第37話 文化祭で急接近!⑮/カミングアウト2

「え? タイムリープ?」


 へぇ。タイムリープね。

 タイムリープ。

 タイムリープ……。


「タイムリープ!?」


 俺は思いっきり驚いた。


「信じてくれる? 私が未来の記憶があるって」


 愛奏はもじもじして、目をそらす。


「信じるって、え? 未来の記憶があるの?」


 愛奏は無言で頷いた。

 俺はもう衝撃的すぎて、何が何だかわからない。


 マジかよ。ガチかよ。

 昨日、文助が言っていた「未来を知る者」って、愛奏のことだったのか。


 俺は衝撃がデカすぎて、言葉を失ってしまった。

 その俺の態度をどう取ったのか。


「ごめんね。信じられないよね。やっぱり忘れて!」


 そう言って愛奏は悲しそうな顔で、駆け出そうとした。


「待った! 俺もタイムリーパーなんだ!!!」


 俺は咄嗟に彼女の腕を掴んで、呼び止めた。

 その言葉を理解するのに時間がかかったのか、彼女は少しの間フリーズした。

 そしてゆっくりと俺の顔をみる。


「タイムリープ? ウソだよね……?」


 俺は彼女の腕から手を離すと言った。


「ホントだよ。俺も未来からタイムリープしてきたんだ」


 俺からのカミングアウトに、愛奏は驚愕の表情を見せた。


「じゃあ、優真君も死んじゃったの?」


 なるほど。おそらく愛奏は死んだ後に、タイムリープしてきたな。


「その前に確認するけど、愛奏はいつの時代の記憶があるの?」


「今から十年後くらいまで。私、十年後に死ぬから、そこまでの記憶しかないの」


 彼女の口から重たい言葉が放たれる。


「そうか。なら俺はその一年後だ。君が自殺したって幸治から聞いて、そのショックで帰り道に、駅の階段から落ちて、気付いたらタイムリープしてた」


 訪れる沈黙。

 愛奏が目を伏せて言う。


「そっか。私が自殺したこと、みんな知ってるんだ」


「君の日記を君の家族が、知り合いに公開したそうだ。赤島の行方を探すために。俺は、その、一周目は友達がいなかったから、それを読んだ幸治から遅れて聞いて。日記は読んでない」


「そう。お父さんとお母さんが……」


 愛奏は俯いて、肩を震わせた。


「……ひっく。うぇ、ううう…………」


 こらえるように、静かに泣く。

 俺は堪らず彼女を抱き寄せた。

 通学路の途中だったが、気にするものか。


「ごめん。死んじゃって、ごめんなさい。おとうさん、おかあさん」


 か細い声で愛奏は泣く。

 俺は後悔した。


 気が動転して、配慮が足らなかった。

 急に未来の事を思い出させてしまったのだろう。

 彼女は俺の腕の中で泣き続けた。


 ■□■□


 しばらく泣いて、ようやく落ち着いたのか、愛奏は俺から離れた。


「ごめんね。泣いちゃって」


 少し恥ずかしそうに彼女は言った。


「いや、こちらこそゴメン。配慮が足らなかった」


「ううん。いいよ。結果的に死んだから、今があるんだし」


 愛奏は苦笑する。

 なるほど。そう捉えることもできるか。


「それにしても、そっか。優真君もタイムリープしてたんだ」


「俺も驚いたよ。まかさ愛奏がタイムリープしてたなんて」


 この奇跡をどう表現すれば良いんだろうか。

 色々と話したいことがある。

 確認したい事もある。


 とはいえ、もう夜だ。

 今は時間がない。


「愛奏、今日のところは帰ろう。で、明日改めて話そう。色々と聞きたいことや確認したい事があるんだ」


「うん。私も同じだよ。話したい事がいっぱいある。でも、学校で話せるかなぁ?」


 うーん。確かに。

 文化祭の件は、班のみんなにお願いするとして。


 タイムリープなんて荒唐無稽な話を、人目がある場所でするのははばかられるな。

 カラオケの個室で話すか?


 いや、でもなぁ。お金かかるしイマイチだ。

 となると、誰もらず、二人きりで話せる場所は一つしかない。


「愛奏。君が良ければ、明日は俺の家に来ないか?」


「え!? 優真君のお家!?」


「うん。明日は母さんはパートでしばらく帰ってこないし、妹の咲良は最近部活を始めて、こちらも帰ってこない。だから家には誰もいないんだ」


 そう、あの無気力系ぽやぽや妹が、部活を始めたのだ。

 咲良いわく「お兄ぃを見ていたら、やる気が出た」らしい。


「そっか、家に誰もいないんだ……」


「あ! いや、別にカラオケの個室とかでも良いよ。うん」


 そりゃ警戒するよな。

 家に招くのは悪手だった。


「カラオケはお金かかるし、優真君が良いなら、お家に行きたいな」


 まさかの承諾である。

 これは喜ぶべきだろうか?


