第16話 新学期の最初は大忙し②/バイト面接でビックリ

 学校を出て、電車で一駅。

 この辺の繁華街である媛神ひめかみ駅で降りて、向かう先は家電量販店「モリオカデンキ媛神店」


 俺は約束の時間の七分前に到着。

 受付サービスカウンターに伺う。


「失礼いたします。本日、アルバイトの面接に伺った深影と申します」


 対応してくれた女性店員さんが、ちょっと驚いたような表情をした。


「は、はい。それじゃ少しお待ちください。近衛さん、近衛さん。アルバイト面接の方来られてます」


 服についていたレシーバーマイクで連絡を入れてもらう。

 態度が固すぎただろうか。

 高校生ならもう少し砕けても良かったかもしれない。


 それにしてもいま、近衛さんって言ってたような……?

 気のせいか?


「ああ、待っていたよ。それじゃどうぞこちらへ」


「はい。失礼いたします」


 やってきた近衛さんは穏やかそうな男の人だった。

 年齢はウチの父さんと同じくらいだろうか。


 俺は案内されてバックヤードに移動する。

 移動した先は、小さな会議室ような部屋だった。


「さてどうぞ、かけてください」


「失礼いたします」


 俺はキビキビとした行動で座る。

 一周目から考えると久しぶりの面接だ。

 大学時代に練習した動きを案外、覚えているなぁ。


「いやぁ君、高校一年生でしょ? 礼儀正しいねぇ。就活生みたいだよ」


「恐れ入ります」


「ははは。そんな固くならないで良いよ」


 そうはいっても体に染みついているからなぁ。

 うーん、ちょっと困った。


「さて私はここの店長で、人事も担当している近衛誠司せいじと言います。よろしくお願いします」


「はい。深影優真と申します。本日はよろしくお願いいたします」


 面接の始まりだ。

 近衛さんという名前が気になるが、今は面接に集中だ。

 立地と待遇面を考えるとここで決めたい。


「まぁ履歴書に書いてある通りだと思うけど、なんでウチのバイトに応募したのか教えてください」


「はい。私はバイトに興味があり、やりたいと常々思っておりました。ただ高校生活に慣れるまでは学校に集中しておりました。夏休みも終わり、そろそろバイトを始めても良いと親からも許可をもらいまして、その時御社の求人を拝見して、私の得意分野を活かせると思い志望しました」


「あははは。本当に就活生を相手にしているようだなぁ」


「あ、えっと恐れ入ります」


 アルバイトとはいえ、志望動機が長すぎたか?


「ちなみに得意分野って何ですか?」


「はい。パソコン関係です」


「やー今の若い子って、パソコン知らないって話だけど、深影君は得意なんだね」


「はい。父の影響でパソコンやゲーム関係は得意です」


 そう、単身赴任で今は不在の父さんは、生粋のオタクだ。

 若いころはパソコンを自作していたと豪語するくらいなのだ。

 その影響で俺も一般の人より詳しくなった。


「なるほどねぇ。お父さんの影響か。良いねそういうの。私もそういうの得意で、その縁でこの会社に入ったんだけどねぇ。ウチの娘は全く興味を示さなかったんだよ」


 近衛さんは少し悲しそうな顔をする。

 娘さんの話が出た。


 愛奏の事を聞くべきか。

 いやでも面接と関係ないし。

 でも凄く気になる。


「あ、あの。面接と関係ない話で恐縮ですが、ひょっとして娘さんて西ノ山高校に通ってませんか?」


「ん? そうそう。履歴書見たときに、ウチの娘と同じだと思ってたんだよ」


 そっかぁ。同じ学校かぁ。

 これもう99%正解じゃないか。


「もしかしてですが、娘さんのお名前は愛奏さんじゃありませんか?」


「あれ? そうそう。愛奏だよ。ひょっとして知り合い?」


 うおおい! 愛奏のお父さんじゃないか!!!!

