第47話 文化祭で愛をこめて⑧/占いとカードゲーム

「どこから回ろうか?」


 俺は愛奏に聞いてみた。

 彼女は配られたパンフレットを見る。


「ねぇ。ここに行ってみようよ」


 指さした場所は、部活動関係の出し物があるエリア。

 超常現象研究会、通称オカ研のブースだった。

 内容は占いの館と書いてある。


「へぇ。占いかぁ」


「やっぱり、こういうのは見逃せないよねぇ」


 二人の相性とか占ってくれるのだろうか。

 早速、行ってみることにした。


 エリアに着くと、すでに何人か並んでいた。

 ブースは小さなテントで覆われていて、なかなか雰囲気がある。


「どうぞ~。こちらからお並びくださーい」


 オカ研の生徒の案内で俺達は並ぶ。


「よかったら、待ってる間に、どうぞー」


 渡されたのは、オカ研が出してる会報誌だった。


「へぇ。こういうの好きだなぁ」


 俺は興味を持ってパラパラ見る。

 愛奏も一緒に見る。


 内容は未確認生物から、タイムスリップまで。

 面白い内容だった。


「タイムリープの話。この人達にしたら、どんな顔するだろうね」


 愛奏が小声で言う。


「文助さんや白さんに会った話もすると、きっと腰抜かすだろうね」


 俺は含み笑いで肩を揺らす。

 二人だけの秘密だけど、話せば研究会の人達が泣いて喜びそうだなぁ。


 そうこうしていると、順番が来た。

 テントに入ると、長机一つに椅子が二つ。

 その机には大きな水晶が鎮座している。

 そして薄暗い中で、占い師の生徒が待ち構えていた。


 髪が長いので女性だろうか。

 紫色の装飾品を身に着けて、結構本格的だ。

 無言で微笑んで、着席を促される。


「えっと、失礼します」


 俺達は並んで座った。


「いらっしゃい」


 俺と愛奏は目を瞬かせた。

 見た目は女性なのに、声は男性だったのだ。


「えっと、男の子?」


 愛奏が恐る恐る聞いてみた。

 すると彼は頷いた。


「そうですよ。僕は男です。でも占いするときは、色々な境界を曖昧にした方が精度上がるんで、女装してます」


 なんとなく説得力ある言葉だ。


「さて、では何を占いますか?」


 占い師が話を進める。

 愛奏は俺を見た。


「愛奏が決めて良いよ」


「えっとじゃあ、私たちの相性と未来について占ってください」


「なるほど。なるほど。では二つまとめてなので、お代は二倍いただきますけど良いですか?」


 相性と未来で二つか。

 一回が百五十円だから、合計三百円か。


 俺達は了承して、事前に購入していた学祭の金券を取り出して支払う。


「よろしい。ではでは。むむむむむ」


 占い師が目の前の水晶に手をかざして唸る。


「見えます。貴方と彼氏さんの相性はバッチリのようですね。なにやら人に言えない秘密を共有している様子。その絆がある限り貴方たち二人は生涯離れないでしょう」


 おお、人に言えない秘密とは。

 当たってるじゃないか。


 まぁこの手の占いって、それっぽい事を言って受け手側で判断させるって聞いたことがある。


 おそらくその手法を取り入れてるんだろうけど、本格的だし、実際に人には言えない絆がある。

 この占い師、イイじゃんスゲーじゃん。


「わぁ凄い、当たってるよ優真君」


「だね。それで未来の方は?」


「未来の方は……むむむむ、うっ!」


 占い師が再び手をかざして唸ったが、様子がおかしい。

 ガクッと項垂れて、動かなくなった。


「あのー?」


 俺が声をかけると、ガバっと頭が上がった。

 彼はどこも見ていない目でぼーっとして、口を開く。


「あい、のね、が、い。ゆ、うき、を、だせ」


「え!?」


 俺達は驚いた。

 意味を理解する間もなく、占い師は再度項垂れて、頭が上がる。


「未来は輝かしいものが見えますよ。これから文化祭を回られるなら、飲食関係に行かれるのが吉と出ました」


 彼は、何事もなかったかのように振る舞う。


「えっと、大丈夫ですか?」


「はい? ああ、大丈夫ですよ。占いは良い方向に転がる事を信じて、動く事が大切です。楽しい文化祭にしてくださいね」


 俺の問いかけに、ズレた答えが返ってくる。

 俺達は狐につままれたような気分で、テントを出た。


「ありがとございましたー」


 外のスタッフに見送られて、その場を離れる。

 とりあえず、会場の片隅に移動した。


「優真君。あれ何だったんだろう?」


