第28話 文化祭で急接近!⑥/みんなでランチミーティング

 愛奏と登校したその日の朝礼。

 本郷先生からの連絡事項で、文化祭の事が伝えられた。


「さて、この間のLHRロングホームルームで言っていた通り、今日が文化祭で展示する内容の締め切りです。すでにほとんどの班が提出していますが、まだ出てない班があります。今日の放課後までに提出するようにしてください」


 俺達の班は大丈夫だ。

 光珠神社の伝説を調べることになっている。

 先生は話を続ける。


「また、調べることが決まっている班は、来週のLHRまでに調べる方法や調べる場所などを提出してください。これは本日の昼までにスクールアプリでアンケートフォームを送りますので、回答をお願いします」


 そういえばそんな感じで進めたっけ。

 一周目の記憶がぼんやり蘇ってきた。


 調べる場所は光珠神社だが、調べる方法か。

 竜一のお爺さんの竜厳さんに聞くのか、それとも光珠神社に聞きに行くのか。


 他にも決めないといけない物がありそうだ。

 そんなわけで、先生の連絡事項は終わり、朝礼は終了となった。


 ■□■□


 昼時。

 大教室の一角で、俺達の班は昼飯を食べながら顔を突き合わせていた。


 ちなみに今日の俺の弁当メニューはオムライス。

 冷めても美味しく仕上げられて満足だ。

 他のみんなは、弁当組が愛奏と竜一と風見さん。大きなおにぎり四つが持ってきているのが幸治。そして真田さんは菓子パンだ。


「え~っと班の名前、調べる場所、調べる方法、展示の方法かぁ」


 俺は送られてきたフォームの内容を確認して呟く。

 班の名前を決めるのってあったなぁ。

 たしか一周目じゃ班メンバーの女子が決めたんだっけ。


「ふぁんのなまうぇどーふる?(班の名前どーする?)」


 風見さんがお弁当の卵焼き食べながら言う。


「こら、雫玖。食べながらしゃべらないの!」


 真田さんが注意する。


「ごめんなさーい」


 風見さんは、ほぼ棒読みで謝罪しつつ続ける。


「ここはばーっと深影っちにあやかって、チーム優真ってのはどーお?」


「なんで俺だけなのさ。もう少し全員に関係ある事にしよう」


 流石にそれは勘弁願いたい。


「んぐ。じゃあよ、光珠神社調査隊はどうだ?」


 幸治が鮭おにぎりを飲み込んでから提案する。

 それはそれで微妙だなぁ。


「それはちょっとねぇ。調査隊なら、いっそのこと最優秀賞獲り隊はどうかしら? タイは調査隊の隊ね」


 真田さんの発言に、全員が微妙な顔をした。

 そうか、真田さんは独特な感性を持っているんだな。


「なによ、みんな。ダメならダメってはっきり言ってほしいわ」


 彼女は空気を察して、恥ずかしそうにもそもそと菓子パンをかじる。


「瑠姫、ダッサ。今まででワースト1」


 風見さんが遠慮なく言った。

 瞬間、真田さんの顔から表情が抜ける。


「雫玖。あんたは後で覚悟してなさい」


「なんでよー! はっきり言えって言ったじゃん!」


 雉も鳴かずば撃たれまいに。

 彼女はどうも余計なことを言うタチようだ。


「まぁまぁ瑠姫、落ち着いて。私は雫玖のチーム優真が良いな」


「うん。俺もそう思う」


 愛奏と竜一が意外なことを言う。

 なぜだ。


「でしょー? ウチの班は深影っちが中心で回ってるんだし、そのリーダーの名前を使うのはアリでしょー」


 うんうんと大きく頷きながら風見さんは賛同した。


「その通りだ風見。深影が俺達を引っ張ってくれている」


「ということで、決まりだね! 私たちの班はチーム優真!」


 愛奏が強引にまとめる。


「まぁ良いんじゃね」


「仕方ないわね」


 幸治と真田さんも同意してしまった。


「あの、俺の意思は?」


「そんなものないよ? 深影っち」


「俺がリーダーなんだよね!?」


 理不尽にも班の名前が決まった。

 俺は納得できなかったが、話を進める。


「それで調べる場所はいいとして、方法はどうしよう?」


「爺さんに聞いても、結局は現地で調べる事になるだろう。だったら、三珠神社の人に聞いたほうが、良いと思う」


 竜一が提案する。

 ふむ。やっぱそうだよな。


「でも、いきなり行ってもお話してくれるかしら?」


 真田さんは不安そうに言う。


