第32話 文化祭で急接近!⑩/伝説の真相と続き

 光珠神社の伝説は、まさかのバッドエンドだった。


「どーすんのこれ。文化祭で発表できるかな?」


 風見さんが困惑した顔をする。


「でも見せ方を工夫すればあるいは、いけないかしら……?」


「それでも悲しいお話だよね」


 真田さんと愛奏も困った顔をしていた。

 俺達、男子組もちょっと戸惑っている。

 ところが、その様子を見て与一さんはニコニコしていた。


「いやぁ~いい反応! やっぱり驚きますよねぇ」


「神薙さん。ちゃんと続きを説明してあげてください。もう」


 多中さんが困った人を見る目で、与一さんを見ていた。


「続きって、まだあるんですか?」


 俺は続きを促した。

 こうなりゃ最後まで聞いて判断したい。

 オタクは最後まで話を聞いてから批評するものだ。


「はい、実は今話した内容は、江戸時代に歌舞伎として演じられた際の物なんですよ」


 歌舞伎とな。

 ん? 歌舞伎?

 二人が心中して、歌舞伎……。


「あ! 心中物か! ひょっとして、流行を取り入れて結末変わってませんか?」


 俺は思い当たったことを与一さんに訊ねた。


「よくわかりましたね! 深影くん」


「優真君。どういう事?」


 愛奏が首を傾げた。

 みんなも不思議そうな顔をしている。


 うん。歌舞伎に詳しくなきゃ、知らなくて当たり前だよな。

 俺は説明する。


「江戸時代って歌舞伎が、いわゆるエンタメでさ。世間で流行ったモノとか、当たった演目を他のお話に取り入れて演じることがあるんだ」


 まぁ言ってみりゃ歌舞伎は、仮面ファイターやミラクルマンのご先祖様だからな。

 世間で流行っているモチーフをもとにヒーローは生まれるのだ。


 江戸時代の歌舞伎も同じように、流行物を取り入れていたとされる。

 俺は説明を続ける。


「それで、ある時に『心中物』っていう男女が情愛の果てに命を絶つって話が流行ったんだよ。たぶん今のお話は、そういう流行物に乗っかって作られたんだと思うよ」


「素晴らしい! よく勉強してますね」


 与一さんがぱちぱちと拍手をしてくれた。


「いやぁ、特撮好きが高じて、歌舞伎とかもちょっと調べたことがあったんですよ」


「ほほぉ。それはまた筋金入りですな。いやぁ、若いのに偉い!」


「それほどでもぉ~」


 あははははは、とお互いに笑った。


「ちょっとちょっと、置いてけぼりにしないでよ。深影っち」


 風見さんに窘めれれた。

 竜一が与一さんに言う。


「神薙さん。それで、本当の結末はどうなるんですか?」


「それがねぇ。分からないんだよ」


 あっけらかんと言った。

 ええ、マジでか。


「分からないって。資料が残ってないってことかしら?」


 真田さんが用意されていた資料をパラパラとめくる。


「いや、伝わってはいるんですよ。追手をやり過ごすために、池に身を沈めて隠れたとか、追手を巻いてどこか別の場所で暮らしたとか。そもそも領主が出てこない資料もあったり」


 ははぁーん。どうやら伝言ゲームの要領で話が伝わって、元が分からないなコレ。

 古い話を調べる際によくあることだ。

 大学時代に色々と調べたことがあったため、ピンときた。

 与一さんはさらに続ける。


「一番ハッキリしている資料では、二人は行方不明になって、その後に領主の家は祟りで没落するんですよ。それで、次に領主に任命された人が、祟りを恐れて二人を祀る神社を建てたみたいなんです」


「あーなるほど。それがこの光珠神社の起こりとして伝わってることなんですね」


 俺は納得した。

 祟りの原因になったモノは、神として祀られる。

 良くある話だ。


「その通り。実は『光珠』の漢字は最初、祀る大蛇に因んでへびたましいと書いて『巳霊みたま神社』と呼ばれていたらしいです。それがいつしか光珠となり、この地域一帯を光珠と呼ぶようになったそうですよ」