「お、おう。良いよ。うん、良いよ」


 俺は激しく頷いた。

 すると、愛奏はじーっと見てくる。


「おさわりくらいならOKだからね」


「ぶっ! やらない! やらないよ!!」


 なんてこと言うんだ、愛奏。


「あはははは。照れてるぅ。可愛いー」


「からかうの禁止!!」


 思い切り揶揄われてしまった。

 でも、いつもの調子が戻ったようだ。

 俺は内心ほっとした。


「それじゃあ、遅くなるし、急いで帰ろう。今日は家の近くまで送るよ」


「そうやって、私の家を特定するつもりだね。策士だなぁ」


「ははは。こやつめ」


 もう、どうにでもなーれ。

 とにかく俺達は家路についた。


 もちろん有言実行で、愛奏の家の前まで行って、別れた。

 意外と、光珠の駅から近かった。


 ■□■□


 そして、翌日の放課後。

 俺と愛奏は早々に学校を出た。


 出る間際に、幸治たち班メンバーから優しい目で見られた。

 ちょっと恥ずかしい。

 

 なおその後、風見さんは、引き続き竜一と課題をやるため連行されていった。

 今回は真田さんも協力するらしく、二人に引きずられていく風見さんは、ドナドナされる子牛に見えた。

 俺達はそれを生暖かい目で見送った。


 そんなこんなで学校を出て、帰り道のコンビニでスイーツを買い、俺の家に着いた。


「どうぞ、ようこそ深影家へ」


「おじゃましまーす」


 親や妹がいない間に女の子を連れ込む。

 俺達には必要な事なのだが、どうも悪い事をしている気分になるな。


 まぁ一応、昨日の夜に母さんと咲良には、家で勉強するからと伝えている。

 きゃーきゃー、ぎゃーぎゃーと二人で盛り上がって大変だったが、まぁそれは割愛だ。


「それじゃ、ちょっと待っててよ。飲み物持ってくるから」


 俺は愛奏を自室に案内して、待っててもらう。


「あ、おかまいなく」


 彼女には俺の勉強机の椅子に座ってもらった。

 さっさとお茶を用意して、部屋に戻る。


「おまたせー」


「おかえりー」


 愛奏はニコニコと声をかけてくれた。

 部屋に戻ると妹以外の女の子がいる光景は、なかなかクるものがあるな。


 いかん。邪念は無し。邪念は無し。

 俺は邪な心を追い払うと、ベッドを背にして床に座り、スイーツを取り出した。


「とりあえず、スイーツ食べよっか」


「うん。プリンたのしみー」


 ということで、しばらくコンビニスイーツに舌鼓。


「そういえば、優真君の部屋ってオタクの部屋だね」


 愛奏が興味深そうに見回す。

 俺の部屋はプラモ・フィギュア・カード・マンガ・ゲームが置いてある。

 Theオタ部屋だからな。


「まぁオタクだからねぇ。これでも筋トレグッズとか置くために、ちょっと片づけたんだよ」


「へぇ。筋トレもしてるんだ。腹筋は割れてる?」


「この夏から始めたから、まだまだかな」


「割れたら見せてね」


「そ、それは、まぁ、はい」


「照れてるぅ。やっぱ可愛いー」


 どうも彼女の方が上手うわてだ。

 さて、スイーツを食べ終わったので、本題に入ろう。


「それで、まずは愛奏に何が起こったのか。無理しない範囲で聞きたいんだけど、良いかな?」


 俺は切り出す。

 正直、トラウマを掘り返すことになるので、避けるべきだろう。


 けれど、俺は幸治からしか彼女の経緯を聞いていない。

 今後のため、正確な情報を得る事は必要だと思ったのだ。


「うん。正直、しんどいけど、優真君には知って欲しいかな?」


 そういう愛奏は本当に辛そうだった。

 やっぱやめておこう。


「いや、どうも辛そうだし、やめておこう。ゴメン」


「ううん。話す。だから優真君。ちょっと、こう、体育座りして足開いて」


「へ? 足?」


 俺は言われるまま体育座りして、そのまま足を開く。


「よーし。動かないでね。とうっ!」


 愛奏は掛け声とともに椅子から立って、ぽすっと俺の足の間に体を入れて座り、もたれ掛かった。

 つまり俺は今、愛奏の椅子になっている。


「あ、愛奏!?」


「えへへへ。これで優真君が抱きしめてくれたら、だいじょーぶ」


 至近距離で愛奏の顔を見られて、俺の理性が大丈夫じゃない。

 でも、これは必要な事だ。そう、絶対に!


 俺は勇気を出して、そのまま愛奏を背中から抱きしめた。

 心臓がバクバクいってる。


「こ、ここ、これでいい?」


「うん。ありがとう」


 ああ、甘い匂いがする。

 俺、これ集中できるかな?

 そう思っていたら、愛奏が口を開いた。




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次回、ちょっと重たい話です。

ご了承ください。


読んでいただき、ありがとうございます。

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