第24話 文化祭で急接近!②/愛奏の誕生日

「今の席順で分けるのが面白くなく、かといって好きなもの同士じゃ、俺みたいにあぶれる奴が出る。だったら誕生日で分けたらどう?」


 俺の提案したことに対して、クラス内はざわついた。


「誕生日?」


「あーなんか聞いたことあるそれ」


「みんなの誕生日が分かるってこと?」


「えー、それも嫌だなぁ」


 口々に言い合う。


「はい! 静かにするっ!」


 真田さんが鋭く呼びかけた。

 お、今度はなかなかのプレッシャー。


 クラス内が少し静かになる。

 そして彼女は俺に問いかけた。


「深影君。誕生日で分けるってどういう事?」


「うん。誕生日順に全員を並べて、その後、六人ずつで分けたらどうかな? これなら友達の誕生日を知る面白味があるし、好きなもの同士じゃないからあぶれる人がおらず、クジのように準備する手間はないよ」


 まぁこれ、本当は申告するんじゃなくて、身振り手振りで誕生日伝えて、一列に並んでもらうっていう研修やセミナーでたまに見かけるゲームだ。


 一周目の大学時代や社会人になってから受けた研修で、経験があった。

 一列に並べば、その後グループワークのチームを作るって流れ。

 俺の意見を聞いた神薙かんなぎさんが手を上げた。


「でもそれ、どうやって並ぶんですか? この教室狭いですよ?」


 神薙かんなぎさん。クラス副委員長で彼女も真面目な女子だ。

 彼女の特徴であるポニーテールが揺れた。

 顔立ちが整ってるから、密かに男子から人気があるらしい。


「たしかに、物理的に並ぶのは無理だけど、俺達にはこれがあるよ」


 取り出したのは、学校で一人ずつに配られているタブレット端末。

 授業でもよく使うヤツだ。


「学校で配られたアカウントでログインして、表計算アプリ立ち上げれば、並び替えは楽勝だよ」


 俺はさらっと答える。

 今度は真田さんが訊いてきた。


「ああ、なるほど。じゃあ誕生日を教えたくない人はどうするの?」


「それなら、答えたくない人は誕生月だけ答えるとか、それも嫌な人はもう一番後ろに回してしまえば並べられるよ」


 ちなみにちょっと悪知恵を働かせると、好きなもの同士でも組めたりする。

 自己申告の上、確かめるつもりがないから、ウソを言えばいい。


 組みたい相手と近い誕生日を言って横に並べばいいのだ。

 果たして、ウソを言える度胸のある人はいるだろうか。


「なるほど。それはちょっと面白そうね。他に意見がある人はいますか?」


 真田さんが呼びかける。

 すると珍しく風見さんが手を上げた。


「はい。深影っちのやり方で良いと思いまーす」


 おや、風見さんが賛同してくれた。

 彼女だったら何か言って、引っ掻き回すかと思ったが。

 そして、愛奏、幸治、竜一も手を上げた。


「私も賛成。皆の誕生日が分かるのって面白いかも」


「いいんじゃねーか。それで」


「うん。俺もそれでいい」


 四人の賛同を得て、クラス内がガヤガヤし始める。


「いいかも」


「あんた誕生日いつだっけ?」


「深影ナイス。女子の誕生日知れるじゃん」


「えーめんどい」


 などなど、おおむね好意的な声が聞こえてくる。

 それを受けて、真田さんが言った。


「それじゃ、深影君のやり方で班を決めたいと思います」


「「「「意義なーし」」」」


 ということになった。


 ■□■□


「それじゃ、ちょっと表作るから少しだけ待ってて。真田さんと神薙さんは皆の誕生日を聞いてくれ」


 言い出しっぺなので、俺が前に出て指示を飛ばす。

 そして持っていたタブレット端末を教室の大型モニターに繋いで、表計算アプリを表示させた。


 さらに教卓に置いていた座席表を参考にして、全員の苗字だけを高速で打ち込んでいく。

 ちなみに学校から配られたのはタブレット端末だけだが、個人でアクセサリーを用意してもいい事になっている。

 そのため俺は、父さんが使ってないキーボードを家から持ってきていたりする。


「うわ深影、打ち込みはやっ」


「すげー、爆速で名前が並んでいくぞ」


 男子たちが感心した声を上げた。

 一周目に培った事務スキルがここで役に立ったな。

 俺はものの三分程度でさっと作り上げた。


「まぁこれでいいだろ。ごめん、変換難しい人はカタカナにしたよ」


