第二章「二学期はイベントが目白押し」

第15話 新学期の最初は大忙し①/バイトをすることにした

 夏休みが終わり九月になった。

 鏡の前で俺は髪をセットする。


「よし。これで大丈夫だ」


 鏡に映るのは制服を着た俺。

 一周目から考えると十年ぶりに袖を通した。

 懐かしい濃緑色のブレザーだ。

 校章を付けて、ネクタイ締めて準備はばっちり。


 まだ暑い日が続いているが、今日は始業式のため上着とネクタイ着用が義務付けられている。

 まぁ上着はいったん脱いで、持っていこう。

 時刻は出発時間だ。


「それじゃ、行ってきます」


「行ってらっしゃい優真」


 母さんに送り出されて、俺は家を出る。

 高校までの道のりは十年ぶりだが、体が覚えている。

 光珠駅から二駅目の菊理きくり駅で降りて、徒歩12分の距離だ。


「おはよーっす。優真」


 駅を降りると幸治と会った。

 俺達は学校に向けて歩き出す。


「おはよう。幸治」


「あ゛ー。終わっちまったな。夏休み」


「今年の夏は充実してたなぁ」


「はーっ。イメチェンしたリア充が」


「お前だって夏祭り行っただろ」


「まぁな。今年の夏は一味違ったぜ」


 幸治は思い返すようにうなずく。

 俺は気になっていた事を訊ねた。


「で、課題は全部終わった?」


「嫌な事思い出させるなよ、優真」


「え? ひょっとして終わってないの?」


 幸治は夏の課題が終わらなかった年があった。

 俺の課題を写すの手伝った覚えがある。

 でもそれって一年生だったっけ?


「いや、終わっちまったんだよ。一日の半分を課題に費やして、残りをゲームに当ててたら片づけられた」


「つまり、半分引きこもってたってこと?」


「そうだ。誰かさんが女にうつつを抜かしている間に、俺は勉学に励んでたんだよ。ちくしょう。俺も女の子と遊びたかった」


 それはそれで良かったような?

