第45話 文化祭で愛をこめて⑥/文化祭前日

 図書館に行った日から、怒涛のように日が過ぎていった。

 気づいたら金曜日の午後。

 つまり、文化祭準備の日だ。


「新手のスタ●ド使いから攻撃を受けたようだ」


「時が吹き飛んじまったな」


 俺と幸治は準備の喧騒から離れて、校舎裏のベンチで一息ついていた。

 昨日から今日にかけて、俺たち二人は特に忙しかった。


 みんなで話し合って加筆した原稿を俺が仕上げて、幸治がその原稿に合うイラストを描き、パソコン室でミックスさせて、データ状態の完成品を作ったのが昨日の放課後。


 そして現在は、愛奏たちに印刷を任せていた。


「話変わるけど、幸治って絵が上手かったんだな」


「本職目指してる人には負けるけどな。あれくらいならまぁ、俺でも描けるってわけよ」


「謙遜するなよ。ヘビの絵とか、文助と白の絵とか、すごく可愛くて女子ウケ良かったじゃん」


 実際、愛奏たちから好評だった。

 俺も結構感動した。

 なにせイラストが入ったら、展示物として締まった感じになったのだ。


「ガキの頃からよく、動物とかの絵を描いてたからな。それが高じてお絵描きソフトも買って。何が役立つか分からねぇよな」


 幸治は自分のスキルが役に立てて嬉しそうだ。


「全くもってその通りだね」


 俺は激しく同意した。

 俺も一周目にやってきたことが、二周目で役に立ってるからな。

 ちょっと特殊な状況ではあるけどね。


 それから俺たちは、秋の陽気を浴びてぼーっとしていたら、スマホが震えた。


「おっと、どうやら刷り上がったみたいだね」


 俺と幸治は立ち上がる。

 休憩は終わりだ。

 ここからが大変なんだよなぁ、アレ。


「ちゃんと刷れてんのかねぇ。デカいパネルに貼るために、分割しただろ?」


「一応、A4用紙に刷って縮小版は上手くいったし、大丈夫じゃない? あとは繋ぎ合わせて貼る際に、失敗しなければ」


「プレッシャーがハンパねぇなオイ」


 というわけで、二人で教室に戻った。


 ■□■□


「はい、そっちもってー、引っ張ってー」


 俺は指示を出しながら、刷り上がった用紙の端を持つ。


「ズレたら罰ゲームだかんね。深影っち、フジモン」


 風見さんがヤジを飛ばす。

 そういう彼女も今は、繋いで貼り合わせるもう片方の用紙を押さえている。


「雫玖! 無駄口叩かないで、ちゃんと持ってて!」


 真田さんが怒った。

 愛奏と幸治は両面テープを持って待機中だ。


 パネルの大きさはA0サイズ。

 学校にあった大判印刷のプリンターが、A1サイズに対応していたため、せっかくなので一番大きなサイズで展示することにしたのだ。


 俺と竜一はそーっとスチレンボードに紙を置いた。


「うん。繋ぎ目の余白を計算して作ったから、ばっちりだ」


 俺は満足そうに頷く。

 まぁ今は仮置きで、ここからが本番だが。


「じゃあ、こっちは一度外して、そっちをまずは固定しよう」


 俺は、仮面ファイターの武器のようなデカいホッチキスを握る。


「はやくしてーっ! なんか緊張してきて手汗出てきた」


 風見さんが悲鳴を上げる。


「手汗でふやけたら、罰ゲームだよ雫玖」


 愛奏が悪い顔して言う。


「愛奏め~。テープ貼りっていう、一番楽な役目だからって腹立つぅ」


 役目はじゃんけんで決めたからな。

 俺は苦笑しつつ、フチに針を打ち込んで固定する。


「これで良し。離してもいいよ」


 風見さんと真田さんはホッとしたようだ。


「問題はここからだな」


 竜一が物凄い怖い顔で言う。

 たぶん、緊張してるんだと思う。


「まぁ一枚は固定して上手くいったから、失敗したら片方だけもう一度刷ればいいよ」


 気楽に行こう気楽に。

 俺は努めて軽い態度で緊張をほぐそうとした。


「だが、テープで貼り付けてしまえば、全部、刷り直しだな」


 竜一が青い顔して言う。

 いやまぁそうなんだけど、自分からプレッシャーかけないでほしい。

 よく見ると、みんなも不安そうだ。


「その時はその時だ。とにかく、貼っちゃおう。端からやれば大丈夫だよ」


 さっさと終わらせて、空気変えよう。

 俺は明るく指示を出した。

 そして、緊張すること一分くらい。