「だったらよ。直接行って事情を話をしてから、日程を合わせるとかどーよ?」


 幸治が三つ目のおにぎりに、取り掛かりながら言う。

 愛奏と風見さんはその案に難色を示した。


「うーん。二度手間にならないかな」


「えー? 面倒だなぁ。パパっと話をつける良い案なーい?」


 電話すりゃ一発だけど、そうか。

 若い頃の俺もそうだったけど、知らない人に電話かけるのめちゃくちゃ嫌だったな。

 仕方ない。ここはリーダーとして俺がかけよう。


「俺が神社に電話かけるよ。アポとってから行った方が失礼じゃないし」


 全員の顔が俺を見る。


「ガチかよ。勇者かよ。優真」


「いやいや、普通だよ。最初に高校生だって名乗れば、向こうだって察してくれるし」


 たいがい電話相手が子どもだと、優しくなるものだ。

 名乗っておけば、多少噛んでも問題ない。

 何より社会人経験があるから、別になんともない。


「優真君ってほんと大人だよね。私は無理だなぁ」


 愛奏はしきりに感心する。


「アタシもー。深影っちスゴイ」


「俺は、そもそも電話することがないな。電話する発想が大人だ」


 風見さんと竜一が、俺に尊敬の眼差しを向けてくる。

 大げさすぎる。

 たかが電話だろうに。


「まぁ人には得手、不得手があるからね。電話だけど、今日はバイトだし、明日の放課後かけてみようと思う」


「そうね。でもかける前に先生に言った方が良いと思うわ」


 あー。確かにそうだ。

 先走るとダメな気がするな。

 報連相は大切。社会人の掟。


「じゃあ今日か明日までに、先生に確認してからにしよう」


 俺はそう結論づけた。

 はからずもランチミーティングになったが、有意義だった。


 ■□■□


 そして翌日の昼休み。

 本郷先生に電話する旨を伝えると、了承してくれた。


 それだけでなく、先方の都合に合せる必要があるなら、平日に授業を抜け出して行くこともできるらしい。


 確かに考えてみれば、調べる対象が土日休みなら対応が難しいだろうし、平日でも向こうの担当者の都合で、授業中の時間しかムリな事もあるだろう。

 とにかく、日程調整がやりやすくなったと言える。


「いいですか。落ち着いて、はっきりと声を出して電話すれば大丈夫ですよ」


 本郷先生はそう言って、相手方に電話をかけるためのマニュアルを渡してくれた。

 俺には必要ないが、他のメンバーには有用な資料だ。


 というわけで、放課後に職員室の一角を利用して、学校の電話からかける事になった。

 俺はスマホでも良かったが、どうやら生徒の個人情報になるため、どこかに電話をかける場合は学校の番号からかける決まりになってるそうだ。


「電話するなら先生に確認してから」って言ってくれた真田さんに感謝だ。

 危うく俺のスマホでかけるところだった。


「何だか緊張するね」


 愛奏が少し不安そうに言う。


「深影っち、ガンバ!」


「お前、テンパったらよく噛むし、落ち着いていけよ」


 なんて言って、風見さんと幸治が応援してくれる。

 ちなみに今日も今日とて、班メンバーは全員集まっている。

 この班、集まりいいよな。

 一周目の時の班は、ほとんど集まらなかったのに。


「メモよーし。シャーペンよーし。三珠神社の電話番号よーし」


 俺は指差し確認で準備物をチェック。

 社会人の基本。

 電話するときは、筆記用具を準備しておくこと。

 先生に渡されたマニュアルにも書かれてある。


「準備はいいようですね。では、深影さん。私が控えているので、何か確認したい事があったら、ここの保留ボタン押してから受話器を置いて、確認してください」


「はい先生。わかりました」


 電話が一般家庭の物ではなく、いわゆるオフィス用の電話だ。

 使い方は知っているが、一応知らないフリして使用方法を事前に聞いている。


「じゃあ、かけるね」


 俺は受話器を手に取った。



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 今の若い子は、電話する発想がないって話聞きました。

 かけるのも出るのも怖いらしいですね。



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