第25話 文化祭で急接近!③/ブレストやってみよう!

 さて何を調べるか。

 こういう時は、手順通りに動いて決まるものから片付けたほうが良い。


 先ずは班行動のリーダーを決める。

 誰かが音頭取らなきゃ始まらない。


「先ずはリーダーから先決めない?」


 俺はみんなに提案する。


「そうね。それがいいわ」


 真田さんが賛同してくれた。

 だが風見さんが言う。


「そんなの、深影っちと瑠姫で良いじゃん」


「いや、それで良いの? 俺は話し合ってもいいと思うけど」


 そんなあっさり決めていいのか。

 いやまぁリーダーなんて面倒くさいって、みんな顔に書いているな。


「だって面倒くさいし。委員長の瑠姫か、さっき指示出してた深影っちで良いでしょ。ねぇみんな」


「俺は異議なーし」


「俺もリーダーなんて向いていない。だから頼む」


 風見さんと男子二人は同じ意見と。

 愛奏はどうだろう。


「優真君で良いと思うよ。さっきも前でてサクサク進めて、格好良かったし」


 愛奏から格好良いと言われてしまった。

 それなら、やるしかないよなぁ!


「そう? じゃあ真田さんはどうする?」


「私はいつも前に出てるから、今回は深影君のサブに回るわね」


 ということらしい。


「じゃあ俺が音頭取るって事で。よろしく」


 何かノせられた気もしないではないが、まぁいいだろう。

 俺は話を進める。


「それじゃ何をするかだけど、ブレストしてアイデア出そうか」

「ぶれすと? おい優真、なんだそれ?」


 幸治が質問してくる。

 いけね。高校生は使わない単語だったか。


「ブレインストーミングの略だよ。詳しくは省くけど、何でもいいからアイデアをとりあえず出すだけ出して、検討する感じ。大切なのは質より量。注意点はアイデア出すとき、絶対に否定しないこと!」


「へぇ。さっきの誕生日といい、優真って妙なこと知ってんな」


「まぁちょっと聞きかじった程度だけどね」


「アイデアって実現が難しい事でもいいのかしら?」


 真田さんが質問してくる。

 良い質問だ。


「もちろんだよ、真田さん。無理かどうかは、全員で判断すればいいからね。とにかくアイデア出してまとめていこう」


 まぁ今回はテーマが決まっているから、それを中心に置いて、周辺にアイデア書き出すマップを作ろうと思う。

 俺はノートを取り出すと見開きにして、その中心にさっき提示されたテーマを書き込んだ。


「それじゃ真田さん、記録をお願いできる? このテーマの周りに、出たアイデアを書いていってよ」


「わかったわ。任せて」


 俺は教室の時計をみる。

 ここまでで二十五分ちょい過ぎ。

 授業が五十分だから、残り時間が半分を切ってる。


「本郷先生。何調べるかって今日決めないとダメですか?」


 俺は手をあげて、教室の端で見守っている先生に訊いてみた。

 今日どこまで進めるか、聞いてなかったからな。


「今日決めなくても大丈夫です。ただし、締切は明後日まで。それまでに決めて、スクールアプリでやる事を提出してください」


 クラス全員に聞こえるように答えてくれた。

 となると配分は、アイデア出しとアイデア整理でいくか。


「という事らしい。授業時間中にアイデア出す事と整理する事までいきたいから時間計ろう。愛奏、今から七分計ってくれる?」


 俺はタイムキーパーを愛奏にお願いする。


「七分間でアイデア出すってことだね! ちょっと待って」


 彼女はスマホを取り出して、タイマーをセットする。


「じゃあ準備は良い? スタート!」


 というわけで、アイデアを言っていく。


「おもろいことしたーい」


「せっかくだ。最優秀賞を目指せるものにしたい」


「いい機会だから、神社仏閣を調べたい」


「映像とかちょっと興味あるわ」


「周辺の動物調べるとかどーよ」


「美味しい物を紹介するとかは?」


 などなど。

 抽象的な事から具体的なことまで、ばーっと出し合う。

 七分後。出したアイデアを整理する作業に移る。


「さて、この出たアイデアを残りの時間使って、グループ分けして整理しよう」


 俺はタブレット端末を出すと、先程の表計算アプリを立ち上げる。


「ここからは俺が打ち込んでまとめるから、真田さん進行補助お願い。それでみんなは、出したアイデアで同じようなモノや、同じカテゴリに分類できるモノがないか探してみてよ」


 グループ分けして整理すれば、見えてくるものがあるって寸法だ。


「仲間を見つける感じだな。じゃあコレとコレは同じじゃねーか?」


 幸治が率先して言っていく。


「なら風見と、俺の出したアイデアは、似ている気がする」


 竜一も積極的に加わってくれている。

 人付き合いがちょっと苦手でも、このメンバーなら大丈夫なようだ。


 偶然の結果ではあるが、このメンバーで集まって正解だったな。

 そんなことを思いながら、整理を進めていくのだった。


 ■□■□


 授業のチャイムが鳴った。


「はい。ではここまでです。先程も言ったように、明後日までには調べる事を決めてください。決まった班は、課題提出の枠を設けたので、スクールアプリから提出してください」