「へぇ蛇の魂か。面白いな! だから蛇の神様の神社なんだな」


 幸治が興味深そうに言う。

 うん。こういういわれが分かると面白いよな。


媛神ひめかみとかも何か関係あるのかなぁ?」


 風見さんが思案するようにつぶやく。

 与一さんがその疑問にも答えてくれた。


「それも面白い話で、日本には菊理媛神ククリヒメノカミという縁結びの神様がおられましてね。白紐伝説に出てくる大蛇は、実はこの神様の化身であると、江戸時代後期に言われ始めて、縁結びの神社としてこの辺りで有名になったそうです。その縁にあやかって、隣の村や町を菊理や媛神と称していたそうですね」


 おお、これまた面白い話が飛び出してきた。

 ククリヒメはゲームなんかで出てくるから知っているぞ。

 やっぱこういう地域の伝承や起こりを調べると、ロマンあふれる話が出てくるから好きだなぁ。


「へぇ。そうなんだぁ。この辺りの地名って神様の名前が付いてるんだ」


 風見さんも興味深そうに頷いている。

 愛奏が手を上げた。


「あの、じゃあこの光珠神社って縁結びの神社なんですか?」


「そうですよ。それだけじゃなくて、領主との縁を切った謂れで、縁切りの神社でもありますね。ちなみに伝説にあやかって『縁結びの白紐のお守り』も販売してますよ」


「縁結びってことは、恋愛の神社ってことね。これは、発表内容に盛り込まないといけないわね」


「縁切りだってさ。愛奏、最近しつこい男がいるし、お参りしてから帰ろうよー」


「そうだね。雫玖。悪い縁を切ってくださいってお願いしなきゃね」


 恋愛の話になると途端に女子が盛り上がるようだ。

 口々に言って、楽しそうだ。

 ふと、与一さんが思い出したように言う。


「ああ、そうだ。神社の裏手の森にある池を見ますか?」


「え!? 伝説に出てくる池って本当にあるんですか?」


 俺達は驚いた。


「ありますよ。道も作ってお参りできるようにしてあります」


「え? お参りも出来るんですか」


 俺は驚いた。

 大体この手の話に出てくる池とか山って、立ち入り禁止になってることが多いんだが。


「一応、聖域なので写真撮影などは禁止してますが、見るだけなら大丈夫ですよ」


「なら、せっかくだし見に行こうぜ。優真」


「だね。ぜひ伝説の場所を見ないとね!」


 ということになった。


 ■□■□


 俺達は多中さんとは別れて、集会所から与一さんに案内されて池に向かう。

 道中、与一さんに、文化祭で発表する際の動画や写真の事を伝えた。


「へぇ! 今時だなぁ。良いですよ。建物内は流石にダメですけど、外観は問題ないです。なんなら、伝説を紹介した動画がありますんで、リンクで載せてくれても構いませんよ」


 との事だったので、後でURLを教えてもらうことになった。

 というか、伝説の紹介動画なんてあるんだ。

 白紐のお守りと言い、この神社はアピールに余念がないらしい。


 そして歩くこと五分ほど。

 境内の奥。森の参道を歩いて、そこにたどり着いた。

 池の広さは直径五十メートルくらいの広さだ。


「おお、なんかすげー雰囲気あるな」


 幸治が息をのむ。

 確かにそうだ。

 澄んだ空気。清らかな池。森の木々が反射して鏡のようだ。

 木漏れ日が差し込み、風がさわさわと葉を鳴らす。


 聖域であると言われても納得の雰囲気だ。

 与一さんが言う。


「伝説が本当にあった事なのか、後からできた作り話かは分かりませんが、この池に神様がいると昔の人は信じたのでしょうね」


 うん。それも納得してしまう。


「いい物が見れたよね。みんな」


 俺は皆を見るために顔を動かした。

 だが、その瞬間。

 笛の音のような綺麗な音が聞こえて、みんなが消えてしまった。


「え?」


 俺は驚いて辺りを見回す。

 誰もいない。

 さっきまで、全員いたのに。


「みんな!?」


 俺は叫ぶが、返事は帰ってこない。

 いや、異変はそれだけじゃない。


 森に今までなかった霧が立ち込めている。

 空気も先ほどと比べ物にならないくらい、澄み切っている。

 明らかに異常事態。


 なんだ。何が起こっている。

 そして、再び笛の音が鳴った。

 音の方を見る。


「……っっ!?」


 その先には、男が一人、池の上に立っていた。



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次回、少し不思議SFなお話。


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