第27話 文化祭で急接近!⑤/先生からみた赤島と愛奏

「一つあります。赤島麗獅子君のことです」


 俺は意を決して言った。

 本郷先生は、居住まいを正す。


「赤島さんですか。彼と何かありましたか?」


 先生がそう訊ねるってことは、他にもトラブル抱えてんな。アイツ。


「はい。どうもウチのクラスの近衛さんに、しつこく絡んできてるみたいなんです」


「ふむ。近衛さんですか」


 先生は何を思ったのか、目を細めた。


「近衛さん本人はとても怖がってるようでして。その、俺も居合わせたときに、怯えて震えているのを二回確認しています」


「彼女が怖がっているんですね? ふむ。どうぞ続けてください」


 先生は俺の話を聞いて、不思議な反応になった。

 気になったが続ける。


「例えばこんな事があったんです」


 俺はこれまでのアイツとのやり取りを話した。

 夏の映画を観に行ったとき。

 夏祭りのとき。

 昼休みの一件。

 その日の放課後での電話。


 その際、思わず愛奏の胸の柔らかさを思い出しそうになったが、真面目な場面なので邪念を振り払った。


「……とまぁ、こんな感じでして。そんな経緯で俺は彼に敵認定されたっぽいです」


「そうですか……」


 本郷先生は目を伏せて言った。

 そして思案するように押し黙った。


 沈黙すること、一分くらい。

 先生は俺の顔を見る。


「これはオフレコで頼みます。誰にも言わないでくださいね」


 俺は同意して頷く。

 どんな話だろうか。


「正直に言って、赤島さんはとても難しい生徒です。我々教師も彼に手を焼いています。授業の無断欠席、途中退席、無断早退。他にも彼の問題行動は、枚挙にいとまがありません」


 かなりのオフレコ情報だ。

 言い方は柔らかいが、教師が他の生徒を悪しざまに言っているのだから。


「指導はしていますが、暖簾に腕押し。聞く耳を持ちません」


 まぁ聞く耳があったら、あそこまでしつこくない。


「先生達も苦労しているんですね」


「そうですね。我々も常に目を光らせていますが、それだけでは彼を止めることはできないでしょう」


 教師がさじを投げる人間とは。

 よほど、手ごわい相手らしい。


「退学とかそういう話にはならないのですか?」


 俺は訊いてみた。

 問題児なら退学にして、放逐するのも一つの手だと俺は思った。

 ところが、本郷先生は首を横に振る。


「彼の賢い所は一線を踏み越えないのですよ。たとえ越えていてもそれを我々が認識できなければ、どうすることもできない」


 恐ろしくタチが悪い。

 考えてみれば、一周目の時間じゃ卒業してからも愛奏を奴隷のように扱っていたのだ。

 狡猾な性格がうかがえる。


「なので、深影さん。もし、彼とトラブルになっているのなら、気を付けてください。何かあったらすぐに我々教師に相談してください」


 本郷先生の表情は心底心配している顔だ。

 たぶん俺に言えない事で、色々と問題が起こっているのだろう。


「わかりました。気を付けます」


「私からも他の先生に情報を共有しておきます。もちろん、深影さんや近衛さんの名前は出しません。『赤島さんが一部の生徒に付きまとっている』とでも言っておきましょう」


 それは安心だ。

 この間の昼休みに感じたことを思い出せば、正直俺だけではどうすることもできないと思ったのだ。


 大人の味方を増やす必要があると思う。

 頼れる人間が増えれば、それだけ愛奏の破滅を回避できるはずだ。


 仮面ファイターだって一人じゃ倒せない相手には、仲間と一緒に立ち向かうのだ。

 俺は一人でも多くの協力者を増やすことに決めた。


「ありがとうございます。先生。ちょっと心が軽くなりました」


「それは良かった。それにしても、近衛さんですか。彼女も心配ですねぇ」


 うーむと本郷先生は腕組みをする。


「近衛さんがですか?」


「ええ。皆さんは気づいてないかもしれませんが、彼女も一学期と比べて変わっているんですよ」


 俺はその言葉に驚いた。

 変わったところなんてあったか?