「深影君ありがとう。これ、作ってる最中に聞いた人の誕生日です」


 神薙さんがメモを渡してくれる。


「えーっとこれを入力してっと。それじゃ続きどーぞ」


「はい、それじゃ八条君からお願い」


 真田さんが呼びかける。


「俺、九月三十日」


 幸治は九月三十日と。

 こうして俺は申告してくる誕生日を打ち続けた。


 その途中、愛奏の番が来た。

 ふっふっふ。愛奏の誕生日を知るチャンス到来。

 実はこの誕生日の提案には二重の思惑が乗っている。


 俺の意見が通れば、すんなり彼女の誕生日を確認できる。

 仮に却下されても、この話題をきっかけにして彼女の誕生日を聞く。

 どちらに転んでも愛奏の誕生日を確認できるという策。

 上手い事いってまさに計画通り!


「はい! 私は十月五日だよ」


 なるほど十月五日と。


 十月五日!?

 俺は心底驚いた。

 だって、俺の誕生日も十月五日なのだ。


 ええええええええ!?

 そんなことあるぅ!?


 ウソだろ。ガチかよ。

 俺は内心混乱した。


「どうしたの? 深影君」


 真田さんが不思議そうに首を傾げた。


「あ、いや実は俺の誕生日も十月五日なんだよ」


「え!? 優真君も!?」


 愛奏も俺と同じく、かなり驚いていた。

 クラス内が騒がしくなる。


「わー! すごーい。良かったねぇ深影っちぃ~」


 風見さんが囃し立てる。


「はい! そこ、囃し立てない!!」


 真田さんが注意する。


「はいはい。とにかく、ちゃっちゃと誕生日言ってくれー」


 俺もとりあえず流す。

 つまり俺と愛奏は同じ班ってことだ。

 やったぜ!!


 俺は上機嫌で残りの誕生日を打ちこんでいった。

 そして、一覧をソートかけて並び替えた結果。


「はい。班が決まったようなので、各班に分かれて何を調べるか話し合ってください」


 本郷先生が指示を出す。


 ここで、俺達の班のメンバーを誕生日の並びで紹介しよう。


 真田瑠姫(九月二十日)。

 八条幸治(九月三十日)。

 俺こと深影優真(十月五日)。

 近衛愛奏(十月五日)。

 風見雫玖(十月六日)。

 藤門竜一(十月十三日)


 以上、六人である。

 図らずも最近仲がいいメンバーが集まった。


 そうはならんやろ。

 なっとるやろがい!!


「誕生日で並んだら、こんなことになるとは……」


 俺はちょっと予想外だったので苦笑した。

 風見さんなんて一日違いだ。

 そんな偶然もあるんだなぁ。


「雫玖って誕生日違うよね?」


「まったく。あんたは、もう!」


 愛奏と真田さんが、呆れた顔で風見さんを見ていた。


「そうだよ。だって誕生会したもんね。私ほんとは、八月一日」


「え! ウソ言ったのかよ!?」


 その回答に幸治が驚いた。


「だって、私だけ仲間外れになるじゃん。真面目に誕生日を確認することないから、テキトーに十月って言ってれば愛奏達と同じになるでしょ?」


 おおう。誰かはやるだろうって思ったけど、風見さんがやったか。


「それにしたって度胸がある」


 竜一が感心したように言う。


「褒めたってなにも出ないよー。フジモン」


「それ、褒めてないわよ」


 真田さんがため息を吐いた。

 その様子を見て俺は愛奏、風見さん、真田さんは本当に仲がいいなぁと思った。

 風見さんのウソを二人とも気づいていたのにスルーしたのだから。

 なんだかんだ言って、三人一緒が良いのだろう。


 結果だけ見ると、愛奏の誕生日が聞けて、彼女や気の良い仲間と班になれた。

 俺にとっても最高の結果となったわけだ。


「さぁて、時間もないことだし、何調べる~」


 風見さんが強引に話を進める。

 とりあえず、全員で頭を悩ませるのだった。



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今の学校では、一人一台配られていると聞くタブレット端末。

大型モニターもあると聞きました。

ということで、こんな感じにしてみましたが、実際とは異なってるかも。

フィクションってことでご容赦ください。



読んでいただき、ありがとうございます。

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