文化祭準備編
第23話 文化祭で急接近!①/そうそう、こんな企画だった
竜一の道場から帰ってきたその夜。
俺は母さんに道場に通いたいことを伝えた。
「なるほど。運動のためね」
「うん。体験してみて、ちょっと楽しかったんだよね。ダメかな?」
当然、道着など一揃い必要だし、通うなら月謝だってかかる。
親の許可だって当然必須だ。
「優真。バイトも始めているし、無理はしてない?」
母さんが気遣うように俺の顔をうかがう。
まぁ考えてみれば、学校行って、バイトして、道場に通って、今までの引きこもり体質から真逆のアグレッシブさである。
心配するのも納得できる。
「大丈夫だよ。ムリはしてないよ。俺、今が楽しいんだ。イメチェンして、友達が増えて。それにこの一週間だけでも充実しているなって感じていてさ」
俺の言葉に母さんは目を瞑って考え込む。
「わかったわ。お父さんはまぁ面白がって認めるだろうしね。ただし、月謝は半分しか出しません。自分で決めた事なら、自分で稼いだお金で通いなさい」
「もちろんだよ。こういう、やりたい事が出来た時のためにバイト始めたんだから」
「そう。ならいいわ。それじゃ藤門君の家に、連絡しないといけないわね」
ということになった。
こうして俺は竜一の道場に通うことになった。
と言っても、バイトと勉強の兼ね合いから週一回だけだ。
それでも体動かせるし、なんなら筋トレの時間に自主トレすれば問題ないだろう。
■□■□
翌日の月曜日。
朝礼前の我らが一年二組の教室。
「というわけで、よろしくね。竜一」
「ああ! 歓迎するぞ。一緒に頑張ろう!」
俺は竜一に報告した。
本当は、RINEでメッセージ送っても良かったけど、これからお世話になるのだ。
こういうのは顔を見て言う方が良い。
その報告を聞いた彼は物凄く嬉しそうだった。
「良かったな。竜一。目つきがめっちゃ鋭くなってるぞ」
幸治が笑って指摘する。
「友達と一緒に稽古出来るんだぞ。これほど楽しみなことはない!」
朝からめちゃめちゃテンションが上がっていた。
「ところで、幸治はどうするの?」
「俺か? それが父ちゃんと母ちゃんに言ったんだけど、余裕ないってさ」
「そっか……」
まぁ各ご家庭によって方針は違うし、経済力も違う。
現実はちょっと俺達に厳しい。
しかし幸治はニヤリと笑う。
「でもな、バイト始めて自分の金で行くなら問題ないってよ」
「幸治、それって?」
「ああ。俺はまずはバイト探しからだな!」
それは朗報だ。
竜一も恐ろしい顔になっているので、ニッコニコなのであろう。
「待っているぞ。幸治」
「おうよ。なんだかんだ言って、面白かったしな! やっぱロマンあるだろ」
「だよねぇ。『合理に達する』なんてもうなんか、ロマンの塊だよね」
「そう思ってくれるなら嬉しい。やっぱりお前たちはイイ奴だ」
三人でそんなことを話していたら、予鈴が鳴った。
■□■□
朝の報告からあっという間に時間が過ぎ。
今の時間は、今日最後の授業。
「さて、今日話し合うことは、今月末に行われる文化祭についてです」
教壇に立ってクラスに呼びかけるのは、担任の
五十代のベテラン教師で、担当教科は国語。
すらりと伸びた細い体に、髪型は白髪混じりのオールバック。
銀縁の細いフレームの眼鏡がとても良く似合っていて、手荒れのせいかなのか、白手袋をいつもしている。
さらに生徒に対しても言葉使いが丁寧なので、その姿と相まって教師と言うより執事っぽい。
そのせいで生徒の間では、バトラーだの、バトラーティーチャー略してバトTだの、あるいは執事先生なんてあだ名で呼ばれている。
ちなみに本人の前でそれを言うと、指導として必ず訂正させられる。
その本郷先生が、プロジェクターに投影したスライドを説明していく。
「西ノ山高校の文化祭『ニシノ祭』は、例年一年生は調べ学習を事前に行い、その学習成果を展示することになります」
「え~ガチ?」
「先輩の言ってたこと、本当だったのか」
「サイアクー」
口々に文句が出てクラス内が騒がしくなる。
さもありなん。文化祭なんて模擬店や出し物で楽しむもんだろう。
それが、まさかの発表展示会だからな。
俺も一周目はちょっと残念に思ったものだ。
いや、陰キャ全開だったから、文化祭を楽しみにしていたというより、調べ学習が不安だった。
調べ学習は班に分かれて活動するからな。
ボッチの俺にはあまりにもキツ過ぎた。
「はい! 静かにしてください!」
本郷先生が、ぽふぽふと手を叩いて呼びかける。
良く通る声が教室に響けば、それで静まりかえる。
何ていうかこの人が言うと、そうしないとダメな気がするんだよな。
