第17話 新学期の最初は大忙し③/みんなでお弁当食べよう!

 新学期が始まって四日目。

 久しぶりに受けた授業はなかなか新鮮だった。


 十一年ぶりに会った先生方の授業。

 受け取り方がずいぶんと変わったのだ。

 一周目ではつまらなかった授業が面白く感じ、楽な授業が実は適当にやってるだけのダメな授業だった。


 とにかく、学校が楽しい。

 そんな中、新学期が始まってから一番の楽しみは昼休みだ。

 なにせ一周目の俺はボッチ飯やトイレ飯が多かったが、幸治や竜一と食べているのだから。


 小さい事だが、過去を変えたという事だ。

 こういう関係ない所でも少しずつ変えていけば、愛奏の破滅を回避できるかもしれない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛。やっと昼飯だ」


 幸治が呻いてやって来る。

 ちなみに、幸治とは少し席が離れている。


「今日はどこで食べる?」


「今日も残暑厳しくクソ暑いからな。エアコン効いてるし、やっぱここかぁ?」


「メンタル的な事考えると、ちょっと教室出て気分変えたいなぁ。昼時に開放している大教室は?」


「あっこ、女子多くね? ちょっとあの中に入るのは勇気がいる」


 幸治の言う通り、なぜか昼食時の大教室は女子が多いのだ。

 集まって食べることが多いからだろうか。


「だったら、ここで食べようか」


「おうよ。竜一ぃ、今日も教室だ」


 幸治が竜一に声をかける。


「わかった」


 彼もこちらにやって来る。

 だが、机を突き合わせて準備しようとした時だった。


「おーい、優真君」


 愛奏が声をかけてきた。

 風見さんと真田さんもいる。


「どうしたの? 愛奏?」


「今日、一緒に食べない?」


 おお、まさかの昼食のお誘いだ。


「え? 嬉しいけど、でもいいの?」


 俺は聞き返した。

 すると真田さんが言ってきた。


「実はちょっと困ったことになっているのよ」


「困った事?」


「赤島君達が大教室にやってきて、女の子をナンパしてるのよ」


「ええ……」


 俺はげんなりした。

 アイツら迷惑な連中だなぁ。

 というか、先生は何をしてるんだ。


「当然、私達にも絡んできてて……」


 真田さんは嫌そうな顔をした。

 風見さんも顔をしかめて言う。


「ホント、しつこくてさぁ。愛奏も怖がってるし、深影っち達が盾になってよ」


 なるほど。そういう理由か。

 それを聞いて断るなんてできない。

 つーか愛奏が嫌がってるんだから、諦めろよなぁ。あのチャラ男。


「わかったよ。そういう事なら、一緒に食べよう。幸治と竜一も良い?」


 俺は今まで黙っていた二人に聞く。

 どうもこの二人、女子が絡むと大人しくなる。


「おう。いいぜ」


「わかった。本当に下品な連中だ」


 というわけで、理由はともかく愛奏と一緒にお昼を食べることになった。


 ■□■□


 というわけで大教室までやってきた。

 広さが教室三つ分ほどあるこの場所に、賑やかな声が満ちている。


 生徒は確かに女子が多い。

 もちろん男子もいるが、どうも彼女持ちっぽいな。

 仲良さそうなカップルが、ちらちら見えた。


 六人席をさっさと作って、俺達は弁当を広げる。

 すると風見さんが目ざとく言ってきた。


「おー。深影っちとフジモンのお弁当も美味しそうだね」


 フジモンって竜一の事か。

 八条のハッチといい、風見さんって妙なあだ名付けるの得意だな。


「そ、そうか? 俺はともかく、優真の弁当は凄いぞ。自分で作っているそうだ」


「え!? 優真君、料理できるの?」


 愛奏が驚く。

 無自覚だろうが、竜一ナイスアシスト。

 アピールできるチャンスだ。


「うん。ちょっと料理に目覚めてね。週二で母さんと妹の晩御飯とか作ってるんだ」


「お弁当だけじゃなくて、晩御飯も!? 凄い」


 彼女はさらに驚いてくれた。


「まぁ大したものは作ってないけどね」


「ウソつけ! あれは大したものだろ、一人でモテようとしやがって!」


 幸治が嫉妬の声を上げる。

 真田さんがその言葉を受けて首を傾げた。


「あれ? ということは写真でもあるのかしら?」


「ああ、それなら記録用に……」


 俺はスマホを取り出して、これまで作ってきた料理を見せた。

 ハンバーグ、パスタ、オムライス、炊き込みご飯、焼き鮭定食……etc.


「すごいわね。これご両親が作ったんじゃなくて、全部深影君が?」


「ああ、うん一応」


「うわー、美味しそう。食べてみたくなるね」


 愛奏がキラキラした顔で言う。

 そういや食べることが好きだって言ってたな。

 これは計画していたアレのチャンスか?


