第36話 文化祭で急接近!⑭/カミングアウト

 光珠神社に行った翌日の放課後。

 今日は課題をやるため、文化祭のグループ活動はない。


 でも幸治は、神社周辺にいる動物を調べてくると告げて、早々に帰った。

 課題は家に帰ってからやるそうだ。


 また、真田さんは一人で課題をやると言って、こちらも帰った。

 竜一と風見さんは、何やら真剣に話している。

 ちょっと気になったが、俺は約束通り愛奏と課題をやるために声をかけた。


「おーい愛奏。一緒に課題しよう。どこでする?」


「じゃあ教室でしようよ。図書室だと喋れないし」


 ふむ。確かに。

 俺は同意する。


「オッケー。それじゃ教室掃除を手伝って、さっさと始めよう」


 ちなみに我がクラスでは、掃除当番以外が掃除を手伝うのは問題ない。

 むしろ、自主的に協力することを大いに推奨している。

 お互い協力すれば効率良いので、誰も彼も協力的だったりする。


「愛奏、助けて! フジモンが怖い事いうよ~!」


 掃除を手伝っていると、風見さんが涙目で助けを求めてきた。

 彼女はひしっと愛奏に抱きつく。

 なんだ、なんだ、いったい。


「竜一。どうしたの?」


「風見の課題を手伝うことになってるんだ。でも部活に行くと言って逃げようしたから、このままではダメになると理詰めで説得したところだ」


「そ、そう」


 あの強面で理詰めされたら、誰だって泣きそうになるだろう。


「それは雫玖が悪いね。今日一日で終わらせて、明日から部活行けばいいじゃない」


 愛奏は彼女を慰めるように抱きしめているが、顔は呆れた表情だった。


「夏の課題もあるから、倍だよ! 終わるわけないじゃん!! 文化祭が近いから練習もしないといけないのに!!!」


「大丈夫だ、風見! 終わらないなら、明日も明後日も付き合ってやる。友達が頼ってくれたんだ! 俺はやるぞ。必ず風見の課題を終わらせてみせるっ!!」


「うわあああん。フジモン、変なスイッチ入ってるぅ」


 ああ、そういや竜一って友達いなかったから、そういうイベントがあると変に燃えるんだよな。

 この間の清道流の体験会も、道着で迎えに来たからな。


「さぁ、近衛。風見をこちらに引き渡してくれ」


「え、ええと。はい。どうぞ」


「ばああああ、親友に裏切られたぁ!」


 がっしりと竜一に捕まえられて、風見さんは引きずられていく。


「ここだと気が散るだろう。本郷先生に言って特別に教室を用意してもらったぞ。頑張ろう。俺も頑張る」


「いやだああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 ドップラー効果で遠ざかっていく悲鳴を聞きつつ、俺は愛奏に向き直った。


「掃除の続きしようか」


「うん。頑張ろうね」


 俺達は気を取り直して、掃除を手伝った。


 ■□■□


 そんなわけで、暫く。

 掃除が終わり、二人だけになった教室で、課題に取り掛かる。

 課題は数学と社会と国語と保健体育。


 社会と保健体育は教科書の内容を確認しつつ、テスト形式のアンケートフォームで課題に答えるものだ。

 二人で教科書を確認しつつ、それぞれフォームに回答した。

 まずは二つクリア。


 国語の課題は、欠席した授業の内容をまとめたレジュメを読んで、小テスト形式のプリントをやる。さらにクロスワードパズルの課題が出ている。


「へぇ。『秋』をテーマにしたクロスワードだってさ」


「本郷先生って偶に面白い課題を出すよね」


 俺達は、プリント問題をさっさと解いて、クロスワードパズルに取り掛かる。

 その最中、愛奏が声をかけてきた。


「ねぇ。優真君、昨日お父さんに私のこと何か話した?」


 俺はビクリと心臓が跳ねた。


「え、なんで?」


 ちょっと声が震えたかもしれない。

 誠司さん、それとなくって言ったじゃん!


「だって、お父さんが『今日、ちょっと元気なさそうだけど、何かあったのかい?』って改まって訊いてくるんだもん。ああ、優真君が何か言ったのかなって思ったの」


 鋭い。流石、愛奏。

 あと、誠司さんバレバレですよ!


