第39話 文化祭で急接近!⑰/俺の全部をかけて必ず君を幸せにする
「いや、それで解決しないでしょ」
俺は突然の申し出に困惑する。
「だってレオンって他人の恋人を寝取る事だけはしなかったの」
「寝取る事だけはしなかった?」
「なんか、寝取るのはコスパ悪いってさ。フリーの頭お花畑のバカ女を落とすのが楽とかなんとか」
最低すぎる理由だ。
でも愛奏の意図が分かった。
「つまり、俺と付き合って、興味を逸らす狙いだな」
「そう! アイツの前でイチャイチャしてやれば、諦めると思う」
「本当にそうだろうか?」
「色々やってみようよ。直接、レオンに手を出すわけじゃないし、なによりそれが過去を大きく変えることにならない?」
うーん。なるほど。一理ある。
一周目と違う行動を起こせば、結果は変わるだろう。
しかし、直接手を出さないとはいえ、奴を挑発する行為でもある。
慎重になるべきか……?
悩む俺の様子を見て、愛奏が泣きそうな顔をした。
「ひょっとして、私の事嫌いになった?」
「いやいや、なんでさ?」
「だって今の私は処女だけど、心は一周目の私だから、汚れまくってるよ? いっぱい色んな男とした経験があるし、清純だった頃の私は死んでるもの。優真君だって穢れのない綺麗な女の子の方が良いよね……」
ずーんと気落ちしてしまった。
これはダメだ。何とかしないと。
とはいえ、生半可な言葉じゃ愛奏に通じないだろう。
だったら付き合う、付き合わないは別として、好意をちゃんと伝えよう。
そうじゃなきゃ、色々と始まらない。
俺は深呼吸して、意を決した。
「そんなことあるかよ。大切なのは今の君だよ。俺は君が好きだ。ずっとずっと前から」
言った。言ってやったぞ。
「ウソよ。気を使わなくても良いよ。私はぐちゃぐちゃのドロドロの汚い女です……」
おっとぉ。だめだ、通じてない。
これは予想外だった。
いや、さもありなん。
想像できないくらい、彼女は傷ついているのだ。
どうしよう。
考えろ。何かあるはずだ。
愛奏の心に届く、俺だけのやり方が。
その時、ふと思い出した言葉があった。
『深影君の声低くて良く通るから、歌声で聴くと耳が幸せだね』
それだ! いつぞやのカラオケの時に愛奏が言った言葉。
彼女曰く、俺の声は良く通るらしい。
だったら、その声で言えば伝わるんじゃないか。
俺はもう一度、決意して、深呼吸して、覚悟を決めた。
愛奏に、伝えるんだ。俺の気持ちを。
まずは、強く抱きしめてから、耳元に顔を近づけてぇ……。
「そんなわけあるかよ。俺は愛奏が好きだ(イケボ)」
カラオケの時みたいな声で、直接耳に囁いた。
するとどうだろう。
愛奏が急に小刻みにビクビク跳ねた。
だ、大丈夫だろうか。
また失敗したか?
「も、もっかい言って……」
どうやら、お気に召したらしい。
いいぞ、それで立ち直るなら、何度でも言ってやる。
「薄っぺらく聞こえるかもだけど、俺は君のために二周目を生きるって決めたんだ(イケボ)。だから愛奏、元気出してくれ。大好きだ(超イケボ)」
「んあ゛ぁっ!」
愛奏が変な声出して、ビクビクと大きく跳ねた。
「だ、大丈夫!?」
俺は慌てて彼女の顔を見た。
「だ、だいじょうぶ。ちょっと、しげきがつよかっちゃだけりゃから」
ろれつが回ってない。
だが、顔が超トロットロに蕩けている。
息もちょっと荒い。
本当に大丈夫だろうか。
わりと見せちゃいけない顔をしている気がする。
「えーっと? 一回、離れた方が良い?」
「だいじょーぶ。もうちょいこのまま」
まぁ彼女が幸せそうにしているので良いか。
俺はそのまま愛奏が、再起動するのを待った。
■□■□
三分くらい経って。
一旦、離れた俺達はお互いに向き合った。
「ごほん。それで、私の案はどうかな?」
愛奏は咳払いを一つして、訊いてきた。
「念のため確認だけど、本当に俺で良いの?」
「うん。私も優真君の事が好きだから。本当はもう少しだけ友達以上、恋人未満くらいの関係を続けたいけどね」
彼女は残念そうな表情だ。
「でも未来の事を思い出したら、私一人じゃどうにもならないって思った。優真君、巻き込んでごめんね」
「そんな事ないよ。好きになってくれてありがとう」
俺は、心から嬉しかった。
両思いだったのだから。
「はぁ。でもレオンから逃げるために、付き合うって、やっぱり悲しなぁ。もっと、お互いの気持ち知って、それから素敵な告白したかったなぁ」
愛奏が心情を吐露する。
なるほど、確かにそういう感じになってるな。
ならば今、ありったけの思いで三回目の告白をしよう。
何度だって、彼女に気持ちを伝えるんだ。
「愛奏、さっき耳元で色々と言ったけど、改めて聞いてほしい」
「え? また囁くの!?」
なぜか、彼女は耳をふさいで驚いた。
「ちがう、ちがう。普通に言うから」
「そ、そう。それなら、まぁうん。どうぞ」
なんか微妙に残念そうだが、今は気にしない。
愛奏の了承を得た俺は、居住まいを正して告げた。
「確かにお互いまだ知らない事があるから、この先、俺に幻滅したり、失望させることがあるかもしれない。それでも俺は君のために、二周目の人生を生きるって決めてるから。俺の全部をかけて必ず君を幸せにする。だから俺と付き合ってください」
赤島に対抗するために、付き合うんじゃない。
恋人になりたいから付き合うんだ。
だから俺はなし崩しじゃなく、正式に告白した。
果たして返事は。
「ふふふ。告白っていうより、プロポーズみたいだね。うん。ありがとう。ちゃんと貴方の気持ち受け取ったよ」
愛奏は嬉しそうで、なんだか泣きそうで、そんな顔をして笑った。
そして、真面目な顔をして言う。
「じゃあ私からもお返しの返事ね」
彼女は姿勢を正した。
「私はバカで、重くて、めんどくさい女だけど、それでもこの人生は優真君と幸せになりたいって思ってるの。これから迷惑かけるかもだけど、必ずあなたに尽くすから、私の恋人になってください」
渾身の告白をされた。
ああ、彼女の言葉が心に沁みわたる。
俺もちょっと泣きそうになったが、堪える。
今は絶対に笑顔でいたい。
お互いに見つめ合って笑う。
「よし。これで大丈夫だ。これからよろしく。愛奏」
「そうだね。これから”も”よろしくね。優真君」
こうして、俺達は晴れて恋人となった。
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というわけで、問題は山積みですが、晴れて恋人関係です。
キリがいいので、今日はここまで。
告白までたどり着くのに39話+幕間で40話かかりましたが、これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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