第26話 文化祭で急接近!④/光珠神社の伝説

 翌日の放課後。

 全員が集まれるので、今日中に調べることを決めて提出することになった。


 清掃当番を手伝って、ちゃっちゃと掃除を済ませ、机を合わせて会議形式にする。


「さて、それじゃ今日中に調べることを決めよう。さっき、みんなのタブレット端末に昨日整理したアイデアの一覧送ったらから、確認してくれる?」


 俺はささっと操作して指示を出す。


「はいっ! 深影っち。その前に質問!」


 勢いよく風見さんが手を上げた。


「ん? どうぞ」


「昨日、愛奏と二人きりになったけど、面白い事は起こりましたか?」


「ちょ!? 雫玖!!」


 愛奏が驚いて叫んだ。

 この子は本当に場を引っ掻き回すなぁと苦笑しつつ、俺は答えた。


「別に、風見さんが面白がりそうな事はなかったよ。俺もバイトあってそこまで残ってないし、掃除当番もいたから二人きりでもなかったし」


「えーだったら場所変えたら良かったのに。深影っちも愛奏もヘタレだなぁ」


「雫玖。私、昨日の暇人で煽られたこと忘れてないからね」


 愛奏が光を失った目で風見さんを見つめる。

 向けられたのは風見さんだったが、ちょっと背筋が凍った。


「ヒェッ。ご、ごめん。愛奏」


 風見さんは余りの迫力にビビって謝った。


「はぁ。もうさっさと始めるわよ。ふざけていたら、どれだけ時間あっても足りないじゃない」


 真田さんが促して会議が始まる。

 すると竜一が手を上げて言った。


「昨日帰ってから思ったんだが、全部盛り込むのは無理じゃないか?」


「それな。文化祭まで時間ないだろ? やるにしても一つか二つだと思うぜ」


 幸治もそれに賛同する。

 二人の言う通り、今月末の文化祭を最終の締め切りとして逆算すると、展示物作成の期間を設けて、さらに調べる時間を考えると結構カツカツだ。


「それなら、どれをするかだけど……」


 俺は一覧を眺めつつ、指を差した。


「やっぱ、堅実的なのは周辺の神社を調べることじゃない?」


「神社ねぇ。それなら、神社に寄り付く動物とかも調べられるかしら?」


 真田さんがアイデア一覧を眺めてつなげてくる。

 なるほど。それもありだ。


「でもさぁ、神社をいくつも調べるのちょっと大変じゃない? 一つの神社だけ調べたらどーお?」


 風見さんが提案する。


「じゃあ光珠神社とかどう? この間お祭り行ったし。優真君がちょっと興味持ってたよね」


 愛奏が思い出すように言う。


「あーなるほど。丁度いいかもね。夏の思い出があって印象深いし」


 俺は大きく頷いて同意した。

 そういや、この前の武術体験の時に、竜厳さんから詳しい話を聞きそびれてたな。

 何気なしに竜一を見ると、腕を組んで思案していた。


「そういえば、爺さんが言っていたな。光珠神社には面白い伝説があると」


「伝説?」


 俺は興味が沸いた。


「フジモン。伝説って?」


「ああ、風見。なんでも大昔、とある男が別の男から女性を奪った話らしい」


 なんとまぁ。不思議な伝説だ。

 幸治が怪訝そうに言う


「竜一、それっていわゆる寝取りモノか?」


「どうだろう? たしか悲恋とも純愛とも言われている伝説だったと思う」


 女性を奪って純愛とは。何やら面白い気配がする。

 これはちょっと詳しく調べたい。

 俺は手を上げた。


「俺、その伝説を調べるに一票」


「私も。それ気になる」


 愛奏が続けて手を上げた。


「んー。確かにちょっと面白そう。あたしも賛成」


「そうね。光珠神社ってのも、私達に縁があって良さそうよね」


 風見さんと真田さんも同意した。


「俺も異論はない」


 竜一が頷いた。

 最後、幸治に全員の視線が向く。


「光珠神社って蛇の神様だったよな! どんな蛇か気になるよな!」


 生き物好きの彼らしい言葉で、手を上げた。

 これで満場一致。

 俺は全員を見回した。


「じゃあ俺達の班は光珠神社の伝説を調べるってことで決定!」


 そういう事になった。


 ■□■□


 その後、展示形式をどうするか話し合った。

 これは俺の提案でパネル展示にすることにした。


 調べるのにどれだけ時間が要るか分からないので、最悪、制作時間が少なくても原稿をパネルに配置すれば展示物として形になるからだ。


 さらにアイデア一覧からチョイスして、動画もやる事になった。

 これは真田さんが出したアイデアだ。


 神社の様子を動画か写真で撮って、それを編集してウィーチューブに限定公開で上げることにした。

 二次元コードを張り付ければ、パネル展示とハイブリッドにできるから良さそうだ。


 ただし、上げることがOKなのかは先方に確認を取ってから、という結論になった。


