第50話 文化祭で愛をこめて⑪/次々やってくる人たち
それから。俺と愛奏は、展示対応で来るクラスメイトと一緒に頑張ることになった。
そんな中、光珠神社の神主の神薙与一さんが奥さんを連れて来場してくれた。
「やーそんな事になっていたとは。事故にしろ故意にしろ、名乗らず立ち去るとはバチが当たりますねぇ」
与一さんは憤慨してくれた。
「でもこうして展示を再会できたので、良かったです。どうぞ、見ていってください」
与一さんと奥さんは、スクリーン画面を見る。
「うんうん。よくまとめられてますね。これ、ウチの神社に置いておきたいくらいですよ」
「ははは。ありがとうございます。光珠神社の皆さんのおかげです」
高校生の調べ学習を快く受け入れてくれて、貴重な資料まで提供してくれたのだ。
それがなければ、もっと薄い内容になっていた。
「いえいえ。私達はお手伝いしただけ。立派な物が出来たのは、深影さん達が頑張った結果ですよ」
ニコニコと褒めてくれる。
「他にもウチのクラスの展示は、気合入ってますので、よかったら見ていってください。あと、お手間でなければ会場を出られる際に、あちらでイチオシの展示物の番号を書いて投票をお願いします」
俺は投票を促した。
「ほぉー。これはまた面白い試みですね。どれどれ、桃香の展示はー?」
「ああそれなら、あちらにありますよ」
俺は指し示す。
「お、これは学校の立体模型か。なるほど。なるほど」
こうして、与一さんと奥さんは展示を見て回って、会場を後にされた。
「与一さん。ちゃんと投票してくれてたね」
別の人の対応に当たっていた愛奏が、嬉しそうにやって来た。
「そうだね。まぁたぶん娘さんに投票しただろうけど」
こればっかりはしょうがないかな。
■□■□
さて、与一さんが来てからしばらく。
「シフト当たってる佐野君、来ないね」
「そうだね。命知らずだなぁ」
現在、シフト交代が行われるはずなのだが、一人しか来ていない。
役割を放棄すればどうなるか、開始前に通達があったのに。
佐野君はいい度胸している。
「あいつ、命が要らないのかね」
当番で来ていた幸治が言う。
「まぁこの展示会、ほぼ保護者対応に終始するから、割と楽だよ」
生徒の親が来て、展示を見て帰る。
その繰り返しだ。
たまーに冷やかしで生徒も見に来るが、大体が当番に当たってる友達に会いに来るのが目的だ。
「これは展示会自体を工夫する必要があるだろうなぁ」
俺はぼやき気味に呟く。
「ほう。それは興味深いお話ですね」
本郷先生がやって来た。
「佐野君については、後で指導しましょう。それより先ほどの話、深影さんならどう工夫しますか?」
試すような目で見てくる。
幸治と愛奏は、巻き込まれないように、何気なく場を離れた。
ちょっと面倒そうな話だからって、逃げなくてもいいだろうに。
俺は二人の行動に苦笑しつつ答えた。
「そうですね。二つほど考えられますかね。先ず展示会場はここで良いとして、来場者に模擬店で使えるクーポン券みたいな特典を配るとか」
要は、仮面ファイターなどの劇場版がよくやる手法だ。
来てもらえると得するように仕向けるのだ。
「ふむふむ。もう一つは?」
本郷先生は楽しそうに頷く。
「えーっともう一つは、会場をいくつかに分けて、スタンプラリー形式にして、最後まで回った参加者に景品プレゼントとか」
こっちは全部回れば得する方向性だな。
「ふーむ。いいアイデアですね。例年通りの対応になりがちな学校行事です。長く続けるなら、テコ入れするのも必要ですね」
本郷先生がウンウンと納得顔で言う。
「深影さんには驚かされてばかりですね。今の意見といい、先ほどのトラブル対応といい。大人のように見えますよ」
はい。実は大人です。
とは言えないので、曖昧に笑って誤魔化した。
「あははは。至極当たり前の話ですけどね」
「いえいえ。大人でもあれだけ冷静に対応できませんよ。誇っていいことです」
本郷先生が珍しくべた褒めしてくれる。
ちょっと嬉しい。