 彼女は俺の事をじーっと見てくる。

 その可愛いさに負けて、観念した。


「ゴメン。昨日、ちょっと様子がおかしかったから心配になってさ。赤島の事も言っておいた方が良いと思って、差し出がましいとは思ったけど、相談しちゃった」


 俺は正直に経緯を説明した。

 こういう時は、平謝りだ。

 すると愛奏はニッコリ笑った。


「いいよ、ありがとう。ちょっとお父さんとも話したかったから、いい機会だった。でも、バイトして間もないのに、よくお父さんに相談できたね。お父さんって店長でしょ?」


「ああ、流石に仕事関係であれば、まだ気楽に話せないよ。でも愛奏の事だったから。ちょっと失礼だったかもしれないけど、思い切って話したんだ」


 何かあってからでは遅いからな。


「ふふふ。失礼だなんて、そんなことないよ。だってお父さん『深影君はしっかりしているね』って褒めてたよ」


「それは嬉しいなぁ」


 思い切って話して良かった。

 俺は居住まいを正す。


「それで。昨日メッセージであったけど、話したい事ってなに?」


「ああ、うん。ちょっと長くなりそうだし、先に課題を片付けちゃおう」


「あ、ゴメン。そうだね」


 俺達は課題の片づけを再開した。


 ■□■□


「あーっ終わったぁ」


「数学が難敵だったねぇ」


 俺達二人は、ぐでーっとだらけた。

 時計を見ると時刻は十七時半過ぎ。

 まもなく、最終下校時間だ。


「うわー、もうこんな時間だよぉ」


 秋の日のつるべ落とし。

 すっかり夕暮れも深くなっていた。


「でも、数学まで終わちゃった。優真君のおかげだね。ありがとう」


「いやいや。愛奏が頑張ったからだよ」


 やってて良かった、学び直し。

 夏休みからこっち。筋トレやバイトなどの合間をぬって、コツコツ勉強していた事が実った。


「優真君って勉強もできるんだねぇ。凄いなぁ」


 イエス! 愛奏の好感度が上がった感じがする。

 こういうところで、ポイント稼がないとな。


「いやぁそれほどでも〜」


 顔がニヤけてるかもしれない。

 愛奏からの賞賛は、五臓六腑に染み渡るなぁ。

 俺は真面目な顔をなんとか作って言う。


「あーでも、遅くなったから帰らないと」


「うん。そうだね」


 課題が終わってから話すつもりだったが、予想以上に時間を食った。


「帰り道で聞いてもいい?」


「うん。聞いて欲しいな」


 了承は得たので俺達は帰り支度をして、学校を急いで出て、駅に向かった。

 日が落ちて辺りは薄暗く、俺達以外は誰も歩いていない。


 本当はすぐにでも話を聞きたかったが、愛奏が取り留めもない話題を出してきたので、暫く付き合う。


「キュウビー面白いよねぇ。私、あの中でブルズ推そうかなぁ。優真君は?」


「俺はリンクス推しかな?」


 キュウビーって、かなり色んなファイターが出てくるからな。

 推しのファイターを応援するってのも、この作品ならではの演出だった。


「なるほど。役者さん、胸大きくて可愛もんね」


「違いますぅー。ファイターのデザインがカッコ可愛いからですぅー。俺は人を胸で判断してません」


 いい加減、学習しているので適当にあしらった。


「ふーん。ほんとかなぁ?」


 彼女は疑いの目を向けてくる。

 これ以上この話題は危険なので、強引に切り替えた。


「それで、話したいことって、そろそろ聞いてもいい?」


「うん。でもそうだなぁ。何から話せば良いんだろう」


 愛奏は困ったように言う。

 本当になんの話だろうか。

 とても気になる。


「うーん。優真君ってさ、オカルトっぽい話って、信じるほう?」


「え? それはまぁ、うん。信じてるよ」


 なにせ俺自身がタイムリープしてきた人間だし、つい昨日も不思議体験したばかりだからな。


「そっか。じゃあさ、今から言う事を信じて欲しいんだけど……」


 そう言って、彼女は一拍置いて、立ち止まった。 

 俺も立ち止まる。

 そして愛奏は勇気を出すような顔をして告げた。


「私ね。未来から、タイムリープしてきたの」




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