第51話 文化祭で愛をこめて⑫/父、来たる

 幸治と一緒に現れた人物は、俺の父さんだった。


「父さん、いつ帰ってきたの!?」


 俺は心底驚いた。

 俺の父、深影章太郎しょうたろうは単身赴任で関西にいる。

 職業柄、一年間まるっと帰ってこない事も多い。

 実はこの夏も帰ってこなかったのだ。


「今日の朝。優真が学校に言った後。ばっちりニチアサ見てから来た!」


 ああ、今日は忙しくて見れてなかったな。

 ってそういう事ではない。


「連絡くらいしてよ!」


「いやぁ、黙ってやって来て、サプラァーイズ♪ 今、お前にドラーイブ♫ したほうが楽しいだろ?」


 なんで仮面ファイタードリフトのOP曲のワンフレーズが混じってるんだよ。

 相変わらず、筋金入りのオタクで会話が独特だ。


「で、なんで幸治と一緒にいるのさ」


 俺は疑問を口にする。

 すると幸治がテンション高めに答えた。


「いやよ、ゲーム部のブースにバカ強いカードゲーマーが来てるって話で、行ってみたらお前の親父さんだったんだよ」


 なにやってんだよ、父さん!!

 俺は心の中で頭を抱えた。


「いやぁ、決闘デュエルを挑まれたら、全力で答えるのが決闘者デュエリストの礼儀でしょー」


「すげーぞ。MTBで、ゲーム部の部長さんを札束のような高額デッキでボコボコにしてたんだぜ」


「本当に何やってんだよ! 父さんっ!!」


 俺は思わず叫んでしまった。


「あっはっはっはっは。あの子強いぞ。本腰入れたらたぶんプロになる」


「そういう事じゃないが!?」


 もうやだ、この人。

 俺が頭を抱えていると、また声がした。


「あ、いた。章太郎君! 先に行くなら連絡しなさい!」


「とーさん。自由過ぎ。連絡したの見てないでしょ」


「深影っちー。お母さんと妹さんを連れてきたぞー!」


 母さんと咲良が来た。

 おいおーい。まさかの深影家全員集合ですかぁー?