 俺もゲームはそこそこに、購入した本で勉強をし直して、何とか机に向かう習慣を作った。


 課題も計画通りにさっさと片づけて完了している。

 学力が身についているかの結果は、中間テストで分かるだろう。


「そういや今日は半日だろ? 竜一と一緒にどこか遊ぶか?」


 幸治が魅力的な提案をしてきた。

 だが、今日は予定が入っているのだ。


「ごめん。今日はちょっとバイトの面接があって行けないや」


「何? お前、バイト始めんの?」


「うん。このままいくと金欠だから。遊ぶ金の足しにするために、バイトすることにしたんだ」


 俺はバイトと学業の両立を大学時代に経験している。

 働くことに抵抗はない。


「マジかよ。女子と遊ぶためにバイトするのかよ」


「いや、女子とだけじゃなくて、幸治や竜一とも遊ぶためだよ」


「優真ぁ。お前本当に変わっちまったなぁ」


「なんでちょっと悲しそうなんだよ」


 とにかく、今の財力じゃ突発的な遊びの誘いがあった場合、対応できない。

 そしてこの先、何があるか分からない。

 そのためにも自由にできる金があれば、融通が利きやすいと思ったのだ。


「でもよ。ウチってバイトOKだっけ?」


「親の許可が出れば、学業に影響が出ない限り出来るそうだよ」


 母さんには事前に相談して許可は得ている。

 曰く「金銭感覚を養うためにもやってみなさい」とのことだ。


 また、学業成績の方はとりあえず様子見だ。

 下がることはないよう、シフトは考えるつもりだ。


「なるほどなぁ。もし受かって良さげなら、教えてくれよ。俺も考えてみようかな」


 幸治も興味を示したらしい。

 社会人を経験した俺としては、若いうちから働くことを学ぶのは良い事だ。


「わかった。と言ってもどうなるか分からないし、期待しないでくれよ」


「おうよ。で、どんなバイトなんだ」


「たまたま見つけたんだけど、家電量販店の品出しのアルバイト。一応、ガジェット関係も得意だからさ。活かせるかなって」


「はーなるほどな」


 そんな事を話しつつ、俺達の通う西ノ山にしのやま高校に向かった。


 ■□■□


 公立西ノ山高校。

 その体育館での始業式。


 残暑厳しい気温がモロに影響して、かなり暑い。

 既に三名ほど生徒が体調不良で退場していた。


「――というわけで、二学期からも西ノ山校生として、自覚をもって過ごしてください。そういえば、自覚という言葉は……」


 校長の長ったらしい話が続く。


「校長、生徒が倒れてるので、そろそろ終わってください」


 教頭がまだ続きそうな話をバッサリ切った。

 俺は心の中で拍手した。


「むぅ。では頑張ってください、以上」


 少なくとも今回の集会で校長の株は下がり、教頭の株が上がった。

 教員の号令でぞろぞろと出て行く。

 暑かった。何だったんだあの時間。


「酷い集会だった。竜一は平気そうだね」


 俺は教室に戻る道中に話かける。

 暑そうなのに、おくびにも出さず直立で立ってるんだから凄い。


「道場だとエアコン効かせてても、結構暑いからな。慣れてる」


「そういや、竜一って空手やってるんだっけ?」


「いや、空手じゃない。よく間違われるが、古武術だ」


「それ、格好良いね。ナントカ流とか名前あるの?」


「正式名称は清道せいどう流古式格闘術だな」


「マジの格好いいのが飛び出してきた」


 やっべ。厨二心がくすぐられる。

 ときめくじゃん。ナントカ流なんとか格闘術ってさ。


「興味あるのか?」


「ミーハーみたいで失礼かもだけど。ちょっと体動かすのに、何か始めようかなぁって思っててさ」


「失礼だなんて。そんなことない。歓迎するぞ」


 竜一は嬉しそうに言う。


「え、ほんと? じゃあ見学だけでもお願いしようかな?」


「ああ、さっそく今日来るか?」


「あ、ゴメン。今日はバイトの面接があるんだ」


「バイト、始めるのか?」


 俺は幸治と同じように経緯を説明する。


「そうか。それは立派だ。俺もバイトには興味がある。よかったら教えてくれ」


「うん。まぁ受かるか分からないけどね」


「優真なら受かるだろう。なんだか大人っぽいからな」


 おお、古武術のカンと言うやつだろうか。

 大正解。中身は二十七歳です。


「ありがとう。見学は今度の日曜日でもいい?」


「もちろんだ。日曜日もやっている」


「そっか、じゃあお願いするよ」


 俺はスマホを取り出して、スケジュールに追加する。

 ちなみにウチの学校は校則が緩く、授業じゃなければスマホの使用がOKなのだ。


 なんなら調べ学習の授業であれば、許可をもらえば授業中にスマホの使用も出来る。

 曰く、ICTが叫ばれる時代、デバイスを正しく使えるように教育するため、使用禁止はしないらしい。


「幸治も誘おうかな?」


「アイツは一度誘ったんだが、断られたぞ」


「女にモテるとか言ったらコロっと来そうだけどね」


「それは良いな。動機が不純でも打ち込めるなら、ウチの流派は歓迎だ」


 随分、柔軟な武道だ。

 普通、言語道断っていいそうだが。


「古い考えかもしれないが、男にとって女性に好かれるように動くのは生物の根源だ。ならばそれを受け入れ認め、邪な心あれば清道を以て鍛えればいい。との事だ」


「おー深いな。それじゃ幸治も、もう一度誘ってみよう」


 ということで、教室に戻って俺達は幸治を捕まえるのだった。


 ■□■□


 その後。

 我らが一年二組の教室。


 担任の本郷ほんごう先生から、いくつかの連絡事項が伝えられて、今日は下校となった。


「おーい。優真君」


 愛奏が声をかけてきた。


「どうしたの? 愛奏」


「うん。今日は早上がりだし、みんなでお昼でもどうかなって」


「あ、ゴメン。今日はこの後バイトの面接があって、急いで帰らないといけないんだ」


 せっかくの誘いだが断る。

 赤島とのこともあるので、なるべく彼女と一緒にいたいが、四六時中だとストーカーと変わらんからな。


「え!? 優真君バイトするの?」


 予想通りというか、本日三回目の経緯を説明する。

 なんか面白くなってきた。


「凄いなぁ。それじゃ今日は仕方ないね」


「うん。ごめんね。せっかく誘ってもらったのに」


「そんな気にしないで。バイトの面接、頑張ってね」


「ありがとう」


 よーし。愛奏に応援してもらったし、気合入れて行ってみようか。

 俺は鞄を引っ掴んで、急いで学校を出た。



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9月から新学期ってところが多いのか、それとも8月最終週からってところが多いのか。

迷いましたが西ノ山高校は9月始まりです。



読んでいただき、ありがとうございます。

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