「あー、その、良かったら作ってこようか? 弁当」


 やることリストNo.三十六。

「愛奏に弁当を振る舞う計画」を発動。


 俺は、提案してターンエンド。

 さながら決闘者のように俺は彼女の出方を待つ。


「えっと、良いの?」


「もちろん。他の人に感想を聞いてもらえるなら、チャンスだしね」


「おー深影っち、やるぅ~」


 風見さんが感心した声を出す。

 一周目で会社の先輩から教えてもらったこと。

 チャンスがあれば即断、即決、即行動。


 次があるなど考えず、ゴー判断が出来るなら往け。

 先輩曰く「恋愛においても応用が利く」と言っていた。

 聞いた当時は女性と無縁の環境だったから話半分だったが、今役に立っている。


「それじゃあ、一回、お願いしようかな?」


 愛奏はしばらく考えて、結論を出した。


「わかったよ。それじゃさっそく明日、作ってくるね」


 よーし、ありがとう先輩。

 今、貴方の教えを実践してチャンスを掴みましたよ。


「俺、女子が作ってくる話はマンガで読んだことあるけど、男が作ってくるのは見た事ねぇな。すげーよ、優真」


「多様性の時代だな」


 幸治と竜一が、わけわからん事言っているがスルーした。


 ■□■□


 とまぁそんな感じで、和気あいあいと弁当を食べているわけだが。

 なぜか話題に上るのは俺のバイトの話。

 まだ二回しか行ってないから、そんな話すこともないのだけれど。


「でもよ、俺達と違って働いてるんだぜ。ちょっと大人じゃん」


「そうかなぁ? 別にバイトじゃなくて家の手伝いでも大人だと思うけど」


 家事手伝いだって立派な仕事だ。

 稼いでるって事が大人ではないだろう。


「家の手伝いだって、アタシはしてないかなぁ」


 風見さんが苦笑いする。


「風見さんは部活動を頑張ってるじゃないか。今しか出来ない事をやることだって大切だよ」


「んー。そうかなぁ?」


「そういえば、近衛や真田は、部活はしてないのか?」


 相変わらずのイケボで竜一が訊ねた。


「え、私? やってないよ。興味ありそうな部活なかったんだよね」


「私は塾があるから、時間取れないのよ」


 なるほど。愛奏と真田さんはしてないのか。


「瑠姫はともかく、部活も塾もやってないなら、愛奏もバイトとかしてみたらどーお?」


 風見さんが提案する。


「うーん、考えてみようかな?」


「深影っちと同じバイトとか、してみたら良いんじゃない?」


「でもそれだと、お父さんと一緒に働く事になっちゃうしなぁ」


 はたと、みんなの動きが止まった。

 おっとぉ。それは燃料投下だぞ、愛奏。


「どうしたの、みんな?」


 愛奏は首を傾げた。


「えーっと、愛奏。確認だけど、お父さんって何の仕事しているのかしら?」


 真田さんが代表で質問する。


「モリオカデンキ媛神店の店長さん」


 愛奏が答える。

 続いて真田さんは俺を見た。


「それで、深影君のバイト先はどこだったからしら?」


 答えたら盛大にイジられそうだな。

 いや、みんな答えが分かってて言質取りたいようだ。

 なにせ目が期待でキラキラしてる。


「モリオカデンキ媛神店」


 俺は答えた。


「きゃー! 親狙いだよ、瑠姫!」


「外堀を埋めるつもりよね! 雫玖!」


「お前いつか、『お父さん、娘さんをください!』ってやるつもりだろ! チクショウ!!!」


 女子二人+嫉妬の幸治が、きゃいきゃいと囃し立ててくる。

 そんな中で竜一は、冷静に質問してきた。


「優真、偶然なのか?」


「うん。面接行ってビックリ。世の中狭いよね」


「うそだー。愛奏の事狙って、お父さんに近づいたんでしょー」


「ちがうよ! 俺はそんな下心で働くわけないよ!」


 俺は否定する。

 無駄な抵抗だと思うけど、愛奏に誤解だけはされたくない。


「なんか、あー言っているよ。愛奏はどう思う?」


 風見さんが愛奏に水を向ける。


「どうって、どっちでも良いと思うよ。だって下心あっても、お父さんが選んだなら大丈夫だってことだし。優真君が真面目なのは知ってるし」


「なるほど。そういう考え方もあるわね」


 真田さんが納得したように言う。

 良かった。愛奏はなんとも思ってないようだ。


「えーなんかつまんない。もっとイチャイチャしろー。恥ずかしがれー。ぶーぶー」


 風見さんがブーイングしてくる。


「あんたはどういう立場なのよ」


 真田さんはその態度に呆れた。


「おい、優真。俺の目の前でいちゃついたら、お前のRINEに俺のキモカワ生物コレクション写真を爆撃するぞ」


「どういう嫌がらせだよ。幸治」


 こいつ、生き物が好きで詳しいからな。

 どんな生物の写真を送りつけられるか、分かったもんじゃない。


 そんなこんなで、平和に昼休みが終わった。

 結局、今日は赤島達は現れなかった。




-----------------------------------------


読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る