第30話 文化祭で急接近!⑧/三珠神社に行こう!

 アポ取りしてから、あっという間に月曜日。

 俺達「チーム優真」は一限目の授業を終えると、二限目からの授業を欠席して、三珠神社に向かっていた。


「それにしても授業欠席のうえ、まさか行った後に交通費まで支給されるルールになっているとは。太っ腹だなぁ」


 先に交通費を払う必要はあるが、手続きを踏めば学校から交通費が支給されるのだ。


「でも定期券じゃなくて、切符買わないとダメだったから、結構手間だよね」


 愛奏は苦笑した。

 うーんそういう、とらえ方もあるか。


 まぁとにかく俺達は、学校のお金で電車に乗り、三珠で降りて神社に向かう。

 ふと風見さんを見やると、るんるん気分のようだ。


「はぁーっ! いい天気だし、教室で勉強してるだけじゃ、もったいないよねぇ。みんなも外に出てサボればいいのに」


「ちょっと、雫玖。サボりじゃないでしょう。本郷先生が、帰ったら課題出るって言ってたじゃない」


 真田さんが呆れて言う。

 いや本当に、その通りだ。


「でも課題出すだけで、退屈な授業を受けなくていいんだよ? 最高じゃなーい?」


 なるほど。そういう考えもあるか。

 俺にはその視点がなかったな。

 愛奏は風見さんの意見に苦笑する。


「課題も大変だよ。それに雫玖は、倍出すって言われてたじゃん」


「それ! アタシだけ課題が多いの! 理不尽だ!!」


「それは、あんたが夏休みの課題を出してないだけよ」


 真田さんが処置無しといった風に指摘する。


「え゛!? 風見、夏の課題だしてねーの?」


 幸治が驚いたような声を出した。

 それは知らなかった。


 彼女だけなぜ特別なのか理由が分かった。

 課題が倍になったんじゃなくて、夏の課題が残っているだけだったのか。


「逆に聞くけど、ハッチはやったの?」


「そりゃ。やったよ」


「そんな!? この中でアタシと同じく、夏休みの課題やってない人は?」


 風見さんは焦ったように俺達を見る。

 当然、誰も反応しない。


「ひょ、ひょっとして、みんな、課題をやるくらい夏休みヒマだったの……?」


 まるで自分以外が怪物になってしまったくらいの絶望顔で、しょうもない事を訊いてきた。


「なんでそういう発想になるのよ。普通は課題をやるのが当たり前で、逆に勉強してないアンタは暇人で、ダメ人間って話よ」


 真田さんは心底呆れたように首を振る。

 するとここぞとばかりに、愛奏が悪魔の笑みを浮かべた。


「暇人だったのは私じゃなくて雫玖だったのかぁ。遊び呆けて忙しかったねぇ。貴重な人生無駄にしたこと後悔しても遅いよ~?」


 おおう、辛辣ぅ。

 ひょっとして愛奏って、わりと根に持つ性格かもしれない。


「ぐぬぬ。おのれ、愛奏め。この間の仕返しだな」


 風見さんはぐうの音も出ないのか悔しがる。


「風見、今からでも課題をやれば遅くない。頑張ろう」


「フジモン! そうだよね。そうだよね。という事で、課題片付けるの手伝ってください」


 彼女は、優しい言葉をかけた竜一に擦り寄り、おねだりした。

 ちゃっかりしてるなぁ。


「それは良いが、俺も勉強が得意ではない。あまり期待しないでくれ」


 竜一は少し困ったように返答する。


「いーの、いーの。そうやって手を差し伸べようとする心が大事なんだよー」


「藤門君。雫玖はすぐに答えを聞いてきたり、写そうとするから、気をつけなさい。目を離すと怠けるし」


 よく理解しているのか、真田さんが注意を促す。

 うん。あり得そうだな。

 いや、過去にあったんだろうな。


「それは大丈夫だ、真田。清道流スパルタ勉強法なら、怠けるヒマなどない」


「えっと……。お手柔らかに頼むよ……?」


 待ち受ける謎の勉強法に、ちょっと不安になる風見さんだった。


 ■□■□


 そんなわけで、神社についた。

 時計を見ると、十時五十三分。

 約束が十一時だから、ちょうど良い時間に着いた。


 団体行動すると、少し遅れ気味になると思って、早めに学校を出たのが功を奏したな。

 まさに計画通り!