「ああ、それから今回のトラブルは学校全体で共有しました。犯人捜しは深影さんの言う通り不毛です。ですが見過ごすわけにもいかない。やったことに対して逃げたままは一番やってはいけない」
先生は静かに怒りを発する。
「ですから今日の終会で、今回の事を全体で共有します。よろしいですか? 深影さんが嫌なら別ですが」
「えっと、それは、班のみんなの意見も聞いて……」
「いいえ。貴方が指示を出し、貴方が責任をもってここで対応している。ならば、貴方が最後まで管理者として判断をしてください」
本郷先生は真っ直ぐと俺を見て言う。
結末は俺の手でか。
だったら今回の犯人には、どうにかして、愛奏を泣かせた罪を数えてもらいたい。
「お願いします。先生」
俺は判断を下した。
「よろしい。では、そのように動きます」
先生は首肯すると、教室を去った。
正直、犯人が名乗り出るような事はないだろう。
でも、何かの形でその人物に意思が伝わるといいな。
■□■□
さて、本郷先生が去ってから。
怒涛のように人が来た。
まずは武田さんがひょっこり顔を出してくれた。
なんでも娘さんが、今年の冬にこの西ノ山高校を受験するらしい。
その下見で娘さんと来てくれた。
次に竜厳さんと、竜一のお母さんが来た。
ただ、あいにく彼は軽音楽部のステージに行っていて会えずじまいだ。
だから俺が代わりに、彼がこの制作物を作るために頑張っていた事を伝えた。
また、なぜか謎の関西人である不破さんが来た。
本当にあの人は謎だ。何しに来たんだろう?
他にも誰かのご家族や、近所のおっちゃん、おばちゃん、教員の家族などなど、次々とやってきて、俺達は対応に追われた。
気が付くと俺達二人が当たっていた、本来の展示対応の時間だった。
「ここからは二人きりだね」
「うん。次は誰が来るかな?」
俺はだんだんと楽しみになってきていた。
思いのほか、来場者の反応が良いのだ。
だから対応する方も、気合が入るってものだ。
「おーい。優真、近衛、お疲れ様だ」
「二人とも公の場でイチャついてなかったでしょうね?」
竜一と真田さんが様子を見に来てくれた。
「竜一、軽音のステージどうだった?」
ステージは一時間前には終わってるはずだ。
きっと盛り上がったに違いない。
「ああ、バッチリ動画に撮ったぞ。見るか?」
「流石のパフォーマンスだったわよ」
俺と愛奏は竜一のスマホを見る。
そこには飛び切りの笑顔で、ギターをかき鳴らす風見さんがいた。
相変わらず歌も上手い。
バンドメンバーには神薙さんもいる。
彼女はドラム担当のようだ。
普段の大人しそうな印象からは想像できない、激しいリズムを刻んでいる。
「雫玖、超楽しそうだね」
「三曲、演奏していた。どれも格好良かったぞ」
愛奏は風見さんの様子を見て嬉しそうだった。
そうだよな。彼女も一周目で破滅する。
この笑顔が二度と見られないような、酷い過去なのだろう。
それが今は、こうしてキラキラと輝いて演奏している。
バンドメンバーには松葉が見当たらない。
きっと、過去が変わったのだ。
その事実が嬉しかった。
俺達はしばらく彼女たちが躍動する、素敵な動画を見ることにした。
そしてそれを見終わると、教室に幸治がやって来た。
「おう、優真。お疲れぇ!」
幸治も朝こそ可哀想だったが、なんだかんだ楽しんでいる様子で良かった。
ん? ちょっと待て。
アイツの後ろにいる人ってまさか。
「よっ! 優真! 聞いたぞ、大変な文化祭のようだなっ」
高身長の男性。
短い黒髪で、その頭にサングラスを乗せている。
そして日焼けした肌にラフな服装。
あのチャラ男然とした人物は。
「え!? 父さん!?」
俺の父親、深影
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50話にして、やっと優真君のお父さん登場。
読んでいただき、ありがとうございます。
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