも、私はしゃべると、昔の話し方になってしまうようだ。
私は捕まって服役中に言葉使いを直したのに。
でも、やっぱりこの話し方がしっくりくる。
せっかく元に戻ったのだ、アタシも徐々に戻していこーっと。
さて、今の夢、やけに現実感があった。
ひょっとして、これから起こる事なのだろうか。
んー。ていうか、この時の自分ってどうだったっけ?
アタシは思い出すように記憶を絞り出す。
すると、ふわっと簡単に思い出せた。
若くなって記憶力が良くなったのかなー?
まぁいいや。おかげで分かった。
今は高校一年生の夏休み。
夏休み前に、アタシは松葉と軽音部でケンカして、練習には顔を出さないようにするんだった。
あと思い出したくなかったが、一学期の期末テストで赤点出して、補習もあるんだった。
んで、色々とムシャクシャして、愛奏と瑠姫を誘って遊ぶ事するんだ。
たぶん、あの夢はその時のシーンに似ている。
「でもアタシ、あんなイケメンと知り合いだったかなー?」
アタシが知っている男共は、松葉を筆頭にクズしかいない。
でも、あのイケメンはなんとなく違う気がするのだ。
「よしっと。夢は気になるけど、絶対に愛奏に会いたいし、誘おーっと」
アタシはテンション高めて、一日を始めた。
■□■□
そして愛奏と電話して、瑠姫も誘って、二日後に遊びに行くことになった。
何故か、愛奏が嬉しそうに泣いていた。
実はアタシも嬉しくて泣いてしまった。
お互いに変だねーなんて言って、笑いあった。
ありがとう。謎の光る人たち。
アタシはまた愛奏に会えたよ。
そんで、二日後。
アタシと愛奏は街に繰り出した。
あいにく、瑠姫が欠席してしまった。
おかしいな? たしかこの時は瑠姫も遊んだはずなんだけど。
まぁ随分前の事なので、間違った記憶なのだろう。
そしてこの日、アタシは夢の意味を知った。
あの謎のイケメンが現れたのだ。
しかもビックリ、同級生の深影優真君だった。
これは絶対にアタシの知ってる過去と違う。
きっと、あの夢が現実になったんだ。
だから、アタシは彼をカラオケに誘ってみた。
もしかしたら夢の内容を現実で起こすことが、あの光る人達の願いなんじゃないかなーっと思ったのだ。
後は普通に楽しんでカラオケして遊んだ。
そしたら、なんだか愛奏がやけに積極的になっていた。
そういえば愛奏って、むかーし深影っちと仲良かったんだっけ?
こんなイメチェンしたんなら、ときめくかぁ。
良いじゃん。赤島のクズなんかより、深影っちと仲良くなっちゃえ。
アタシは陰ながら応援することにした。
それからアタシはたびたび未来の夢をみた。
そしてその通りにすれば、深影っちがアグレッシブに動いて、過去が変わるのだ。
おかげでアタシは松葉と会わなくなった。
深影っちには感謝だ。
昼休みに松葉に待ち構えられた時に、勇敢に守ってくれて、格好良くてドキドキした。
でもアタシは親友の想い人を取るつもりはない。
そもそもアタシはもう恋なんてしない。
アタシの全ては愛奏の幸せのために使うのだ。
あの光る人が言っていた、しょくざいのたび? と言うヤツだ。
それに、見た目は高校生でもアタシの中身は三十一歳のおばさんだ。
さすがに同級生は、犯罪っぽくて手が出せない。
かといって大人と付き合えば、それこそ犯罪になってしまう。
まぁ男にさんざん振り回された人生だったし、この二回目の人生は面白おかしく一人で生きていこうと思う。
あの光る人も幸せになってって言ってたし。
■□■□
などと、考えていたことがアタシにもありました。
いや、違うよ。
アタシは好きになってない。
でも、ちょーっと仲良くなったというか。
すこーしキュンと来てしまう時があったというか。
その相手は、最近よく一緒に行動する藤門竜一君。
アタシが放置していた夏の課題を手伝ってくれたのだ。
まぁその時に酷い目に遭ったけど。
短い時間を刻んで集中して、課題やら勉強を強制的にやらされたのだ。
サボろうとすれば、あの怖ーい顔で、このままじゃバカになると脅してくる。
