第35話 文化祭で急接近!⑬/で、愛奏と付き合ってないの?

 光珠神社に行ったその日の放課後。

 俺はバイトに向かうため電車に乗る。


 なんだか今日は、媛神に行って帰って、また行ってを繰り返しているなぁ。

 などと思いつつ、俺はスマホを見ていた。

 ふと何気なしに今日の愛奏のメッセージを見た。


【愛奏】:話があるの。今日、一緒に帰らない?


 これ、断るのがとても苦しかった。

 様子が変だったし、わざわざ話があると言ってきたのだ。

 絶対に何かある。


 でもバイトを今更、休むこともできなかった。

 こういうことがあるなら、正直、バイトを辞めようかと思った。

 でも、それをすると愛奏のお父さんである誠司さんから悪印象になるだろう。


 だから代わりに明日の放課後、今日欠席した授業の課題を一緒にすることにした。

 話はそこで聞く。


 今日のところは、誠司さんに会うので、彼女の不調をそれとなく伝えてみることにしよう。


 それといい加減、赤島の事も伝えた方が良い。

 今日も、ファミレスに出現したからな。

 光珠神社で縁切りの祈願をしたのだが、アイツには効かないのかもしれない。


 「三珠神社か」

 

 俺は誰にも聞かれない、極小の声で呟く。

 赤島もそうだが、もう一つ、あの池での出来事が脳裏に過った。


 目の前に現れた男は、たぶん伝説に出てきた、文助じゃないだろうか。

 彼が言っていた「未来を知る者は俺だけじゃない」って言葉。


 あれは、どういう意味だ?

