幕間 それぞれの文化祭②/はぐれ幸治、誠実派(後編)
俺こと八条幸治は決意した。
必ず、かの可愛い友達と文化祭を回ろうと思った。
俺には恋愛がわからない。
俺は、一介のオタクである。
エンタメを愛し、女子とは無縁で遊んで過ごしてきた。
けれども今日は勇気を出して言ってみたのだ。
「なら、よ。お、俺と一緒に文化祭回るか?」
「え? 八条君とですか?」
神薙はきょとんとした顔を向けた。
「あ、いや、あの、節操がないって思われるかもしれねぇけど。あの、せっかくこうして会えたわけだし、その、よかったら、なんだけどよ」
俺は背中にダラダラと汗が流れた。
女子を誘うのってやっぱ勇気がいるよな。
近衛に告白した優真はやっぱすげーよ。
アイツ、勇者だわ。
果たして、彼女の返答は。
「うーん。たしかに、お父さんじゃないですけど、これも縁ですね。私、軽音のステージがあるから、そんなに回れませんけど良いですか?」
「お、おう! 良いぜ。もちろん」
うっそだろ。
ガチかよ。
OKもらえたよ、おい。
「じゃあ、どこ行きますか?」
そうだ、回る場所。
神薙となら、回るにふさわしい所があった。
「ここ、どうだ? ふれあい動物エリア」
二年生のどこかのクラスがやってる出し物だ。
生徒が飼っている動物を連れてきていて、来場者は触って写真が撮れるらしい。
「ああ、ここ。私も行きたかったんです。行きましょう!」
こうして、俺達はふれあい動物エリアに向かった。
■□■□
「わぁ~、かわいい~」
神薙はデレデレと顔を蕩かして、ロップイヤーのウサギを抱いていた。
「ほんとだなぁ~」
俺もたぶん同じ顔していると思う。
ふれあい動物エリアはにぎわっていた。
そりゃそうだ。
動物と触れ合えるなら超楽しいに決まってる。
「神薙、写真撮ってやるぜ」
「はい。よろしくです」
彼女からスマホを受け取って、カシャカシャと数枚撮影する。
「八条君も撮ってあげます」
「おう悪ぃな」
俺はスマホを渡して、ウサギを受け取り抱き寄せた。
もふもふで幸せだぜぇ。
「あ、いい顔です」
パシャっと撮られた。
「あっちは、モルモットがいるみたいだ」
「モルモットも可愛いですよねぇ。あのぷいっとしてる所がたまりません」
「だよなぁー」
それから俺達は、触れ合える動物たちと幸せモフモフを堪能した。
俺の動物写真と動画が充実したぜ。
「わー、八条君は写真撮るの上手いですね」
俺と神薙はそれぞれ写真を交換した。
「そうかぁ? 神薙もいい感じだぜ」
ちゃんと動物がブレずに撮れている。
結構テクいるんだよな。
「八条君。この写真、顔が蕩けてますよ」
こりゃ優真たちに見せられない写真だな、オイ。
「気持ち悪いオタクですまねぇ」
「そうですか? 良い顔だと思いますけど」
そう思ってくれるだけで、神薙は天使だな。
あの小悪魔三人組とは違うぜ。
この写真見せたら、絶対、揶揄ってきただろうからな。
■□■□
んで、神薙はこの後、軽音楽部のステージのリハーサルと準備があるとの事で別れた。
「ステージ、良かったら来てくださいね」
「おう、ちゃんと見に行くぜ」
俺は彼女と約束した。
そんで、ゲーム部にでも行こうかと思った時だった。
俺達の展示物が台無しになったと連絡が入った。
俺は急いで駆け付けたが、そりゃ酷かった。
コーラがぶちまけられて、展示物が汚れていた。
誰がこんなことしたんだよ。チクショウ。
でも優真が来て、冷静に行動してくれたおかげで、俺達も落ち着いて動けた。
やっぱアイツは何か違うよな。
俺もあれくらい落ち着いて行動してみたいぜ。
そうすりゃ女子にモテるかもしれねぇ。
そして展示物の対応をした後、竜一と模擬店で飯食って、体育館に向かった。
軽音部のステージは圧巻だった。
『イェェェェェェイ! 今日はアッゲアゲで行くからねぇー!!!!』
風見がいつも以上にテンション高めに声を張っていた。
歌は上手いし、ギター演奏も格好いい。
ちょっとナメてたわ。
あと、神薙は風見と同じバンドらしい。担当はどうやらドラムっぽい。
あの大人しそうな見た目からは想像できないくらいに、ドラムを激しく叩いていた。
風見もそうだが、今日は神薙もキラキラと輝いて見えた。
俺は思わずスマホを向けて、神薙の写真を撮ってしまった。
直ぐに消そうかと思ったが、後で彼女に渡すのも良いかもしれねぇ。
結局、そのままにしておいた。
■□■□
軽音部のステージのあと、竜一とは別れて、展示会場の対応をしばらくした。
優真がなんだか本郷先生と難しい話をしている。
俺は巻き込まれまいと、離れて対応に当たった。
そして役目を終えた後は、俺はゲーム部に行ってみた。
ゲーム仲間から、今ゲーム部にバカ強いカードゲーマーが来てるって連絡が来たのだ。
物見遊山で駆けつけてみると、日焼けしたチャラそうな大人が、ゲーム部部長の
「あっはっはっはっは。まだまだだね」
チャラ男さんは笑って言った。
「ぐぬぬぬぬ。つよい」
志月先輩は悔しそうだ。
ちらっと盤面をみるとゲームはMTBだな。
そして展開されていた生物と墓地のカードを見て察した。
札束で殴られたな、部長さん。
カードゲームはレアカードをふんだんに入れたデッキが、バカ強かったりする。
もちろんそれ以外にもプレイの仕方や駆け引きが必要だけどよ。
それでも高額カードってのは、強いって相場だ。
つまり札束で殴るなんて揶揄されたりする。
「おう、八条。すげーぞ、あの人。他の部員もボコボコだった」
同じゲーム部の磯野が驚いたように言った。
「ほとんど荒らしじゃねーか」
「いや、それがあそこまで強いと、荒らしより嵐で、怒りがわかねーよ」
そういうもんかぁ?
