第41話 文化祭で愛をこめて②/愛奏と晩ごはん

「おっと、もうこんな時間か」


 その後、俺達は密着の状態で、取り留めのない会話してイチャイチャしていた。

 ふと、時計をみると時間が結構経っていた。

 そろそろ夕飯の支度をしないといけない。


「あ、ひょっとして晩ごはん作るの?」


 愛奏が察したように言う。


「うん。今日は俺の当番だからね。それで、良かったら愛奏も食べていかない?」


 俺は彼女を夕飯に誘ってみた。

 せっかく俺の家に来たんだ。

 いつぞやの約束を果たすときだろう。


「わぁ、良いの? 食べたいなぁ。でもお母さん許してくれるかな?」


 愛奏はそう言うと、スマホを取り出した。


「ちょっと、電話して聞いてみるね」


 彼女は、ささっと操作して電話をかける。


「あ、もしもしお母さん。ごめん、ちょっと確認なんだけど。今日の晩御飯、友達の家で食べてもいいかな?」


 彼女が経緯を説明する。

 流石に男の家ってのは言えないか。

 ちょっとウソついてるのが、罪悪感あるな。


「え? なんでわかったの? 声が弾んでる?」


 おや、何やら様子がおかしい。


「……はい。優真君の家で食べます」


 彼女は観念したように告げた。

 どうやら、俺の家にいることがバレたらしい。


 声だけで分かるとは。流石は親だ。

 こうなると、俺も挨拶する必要があるだろうか。


「え、良いの!? うん、うん、分かってるって」


 おっと、許可がもらえたようだ。


「ちょ! そんなエッチな事しないって!!!」


 オイオイ、何を話してるんだ、いったい。

 俺はちょっと居たたまれなくなってきた。


「ひ、避妊って! 変なこと言わないでよ!! もう、切るからね!!!」


 そう言って彼女は、顔を真っ赤にして乱暴に電話を切った。


「まったく。お母さん何てこと言うのよ」


「えーっと、お母さんなんて?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。

 避妊って単語が気になるんだが。


「晩ごはんはOKだった。でも朝帰りはNGだってさ。あと避妊しろって」


 おかーさーん! 飛躍しすぎでーす!!

 昨日の誠司さんといい、どうも愉快なご両親らしい。


「えっと、俺は体の関係とかそういうのは、まだ早いって思ってるし、愛奏の気持ちが最優先だから安心してね」


 なんて返事したらいいか分からないので、誠意だけ伝える。

 特に彼女は、肉体関係に多大なるトラウマを抱えているだろう。

 俺は愛奏を凌辱したクソ野郎共とは違うのだ。

 

