第38話 文化祭で急接近!⑯/みんな破滅した

「最初から話すね。私はバカな女の子だったの」


 愛奏は、そう話を切り出した。


「レオンと小学校の頃に知り合って、あいつと仲がだんだん良くなって」


 彼女は遠い目をしながら語る。


「同じ高校に通うことを知った時は、ちょっと嬉しかったっけ」


 俺はズキリと胸が痛くなった。

 そりゃそうだ。

 考えてみれば、この話は愛奏と赤島の物語だ。


 誰だって聞きたくない。

 でも、俺は必要な事だと言い聞かせて、気合を入れて耳を傾ける。


「高校一年生の時には色々なことをしたっけ。暑い日にカラオケ行ったし、夏祭りにも行ったし、レオンとバーで遊ぶこともあったな」


 一周目の夏の思い出が語られる。


「お昼休憩にはお弁当一緒に食べて、文化祭や体育祭も一緒だった。テスト期間に勉強サボって遊んだりもした。でもそれは全部、私を嵌めるための手口だった」


 愛奏が俺の腕をぎゅっと握る。


「レオンは私に対して信頼を得るために、優しい彼を演じていたの」


「優しい彼を演じていた?」


 俺は背筋が凍った。

 一人の女の子を手に入れるために、自分の本性を隠して演技するのだ。

 まともな人間ではない。


「レオンはキレて怖い事もあったけど、それは他の人に向けられていて、私には向かなかった。むしろ、そんな態度になることを後悔しているって相談を受けるくらいだった。要するに弱みを見せる演技して、私だけが本当の彼を知っているって思わせたの」


 俺は絶句した。

 自分の本性すら計算に入れて、彼女を少しずつほだしていったんだ。

 愛奏はさらに続ける。


「レオンはコツコツ仕込んで、高校一年のクリスマスの時に告白してきた。私はレオンが好きになってたし、クリスマスという状況もあって、告白を受け入れたの」


「ちょっと待った。恋人同士になったのって、高二の夏じゃなかったの?」


 彼女は高二の夏休みに染められて、ギャルになったはずだ。

 俺の認識とズレがある。


「うん。レオンが『みんなに言うのは恥ずかしいから』って黙ってた。今思えば、他に落とそうとした女の子がいて、都合が悪かったんだと思う」


「つまり、赤島は二股してたってこと?」


「二股どころか、当時は私含めて四人くらいは、いたんじゃないかな?」


「よ、四人!?」


 俺は呆れた声を出した。

 どういう思考回路だ。エロ漫画かよ。


「まぁそんなわけで、こっそり付き合うことになって。それからレオンは少しずつ、私にも怖い所を見せ始めたの」


 愛奏は震えていた。

 俺は優しく抱きしめる。


「大丈夫? 無理なら良いよ」


「大丈夫。ありがとう。……レオンが恐ろしいのは、キレた後は決まって優しかったの。泣いて謝ってくることもあった。そのうち私は、しょうがない。かわいそう。私だけは分かってるって思うようになった。バカだよねぇ」


 力なく愛奏は笑う。

 バカになんてできない。


 いったいなんだ、赤島ってヤツは。

 やってることは洗脳だ。

 高校生が出来るような事じゃない。


「でも、まだマシだった。そこからがレオンの目的だった」


 そこで、愛奏は一拍置いた。

 辛そうだが、話を再開する。


「高校二年の丁度、ゴールデンウイークだった。私は雫玖に呼び出されて、向かった先で男達に捕まって、車で連れていかれたの」


 壮絶な話だが、なぜ風見さんが出てくる?


「風見さんに呼び出された……?」


「雫玖は松葉君とレオン達の言いなりになってたの。なにせ、最初に襲われて飼われてたのって雫玖だったから」


 再びの絶句。

 風見さんが最初だった?