「ん? 今、八条っていいました?」
チャラ男さんが俺に目を向けた。
「えっと? どちら様ですか」
俺はこんな人と知り合いじゃない。
「あー、申し遅れたね。何を隠そう私は、深影章太郎。優真の父にして、みんなのあこがれ恐竜博士だ!!」
ビシィッとポーズ決めて自己紹介してくれた。
「え!? 優真の親父さん!?」
俺は心底驚いた。
アイツの親父さん、チャラ男だったのか。
「いやーこんなところで、優真の親友に会えるなんて。よろしく。これで君とも縁ができたね!」
爽やかな笑顔で章太郎さんは言った。
「深影くんのお父さんだったんですね。いやぁやっぱり彼をゲーム部に勧誘したいなぁ」
先輩はしみじみと言っている。
どうやら優真が、ここに来ていたみてーだ。
「さてと、部長さん。もう一戦するかい?」
「はい、ぜひ」
「はっはっは。その意気やよし」
ということで、どうやらまた戦うらしい。
俺はしばらくそれを観戦するのだった。
■□■□
そのあとは、優真のお父さんを連れて展示会場まで行き、なんやかんやあって、文化祭は終わった。
嬉しかったのは、展示物の中で最優秀賞を獲れたことだ。
頑張った甲斐があったってもんだぜ。
そして、後夜祭の花火イベント前の打ち上げで、近衛と優真を屋上へ送り出した。
アイツは頑張ったからな。あれくらいのことは許されるだろう。
もし怒られたら、俺も一緒に怒られようと思う。
そんで、俺は神薙にタイミングを見計らって声をかけた。
「おーい、神薙」
「あ、八条君。今日はステージに来てくれてありがとうございます。上から見つけましたよ」
「ははは、そうかよ。ステージ良かったぜ。めちゃくちゃドラム叩いてたな」
「真面目に生きようとすると、時にストレスが溜まるものです。だから、ステージでは思いっきりぶつけるんですよ」
彼女はふんすっと鼻息荒く語る。
「おう。そういや、事後報告で盗撮みてーになっちまったけど、演奏中の写真いるか?」
「え、本当ですか? 欲しいです」
俺は彼女に写真を送った。
「んじゃ、俺のは消してっと」
「別に消さなくても良いですよ」
「いやいや、こういうのは消しとかないとな。男の俺が持ってたら不安だろ」
俺は彼女の目の前で写真を削除した。
「ふふふ。やっぱり八条君は誠実ですね」
「そうかぁ? それよりよ、この後どうするんだよ」
「軽音部のみんなと花火見ようかと思ってます」
そうか、先約があるのか。
いや、当たって粉微塵の精神だ。
俺は今日、神薙と花火を見たいと強く思った。
だから誘う。
「もしよかったら、一緒に見ねーか。今朝は一緒に回ったし、最後も神薙と見て終わりたいんだけど」
「ふむふむ。なるほど……。それも良いですね。行きましょう」
たぶん彼女は友人としてOKしてくれたんだろう。
そんな感じがする。
俺もこの強く思う気持ちは、たぶん友情だと思う。
とにかく、悲しみで始まった俺の文化祭は、悪くない終わり方をしたのだった。
楽しかったぜ。
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ということで、幸治君の幕間でした。
次回も幕間です。
視点は、お待たせいたしました。風見雫玖です。
タイトルは「幕間 もう一度、貴方に会いたい/雫玖の真実」です。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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