第48話 文化祭で愛をこめて⑨/愛奏と文化祭でイチャイチャ

 それから、ゲーム部の部長さんとの決闘デュエルは、一進一退の攻防だった。


 俺が使ったデッキは相手の生物クリーチャーを魔法で倒して、強力な生物で殴り勝つコンセプトで組まれている。


 対する部長さんは一枚のカードで二体の生物を召喚したり、それを増やしたりして大量に生物を出して、相手を物量で圧殺するデッキだ。


 このゲームは、相手のライフをゼロにすれば勝敗が決する。

 互いの初期の持ち点は二十点。


 そして現在、俺のライフは五点。フィールドには、大型の生物が二体。


 一方の部長さんのライフは八点。フィールドには八体の強化された生物が召喚されている。


「ふっ。俺はターンエンドだ。さぁこの軍団を乗り越えて俺を倒せるかな?」


 部長さんは勝ち誇ったようにターンを終了させた。

 いや、ほんと、この状況は追い詰められていると言える。


 俺のターンで何もできなければ、次の相手ターンに八体の生物が突撃してきて、俺の負けだ。


「優真君。頑張って!」


 愛奏が心配そうに言う。

 どうやら磯野君から状況の説明を受けたらしい。


「大丈夫だよ。愛奏。ピンチはチャンス。不利な状況を有利に変えるのが、カードゲームの醍醐味さ」


「ふはははは。強がってもムダだ。無様に負ける姿を晒したくなければ、サレンダーでもしたらどうだ」


 部長さんはノリノリで悪役を演じてくれている。

 この人、凄くいい人だし、強い。


 難易度はカジュアルだけど、勝ち負けが最後まで分からないようゲームメイクしている。

 ならば俺も最後まであきらめないし、ノリノリでやろう。


「ふん、愛奏にそんな格好悪いところ見せられるか。逆転を見せてやる!!」


「なにぃ?」


「俺のターン! ドロー!!」


 俺はデッキからカードを引いて手札に加える。


「俺は魔法ソーサリーカード『沼底への誘い』を追加コストキッカーを支払って唱える!」


「そ、そのカードは!?」


「このカードは全フィールドの生物のタフネスをマイナス二ポイント下げる。さらに追加コストの効果で、自分フィールドの生物にアッパーカウンターを二つ乗せる!」


 要するに自分の生物は強化して、相手の生物だけ弱体化させて全て倒すという事だ。


 コストがバカみたいに高くて、ゲーム最初に引いて腐っていたカードだったが、まさか役に立つとは。


 というわけで、相手の生物は全て消えて、フィールドには攻撃可能な俺の生物が二体。


 打点は合計八点。つまり二体で攻撃すれば、相手のライフはゼロという事だ。


「くっ。見事だ。俺はサレンダーなどしない。さぁ来るがいい!」


「バトルだ! 二体の生物でアタック!」


「ぐわあああああああああああああ」


 部長さんのライフがゼロになりゲーム終了。


「ありがとうございました。楽しかったです」


 俺は握手を求めた。


「いやーこちらこそ。まさか、アレ引いてるとはなぁ」


 部長さんとガッツリ握手する。


「最初に引いて、手札で腐ってました」


「あれ、もうちょいコスト低かったら、ガチで使えるんだけどねぇ」


「他に便利な全体除去ありますもんね」


 などと互いに健闘を称えながらカードを片づけた。

 久しぶりにやって楽しかったなぁ。


「お待たせ。退屈じゃなかった?」


 俺は愛奏に言う。

 なにせ状況は、カードゲームに興味ない彼女を連れて、カードショップに行く男だからな。

 彼女からの促しがあったが、あんまり褒められた行いじゃないだろう。


「そんなことないよ。磯野君が色々と説明してくれたし、優真君が楽しそうだったし」


 愛奏、良い子だ。

 流石、俺の天使。


「磯野君、愛奏への解説ありがとう」


「いやぁ、女子にカードゲームの話しできるなんて滅多にないし。俺も楽しかったよ」


 彼にとっても、楽しい時間だったらしい。


「深影君と言ったね。どうだい、ゲーム部に入らないかい?」


 おっとぉ、部活の勧誘か。

 部長さんが期待するような目で見てくる。


「すみません。バイトとかあって、参加できないんです」


「おや、そうかい。まぁ気が向いたらいつでも来てくれ。今度はガチのデッキで対戦しよう」


「はい、その時はよろしくお願いします」


 ということで、俺達はゲーム部のブースを後にした。


 ■□■□


 それから、俺達は色々と回り、飲食関係のエリアに向かう。

 時刻は午前十一時を過ぎて、本格的に模擬店が賑やかになっていた。


 俺達はフランクフルト、ポテト、飲み物を購入。

 近くに座って食べる。


「はい、優真君あーん」


 愛奏がポテトを摘んで俺に持ってくる。