「ああ、うん。それは私もそう。そういう爛れた性春はごりごりだし。優真君とは健全にお付き合いしたいな」


 実感こもってるなぁ。

 だが、彼女は心配そうな顔をした。


「でも、優真君。我慢できなくなったら遠慮なく、私でヌいてね」


「え゛!?」


 俺は顔が引きつった。


「もしオカズが必要なら、私の裸の写真送ってあげるからね。ああ、でも動画の方が……」


「ウェイト! ウェイト! ストップ!!」


 俺は慌てて彼女の発言を止める。


「え? いらないの?」


「そういうの無しって、さっき言ってたじゃん!」


 言ってることと、やろうとしてることが真逆すぎる。

 すると、愛奏は真っ青な顔をして言う。


「え? これも爛れてるの? ひょ、ひょっとして、彼氏に裸の写真とか、エロい動画とか送るのって、異常……?」


 おっとぉ。そういう事かぁ。

 赤島め。そうやってデータを確保して、後で何かあった時に脅しとして使おうとしたな。

 そういうニュース読んだことあるぞ。


「たぶん、赤島が君を嵌めるためにした罠だね」


「そんな! ごめんなさい! 私、常識なくて!」


「大丈夫、大丈夫。少しずつ分かればいいよ。俺だって彼女ができたの初めてだから、良く知らないし」


 俺は愛奏を抱きしめて慰める。

 それにしても、彼女の常識を確認しておかないと、ちょっと大変なことになりそうだな。

 壮絶な凌辱で、一般常識と乖離してる可能性があるぞ。


「ははは。レオンに捨てられてから、付き合った別の男達も喜んでたし、普通だって思ってた」


 いかん、愛奏の目が死んでる。

 地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 さらに、彼女は俯いて言い続ける。


「風俗やってる時も、普通におっぱいをSNSに上げて営業してたし。お客さん喜んでくれたし。あはははは。やっぱ私って、バカな女だなぁ」


いかん。自分で地雷を連鎖爆発させてる。

俺は愛奏をさらに強く抱きしめて、頭を撫でながら慌てて言った。


「一旦、忘れよう。うん。これから美味しい物作るから、期待して待っててね!」


「ああ……。そうだね……わーい」


 どよーんと落ち込んでしまった。

 こりゃ、急いで作る必要がありそうだ。

 俺は愛奏から離れると、動き出した。


 ■□■□


「「おいふぃ~美味しい!」」


 愛奏と妹の咲良さくらはキラキラした目で、ハンバーグを食べている。

 あれから、腕によりをかけてハンバーグを作った。

 そして、パートから帰ってきた母さんや、部活帰りの咲良も交えて、夕飯を囲む。


「愛奏ちゃん。遠慮せず、いっぱい食べてね」


 母さんがニコニコして言う。


「それは、俺のセリフだろ」


 俺は苦笑する。


「優真君。お弁当も美味しかったけど、本当に料理が上手だね!」


「うんうん。オタクのお兄ぃの唯一の取り柄だね」


「咲良、お前はもうちょい、俺を敬えよ」


 コイツはお客さんがいても平常運転らしい。

 まぁ、愛奏がニッコニコのキラキラで食べてくれているので許すが。


 彼女の落ち込んだ雰囲気は払しょくされている。

 良かった。俺の料理スキルも捨てたもんじゃないな。


「それにしても、優真が女の子と仲いいのは話に聞いてたけど、こんな可愛い子だったなんてねぇ」


 母さんがしみじみと言う。


「そんな。私なんて。もっと可愛い子がいますよ~」


 ちょっと照れてる。可愛い。


「お兄ぃ、どうやって仲良くなったの?」


「そりゃあ、特撮の話で盛り上がって、それから夏休みに色々あった感じ?」


「え!? 愛奏さん、お兄ぃの趣味わかるの?」


 咲良が驚いたように言う。


「うん。分かるよ。だって私も好きなの」


「優真、あんた絶対大切にしなさい。あんたの趣味を理解してくれる子なんて、滅多にいないんだから」


「もちろん、わかってるよ」


「愛奏ちゃん。ウチの息子はこう見えて、ヘタレで内気だから、ダメなところはダメって言ってあげてね」


「はい。でも私も結構ダメダメなんで、優真君にいつも助けられてるんですよ?」


「女の子を助けるお兄ぃなんて信じられない」


「あんた、大きくなったわねぇ」


 咲良と母さんが言いたい放題言ってる。


「ハンバーグが冷めるから。ほら、食べるのに集中してくれ」


 俺は気恥ずかしくて、話題を逸らした。


「照れてる。お兄ぃキモい」


「あら~、本当にこの子はもう」


「ふふふ。優真君、可愛い」


 口々に指摘してくる。

 どうやら俺に味方はいないらしい。


「ねぇ、愛奏さん。お兄ぃのどこが好きなの?」


「んぐっ!? おい、咲良! 何聞いてんだ!」


 俺は喉を詰めそうになった。


「え? ダメ? お兄ぃの彼女なんだよね?」


「そりゃ、まぁ、そうだけど」


「あら~。それはお母さんも気になるわ~」


「お、親の前でそんな話できないだろ。ゴメン愛奏」


 俺は彼女に謝った。

 まったく、ウチの家族はどうも喧しい。


「え~? 私言えるよ。優真君の好きな所」


「いっ!?」


 母さんと咲良はパァっと期待するような顔をした。


「では、愛奏さん。どうぞ。言ってください」


 咲良が促す。


「えーっとね。まずは……」


「わーっ! わーっ! 聞きたいけど、今はダメぇ!!!」


 俺は思い切り声を出して、阻止する。

 そんな感じの賑やかな食卓だった。


 なお、きっちり好きなところ十個くらい言われて、めちゃくちゃ嬉しかったけど、恥ずかしかった……。



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一方、娘が優真君の家でご飯食べてる事を知った誠司さんおとうさんは、一人静かにリビングで酒を煽った。


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