第46話 文化祭で愛をこめて⑦/文化祭開幕!

 金曜日の午後から、土曜日にかけての準備期間を終えて。

 爽やかな秋晴れの下、文化祭の当日となった。


『えー、では、今日の日を有意義に過ごしてもらい、西ノ山高生として、節度ある……』


 校長のしょうもない話が続く。

 祭りの前の挨拶だが、誰だよ、あの人に挨拶を頼んだ奴。

 教員も含めて全員が、微妙な顔をして聞いている。


『さて、祭りと言えばー』


 まだ続くのかと絶望した時。


『校長、そろそろ時間なので、次行きます』


 教頭先生が容赦なく、話をぶった斬った。

 教頭カッケェ!!


 そこに痺れる憧れる。

 上であろうと臆することなく言ってのける、黄金の精神に尊敬の念が絶えない。


『では、ニシノ祭の開幕を宣言します』


 物凄く不満顔でニシノ祭が幕を開けた。

 ぞろぞろと、みんな教室に戻る。


「校長の話、意味あったのか?」


 幸治が首をかしげる。


「少なくとも学校として必要だったのだろう。たぶん」


 竜一が肯定的に言う。


「あの人、致命的に話が下手だよ。生徒に対して話してないし。自分が言いたいこと言ってるだけ」


 俺はバッサリ断じた。

 本当に朝からテンション下がる出来事だった。


 さて、気を取り直して。

 いつもの教室で本郷先生から連絡があった。


「はい。では最初から色々とありましたが、校長を嫌いにならないでくださいね。責任者として便利……もとい必要な方なので」


 本郷先生が言うとそうなのだろう。

 なるほど。何かあった時の生贄なのね。


「さて、今日一日は割り当てられた役目を全うすれば、後は自由です。今日だけは過度なオシャレもハメ外しも目を瞑ります」


「おおー! 本郷先生、ステキ! 最高!」


 風見さんが声をあげる。

 彼女はもうすでにフルスロットルだ。


 なにせ、いつものショートヘアに赤メッシュが入っている。

 先生はそんな彼女を一瞥してから告げた。


「ただし、一線を超えた人には、私や生徒指導の梅田先生と一緒に、楽しい後夜祭が待ってますからね。覚悟してください」


 ビリビリとプレッシャーが来る。

 笑顔なのに怖い。

 後ろに恐ろしい怪物を幻視してしまう。


『はい。先生』


 俺たち全員は、真顔で同意した。

 我ながら、よく統制が取れていると思う。


「では、今日一日、怪我のないよう楽しみましょう。解散!!」


 というわけで、ようやく本当の文化祭が幕を開けた。


 ■□■□


 解散した後、約束通り愛奏と文化祭を回る事に。

 しかし、ちょっと準備するから待ってほしいと言われて、教室で待つことになった。

 同じく、竜一も風見さんを待っている。


「何だろうね。竜一」


「分からない。風見に聞いたら、楽しみにしておけとしか言われていない」


 ふむ。なにかのサプライズだろうか。


「で、幸治は誰待ち?」


 俺と竜一は、隣の幸治を見る。


「うるせぇ。いちゃ悪いかよ」


 なんだか、妙に機嫌が悪い。


「いや、良い悪いの話じゃないけど」


「オメーらはいつの間にか、女子と文化祭を回る約束をしていた」


 突然、幸治が言う。

 彼はなおも続ける。


「だから俺も真田を誘ってみた」


 ほう。真田さんを。

 これはまた、面白そうな話だ。


「だが、断られた」


 Oh……。悲しい結末だった。


「だから、お前達を妨害してやろうと、待っている」


 最低だコイツ。


「幸治、それは良くない。顔が広いお前のことだ。他に誰か知り合いを誘うのはどうだろう」


 竜一が正論と言う名の、ストレートパンチを繰り出した。

 幸治に、こうかは ばつぐんだ。


「うるせぇ! 優真はともかく、竜一ぃ! オメーーはいつの間に風見さんと仲良くなったぁ! あれか、俺がネコ追いかけてる最中に、二人で放課後ニャンニャンってか!! そーなのか!!」


