第31話 文化祭で急接近!⑨/光珠神社の伝説はまさかの……
「はじめまして。私は、
そう言った神薙さんはドヤ顔だ。
というかこのセリフはもしや、フルブラザーズのドン・モモスケのセリフじゃあ?
いや落ち着け、偶然だろう。
なんでも特撮に結びつけようとするのは悪い癖だ。
「神薙さん。深影さん達が困惑してます。もう少し普通に来てください」
多中さんがため息を吐いた。
「いやー。やっぱ一度は言っておきたいじゃない? フルブラザーズの名セリフ!」
違うかもって思ったけど、やっぱそっちだったかぁ。
「あの失礼ですが、ひょっとして無頼戦団フルブラザーズを見てらっしゃるんですか?」
俺は恐る恐る訊ねてみた。
すると神薙さんはパァっと笑顔になる。
「それを聞くということは、君が深影君ですね!」
「え、そうですが、どうしてそれを?」
どうやら俺の事を知っているらしい。
なぜだ。どこで知ったんだ?
「ウチの娘ですよ。神薙
あーやっぱ、神薙さんのお父さんだったか。
でもなんで神薙さんが、俺が特撮好きって知ってたんだ?
「あ! そういえば神薙さんに、私と優真君のキーホルダーの事聞かれたんだっけ」
愛奏が思い出したように声を上げる。
映画の時に交換したデービルズのキャラクターチャームの話だな。
あれ、反応できる人は特オタだって話してたけど、まさか神薙さんが分かるとは。
「ああ、あなたが近衛さんですね。娘が言ってましたよ。特撮が大好きな女の子だって」
「はい。そうです。近衛です。この間のフルブラザーズの話も衝撃的でしたね!」
「いや本当に! まさかキジローとイヌタローの話が、一気に進むとは思わなかったですな~」
愛奏と神薙さん……ややこしいな与一さんでいいか。は頷き合った。
「ていうか、モモのお父さんってフレンドリーでビックリだね」
風見さんとが驚いたように言う。
「桃花をそう呼ぶってことは、あなたが風見さんですね。いつも娘と仲良くしてくれてありがとう」
「いやー。こちらこそ、軽音部とかでモモには、いつも助けられてますー」
彼女は照れるように頭をかく。
桃花さんって軽音部なんだ。知らなかった。
「藤門君も久しぶり。それと、そちらの君が八条君で、そちらが真田さんだね」
与一さんは残りのメンバーを見て言った。
竜一が頭を下げる。
「お久しぶりです。神薙さん。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。藤門君も大きくなったね。友達もいるようで何よりだよ」
与一さんが優しく微笑む。
どうも竜一のボッチ体質は、知り合いには周知の事実らしい。
「それにしても桃花、行く前に言ってくれればいいのに。サプライズが過ぎるわよ」
真田さんが苦笑した。
たしかに。その通りだ。
クラスの各班が調べる物は、事前に全体に共有されている。
つまり、彼女は俺達が光珠神社に行くことを知っていたのだ。
「神薙さんって、ちょっとお茶目なところあるよね」
「きっとサプライズの方が面白いって黙ってたんだよ」
「学校帰ったら、ドヤ顔で『どうだった? 驚いた?』って聞いてきそうね」
愛奏達はやれやれと言った感じで言い合っていた。
「さて、それじゃさっそく光珠神社の事について話しましょうか」
与一さんが話を切り替えた。
■□■□
俺達は集会所の椅子に座って、与一さんと向き合う。
メモを取り出して準備した。
「さて、まず光珠神社の起こりから話しましょう」
パンフレットを手に取ると、開いて見せてくれた。
「と言ってもここに書いてある通りなんですけどね。ウチが建ったのは戦国時代の終わりから江戸時代最初期くらいと言われています。どうも複数の資料があってハッキリとはしていません。ただ言えることは、この神社はとある男女の魂を慰めて、祀るために建てられたのが始まりとされています」
俺達はパンフレットに目を通す。
ふむふむ。それが時代を経て、この地域の鎮守の神社となったわけだ。
「そして、その男女こそ白紐伝説として語り継がれる登場人物というわけです」
ふーむ。でも祀っているのって蛇の神様なんだよな。
どうしてその男女が蛇の神様になるんだろうか。
「それじゃあ、その伝説について語りましょうか」
そういって、与一さんは語り始めた。
それはこんな話だった。
■□■□
昔々。この地域のとある村に、たいそう笛の演奏が上手い男がいた。
その男の名は
文助は心が優しく、度々笛を吹いては村人や、木々、鳥や虫など多くの者を楽しませたという。
そんなある日のこと。
文助は近くの森にある池で、笛の練習をしていた。
夢中になって笛を吹いていると、ふと音がした。
そこには、とても美しい女性が立っていた。