 というかなんで、風見さんまで一緒に来てるんだ。


「おう。悪い悪い。咲良。まぁこうして会えたんだし、ムリムリアリアリいいんじゃなーい?」


「ウチの父親がアホですみません!」


 咲良が深刻そうに愛奏達に謝った。


「風見さん。なんで俺の母さんたちと?」


「ステージの片付け終わって、ここに向かってたら、道に迷ってる二人に声かけられて連れてきたの」


 なんていう偶然。

 なんだか色々とカオスになってきたぞぉ。


「えっと、この人が優真君のお父さん?」


 愛奏が呆気にとられながら聞いてきた。

 俺は渋々頷いた。


「そう。みんな紹介するよ。この人が俺の父親。深影章太郎だ」


「深影章太郎です! 好きなエンタメは特撮、アニメ、マンガ、ゲーム。好きな人はウチの奥さん! そして職業は子供たちのあこがれ、恐竜博士でっす!!!」


 ビッシィっとどこかで見た変身ポーズを取って、自己紹介する。

 もう、好きにしてくれ。


「恐竜博士ってどういうことかしら?」


 真田さんが疑問顔で言う。


「俺の父さん、大学教授で古生物学者なんだ。んで、恐竜が専門」


「マジかよ。モノホンの恐竜博士かよ」


「だから言ったドン。八条君。俺は恐竜博士ザウルス」


「なんていうか、変わってるお父さんね?」


 真田さんが一生懸命オブラートに包んで言ってくれる。


「ドン引きしたってストレートに言ってもいいよ」


 俺はもう取り繕うことを諦めた。


「はいはい。優真が困ってるから、章太郎君は大人しくしてなさい」


「ええー。渚沙なぎさちゃん、もっとここから盛り上げなきゃ」


「章太郎君?」


 母さんがプレッシャーを強めた。


「はい。ごめんなさい」


 父さんは大人しくなった。

 やれやれ。母さんがいてくれてよかった。


「それで、こちらの方が優真のお母さんか」


 竜一が言った。


「うん、俺の母さんの深影渚沙なぎさ


「こんにちは。皆さん。優真がお世話になってます」


「そして、こっちが妹の深影咲良さくら


「深影咲良です。兄がお世話になってます」


 やっとまともな挨拶ができた気がする。


「父さん、母さん、咲良。紹介するよ」


 俺は幸治、竜一、風見さん、真田さん、そして父さんに愛奏を紹介した。


「へぇ、じゃあ君が優真の彼女か。優真をよろしくね」


 父さんがまともな顔して真面目に言う。

 そんな馬鹿な。ぜったい茶化すと思ったのに。


「はい、章太郎さん」


 愛奏はなんだか嬉しそうだった。


「すげーぞ、親の紹介を学校で済ましちまいやがった」


「バイトの店長が愛奏のお父さんだよね。これで両家に挨拶済んだってことー?」


「結婚秒読みかしら?」


「それは、飛躍しすぎじゃないか真田」


 外野が何だか、うるさい。

 まぁとりあえず、なんとか面通しが終わった。


 ■□■□


「それで、お兄ぃの展示はどれ?」


 咲良が興味津々に聞いてきた。


「ああ、それはこれだよ」


 俺はスクリーン画面を見せた。

 父さんが嬉々として見てくる。


「ほう、ほうほう、ほうほうほう、ほうほうほうFOOOOOOOO↑↑↑」


「静かにしなさい!!!!」


 ばちこーんと母さんが父さんの頭の叩いた。


「いやだって、渚沙ちゃん。これ、良くできてるよ」


 父さんがキラキラした目で言う。


「配置は視線誘導をちゃんと計算してるし、読み物もしっかり自分たちの足で調べたんだろうね。説得力がある。写真と動画も交えてるし、出典元をちゃんと明記している」


 大学教授の父さんに褒められると嬉しい。

 頑張った甲斐があるというものだ。

 みんなも嬉しそうだ。


「優真、やるじゃないか。流石、俺の息子」


「いやこれは、みんなのおかげだよ。俺はただ指示を出しただけだ」


「違いますよ、章太郎さん! 優真君は凄いんです」


 愛奏がかぶせ気味に前に出てきた。

 そして、いかに俺が頑張って、自分たちが助かったか熱弁した。


 班分けの事。ブレストの事。アポ電話の事。取材の事などなど。

 途中、他のみんなも口々に言って補足する。

 それを父さんは、しっかり頷きながら聞いていた。


「なるほど。なるほど。それはまた、随分と格好つけたな。優真」


 父さんはニヤッと笑う。


「べつに、一生懸命やっただけだよ」


 俺は照れ隠しでぶっきらぼうに言う。


「俺が教えたわけじゃないけど、背中でも見て覚えたかぁ? 素直に胸を張れ。お前はそれだけの事を成したんだ」


 父さんは拳で俺の胸を叩いた。


「べつに、大したことじゃないさ。みんなが頑張ったの!」


 俺は手を払いのけた。


「お兄ぃ照れてる」


「優真君可愛いー」


「動画撮っといてやろーっと」


「止めなさい、雫玖」


 俺は恥ずかしくて強引に話題を変えた。


「それより、俺達の展示以外にも見ていってよ。ウチのクラスは力作が多いよ」


「ほほぉーう。それは楽しみだ」


 父さんはニッコニコで展示を見て回った。

 母さんは女子組となんだかおしゃべりしてる。

 咲良はマイペースに展示を見ていた。

 久しぶりに家族全員がそろったけど、相変わらずそれぞれに動くなぁ。


「そういや、幸治。さっきの当番の時も思ったけど、なんだか機嫌が良いね。何かあったの?」


 俺は気になることを尋ねてみた。


「おう。まぁ、ちょっとな」


 んんん? えらく気になる様子だ。

 竜一も不思議そうに聞く。


「誰かと回ったのか?」


「相手に配慮して、ノーコメントだ」


 なんと。これは驚いた。

 本当に誰かと回ったのか。

 めちゃくちゃ気になるけど、これ以上は聞けそうにないな。


「さすが、幸治だ。やはり顔が広い」


 竜一がニコニコと怖い顔をする。

 嬉しいのだろう。


「俺の事はいいだろ。それより、竜一。お前はどうだったんだよ」


 逆に幸治が竜一に聞いた。

 さぞ、風見さんに振り回されたことだろう。

 だが竜一は、至って普通の顔をして答えた。


「俺は約束通り風見に色々と奢ったぞ」


「え、それだけなの?」


「そうだが?」


 ふーむ。仲良さそうだったのは、俺の勘違いか……?


「ほんとかよ。向こうからのアピールとか、気づかなかっただけじゃねーか?」


 幸治の指摘に、竜一は思案するように上を向く。


「ないと思うぞ。アレが欲しい、コレが食べたいと言われて買っただけだからな」


 うーん。これは、実際に見てみないと判断つかないなぁ。


「優真はどうだったんだ? 近衛とちゃんと回れたか?」


「バッ、竜一ぃ。オメー……!」


 聞いちゃうかぁ。聞いちゃうよなぁ。

 惚気は自重していたが、聞かれた方には。


 お 答 え し ま し ょ う。


「いや〜それが、愛奏とは占いの館に行ってさぁ」


 俺は愛奏と回った楽しい出来事を話す。

 幸治が「始まった」みたいな呆れ顔で、頭抱えてるが気にしない。


 俺と愛奏のLove & Cuteな話はそんなことでは止まらない。

 こうして俺は幸治と竜一に、ひとしきり愛奏との思い出を語るのだった。


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深影章太郎。

はるかな太古に思いを馳せながら、子供たちのあこがれであり続けるため、永遠の少年を目指す変人。


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