 マジかよ。世間狭すぎだろ。


「はい。同じクラスです。娘さんには大変お世話になっております」


「ああそう! いやー世間て狭いねぇ」


 近衛さんは驚いていた。

 俺も驚いたよ。ほんと。


「愛奏って学校では元気にしてるのかい? 年頃のせいかあまり話してくれなくてね」


「はい。元気にしてますよ。学校じゃありませんが、この間も夏祭りにクラスメイトと一緒に行きましたし」


「ああ、そういえば行ってたね。そうかぁ青春だなぁ」


 近衛さんは遠き日を懐かしむような目をした。


「じゃあ、クラスメイトの父親じゃあ少し話しにくいかもだけど、次の質問行くよ」


「あ、はい」


 というわけで、面接は進んでいった。


 ■□■□


「じゃあ、これで面接は終わろうか」


「はい。貴重なお時間ありがとうございました」


 俺は座ったまま礼をする。

 全体的には和やかな雰囲気で進んだ。

 印象は良かったと思うが、結果はどうだろうか。


「いや~やっぱり就活生を相手にしてるような感じだったね。深影君、大人っぽいって言われないかい?」


 近衛さんが笑う。


「最近はよく言われます」


「だろうねぇ。なんか数年間社会人として働いていたような雰囲気だもの」


「あははは。恐縮です」


 そりゃ、中身は二十七歳だからな。


「でだ、面接の結果だけど、もう採用したいと思うんだ」


 おおっと。これは僥倖だ。


「ありがとうございます。お世話になります」


「うん。いやぁ正直、人手不足でねぇ。今日中に書類準備しておくから、明日から入れるかい?」


「はい、大丈夫です」


「じゃあ、よろしく頼むよ。時間は十六時から閉店までね」


「はい、よろしくお願いいたします」


 ということになった。

 そしてその夜。

 部屋で日課の筋トレをしていた時。

 スマホにメッセージが入った。


【愛奏】:お父さんから聞いたよ! 優真君、お父さんと一緒に働くんだって??


 お父さん、そりゃ家庭内で言うよな。

 娘さんとの会話のきっかけになってるなら、質問してよかった。


【ゆうま】:そうだよ。面接のとき驚いた


【愛奏】:なんか不思議な縁だね


【ゆうま】:世間て狭いって、誠司さんと言ってた


【愛奏】:明日から入るって聞いたけど、頑張ってね!


【ゆうま】:ありがとう。しっかり働いてくるよ!


【愛奏】:〈ファイトのスタンプ〉


【ゆうま】:〈滾るぜのスタンプ〉


 その後しばらくスタンプ合戦して戯れたあと、俺はスマホを置いた。


「まさかの愛奏のお父さんと働くことになってしまった。つまり、外堀という意味ではこの上なくチャンスだ」


 仲良くする必要はないだろうけど、しっかり働く姿を見せれば印象は良くなるだろう。

 そうなれば、愛奏の破滅を回避するために、何か相談できるかもしれない。


「何はともあれ、まずは日課の筋トレだ。目指せ、腹筋割れ」


 俺はトレーニングを再開するのだった。


 ■□■□


 翌日。

 授業が終わったら、さっと出て職場に向かった。

 学校を出る際に愛奏に見送ってもらい、やる気は十分だ。


「今日からお世話になります。深影優真と申します。右も左も分からない若輩ですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


 俺はビシッと一礼する。


「エラい真面目君が来よったな」


「最近の高校生ってこうなの?」


「いや~、僕らの時代と変わらないと思いますけど」


 挨拶した相手は、同じアルバイトの人たち。

 関西弁っぽいしゃべり方のおじさん、不破ふわさん。

 ふくよかな体型のおばちゃん、南野みなみのさん。

 そして大学生の四谷よつやさんだ。


 他にも働いている人がいるが、残りは社員さんらしい。

 その人たちは、おいおい紹介してもらうことになっている。


「というわけで、深影君をよろしく頼むよ。じゃ、仕事に戻ってください」


 店長の近衛さんが指示を飛ばす。


「俺はどうすれば良いですか?」


「まずは直接の上司の紹介と、接客の研修から始めよう。まぁ君なら、敬語使えているし、接客マナー軽く教えれば問題なさそうだけどねぇ」


「ありがとうございます。お願いいたします」


 というわけで、俺の仕事の上司の方との顔合わせや、必要な手続き書類の記入、店舗のマナーなど色々と教えてもらうことになった。

 そして、商品の内容を確認して、軽く品出しの作業もやった。


 そんなこんなで、二周目初めてのバイト一日目はあっさりと終わるのだった。



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色々と新キャラが登場していますが、バイトの話はいったんここまで。

次回は学校内のお話です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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