第33話 文化祭で急接近!⑪/未知との邂逅

 みんなが消えて、池の上に謎の男が立っている。

 異常事態に俺は動けなかった。


 男は白い着物にぼさぼさの髪型。

 身体は中肉中背か。


 うつむいて立っているので、表情が読めない。

 手に何か細長い棒のようなものを持っている。

 あれは、笛か?


 観察している最中、あたりは物音一つしない。

 耳が痛くなるほどの静寂が、全てを包んでいた。

 俺は意を決して声をかける。


「あ、貴方は誰ですか?」


 そんなに大きな声を出してないのに、あたりに俺の声が響いた。

 どうなってるんだ。いったい。


 男は顔を上げた。

 力強く優しそうな目だった。

 敵意を感じない。


 俺は少しだけホッとした。

 男は口を開く。


「時間がない。手短に告げる」


 頭に沁み込むような声だ。


「お前は巻き込まれた。それでも愛する者の未来を変えるというならば、命を懸けよ」


 俺は心臓が止まるかと思った。

 なぜか分からない。でも、今とても重要な何かを聞いた気がする。


「望む結果を勝ち取るならば、あがけ。信じよ。そして諦めるな」


 励ましの言葉。

 あの男はきっと、タイムリープの事を何か知っている。


 言いたい事や聞きたいことは多くあった。

 けれど俺はそれを飲み込んで、口を開いた。


「わかりました。元よりそのつもりです。俺は愛奏の未来を変えるために、今を生きています」


「ならば、良し」


 男は満足そうに頷くと、身体から光が溢れだした。


「うわっ」


 眩しすぎて目を開けてられない。


「まってください! あなたに聞きたいことが!」


「未来を知る者は、


「え!」


 どういう意味だ?

 驚いた瞬間、眩い光が爆発して、俺はそれに飲み込まれた。


 ■□■□


「……真。お……優! おい、優真!!」


「はっ!」


 俺はゆすられて、ハッと気づく。


「おい、大丈夫かよ。優真?」


 幸治が心配そうに訊いてくる。

 周囲が元に戻っている。

 みんながいた。


「え? 俺どうなってた?」


「いや、急に固まっちまって、反応ないからビックリしたぜ」


「そう? ゴメン。あんまりにもここが綺麗だから固まっちゃった」


 俺は誤魔化すように言う。


「なるほど。確かにそうなるのも分かる」


 竜一がうんうんと頷く。


「でもよー。近衛さんと同じなのは、流石ってか?」


「へ? 愛奏がどうしたの?」


「それがよ。お前みたいに固まってたんだよ」


 え? 愛奏が?