俺達が良く教育されているともいう。
「皆さんの気持ちも良くわかりますが、これは決定事項であり覆せません。模擬店や出し物は来年、二年生になってからか、あるいは部活動の方で楽しんでください」
いくつかの部活動が文化祭に出店するから、確かに部活やってる生徒はそっちで楽しめる。
まぁなんにせよ教師から言われたことは、大概がひっくり返らないので従うしかない。
ただ、たしかこの研究発表って賞金が出るんだったよな。
「とはいえ、例年テンションが下がって、大した成果が出ないのも事実。そこで今年は趣向を変えてみました」
映っていたスライドが変わる。
そこには『賞を設けることが決定!』とポップな字で書かれていた。
「賞を設けることにしました。一年生各班の発表展示物を投票形式で順位付けして、優秀な発表展示をした上位の三班には金券形式で賞金が出ます」
教室内にどよめきが起こる。
そうそう。こういう企画だった。
教育機関がやっていいのか詳しくは知らないが、とにかくそういう事らしい。
「はい! バトラー先生! 金券って幾らくらいで、どんな券ですかぁ?」
恐れ知らずの風見さんが、面と面向かってあだ名で質問する。
オイオイ、彼女死んだわ。
「風見さん。私の事を呼ぶときは本郷先生と呼ぶように言いましたね? 夏休み中に記憶が抜け落ちましたか?」
ニッコリ笑って指摘する。
そのプレッシャーたるや。
背後にゴゴゴゴゴという擬音と共に、何かの怪物を幻視してしまう。
「す、すみませんでした。本郷先生……!」
風見さんが慌てて謝る。
あの圧があるからこそ、このクラスは統制されているのだ。
大人の精神を持つはずの俺ですら、ちょっとビビった。
「よろしい。気を付けてくださいね。さて、今の質問に答えましょう。金券の種類はプラネットバックスのプリペイドカードです。金額は順位によって違っています」
先生はスライドを変える。
プラネットバックスと言えば、高校生に人気のカフェのチェーン店だ。
先生達も良く考えたなぁと今でも思う。
「入賞の班は各メンバーに千円分。優秀賞は三千円分。最優秀賞は五千円分ですね」
ここでまた、どよめきが起きた。
そりゃあな。五千円分もあれば結構なもんだ。
ただなぁ、この賞設けて金券配るって話、実は今年だけなんだよな。
最優秀賞に選ばれた班が、のちに金券ショップに売って現金化したことがバレたのだ。
悪知恵というか、教師が生徒を信用しすぎた悲しい事案だった。
「はい。静かに。今から肝心の調べ学習の内容について説明します」
またクラスが静かになる。
映し出されたスライドには「教えたい! 光珠周辺のアレコレ」と書かれていた。
「例年テーマが違うのですが、今年はこの『教えたい! 光珠周辺のアレコレ』になりました」
さらにスライドが変わって詳細な内容が映る。
「この光珠地域周辺であればなんでも構いません。各班に分かれて、ニシノ祭に来た人たちに光珠の事について伝えたいこと、教えたいことなどを調べて発表してください」
そこで真田さんが手を上げた。
「はい。本郷先生。光珠地域周辺と言う事ですが、
「良い質問です。真田さん。その地域も含みます。まぁ言い換えれば、貴方達が住んでいるこの地域の事を調べて、発表してくださいという事ですね」
そうそう。それで一周目の俺は、所属した班のみんなとネットとかで調べてグルメガイド作ったんだっけ?
実際に食いに行きゃいいのに、金なくてネットの口コミだけで調べたテキトーな発表だった。
当然そんな適当な成果物だから入賞も出来ず、俺は班行動に疲れただけという空しい文化祭だった。
「発表方式は展示するということを念頭に置けば、こちらもなんでも構いません。パネル展示でも製本でも、あるいは映像にすることもありですかね?」
スライドに発表方法の一例が表示される。
大学を経験している俺にとっては、こういう調べてレポートとして提出することは何度もやってきた。
この二周目なら少しはマシなことが出来そうだ。
「ということで、ここからは班分けをします。せっかくですから分けるところから、皆さんに任せます。真田さん、
本郷先生がクラス委員長と副委員長に呼びかけて、生徒だけの話し合いが始まった。
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というわけで、前回の話からの続きを含めたので、若干構成がオーバランしましたが、今回から新展開。文化祭編です。
読んでいただき、ありがとうございます。
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