「とりあえず、いったんここまでだね。送信っと」


 俺は決まった内容をまとめて、スクールアプリに入力して提出する。


「やー、決まるの早かったねー。流石、深影っち。これならまだ部活にいけるよ」


 風見さんは既に鞄を持って移動準備を始めていた。


「そうね。グダるかと思ったけれど。これもリーダーが優秀だからかしら?」


「うんうん。優真君のリーダーシップのおかげだね!」


 三者三様で俺の事を褒めてくれる。

 ちょっと照れる。

 単純に一周目の経験をもとにやっただけなのだが。


「いやいや、みんながしっかり話し合いに参加してくれたからだよ。これからが大変だけど、頑張っていい物を作ろうね」


 俺はみんなに言った。

 一周目にお世話になった先輩曰く、こういう時に鼓舞しておくことが、いいプロジェクトにする秘訣だそうだ。


「おうよ。優真。バッチリ一番獲るぜ」


「ああ、光珠神社はウチの道場とも所縁があるからな。頑張ろう」


 幸治と竜一が賛同する。


「やるからにはガチでやるよ!」


「私も補佐は任せて。深影君」


「楽しい調べ学習になりそうだね」


 女子たちもやる気満々だ。

 文化祭で展示するとはいえ、ただの調べ学習なのだが、妙なワクワク感がある。

 俺達はテンション高く盛り上がるのだった。


 ■□■□


 その後、解散となったのが、俺は教室に入ってきた本郷先生に呼び止めらた。


「深影さん。この後、ちょっといいですか?」


「えっと、良いですよ。特に用事がないですし」


「良かった。ではちょっとお話をしましょう。実は深影さんの姿も性格も、ずいぶんと変わってしまったので、ちょっと気になっているんですよ」


 穏やかに面談理由を語ってくれた。

 さもありなん。


 クラスのみんなからも驚かれてしまった。

 ただ、幸治や風見さんがフォローしてくれて、大騒ぎにはならなかったんだけど。

 正直あの二人のコミュ力は、目を見張るものがある。


「あ、それじゃ俺ら先に帰るわ。またな優真」


「また明日な、優真」


「ああ、また明日な幸治、竜一!」


 男子二人は教室を出て行った。


「それじゃ、部活行ってきまーす。またねー」


 風見さんはだーっと走って出て行った。

 真田さんと愛奏も教室を出て行く。


「それじゃ、お疲れ様」


「じゃあね! 優真君!」


 というわけで、残った俺は先生と一緒に別の教室に向かった。


「どうぞ、かけてください」


「はい、失礼します」


 俺と本郷先生は、対面で座る。


「さて、単刀直入に聞きましょう。劇的に見た目を変えたのはなぜですか?」


「はい、実はこのままじゃダメだって夏に思いまして……」


 俺はあらかじめ作っていたカバーストーリーを語る。

 まぁ正直に言ってしまったら、頭おかしいと思われるか、冗談にしか聞こえない。

 だから、それっぽい話を作って用意していたのだ。


「……というわけで、一念発起してイメチェンしたんです」


「なるほど。他から話を聞いた通りですね。良かった。実は悪い方向で何か問題があったのかと思ったんですよ」


「いえ、それはないです。このイメチェンしたおかげで、友達も新しくできましたし」


 俺は慌てて否定した。

 カバーストーリーはウソが多分に入っているが、事実だってちゃんとある。

 少なくとも、ポジティブに捉えてもらいたい話なのだ。


「それは良い。実のところ少し心配だったんですよ。一学期の頃、深影さんは一人でいることが多かったですからね」


「あははは。それはご心配をおかけしました」


 そりゃ、本当に迷惑をかけた。


「とはいえ、ムリは禁物ですよ。長年教師をやっていますが、ここまで見た目と性格が変わった生徒も珍しい。心が辛くなったら、ムリせず元に戻しても良いですからね」


 本郷先生の目には、本気で心配している気持ちが込められていた。

 必要とはいえ、ウソを言っている事にちょっとだけ罪悪感を覚えつつ、俺は頷いた。


「ありがとうございます。肝に銘じます」


 その言葉に満足したのか、本郷先生は微笑んだ。


「よろしい。さて、せっかくの機会ですし、何か困ったことや、私達先生に対して言っておきたい事とかありますか。遠慮なく言ってください」


 そう先生が促してくる。

 ふむ。確かにいい機会だ。

 なので俺は赤島の事を共有することにした。




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「伝説って? ああ!」が18年前のネタだと気づいて戦慄しました。


読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。

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