 俺以外にもタイムリープしてきた人物がいるんだろうか。


『媛神、媛神です――――』


 電車内のアナウンスで、ハッと気づく。

 いかん、降りなければ。

 俺は思考を切り替えて、バイトに向かった。


 ■□■□


 モリオカデンキ媛神店の大きな倉庫で、俺は店内に出す商品をカゴに入れて準備していた。


「えーっとHDMIケーブルは五メートルのヤツが二個補充か」


 俺はリストを見ながら準備していく。

 するとバイトの先輩である四谷さんが声をかけてきた。


「深影くん、全然関係ない話だけど、通ってる学校って西ノ山高校?」


「え? あ、はい。そうです」


 四谷さんは近くの大学に通っている大学生だ。

 ひょろっとして背の高い男性で、新人の俺にも気さくに話しかけてくれる。


「実は僕もあそこ出身なんだよねぇ。本郷先生ってまだいる? 国語の先生なんだけど」


 おおっと、そうなんだ。

 ならバイトもだけど、西ノ山高生としても先輩だな。


「はい、おられますよ。俺の担任です」


「そっかぁ。相変わらず執事っぽいの?」


「ええ、バトラー先生って呼んだらマジで怒られますけど」


「あははは。変わらないなぁ」


 四谷さんは在庫をチェックしながら笑う。


「そういや、ここでバイトしているけど、深影君って部活してないの?」


「はい。部活はしてません。四谷さんはしていたんですか?」


「いーや。僕もしてなかった。なんていうか運動が苦手でねぇ。文化系の部活もピンと来なくてさぁ」


 彼は懐かしむように遠い目をした。


「あ、俺も同じです。どうにも運動が苦手で」


「そっかぁ。まぁ西ノ山って、強制的に部活しなくてもいいから楽だよねぇ」


「ああ、なんかそういう高校とかあるらしいですね」


 ウチの高校は生徒の自主性を重んじてるから、部活動も俺達の意思に任せられてるんだよな。


「でも、部活してなかったら、バイトしてても時間余るでしょ? 友達とか彼女と遊ばないの?」


「ああ、そうですね。最近は友達が増えて、勉強の約束とかしてますね」


「凄いなぁ。勉強の約束って。真面目だねぇ」


「いや~、そんな事ないですよ。……これで良しっと、それじゃ俺、品出し行ってきます」


「おねがいしまーす」


 俺は世間話を切り上げて、台車を押して店内に出た。


 ■□■□


 俺は目立たないように、店内を歩いて商品を補充していく。

 商品を間違えて補充したらダメなので、結構気を使う。


 なにせ同じケーブルでも、長さで違いがあるからな。

 指差し確認して、次の棚に向かおうとした。


「あれ? ひょっとして深影か?」


 声をかけられたので、振り向くとそこには西ノ山の制服を着た男子生徒が三人いた。

 その中で二人ほど顔に見覚えがある。

 ウチのクラスの佐野さの君、山城やましろ君だ。

 残りの一人は別のクラスの生徒だろう。


「ああ、いらっしゃいませ。佐野君、山城君、それと……」


小倉おぐらだ」


「あ、小倉君いらっしゃいませ」


 俺は一周目で鍛えられた、営業スマイルで対応する。


「深影、ここでバイトしてんのかよ」


 佐野君が俺の姿を見て言う。


「うん。見ての通り、品出しメインのバイト」


 俺はバイト中に着けている、エプロンを引っ張って、見せる。


「へぇ。なんかサマになってんじゃん」


「いつからバイトしてんだよ。てか、ウチってバイトOKなんだ」


 山城君が訊いてくる。

 ウチの高校って、積極的にバイトできるって言ってないからな。


 ちゃんと自分から制度と校則を確認できたら、OKとしているフシがある。

 自主性教育の一環のようだ。


「バイトは新学期からだから、まだ始めたばかりなんだ」


「へぇ。俺もなんかやろうかな。週何回くらい入ってんの?」


 佐野君が興味を示した。


「週三かな。というかゴメン、バイト戻るね」


 あんまり話してると怒られる。

 俺は申し訳ないと思いつつ、話を切り上げた。


「おう。悪かったな。バイト頑張れよ」


「うん。ありがとう。ゆっくり買い物していってね」


 俺は三人と別れて、品出しに戻った。

 それにしても、今日は俺のことをよく尋ねられる日だ。


 ■□■□


 仕事終わり。

 俺は、愛奏のお父さんの誠司さんに声をかけた。


「店長。お忙しいところ失礼します。ちょっとよろしいでしょうか?」


 誠司さんは事務室のデスクにいた。


「はい。どうしましたか」


 穏やかな声で仕事の手を止めて、向き直ってくれた。


「あの、こんなところで言う事じゃないかもしれませんけど、実は愛奏さんの事でちょっとお話が」


「ほう。愛奏を僕にください。とかかな?」


「いっ!? いやいやいやいや、そうじゃないです!!」


 なんて事言うんだ誠司さん!

 慌てる俺を見て、彼は微笑んだ。


「はっはっは。ふむ。その慌てぶりは、まだまだかな?」


「ど、ど、どどど言うことですか?」


 なんだその意味深な口振りは。


「いやーだって、愛奏が君の事をよく話してくれるし、君のカバンに付いてるチャームって仮面ファイターデービルズのやつだろう?」


「え、ええ、そうです」


「愛奏も付けてて、ずいぶんと大切にしてたからねぇ。人から貰ったって言うし、主人公と相棒で分けて、君から貰ったのかなぁって」


 す、鋭いです、お父さん。

 正確にはお互いに交換し合いました。


「で、愛奏と付き合ってないの?」


 うあああああ!!!!

 どストレートに聞いてきたぁ!


「まままま、まだ付き合ってましぇん!」


「なるほど。まだ、ね」


 誠司さんはニヤニヤと笑う。

 ああ、実感した。

 愛奏のからかい上手は、お父さんから受け継がれたんだな。


「それで、深影君。愛奏がどうかしたのかい?」


 誠司さんはパッと切り替えて、真面目な顔になった。

 俺も気を取り直して言った。


「実は、今日ちょっと様子がいつもと違っていて……」


 俺は今日の出来事を話した。

 赤島の事も付け加えて伝える。


「ふーむ。赤島君か。久しぶりに聞いたな」


 誠司さんは腕組みをして考え込む。


「前は仲が良かったのか、よく話を聞いたんだよねぇ」


「あ、それ、担任の本郷先生も言ってました」


「ああ。担任も把握してくれているのか。良く気付く先生だね」


 誠司さんは何かを決めたように頷いた。


「よし。それとなく愛奏に聞いてみるよ。もちろん、君からの情報だって言わないから安心してほしい」


「はい。ありがとうございます」


「いやいや、お礼を言うのは私の方だよ」


 誠司さんは穏やかに言う。


「愛奏はね、少し引っ込み思案だったんだけど、君の事を話すようになってからかな? 明るくなって、私とも会話してくれるようになったんだよ。きっと君が色々と頑張ってくれてるんだろうね。ありがとう」


 誠司さんは感謝するように微笑んだ。


「そんな、俺だけじゃないですよ。彼女の友達の風見さんとか、真田さんとか。きっと色んな友達の影響だと思います」


「そうか。愛奏も成長してるんだなぁ」


 誠司さんは本当に嬉しそうにしみじみと言った。

 そして、ニヤリと笑う。


「ちなみに、深影君。私に結婚の挨拶に来るなら、覚悟しておくように。私の『26のひみつ』で迎え撃つからね!」


「ですからまだ付き合ってません! ていうか仮面ファイターV3ネタですか!?」


「あはははは。世代はブラックなんだけど、やっぱV3って格好いいよねぇ」


 そんなこんなで閉店後少しだけ、誠司さんと特撮談議で盛り上がるのだった。

 愛奏の特撮好きはお父さんの影響もあるんだなぁ。



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【近衛誠司26のひみつ その1】

 娘が男の子と出かけている話を聞いて、いよいよそんな年頃か、と覚悟した。

 そして、その男が自分の勤め先にいる優真君だったので、彼を見る目がちょっと厳しくなった。



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