第34話 文化祭で急接近!⑫/近衛愛奏は決意する

 私こと近衛愛奏は、優真君達と文化祭のパネル展示制作のため、光珠神社に来ていた。

 その目的も達成したので、これから媛神にお昼ご飯を食べに行くことになった。


「むむむむ。赤島や松葉との縁が切れますように!」


 雫玖が熱心に神様にお祈りしている。

 というのも、この神社が縁結びと縁切りにご利益があることが分かったので、こうしてお願いをしているのだ。


「これでよーし! それじゃあ、お昼食べに行こう!」


 雫玖が意気揚々と踵を返す。

 それに続くようにみんなが歩き出した。


「私、お守りを買いたいんだけど、いいかしら?」


 瑠姫が遠慮がちに言う。

 私も欲しい。


「あ、それなら私も欲しい」


「じゃあ、買おうか。俺も欲しいし」


 優真君が同意してくれた。

 八条君もうんうんと頷いて言った。


「俺も買うぞ。さっき彼女ができますようにってお願いしたからな。あとはお守り買って、さらにバフかけるぜ」


「そういう思考を捨てないと、一生叶わないわね」


「ハッチぃ。そのムーブやるなら、こっそりとやりなよ。キモいよ」


 瑠姫と雫玖が容赦なくダメ出しした。

 うん。私もそう思う。


「チクショウ。俺が何したって言うんだよぉ!」


「そういうところだと、思うが」


 藤門君がトドメを刺して、八条君は静かに泣いていた。

 結局、お守りはみんな購入した。

 その後、神社から出て駅に向かう。


「そういや、何食べるよ?」


 気落ちしていた八条君は復活して、みんなに訊ねる。


「安上がりなら、ファミレスでどーお?」


「なるほど。なら、イタリアンのところとか、どうだろう」


「確かにセイゼリアなら、お財布に優しいわね」


 道中、みんな楽しそうに話しながら向かう。

 でも私の心はそれどころではなかった。


 思い返せば、神社の裏にある池を見に行ったときだ。

 突然、誰もいなくなって、一人だけ森に取り残されたのだ。


 何を言ってるのか自分でも分からない。

 とにかく誰もいなくなって、怖かった。


 夢が終わったのかと思った。

 けれど、そうじゃなかった。


 怯える私に、優しく語りかける女性が現れたのだ。

 白い肌に白い服。それと対になった美しい黒髪。

 伝説の話に出てきた「しら」と特徴がそっくりだった。


「恐れないで。貴方の願いは私に届いた」


 池の上に立つ彼女の声は、小さいはずなのによく響いた。


「けれど願いは一人では叶わないモノだった。。貴方は一人じゃない」


 正直、何を言っているのか理解できなかった。

 それでも白は語り続けた。


「貴方の愛する人に全てを話しなさい。貴方が愛する彼は、未来を変えるために生きることを選んだ」


 その切実に伝えようとしてくる話は、誰の事か思い当たった。

 優真君。

 彼に全部、私の秘密を言えばいいの?

 未来を変えるためにってどういう事?

 これは夢じゃないの?


 次々に浮かぶ疑問には何も答えてくれず。

 白は一方的に私に伝えて、最後にこう言った。


「ここは夢の世界じゃない。どうか、幸せになって」


 その言葉の後に、強烈な光が爆発して、私は現実に引き戻された。


 ■□■□


 私は、優真君に池での出来事を話たかった。

 でも、みんなもいるし、突然そんな話を彼にしたら絶対に戸惑うし、変な女の子って思われる。

 だから勇気がなくて、声をかけられなかった。


 時折、彼が私の事を気遣わしげに見てくることに気づいた。

 そういえば、優真君も固まってぼーっとしていたらしい。


 何かあったんだろうか。

 私は電車に乗るタイミングで、彼にRINEしてみた。


【愛奏】:そばにいるのに直接言えなくてゴメン


【愛奏】:話があるの。今日、一緒に帰らない?


 私は彼を誘いだそうと思った。

 彼は私のメッセージに気づいたようだが、困った顔をした。


【優真君】:ごめん、今日はバイトだ


 そうだった。今日はバイトの日だ。

 続けてメッセージが届く。


【優真君】:明日、放課後に一緒に課題しよう。その時に聞くよ


 私は彼を見た。

 申し訳なさそうな顔だった。

 私は急いでメッセージを送る。


【愛奏】:ありがとう。約束だよ


 何を話せばいいのか分からない。

 でも、少しだけ心が軽くなった。

 明日までに今日の事をどう話すか、考えようと思う。


 ■□■□


 その後、私たちはセイゼリアに行って、お昼ご飯を食べた。

 みんなと食べるご飯は楽しい。


 特に今日は、雫玖の提案で私と優真君が隣同士で座ったのだ。

 雫玖グッジョブ!