 彼は嫉妬の炎を燃やして、わけわからん事を叫ぶ。


「お、落ち着け。幸治。これは俺がやりすぎたので、そのお詫びだ。お前の考えているような事は起こってない」


 竜一が幸治の剣幕に驚いて、宥めようとした。

 だが、嫉妬に燃える男には無意味だった。


「ヤリすぎた!? ヤッたのか! ヤッたのか!!」


「ぐわわわわわわ!?」


 竜一の身体を掴んで前後にゆすり始めた。

 俺が何か言うと火に油というか、ガソリンに火花なので控えていたが、流石に止めに入ろう。


「ストップ、幸治。もうその辺で落ち着いて」


「落ち着いていられるか、チクショウ!」


 暴れる彼を二人で宥めて、他愛ない会話しつつ、愛奏達を待った。

 それから暫く待って。


「おまたせ。男子どもー」


 風見さんの声がした。

 俺達はその方向を見る。

 そこにはいつもの三人組がいた。


 でも普段と違っていた。

 それは、輝いていた。

 それは、可愛かった。

 そしてそれは、特別だった。


「どーだ。文化祭用にヘアアレンジして色々とオシャレしてみました!」


 ブイっと風見さんがピースサインする。

 赤メッシュの髪色だけでなく、メイクがいつもよりしっかり目。

 制服は着崩して、シルバーアクセも交えて、随分とパンクだった。


「えっと、どうかな? 優真君」


 愛奏は遠慮がちに披露する。

 彼女もミディアムロングの髪を普段と違った感じでまとめ、髪色をラインが入るように黄色に染めている。


 さらに制服ではなく、文化祭用に配られたTシャツの裾を結んでお腹を見せていた。

 とうぜん、メイクはいつもより気合が入っている。


「私がして、誰に見せるのよコレ」


 そういう真田さんは、いつものヘアスタイルに緑のカラーが入っている。

 さらにメイクも普段と違った感じで、キラキラしていた。

 服装も愛奏と違った感じにTシャツを結んで着崩している。


「「「………………」」」


 俺達は言葉失っていた。

 この三人組、普段から可愛いけど、今日はレベルが違った。


 特に愛奏はもう俺、直視できないくらい可愛いんですけど!?

 見てるだけで顔が熱くなってくる。


「ぶははははははは!! 見てよ、二人とも。男子が同じ顔して赤くなってるぅ!!」


 してやったりと、風見さんが爆笑する。


「ふふふ。サプライズ成功だね!」


「まぁこの顔が見られるなら、やった甲斐はあったかしら?」


 愛奏と真田さんも満足そうに笑う。

 この三人、ほんと男を弄ぶの得意だよな。

 今日は小悪魔っぷりに磨きがかかっていた。


「ほらほら、深影っち。感想言わないと、愛奏に嫌われるよ~」


 俺は風見さんに指摘されて、我に返る。


「あ、その、めちゃくちゃ可愛いよ、愛奏。いや今日はいつもよりも輝いている! 最高! イイ、すごくイイ!!」


 ボキャブラリーが貧相なのが恨めしい。


「しゃ、写真だ! 写真に撮ろう」


 俺は慌ててスマホを取り出す。

 だが、愛奏が手で制した。


「それは、二人で回りながら撮ろ?」


 きゃるっと普段はしないような、あざといポーズで言ってくる。


「あ、はい」


 ぶっちゃけ、何しても俺にクリティカルなので、俺は唯々ただただ、言いなりになるだけだった。


「で、フジモン。君は感想なーい?」


 風見さんはニカっと竜一に笑いかけた。


「あうあう。その、あの、かわいい、な」


 普段はいかめしい顔の竜一が、とてもだらしない顔でノックアウトされていた。

 おおう。こりゃ、落ちたな。


「むふふふふ。良いリアクションだね」


 風見さんは楽しそうだ。

 ふと、幸治を確認すると、真田さんをガン見していた。


「なによ、八条君」


「真田、頼む! 俺と一緒に文化祭回ってくれ!」


 言った! アイツ、フラれたのに言った!

 すげーよ。真田さんの可愛さに抑えきれなかったのか。


「ゴメンなさい。私もう友達と回る約束してるし」


「そうか」


 Oh……。こりゃ、脈無いな。

 風見さんが見かねて彼の肩に手を置く。


「あーあ。かわいそうに。ハッチ元気出せ。君の事を見ている女子はきっといる」


「その慰めが、一番クるわ! いっそ笑ってくれ!」


「え、良いの? ぶはははははははははははは!! ざーんねーんでーしたぁ。あははははははは」


「加減しろよぉ! バカヤロオオオオォォォォォォォォ」


 幸治は涙目で教室を出ていった。

 流石に可愛そうになってきた。

 後でたこ焼きでも奢ろう。


「じゃ、私はこれから展示会場のシフトだから」


 幸治をばっさりフッた真田さんは、マイペースに立ち去った。


「瑠姫ったら。もう」


「まぁこればっかりは、好みと相性の問題だからねー」


 愛奏と風見さんはちょっと困ったように言う。


「さてと、それじゃフジモン。いくよ! 今日は目一杯、奢ってもらうんだから」


「お、おい。引っ張らなくても一緒に行くぞ」


 風見さんは竜一の腕を引っ張って、教室を出ていった。


「優真君。私達も行こっか」


「うん。行こう、愛奏」


 俺達は文化祭に繰り出した。


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幸治の恋路ネタはあるんですけど、幕間で消化できるかなぁ?


読んでいただき、ありがとうございます。

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