 本郷先生が全員に通達する。

 一応、アイデアのグループ分けまでは行けた。


 でもまだやる事は決まってないから、どっかで時間作って集まらないとなぁ。

 ふと、先生が俺達の班を見た。


「ちなみに全体を見ていましたが、深影さん達の班は、面白いやり方で話し合いを進めていました。まだ話が進んでいない班は、彼らに聞いて参考にしてください」


 おっとぉ。なぜか名指しで、言われてしまった。


「イェーイ。深影っちのおかげでーす」


 風見さんがダブルピースで囃し立てた。


「はい。風見さん静かにする。さて、それではこのまま、終礼に移ります。そのまま聞いてください。連絡事項は三点です」


 本郷先生が連絡事項を伝え、挨拶して放課後となった。

 俺は愛奏達に話を振る。


「で、どうする? 放課後に集まってやらないと、明後日までに提出できないと思う」


「そうねぇ。私は今日は塾があるから無理ね」


 真田さんが申し訳なさそうに言う。


「アタシはこれから部活だし、ちょっとムリ」


 風見さんも欠席っと。

 バンドメンバーとケンカ中だったが、話ついたんだろうか。


「俺、今日は理科の柳田先生に頼まれて、理科室に置いてる水槽の清掃を手伝う事になってるんだよ。つーことで無理だな」


「俺も今日は道場で稽古がある。すまない」


 ふむ。幸治と竜一も無理なんだな。

 竜一に関しては言わずもがなだが、幸治に関しては珍しい話だ。


 ウチって生物関係の部活がないから、先生が生徒を捕まえて一緒にやってるって話だっけ。

 生き物好きの幸治としては、サボれない案件だろう。


 俺は念の為にスケジュールを確認する。


「じゃあ今日は無理だね。俺もバイトだし。明日はどう? 俺は行ける」


「明日なら大丈夫だぜ」


「右に同じだ」


 男子連中はOK。


「明日なら私も大丈夫よ」


 真田さんも参加できる。


「アタシは、ほんとは部活あるけどこっち参加するー」


 風見さんは、良いのかどうか分からないけど参加っと。

 俺は愛奏を見た。


 そういえば、さっきから大人しいな。

 彼女はうつむいて、ぷるぷる震えていた。


「どったの? 愛奏?」


 風見さんが不思議そうに訊く。


「……ないの」


「はい?」


「今日も明日もそれ以降もずーっと予定がないの!!」


「ええ……」


 突然のカミングアウトに俺達は困惑した。

 なおも彼女は続ける。


「みんなの予定聞いてたら、私だけ青春をムダにしてる気がする!!!」


 そう言って彼女は机に突っ伏してしまった。

 俺は彼女を宥めにかかる。


「大丈夫だよ、愛奏。考えすぎだって」


 たまたま、愛奏以外が予定入っていただけだ。

 深刻に考える必要なないだろう。


「ううっ。そんなこと言って、優真君だって『コイツ暇人か』って思ったでしょ!!」


「いやいや、そんなことないよ」


 いったい何が彼女の地雷だったのか。

 ちょっとよく分からないが、えらく落ち込んでしまった。


 すると風見さんが愛奏の肩を優しく叩いた。

 だが行動は優しいのに、顔が獲物を見つけた悪魔になってる。


「深影っちの言う通りだよ愛奏〜。暇人だって忙しいでしょ〜?」


 友達だって攻められそうなら、攻めるスタンス。

 あ、悪魔だ……!

 当然のように真田さんも悪ノリしてくる。


「そうよ愛奏。暇人だって、家でゴロゴロしながらスマホみて忙しく過ごしてるでしょう?」


「なんですって! 二人ともケンカ売ってる!?」


 愛奏がガバっと起きて怒る。


「あははは。じゃあ深影っちあとはよろしくー」


「いけない塾に遅れちゃうわ〜」


「あ、逃げるな! 卑怯者ォ!!」


 彼女の叫びも虚しく、そそくさと悪魔二人は退散した。

 よく見ると他のみんなも、触らぬ神に祟りなしとばかりに立ち去っていた。


 残された俺は困惑する。

 俺にどうしろと言うのだ。


「優真君」


「はい」


 目が据わった愛奏に見つめられる。


「私、暇人を辞めるからね!!」


「アッハイ。頑張って……ね?」


 彼女のよく分からない宣言を聞いて、とりあえず返事する。

 結局その日は、時間が許す限り憤慨する愛奏を宥め続けるのだった。



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社会人経験を遺憾なく発揮する優真君でした。


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