 そんな事を内心思いつつ、鳥居をくぐり境内に入る。

 神社は、賑やかな夏祭り以来だが、普段は静かで厳かな雰囲気だ。


「裏が森だからか、涼しいね」


 愛奏が神社を見回す。

 確かにちょっと空気が違う気がする。

 神聖な場所でもあるからだろうか。

 俺達はそのまま社務所に伺う。


「こんにちは。西ノ山高校から来ました、深影と申します。多中様と11時でお約束しております」


 俺は率先して、近くにいた長い髪の巫女服を着た女性に声をかけた。


「はい。お待ちしてました。私が多中です」


 ニコニコと人当たりの良い笑顔で、出迎えてくれた。

 なんとなく多中さんだと思ったが、当たりだったようだ。


 彼女は真田さんが大人になったらこんな感じかなと思う、理知的な印象の女性だった。

 歳は二十代だろうか。


「あ、そうでしたか。本日はよろしくお願いいたします」


 俺はお辞儀して挨拶する。


「ふふふふ。電話でも思いましたが、深影さんは高校生に見えないですねぇ」


「あははは。よく言われます」


 俺はとりあえず相づちを打つ。

 多中さんが愛奏達に視線を移した。


「そちらが同じ班の方たちですか?」


「はい。私の班のメンバーです。右から……」


「近衛です。今日はよろしくお願いします」


「真田です。よろしくお願いします」


「八条っす。よろしくお願いしまっす」


「風見でーす。お願いしまーす」


「藤門です。お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」


 全員挨拶したが一人、気になる事を言ったぞ。


「あれ? 竜一って多中さんと知り合いなのか?」


「ああ。ウチの道場に三珠神社の神様の分霊を祀っているからな。その関係で、多中さんとは少し面識がある」


 なーるほど。そういう繋がりか。


「そうですねぇ。竜一君とは彼が小学生からの付き合いですかねぇ」


 多中さんは懐かしむように言う。

 年上のお姉さんと、小学生からの付き合い。

 幸治が羨ましそうに竜一をみていたが、指摘するとややこしそうなので、スルーしておく。


「さて、立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」


 俺達は彼女に案内されて、隣の建物に移動する。

 そこは集会所のような雰囲気だった。


「ここは、普段は地域の皆さんの集まりなんかで、貸し出す場所です。今日はこちらに資料を持ってきたので、ぜひ確認してください」


 そう言って手で示す先には、パンフレットや、写真や、ファイルが置いてあった。


「わぁ。ありがとうございます。助かります」


 俺達は早速、パラパラと内容を確認する。

 うん。とてもありがたい資料だぞ。

 面白そうな事がたくさん書いてある。


「あ、これが白紐伝説ってやつだね」


 愛奏が、開いたファイルから資料を見つけた。


「そしてそれを簡単にまとめたものが、このパンフレットかな」


 俺はパンフレットを手にとって、みんなに見せた。


「うー。いっぱい文字が書いてあって、頭痛くなりそう」


「右に同じだ」


 どうやら風見さんと竜一は、活字が苦手らしい。

 山積みになった資料を前にして、苦笑していた。


「あの、伝説のお話は多中さんが教えてくれるんですか?」


 真田さんが訊ねた。


「いえ。私でもいいんですが、ウチの宮司ぐうじがノリノリになっちゃいまして。もうすぐ来ますよ」


 多中さんは、なにやら若干呆れたような顔で、教えてくれた。

 宮司って確か神社で一番偉い人だよな。

 その人がノリノリとは、どう言うことだろうか。

 そんな事を思っていると、集会所のドアが開いた。


「やぁやぁ。西ノ山高校の皆さん。こんにちは!」


 入ってきたのは、いかにも神社の人って感じの服を着た、白髪交じりの男性だった。

 この人が宮司さんだろう。


「紹介します。三珠神社で一番偉い人の神薙です」


 多中さんが男性を紹介してくれた。

 神薙とな? これはひょっとしてひょっとするのでは?


「はじめまして。私は、神薙かんなぎ与一よいちです! これで、皆さんとも縁ができましたね!」


 神薙さんはそう言って、ニカッと爽やかスマイルを俺達に向けるのだった。



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各話のあとがきを除いて、文字数が10万字突破しました。

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