おかげでアタシは、必死になってやった。
そんでアタシ勉強できるじゃんってなって、楽しくなりかけた。
そうなのだ。彼はアタシを勉強大好き人間に仕立て上げようとしたのだ。
あいにくとアタシにそんな暇はない。
いつあのお告げの夢を見るか分からないし、そもそも未来では、高校で習った勉強なんて使った試しがない。
だから勉強なんかしないで、面白おかしく生きるって決めてるのだ。
なのに、フジモンはアタシを気にかけてくる。
「なんで、アタシに構うのよー」
「友達だからな!」
物凄い良い顔して、宣言された。
うう、年下の純粋な好意が眩しい。
この子、顔が怖いってよく言われてるけど、実はめちゃくちゃ顔立ち整ってて、深影っちとは違ったイケメンなんだよね。
あと声もなんか格好良いし。
それとちょっと可愛い時がある。
体おっきいから大型犬みたいなのだ。
仕方なくアタシは、課題をやり終えた。
「むー。お゛わっだあああ」
途中までは瑠姫も手伝ってくれてたけど、フジモンの様子を見て、「大丈夫そうね、あとよろしく」と言って帰ってしまった。
バトラー先生が、アタシが逃げられないようにと、特別に空き教室を用意したので、今は、彼と二人きりだ。
「よく頑張ったな。風見。俺は嬉しいぞ」
ニコニコと怖い顔をする。
だんだん分かってきたけど、フジモンは笑うのが下手なようだ。
だから怖い顔になる。
「アタシは嬉しくない。貴重な青春を二日も勉強に使ってしまった!」
「大丈夫だ。勉強もまた青春と、ウチの爺さんが言っていた」
「絶対にそんな事あるわけなーい」
勉強が青春なんて、絶対に信じない。
「ははは。とにかく今日はお疲れ様だ」
むー。なんだか年下に(実際は同級生だけど)余裕を見せられて、ちょっとシャクだ。
だから、アタシは言ってやった。
「こんだけ頑張ったんだから、ご褒美が欲しい!」
「ん? ご褒美か。なにか欲しいのか」
フジモンは不思議そうに首をかしげる。
「文化祭でアタシの財布になってよ。アタシが欲しーってなった物をフジモンが買うの」
どうだ。このムチャ振り。
自分でも酷いと思うので、これで焦れ。
「いいぞ。それで風見の気が収まるなら。確かに文化祭の忙しい時期に二日も拘束したのは、やりすぎたかもしれない。もう少し日を分ければよかった。すまない」
OKもらえたうえに、逆に謝られた。
いや、勉強しないアタシが悪いんだけどね。
ちょっと、大人げなかったかもしれない。
なんか器の違いを
「う、じゃ、じゃあそういう事で。あと、文化祭まで塩対応するから。そのつもりでね」
アタシは恥ずかしくなって、そんな事を言ってしまった。
「良いぞ。俺は友達が少ないからな。そういう態度をとってくれるのも嬉しい」
なんかめちゃくちゃ悲しい事を、嬉しそうに言われた。
「ふ、ふーんだ。じゃあ今日から文化祭まで、ケンカね!」
「ああ、ケンカだ。仲直りは文化祭でしよう」
なんだか変な事になってしまった。
期間決めてケンカするなんて。
フジモンは天然かもしれない。
ちょっと可愛い。
でもまぁ、一年生の文化祭と言えば、松葉に犯された日だ。
縁はほとんど切れてるけど、ちょっと不安だ。
フジモンと一緒にいれば、守ってくれるかな?
なんか、武道やってて強いって話だし。
とにかくアタシは、フジモンと文化祭を回ることなったのだった。
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影の黒子、それが風見雫玖の使命。
なお、いろんな状況のきっかけを作るのが雫玖の役割で、これまでの事は優真君が全て頑張った結果です。
ちなみに、竜一は幸治と同じくタイムリーパーではありません。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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