「そーっとな。そーっと」


「ゆっくりー、端からー」


 全員が見守る中、二枚目を貼り付ける。


「よし、これで貼れた」


 俺達は安堵のため息をついた。


「ねぇ優真君。ちょっとズレた?」


 愛奏が不安そうに言う。

 俺はパネルを壁に立てかけて、後ろに下がる。


 んー。ちゃんと読めるし、割目のところはなるべく余白の位置にしたし、ほぼ誤差の範囲だな。


「いや、大丈夫だ。ばっちり完成だよ」


「ヤッター! 完成だー!」


 風見さんが気持ちを爆発させて両手を上げた。


「こうしてみると、良い感じじゃねーか」


「ああ、これは凄いな」


 幸治と竜一が感動の声を上げる。


「大きいと目立つし、イラスト可愛いし、やったね!」


「ええ、これは最優秀賞は貰ったわね」


 愛奏と真田さんも嬉しそうだ。

 考えてみりゃ、制作に三週間強か。

 短いようで長い期間だ。


 完成した制作物を俺は改めて眺める。

 読み物は、視線誘導も意識して配置してある。

 文字の大きさもA0で見て、丁度いい感じにしている。

 所々にイラストと写真を配置して、固い印象にならないようにもしている。


 内容は光珠神社の紹介から、白紐伝説の事、それに因んだ地名の話、そして光珠と周辺の街は「縁の街」という俺達の考察。

 オマケで幸治が遭遇した、光珠神社近くのネコ集会の写真と動画の二次元コード。


 良いじゃないか。コンテンツも多すぎず少なすぎず。

 他の展示物に負けない立派なものが出来た。


「じゃあ、さっそく展示会場の教室に持っていこう」


 俺は手をパンと叩いて、次の指示を出す。


「持っていく時に壊して割ったら、笑えるね」


「会場で完成させた方がよくなかった?」


「あそこでの作業は禁止されてたわね」


「ルート考えて持っていこーぜ」


「俺が怖い顔したら、みんな避けてくれるだろうか」


 などなど口々に言いながら、俺達は制作物を持っていくのだった。


 ■□■□


 それから、無事に運び出しに成功し、俺達は割り当てられた場所にしっかりとパネルを置いた。

 教室で確認した時より、会場に置いた方がなお、映えているようで満足だ。


 そしてこの後、どうするかという話になった。

 今日は授業日ではないので、自分たちの分が終われば帰っても良い。


 けれどなんとなく、この祭り前の雰囲気を楽しみたくて、俺は残ることにした。

 みんなも同じ気持ちだったらしく、どうせ残るなら展示会場内の装飾や、他の班の制作を手伝うことにした。


 自分たちの展示物がどれだけ良くても、周りが酷ければ台無しだろう。

 時間の許す限り、精力的に動いた。


 ちなみに他の班の展示物も、中々趣向を凝らしていた。

 周辺の駅ついて調べた班もあれば、学校の事を調べた班もある。


 展示物も、モニターに映してスライドショーを自動で動かす物から、模型のように立体的になっている物まで。


 なるほど。他の展示物も気合が入っている。

 どの班が最優秀賞を取っても、おかしくないだろう。


「ねぇ。なんかウチのクラスの展示物、他のクラスよりちょっとクオリティ高くない?」


 愛奏が不思議そうな顔をして俺に言った。

 確かにいい加減な物もあるにはあるが、全体的にしっかりとしている。


「そういえばそうだね。一周目と違って班メンバーが変わってるからかな?」


 俺は小声で愛奏に言う。


「優真君が色々とアドバイスしたのも、あるんじゃない?」


 ふーむ。そうかなぁ?

 確かに、あのブレストした日に本郷先生が「参考にしてみてください」と言ったおかげで、いくつかの班から助けを求められた。


 俺は快く、アイデアの足しになるような話を、大学時代の経験を思い出しながら伝えた。


「まぁ、良い方向に過去が変わるなら歓迎だ」


「うん。本当にそうだよね」


 俺達は目の前に広がる、結果が変わった過去未来の光景を、感慨深げに見るのだった。


-----------------------------------------

実際のところ、『チーム優真』が楽しそうに活動するので「自分達もやる」と気合が入った。


読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る