第42話 文化祭で愛をこめて③/バカップル
愛奏と恋人になって数日後。
俺達は特に変わらなかった。
しいていえば、スキンシップが多くなっただろうか。
「いやいやいや。イチャついてる時間が多くなってるぞ、バカップルめ!」
幸治が思いっきりツッコんだ。
時刻は朝礼前。
彼女が出来ても、友情を大切にしたい俺は、幸治や竜一と取り留めもない話をしていた。
「そうかなぁ。せいぜい手を繋いだり、俺にもたれ掛かってきたりするくらいだよ」
赤島に見せつけるという意図があるため、俺達が付き合うことになった話は、お馴染みのメンバーに伝えている。
たぶん、クラスのみんなも察してくれていると思う。
「それで充分だってーの。朝から腕組んで道歩いてて、学校に着いたら手ぇ繋いで教室に入りやがって。コノヤロー」
幸治は嫉妬の炎を燃やしていた。
「はははは。羨ましかろう」
「ダメだ。完全に浮かれてやがる。こっちは気になる事があって、心配してるってのに。人の気も知らないでよー」
「気になる事?」
「いやな。ここ最近、お前の事を訊いてくる奴がいるんだよ」
「俺の事? なにそれ?」
はて? どういう事だ。
俺が訝しむと、竜一が頷いた。
「昨日もそうだった。放課後に他のクラスとタクガンをやっていたのだが」
タクガン、それは「タクティカル・ガンナーズ」と呼ばれるスマホで出来るFPSゲームだ。
マルチプレイ出来て、チームを組んで遊べる。
幸治や竜一はウチのクラスや、他のクラスの友達とよくプレイしている。
「そこで、俺の事を訊いてきたってこと?」
「そうだ。お前とは付き合い長いのかとか、優真はどんな奴なんだとか」
うーむ。それは不思議だ。
いや、まて。劇的にイメチェンしたうえに、彼女までできた。
それで気になってるんじゃないだろうか。
俺は思い当たったことを言ってみる。
「俺ってイメチェンで結構目立ったし、彼女も出来たし。だから気になったんじゃないの? それで直接本人に聞けないから、幸治や竜一に訊いてきたとか?」
「そういう事かぁ? でも探り入れてるような感じがするんだよなぁ」
幸治は確信が得られないからか、もどかしい顔で首をかしげる。
竜一が心配するような顔で言った。
「考えすぎなら良いが。気を付けた方がいい。ただでさえ赤島から目を付けられている」
「うん。ありがとう。気を付けるよ」
赤島のヤバさは愛奏から聞いている。
幸いというか、なんというか、あのファミレスの一件以来また学校に来なくなったようだ。
君子危うきに近寄らず。学校で遭遇しないなら、なお良い。
まぁどこにでも現れるから、油断は禁物だけど。
「はい、皆さんおはようございます」
本郷先生が入ってきて、チャイムが鳴った。
今日も一日が始まる。
■□■□
さて文化祭が近いので、授業の合間にグループ活動をする。
本郷先生からの通達で、来週いっぱいで展示する制作物を完成しないといけない。
「じゃあ、グループRINEで報告した進捗状況以外で、何か連絡とかある?」
俺達「チーム優真」はここ暫く恒例となった、ランチミーティングを始める。
真田さんが手を上げる。
「原稿が出そろってるし、そろそろパネルに配置して展示物を作りましょう」
「さんせーい。アタシ達の班って、他のチームと違って進み具合がぶっちぎりで早いんだって。だったらこのまま、バーッと進めて完成一番乗りしよーよ」
風見さんがやる気に満ちた意見を言う。
「風見、急ぎ過ぎても良くない。周りを気にせず俺達のペースでいこう」
竜一が風見さんのやる気にブレーキをかける。
うん、その通りだ。
速い者競争じゃないんだ。慌てて作る必要がない。
すると、風見さんは竜一から顔を逸らした。
「つーん。フジモンの意見なんか聞きませーん。つーん」
「雫玖、いい加減、機嫌直しなよ。藤門君は雫玖のために手伝ってくれたんだよ?」
愛奏は困った子を諭すように言う。
風見さんはこの間の課題を片付ける際、竜一のスパルタ式勉強法で、酷い目に遭ったらしい。
それ以来、竜一に対してちょっと当たりが強い。
「いーだっ。フジモンのせいで、危うく勉強大好き人間になりかけたんだから。アタシはこの人生を面白おかしく生きるって決めてるの! 勉強なんてしませーん」
「はぁ。藤門君。ごめんなさい。雫玖って一度へそ曲げるとちょっと長いから」
真田さんがやれやれといった風に、彼女の代わりに謝った。
「大丈夫だ。気にしていない。それに、風見とは話を着けている」
「ん? どういうこと、竜一?」
俺は彼を見た。
「文化祭で出る模擬店の食べ物を奢ることで、手打ちにしてある。だからそれまでは塩対応すると言われた」
「あんた、何も悪くない藤門君にそんな事を約束させたの?」
真田さんが軽蔑のまなざしを向ける。
「別にぃ。アタシとフジモンの勝手でしょー。フジモンはOKしてくれたもーん」
「そうだ。真田。ケンカできるような友達がいるだけで俺は嬉しい」
なんか、竜一がものすごい悲しい事言った気がするが、まぁ本人同士が良いなら、深くは追及すまい。
「それじゃ話を戻すよ。急いで完成させることはしないけど、一度原稿を配置してみるのは賛成だ。今日、動ける人は?」
俺が問いかけると、愛奏、幸治、真田さんの手が上がった。
「じゃあ、今日の放課後にデザインお願いできるかな?」
「わーった。パソコン室借りて、データ上で作ってみる」
幸治が了承した。
彼もパソコン関係は得意だから、安心して任せられる。
「それじゃ、私たちはそのサポートね」
「よろしくね、八条君」
うんうん。こうやってバラバラで動いても、ちゃんと仕事が回るようになってきた。
良いプロジェクトチームと言えるだろう。
愛奏はニコニコとお弁当を取り出す。
「さてと、話はまとまったし。食事に集中だね!」
「愛奏、なんかやたら嬉しそうだね」
風見さんが指摘する。
「だってぇ。今日は優真君のお弁当なんだもん。せっかく愛情込めて作ってくれたんだから、舌先に全身全霊をかけて味わいたいの」
なんて俺の彼女は可愛いんだ。
早起きして、愛情込めて作った甲斐があるというものだ。
「愛奏。そのお弁当は君が笑顔になって、初めて完成するんだ。しっかり味わってね!」
「優真君♥ ありがとう♥」
俺達は見つめ合う。
ああ、今日も愛奏が幸せそうでなによりだ。
「買ってきたパン、菓子パンにしなきゃ良かったわ。空気が甘すぎる」
「ねぇ、バカップルって法律で規制できないの? 腹立つんだけど」
「学校にお願いして、校則で禁止にしてやろうか、この野郎」
「二人とも幸せそうで、なによりだ」
周りがうるさいが、今は愛奏と幸せを実感するのに忙しいので無視する。
こうして、俺達は楽しいお昼休みを過ごした。
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バカップル書くの超楽しい。
読んでいただき、ありがとうございます。
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