 というか、風見さんも餌食になっていたとは。


「連れていかれた先で、私はレオンや他の複数の男に襲われた。ごめん、ここは話したくない」


「いいよ。話さなくて。これから起こるかもしれない状況を確認したいだけだから、ダイジェストでいい」


 俺は今、彼女に対して酷い事をしている実感があった。

 最低の男として嫌われるだろう。

 それでも、何が起こったのか、何が起こるのか、知らなければ対処できない。


 赤島は普通ではない。異常だ。

 一手間違えれば、それで終わる可能性もある。


「ねぇ。ぎゅーってして」


 愛奏が求めてくる。


「うん。はぎゅー」


 俺は愛奏の震えが止まるように抱きしめた。


「優真君って良い匂いするね」


「そう? 汗臭くないか、ちょっと心配なんだけど」


「大丈夫、臭くない。むしろこの匂いで五回はイケる」


「そ、そう」


 どこにイクのか、深く聞かない事にした。


「話しを戻すね。……レオンの目的は私を手に入れて、男たちのエサにすることだったの」


「エサって……」


「うん。レオンは人を集めて色々とあくどい事をしてた。その報酬として女性をあてがうの。私や雫玖はそのエサだった」


 三度みたびの絶句。

 女性を物として扱うのも酷いが、それに群がる男共に腹が立った。


「酷いでしょ? でももっと酷いのは、その扱い。私はレオンの一番で、雫玖は松葉君の一番としてランク付けされて、他の女性とは扱いが違った」


「ランク付け……?」


 もう理解が追い付かない。


「例えば、男達に酷い事されてる女性が傍にいても、私たちは特別扱いでお姫様のよう扱って、自分はアレよりマシって思わせるの。そうやって少しずつ認識や価値観を植え付けて、従順な奴隷に仕立てるの。酷い事されている女の子も報酬が出るから、何もなくタダで犯される私達よりマシって思わせてた」


「ごめん。一回休憩入れて良い?」


 俺は耐えきれず、ギブアップした。

 ダメだ。筆舌に尽くしがたい所業が行われている。


 愛奏もだんだん目が死んでいっている。

 これ以上は、俺と愛奏の心が死ぬ。


「俺、認識が甘かった。そんな酷い事が行われていたのに、何も知らなかった」


 今日は愛奏と話せてラッキーなんて思ってた一周目の俺を殴りたい。

 気づけよ。俺!

 絶対に何か兆候があっただろうに。


「知らなくて当たり前。自分を責めないでね。むしろ、あの時の優真君が私の癒しだったもん」


「そっか。少なくとも愛奏にとっては役に立ってたんだね」


 それでも、情けない話だが。


「まぁ後はお察しの通り、奴隷になった私と雫玖は飽るまで弄ばれて、ポイ捨てされたの。その後の私は男をとっかえひっかえして、ホストにハマって、風俗で壊れて、最期は自殺しちゃった」


 彼女は乾いた声で淡々と告げる。

 俺は深呼吸して、込み上げてくる悲しみと吐き気を静め、気になる事を質問した。


「そういえば、真田さんは? 彼女は無事だったの?」


「瑠姫も狙われたんだけど、私と雫玖が代わりになって、阻止したの」


「そうだったんだ」


 友達を守るためとはいえ、悲しい話だ。


「ああ、でも高校卒業して五年くらい後に、レオンが一枚かんでるホストクラブの金づるになって、風俗嬢として海外の出稼ぎ先で行方不明になっちゃった」


「そう……」


 俺はもう、どういう感情で聞けばいいのか分からなくなった。


「ちなみに、風見さんはどうなったの?」


「雫玖は卒業後はしばらく、松葉君に飼われてたんだけど。ポイ捨てされたあと、松葉君とその時の一番の子を刺し殺して捕まっちゃった」


「…………」


 聞いて後悔した。

 三人とも赤島に破滅させられてるじゃないか。


「どう? 参考になった?」


「うん。赤島と関わると破滅するってわかった」


 俺は愛奏の話を聞いて一つの結論に至った。


「赤島は危険だ。下手に突けば、こちらが破滅する。手を出さない方が良い」


「そうだね。改めて思い返したけど、レオンって同じ人間とは思えない」


 ドス黒く、底なし沼のような男だ。

 今現在も誰かを破滅させるために行動していると思うと、寒気と震えが止まらない。


「愛奏は赤島をどうしたい?」


 俺は彼女の意思を確認する。


「私は、もうアイツにかかわりたくない。顔も見たくない。でも私は今でもレオンの奴隷なの。一周目の記憶があるから、アイツに命令されたら逆らえない。RINEだってそう。ブロックしたらどんな事になるか分からないから、怖くてできないの」


 愛奏は俯いていう。

 これだけ酷い事されても、二周目で遊んだりしたのはそういう理由か。


「けどね。最近、優真君と一緒にいたら、アイツと話しても平気なんだ。怖くないし、心に余裕があるの」


 そうか。ならば、俺は彼女を全力で守る。


「わかった。アイツはこれからも愛奏を狙ってくるかもしれない。なるべく傍にいる。酷いようなら親とか先生に相談しよう」


「うーんそれじゃ、ちょっと弱いかも」


「でもどうするの? ヤツには関わらない方が良い」


「そうだなぁ……。あ、良い事思いついた!」


 愛奏はピンときたのか、手を叩いた。

 そして次に言った言葉は、とんでもなかった。


「ねぇ。優真君。私と付き合って、恋人になってよ」




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暗い話はここまで。

次回、文化祭で急接近!⑰/俺の全部をかけて必ず君を幸せにする

ご期待ください。


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