 先生は、続けて言った。


「見た目は変わってませんが、性格が一学期とは大きく変わっています」


 そうなのか。

 それは物凄く気になる。


「そういば、赤島君も一学期と変わったって言ってました。本人は心当たりなさそうでしたけど」


「ふむ。そうですか。確かに一学期の頃は赤島さんと仲良さそうでしたね。それでトラブルになった? いやでもどちらかと言うとプラス方面に変わっているし……」


 本郷先生は考え込む。


「先生から見て、具体的にどう変わったと思いますか?」


「そうですねぇ。何と言いますか、やたらとテンションが高いというか。一学期の頃は大人しい子だったんですよ」


 俺は記憶を探る。

 一周目はどうだったか。


 いや、彼女と話すのに必死で、そこまで見てなかったな。

 情けない事に判断が付かない。


「テンションが高いのって、風見さんの影響じゃあないですか?」


 俺はあの底抜けの陽キャである、彼女を思い浮かべて言った。


「風見さんですかぁ。その線もありますねぇ。あの子も別の意味で大変な生徒ですからねぇ」


 本郷先生は疲れたように、ため息を吐いた。

 赤島とは別らしいが、問題児認定されているようだ。


「まぁ折を見て近衛さんとも話してみます。深影さんと同じようにポジティブな理由かもしれません」


 本郷先生は一旦、結論を出した。

 というわけで、先生との面談はそこで終了となった。


 ■□■□


 翌日の朝。

 俺はいつものように光珠駅に向かっていると、駅の改札前に愛奏がいた。


 朝から愛奏を見かけるとは。よっしゃ、ラッキー!

 俺は意気揚々と声をかけた。


「愛奏、おはよう!」


 振り向いた彼女はニパっと笑った。


「あ、優真君! おはよう!」


 向日葵のような眩しい笑顔。

 ああ、今日も可愛い。

 俺はウキウキで提案する。


「一緒に学校、行かない?」


「もちろん! 行こう、行こう」


 愛奏は了承してくれた。

 俺達は改札を通って駅に入る。


「いやぁ今日は愛奏と駅前で会えたから、縁起がいいや」


「大げさだよ、もう。でも今日は良い日になりそうだよね」


 そんなことを話しながら学校に向かう。

 電車はすぐに来た。

 乗っている最中、俺は昨日の本郷先生の話を思い出す。


 ふーむ、やたらテンションが高いか。

 たしかに、一周目の記憶の彼女より明るいだろうか?

 スマホを見ていた愛奏に目をやった。


「どうしたの? 優真君?」


「え? いやなんでもないよ」


 そういってごまかす。


「そう?」


 話を続けたそうだったが電車内だ。

 彼女はスマホに目を戻した。


 そして電車に揺られること暫く。

 菊理駅でおりて、二人で学校まで歩く。


「そういえば、昨日の本郷先生との話は大丈夫だったの?」


 愛奏が訊いてきた。


「うん。イメチェンした理由を話したら、無理しないようにって言われたよ」


「そっかぁ。優真君、頑張ってるもんね。藤門君のところの道場にも通うんでしょ? 本当に無理しないでね」


 彼女に心配されてしまった。

 とても優しい。


「それを言うなら、愛奏も無理してない?」


 俺は昨日の本郷先生の言葉が気になって、言ってみた。


「無理? してない、してない。どうして?」


 無理してないのか。

 本郷先生の杞憂なのだろうか。

 そんなことを思いつつ、俺はもっともらしい理由を言ってごまかした。


「いや、ほら、暇人辞めるって宣言してたでしょ? 無理に何か始めなくてもいいんじゃないかなって思ってさ」


「あーなるほど。でもさ、みんなが頑張ってるのに、一人だけ暇してるって何か焦らない?」


「そっかぁ。焦るのは分かる気がするなぁ」


 俺は同意しつつ思案する。

 ふーむ。焦りか。

 一周目をほぼ無駄にした俺も、二周目を充実させようと色々と詰めたからな。


 なんとなく彼女の気持ちが理解できた。

 だったら何か提案してみるか。


「あのさ。もしよかったら、定期的に俺と一緒に放課後、勉強しない?」


 やることリストNo.10「一緒に勉強」を提案。

 俺は断られた場合の事を考えて、次の提案を伏せてターンエンド。


「いいの!? 忙しくない? 迷惑じゃない?」


 おっとぉ、えらく食いついてきたぞ。


「全然迷惑じゃないよ。と言っても俺も勉強が得意じゃないから、あんまり効果ないかもだけど」


「そんなことないよ! 私、一緒に勉強したい」


 愛奏はキラキラの目で俺を見る。

 そうか、そんなに俺と一緒に勉強したいのか。

 嬉しい。


「じゃあ、俺のバイトがない日にやろうか」


「うん。約束ね!」


「ああ、約束だね」


 そういう事になった。


「はぁーっ! これで雫玖達に暇人だなんて煽られないよ」


「でも、別の事で揶揄われそうだなぁ」


「その時は『羨ましいでしょ~?』って逆に煽り返してやろうっと」


「あははは。それは反撃になってるんだろうか」


 こうして俺達は学校に登校するのだった。



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【オマケの小ネタ】

やることリストNo.10は愛奏の好感度が上がると、ランクアップ提案チェンジで、ExNo.エクストラナンバー10「家で一緒に勉強する」を提案できる。


読んでいただき、ありがとうございます。

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