肌が白く、着ている服も染み一つない白。
そしてそれに対するように、濡れ羽色の長い髪が美しかった。
「とても綺麗な音色ですね」
女は心奪われるような笑顔で言った。
「それほどでもない。まだまだ稽古せねば」
文助はそう言うとまた笛を吹き始めた。
女の事が気になったが、美しい女性だったので気にしない事にした。
笛を聞いてもらえるなら、物の怪であろうと、誰であろうと関係なかったのだ。
そして吹き終わると、女は姿を消していた。
それ以来、同じ場所で笛を吹くと女が現れるので、文助は興味を持って訊ねてみた。
貴方は誰なのか、と。
すると女は困ったような顔をした。
「正体は明かせません。ですが名前は
「そうか。
文助は名乗った。
「あなた様の笛の音がとても綺麗で、つい聞きに来てしまいます」
「よい。心ゆくまで聞くと良い」
こうして、文助と白は事あるごとに会い、お互いの心を通わせた。
そして次第に会う場所は森の池から、森の外。村の中。男の家と近づいていき、相思相愛の仲となった。
村人達も白を快く受け入れ、やがて夫婦になるのだろうと思われていた。
文助も白もそのつもりだった。
だが、白は絶世の美女だ。
その噂は山を越え、この辺りを治める領主の耳に入った。
「ぜひ、その娘を見てみたいものだ」
ある日、領主は村々の確認をするついでに、白を見に来た。
「なんと、美しいのだろうか」
領主は一目で心を奪われ、白を妻として迎えることにした。
当然、白はその申し出を断った。
「私は文助様と添い遂げます」
その言葉を聞いても領主は諦めなかったが、文助も村人達も協力して領主を追い返した。
「おのれ。あれほどの美しい女を諦めきれるものか」
領主はあの手この手で、白を手に入れようと動いた。
その都度、不思議なことが起こったり、文助が助けたり、何とか彼女を守り切れていた。
だが、それもいつまでも続くはずがなく。
領主は霊験あらたかなお札を準備して、さらに他の村娘を人質にして、白をついに捕らえた。
白は領主によって、山を越えた町に連れていかれてしまった。
文助は激怒した。
なんとしても白を助けると神に誓った。
しかし領主のお膝元に乗り込み、白を取り返せば、命はないだろう。
当時は領主に歯向かえば死罪だったのだ。
村人達は引き留めるが、もはや文助は止まらない。
その時、白が連れていかれる際に落とした、白い紐が光輝いた。
そしてたちまちに白い蛇に変わると、文助に道を
「待っていろ白。今、助けに往く」
文助は導かれるように野を越え、山を越え、町へ行き、領主の家に乗り込んだ。
「白を出せ! 邪魔をするな!」
立ちはだかる屈強な領主の兵隊をなぎ倒し、領主を殴り、白を助け出す事に成功した。
二人は二度と離れまいと、お互いの手に白紐を結び、領主の家から逃げ出した。
だが領主は白を諦められず、追手をけしかけた。
このままでは追いつかれる。
「文助様。私の姿を見て驚かないでください」
白はそういうと体がどんどんと大きくなり、長く長くなって、一匹の白い大蛇へと変化した。
それを見た領主の追手は腰を抜かし、追いかけるどころではなくなった。
「なんと、白は大蛇の化身だったのか」
文助は驚いた。
「今まで言えず申し訳ございません。私はあの森に長く生きる大蛇なのです」
「なんと、綺麗な。私は白が何であろうと、私と私の笛を好きでいてくれるなら、たとえ鬼であろうと蛇であろうと構わない」
文助の愛の言葉を受けて、白は力を増し、彼を連れてさらに逃げる。
しかし、領主はそれでもあきらめず、自ら馬を駆り、追いかけてくる。
その後ろには武装した兵もいた。
多勢に無勢。このままでは村も危ない。
逃げきれないと悟った二人は、あの森に向かった。
「もはやこれまで。私と白が一緒になるには、身投げする他ない」
「未来永劫、お供します。文助様」
そうして追いついた領主の前で、二人は森の池に身を投げて、死んでしまった。
二人が沈んだ後に残ったのは、彼らが逃げる際に握りしめていた白い紐だけだったという。
■□■□
「というわけで、文助と白は死に、領主はやっと諦めたとさ」
与一さんは語り終えた。
「「「「「「…………」」」」」」
壮絶な話だった。
俺もみんなも絶句している。
だって白紐伝説、その結末がまさかの。
「バッドエンドじゃーん!!!!!」
風見さんが叫んで頭を抱えた。
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ちょっと長くなったので、次回に続きます。
読んでいただき、ありがとうございます。
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