 ハッキリとは言っていないけど、私が優真君の事を好きなのを、雫玖は分かってくれているようだ。


 当の優真君はちょっと照れていた。

 幸治君が血の涙を流しそうな形相していたのが、ちょっと面白かった。


 でもその楽しい時間が突然、終わったのだ。

 聞きたくない声が聞こえてきた。


「あれ~? 愛奏じゃん。久しぶりぃ」


 レオンが店に入ってきた。

 どうして、どうして、どうして。

 こんなところで会うの。


 体の奥が冷えてくる。

 何か言わなきゃ、殴られる。

 でも、顔が見れない。

 怖い。


 痛みにすら縋るように、私はテーブルの下で手を強く握りしめた。

 するとその手に、隣に座っていた優真君の手が重なった。

 彼の暖かい手が、私の冷えた体に熱をくれる。


「どうして、ここにいるの?」


 私は自然な声で、レオンを見て言った。

 彼は相変わらず、張り付けた笑みを向けてくる。


 その奥底で、ドス黒い欲望が渦巻いているのを知っている。

 一周目の私は世間知らずで、あの笑みが偽りだと気づかずに餌食になった。


 でも今は違う。

 アイツの事を私は知っている。

 優真君が隣にいる。

 私は、大丈夫だ。


「文化祭の調べ物だよ。昼ごはん食べてから行こうって話で、ここに来たんだよ」


 レオンが指さす方向には松葉君や、彼の班メンバーらしき人たちが見えた。

 そうだ。思い出した。


 一周目ではレオンが珍しく班活動して、文化祭で最優秀賞獲ったんだった。

 たしか、光珠周辺のデートスポットと、おすすめグルメってテーマだったはずだ。


 それで、商品のプリペイドカードを転売して、問題になったんだっけ。

 そこまで思い出した時、私の脳裏にあの言葉が過った。


『この世界は夢じゃない』


 私は試しにレオンに訊いてみた。


「そうなんだ。何調べるの?」


 もし、ここで違うことを答えたらここは夢の世界。

 同じだったら、ひょっとしたら本当に過去の世界かもしれない。

 そんなことを思ったのだ。


「ん~。光珠周辺のデートスポットと、おすすめグルメ」


「へ、へぇそうなんだ」


 一周目と同じだ。

 じゃあここは現実で、過去の世界なの?

 内心戸惑いつつ、彼を追い返す。


「面白そうだね。あ、ほら、班のみんなが待ってるみたいだよ」


「ああ、別にいいよ。あいつらは放っておいて。それよりちょっと詰めてくんない。俺もここで食べるよ」


 この図々しさときたら。

 空気を読まないとかじゃなくて、同じ生き物とは思えない思考だ。


 みんな困惑している。

 隣の優真君が口を開いた。


「いや、普通に迷惑だから、あっちで食べてくれよ」


「ハァ? 良いだろ。別に。お前にそんな事言う権利はねーよ」


 レオンがキレた時にしか出さない、低い声をだす。

 私は心がキュッとなった。恐ろしい。


「常識ないのかよ。逆に聞くけど、俺が同じ事したらお前ブチ切れて追い出すだろ?」


「あははは。そりゃ、殴って終わりだね」


「だったら、向こうに行ってくれ。店員呼ぶぞ」


 優真君も低い声だ。

 私は心がキュンとなった。格好いい。

 ……我ながら現金なものだ。


「店員呼んでどうするんだよ」


「迷惑な客だから警察呼んでくださいって言うよ」


 わぁ優真君、強い。

 裏でコソコソすることが得意なレオンは、警察が苦手だ。

 揉めたら厄介ごとになる。

 手を出せばその場で、警察だ。

 これは引くしかない。


「ちっ。お前、すぐに警察呼んで、プライドないのかよ」


「お前を退けられるなら、プライドなんてポイ捨てだな」


 彼らは数瞬の睨み合う。


「はぁ。なんか、やる気なくした。帰る」


 レオンは急に冷めたような顔で、彼の班メンバーを残して店を出て行った。

 松葉君が頭抱えていた。ご愁傷様。


「やれやれ。あいつ、どこでもいるなぁ」


 優真君がため息を吐いた。


「お疲れ、優真」


「俺はお前を尊敬する」


 八条君と藤門君が労った。

 私はお礼を言った。


「優真君。ありがとね」


「いや、大したことないよ。それより、大丈夫?」


「うん。大丈夫」


 今の優真君とレオンのやり取りを思い出すだけで、ご飯三杯イケるくらい大丈夫だ。

 優真君、格好良かったなぁ。


 そんなことを思いつつ、私は確信した。

 優真君がいればレオンと会っても大丈夫だ。


 白が言っていた『貴方は一人じゃない』ってことを実感した。

 彼なら全て話しても大丈夫かもしれない。


 ドン引きされるかもしれないけど、神様が全て話せって言ったんだ。

 だから私は、どうなるか分からないけど、近いうちに私の秘密を話してみようと思う。



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じれったいから、神様からの後押し。


読んでいただき、ありがとうございます。

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