 俺は彼女を見た。


「あはは。私もなんだか綺麗すぎて固まっちゃった」


 愛奏は苦笑するように言う。


「ビックリしちゃったよ、もー。そんなところでシンクロするなんて、相性いいじゃーん」


「これは仲が良いといえるのかしら?」


 風見さんと真田さんが揶揄うような顔をする。


「深影くん。近衛さん。大丈夫ですか?」


 与一さんが心配そうに言う。


「すみません。大丈夫です」


「ごめんなさい。ご心配かけました」


 俺と愛奏は謝る。


「大丈夫そうなら、戻って資料の説明をしましょうか」


「はい。お願いします」


 俺達は集会所に戻ることにした。

 戻る途中、愛奏と目が合う。


 何か言いたそうだったけど、今は聞けそうにない。

 俺は諦めて視線を戻した。


 ■□■□


 その後、資料の説明を受けて、コピーが問題ない物はコピーをいただき、無理そうなものは資料の外見だけを写真で撮った。


「うん。よし。これで大丈夫そうだね」


「また見返したいときは、遠慮なく連絡をください」


 与一さんが資料を片付けながら言った。


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」


 俺はそう言ってから、みんなを見る。


「それじゃ、みんなで外観を動画に収めて、お参りしてから学校に戻ろうか」


「ねぇー。戻る前に媛神に行って、この井戸撮っておかない?」


 風見さんが資料のコピーを見せる。

 ああ、資料の説明を受けた際に、教えてもらった井戸か。


 なんでも、あの池は「地下水脈でいくつかの井戸や水源と繋がっている」という伝承があるそうだ。

 地質調査はしていないので、本当のところは分からないそうだが、その水脈を伝って、光珠神社の神様が各地に現れるとの事だ。

 それで、その謂れがある井戸が、媛神の街中にあるらしい。


「雫玖、あんたは学校に戻るのが嫌で、そう言っているでしょ」


 真田さんが疑いの目を向ける。


「それもあるけど、もうすぐお昼じゃん? せっかくだし媛神まで出てお昼食べてから帰ろーよ?」


 まぁ今日は戻りが何時になるか分からなかったから、昼飯はコンビニで買って食べようという話になっていて、みんな弁当を持ってきていない。


 時計を見ると時刻は十二時過ぎ。

 今から戻れば午後の授業五限、六限目に間に合う。


 一方、媛神まで出て、お昼食べて、この井戸を見に行って戻れば、六限目に戻れる感じか。

 でもそれは良いんだろうか?


「戻れるならすぐに戻れって、バトラーに言われただろ。ダメじゃね?」


 幸治が懸念を示す。


「だったら学校に連絡して、許可貰えば良いじゃん。バトラー先生いなくても誰かいるでしょー?」


「うーん。じゃあ風見さんが連絡して、OKもらえたらでどう?」


 言い出しっぺが電話するのが筋だろう。

 俺はリーダーとして提案する。


「えー、アタシが電話したら絶対通らないじゃん。そういうのは瑠姫とか、深影っちが電話するから良いんだよ」


 普段の行いの自覚はあるのか。


「どうする、みんな?」


「俺は、許可が出るなら構わない。みんなで平日に外食とは、楽しそうだ」


 竜一は賛成っと。

 まぁ友達と外でランチは魅力的か。


「私も良いよ。特別感あって面白そう」


 愛奏も賛成か。

 目がキラキラしている。


「私はなるべく安い所なら賛成かな?」


 ふむ真田さんは安いならOKっと。

 そういや彼女ってコンビニのパンとか、オニギリをよく食べてる印象だな。

 昼飯は安上がりで済ませたいのかもしれない。


「幸治はどう?」


「俺も、安いとこなら良いぜ」


 幸治も真田さんと同じか。

 俺も問題ないなら、食べてから戻っても良い。


「なら、満場一致だね。俺も学校がOKなら行きたいし」


 その様子を見ていて与一さんはニコニコ笑う。


「いやー筋を通すなんて真面目だねぇ。私が学生の頃なんか、こんな事あったら黙って食べに行ってたよ」


「神薙さん!! ダメな大人の手本を見せないでください!」


 多中さんが集会所に現れて怒った。


「全く。あんまりやらかすと神様のバチが当たりますよ」


「いやぁ。反省、反省」


 与一さんと多中さんって、面白いコンビだなぁ。


「はい、深影さん。お待たせでした。書類にサインと印鑑を押したので、これで大丈夫ですか?」


 そういって多中さんが渡してくれたのは、「学外学習証明書」である。

 これ、学校出る前に先生から渡された書類だった。


 いわゆる行った先で勉強したことを証明するために、相手方に書いてもらう書類だ。

 コイツがあるから、自由に動けるというわけだ。


「ありがとうございます。お手数をおかけしました」


 俺は書類を鞄にしまう。

 案外コレあるから、通るかもな。

 井戸の方も写真に収めれば認められるかも?

 俺は内心、昼飯経由で帰校するための勝算を感じつつ、電話することにした。


「あ、お疲れ様です。一年二組の深影です。本郷先生に代わっていただきたいのですが、授業でしょうか?」


 予想通り、本郷先生は授業だったが、学年主任の先生が電話に出て、あっさり許可してくれた。

 どうも、同じことを考える生徒がいるらしく、よっぽどのことがない限り、許可を出しているようだ。

 とうぜん証拠の写真があれば、なお良いと言われたので、写真を忘れないようにしないと。


「学校からもOKもらえたし、そろそろ行こうか」


「さんせーい」


「優真君。お参りも忘れずにね!」


「その前に、時間を作ってくれたお二人に挨拶するのが先よ」


 真田さんに促されて、俺達は一列に並ぶ。


「本日はお忙しい中、ご対応いただき、ありがとうございました。良い展示にします。良かったらニシノ祭に来てください」


 俺が代表してあいさつし、全員で頭を下げた。


「「「「「ありがとうございました」」」」」


 与一さんと多中さんも頭を下げてくれた。


「いえいえ、こちらこそ。展示は、時間作って見に行きますよ。頑張ってください」


「気を付けて帰ってくださいね」


 こうして、俺達は集会所を出て、まずはお参りすることにした。



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次回、B面。愛奏視点でお送りします。


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