「あむ。うん、塩加減が良い」


「だよね。はいじゃあ、次は優真君」


「ちょっと熱いから気をつけてね。はい、あーん」


 俺も手慣れたものだ。

 彼女にフランクフルトを持っていく。


 すると、彼女はそれを舌でチロチロ舐めてから、かぷっと齧った。

 正直、エロかった。


「こら! 下品だから、やめなさい!」


「んふふふ。ごめんなさーい」


 全く困った子だ。

 俺は苦笑して、愛奏が齧ったフランクフルトを食べる。

 じーっと彼女が見てきた。


「どうしたの?」


「いやー。好きな人と同じ物をシェアして食べるの、なんか良いなぁって」


 確かに、間接キスの亜種みたいでなんか良いな。


 付き合い始めてから、まだそんなに経ってないけど、彼女とは色んな物を食べさせ合って、飲み合ってしてる。


 夏の頃なら、顔真っ赤にして出来なかっただろう。

 それに比べたら随分と成長を感じてしまう。


「これはキスまで、あと一歩だね!」


 愛奏が期待するように言う。


「そ、それは、まだ勇気がないので、もうちょっと待ってくだしゃい」


 キスはハードル高いだろう。

 思わず彼女の唇を見る。


 柔らかそうで、その、うん。

 やっぱハードル高い。


「ムフフフ。だいじょーぶ。こういう食べさせ合いから徐々に慣れさせて、最後はパクっと優真君の唇を奪うから」


 とんでもない事を宣言されたように思う。

 やっぱ彼女の方が一枚も二枚も上手うわてだ。

 俺は話を変える。


「そういや、風見さんと神薙さんの発表って何時からだっけ?」


「えーっとね。お昼十三時から軽音楽部ステージだって。体育館でやるみたい」


 ふむ。俺達の展示会場のシフトが十五時からだから、充分見られるな。


「俺、風見さんの演奏初めて見るから、ちょっと楽しみだなぁ」


「私も随分と見てないからなぁ。懐かしいなぁ。あの頃は、まだ純粋に高校生してたっけ」


 愛奏がしみじみと言う。


「思えば、レオンと軽音楽部のステージ見に行って、ドサクサにおっぱい触られて、まぁちょっと恥ずかしかったけど、周りの雰囲気にアテられてなんだかノリノリになっちゃって、バカな女だったな……」


 おや、愛奏さんの目が死んでいく。

 イカン! まさかの地雷だった。


 彼女、たまに何でもない話がトリガーになって、フラッシュバックするみたいなんだよなぁ。


 こうなると再起動させるのに、一工夫がいる。

 ぎゅーっってしたり、なでなでしたり。


 とはいえ、今日は結構人目につく場所だ。

 仕方ない。怒られるかもだけど、アレでいこう。


 俺は彼女の耳元まで顔を持っていく。

 くらえ。今、必殺のウィスパーボイス。


「落ち着いて。赤島の事なんか忘れて、俺だけ見てよ(イケボ)」


「うひゃあああああ!」


 愛奏は悲鳴をあげて飛び退いた。

 みんな何事かと注目する。

 俺は気にしないでと周囲に合図した。


「優真君!! 耳元禁止って言ったよね!!」


 彼女は顔を真っ赤にして、耳を押さえ怒る。


「だって、君を再起動させるなら、これが一番手っ取り早いし」


「もう少し低刺激のヤツでお願い!!」


 ぷんすか怒る愛奏も可愛い。


「りょーかい。今度から気をつけるよ」


 次は、耳元でフーってしてやろう。

 そして俺は彼女を真っ直ぐ見る。


「まぁ真面目な話。君は今、俺と人生やり直してるんだ。一周目がどれだけ酷かったとしても、今度こそ幸せになればいいんだよ。俺も協力するからさ」


 そのために俺は二周目やってるんだ。

 愛奏は無言で俺の傍に近づいて座る。

 そしてコテンっと、頭を俺の肩に乗せて言った。


「うん。ありがと。あと、ゴメンね」


「気にしなくていいよ。大好きな彼女のためなら、何だって受け止めるし、何だってするさ」


 我ながら俺も結構、感情が重いほうだからな。

 お似合いというやつだろう。


 さて、そろそろ次に行くかと思った時だった。

 俺達のスマホが震えた。


「あれ? 雫玖からだ。もしもし?」


 愛奏は不思議そうな顔をして出る。

 俺は竜一からだった。

 何かあったのだろうか。


「はいこちら、優真」


『おお、こちらも繋がった。優真、大変だ。俺達の展示物が汚れてしまった!』


 風雲急を告げる連絡が、俺の耳に届いたのだった。



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大方の予想通りかもしれませんが、ベタな展開が好きなので。

ご容赦ください。


読んでいただき、ありがとうございます。

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