「わからない。けど、演技じゃないと思う。神様からのメッセージかなぁ?」


『愛の願い。勇気を出せ』か。

 どういう意味かわからないけど、頭の片隅に置いておいた方が良さそうだ。

 愛奏が心配そうに見てくる。


「まぁ、考えても仕方ない。不思議体験は今さらだよ。次、行こう」


「うん。そうだね」


 気を取り直して、俺達は次に向かった。


 ■□■□


 同じ、部活動エリアにて。


「おーい、深影。寄ってかないか?」


 見覚えある生徒に声をかけられた。

 手招きしているのは、えーっとウチのクラスの磯野いその君だ。


「磯野君、ここは何やってるの?」


 愛奏が興味深そうに聞いた。


「ここはゲーム部のブースで、ボードゲームとか、カードゲームの紹介と体験ができるよ」


 この部活、入るか迷ったんだよなぁ。

 結局、人付き合いするのが面倒で、ゲームは家でやろうって結論になったっけ。


「カードゲームだって。優真君も得意だよね」


「うん。まぁ嗜む程度だけど」


「おお、それならどうだ、そっちでウチの部長と対戦できるぞ」


 磯野君が促してくる。


「でも、デッキないよ?」


「どのカードゲームだ? 場合に寄っちゃレンタルデッキを準備しているぞ」


MTBエムティービーある?」


「お、渋いな。あるぞ。ウチの部長が一番得意なヤツだ」


 MTB。正式名称、マジック:ザ・バトル。

 対戦型TCGの原点と呼ばれる、海外産のカードゲームだ。


 日本で有名なカードゲームより、俺はこっちの方が好きなのだ。

 父さんも好きなので、単身赴任から帰ってきたら、たまにやったりしていた。


「優真君。せっかくだから、やりなよ」


 愛奏も促してきた。


「でも良いの? カードゲームって、ルール知らないとあんまりおもしろくないと思うけど」


 傍から見たら、何をやってるか分からないだろうからな。


「ああ、なら俺が解説するよ」


 磯野君が愛奏の相手をしてくれるらしい。


「優真君がカードゲームやってるところ見たことないし、見てみたいな」


 なるほど。そう言われたら、やるしかないでしょう。


「わかった。それじゃ、デッキはどんな感じ? 緑入ったヤツあればいいんだけど」


「おーあるぞ。コレとコレとコレだな」


 俺は磯野君からデッキを受け取って、ざっと確認。

 お、新発売のカードが入っている。

 でも俺にとっては懐かしいカードだな。


「よし、これならまぁ下手な事にはならないかな?」


 俺はデッキを選んで、案内された机に座った。


「ようこそ。いやーMTG出来るヤツ少ないから、対戦できて嬉しいよ」


 ゲーム部の部長さんがニコニコ笑う。


「よろしくお願いします。まぁちょっと主流から外れてますからね」


 パケモンカードとかの方が有名だろう。


「確かにねぇ。それじゃ、対戦のオプションを選んでくれ」


 オプションとな?

 俺は差し出されたメニュー表を見る。

 そこには難易度とロールプレイするかの有無が書かれていた。


「難易度はデッキの強さですよね。このロールプレイって?」


「ああ、それはいわゆるカードゲームアニメよろしく、ノリノリでお互いやるか、普通にやるかの違いかな」


 ははーん。確かに身内でやるなら、それもアリか。

 やったら楽しいって話だし。


「じゃあ、レンタルデッキだし難易度はカジュアルな感じで、ロールプレイありでお願いします」


「よかろう! 女連れでここに来るとはいい度胸だ! さぁ覚悟が出来たなら、デッキという剣を取れ!!」


 いきなり始まった。

 愛奏がちょっと驚いているが、まぁ良い。

 こういうのはノリだ。


「ディメンションウォーカーとして出会ったなら戦うだけだ。胸を借りますよ、部長さん!」


 お互いにデッキをシャッフルして、プレイマットに置く。


決闘デュエル開始の宣言をしろ! 磯野!!」


「はい、部長!! 決闘開始ぃぃぃ!!!!」


「「決闘!!」」


 お互いに宣言して、対戦が始まった。



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MTBは言わずもがな、元ネタはマジック:ザ・ギャザリングです。

この作品は遊戯王のネタ多いですけど、カードゲームとしては、MTGの方が好きです。

ダスクモーンは大主サイクルが強いですね。


読んでいただき、ありがとうございます。

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