幕間 もう一つの始まり/愛奏の真実

私こと近衛このえ愛奏あいかは、思い返せば最悪の人生を送ってきた。


私は奴隷だった。

赤島あかじま麗獅子れおんの奴隷として体をけがされ、一方的に捨てられた。


捨てられた後も、家出同然で飛び出したから実家を頼れず、学力も学歴もない私は、他の男を頼るしかなかった。


でも付き合った男は、暴力的だったり、ヒモだったり、私の重さに逃げだしたりで散々だった。


親友の風見かざみ雫玖しずく真田さなだ瑠姫るきも頼れなかった。

なにせ雫玖は松葉まつば大雅たいがに犯されて、私と同じような末路をたどった。


ただ私と違うのは、彼と浮気相手の女を殺して捕まった事だろうか。

どっちにしろ、服役中で頼ることなどできない。


瑠姫は瑠姫でホストにハマって借金生活を送っていた。

挙句、海外に出稼ぎに行って行方不明だ。


かくいう私も、今じゃすっかりホスト狂いの風俗嬢。

まぁレオンに仕込まれたテクニックが役に立つので天職だと思う。


でも年を重ねればこの生活も難しくなる。

そんな漠然とした不安が募り、心が限界になってしまって死ぬことにした。


■□■□


その日は良く晴れた夏だった。

死ぬために私は、自分の故郷である光珠みたまに来た。


家出して二度と踏むことがないと思っていた場所だった。

でも死に場所として、私はこの地を選んだ。


ここが私が一番輝いていた場所だ。

高校一年生の頃、親友の雫玖と瑠姫と出会い、オタク友達の深影君に出会えた。


そして最悪の思い出もこの場所だ。

雫玖と一緒にレオンのグループに嵌められて、ずるずると人生の坂道を転げ落ちた。


これほど私の死ぬ場所として、ふさわしい所はない。


深影君はまだこの地にいるんだろうか。

彼の友達の八条君は元気だろうか。

学校の友達は私の事を覚えているだろうか。

そんなことを思いながら、光珠神社にお参りする。


「どうか、次の人生は幸せでありますように」


今は違うが、昔はオタクだった。

だから転生ってことを信じることにした。

転生した後、覚えているかどうかは分からないけど、次はもう間違えたくない。


この人生は全て赤島麗獅子に奪われた。私が全て間違っていた。

こうして私は命を絶った。


■□■□


「はっ!」


私はガバっと起き上がる。

辺りを見ると、

少し落ち着くと、さっきの夢がフラッシュバックする。


「うぇ、気持ち悪い」


あの頃の事一周目を夢で見てしまった。

ここ暫くは見なかったのに。

ついこの間、レオンに会ったからだろうか。


こういう時、私は推しの事を思い出す。

今の私の推し。

深影優真君。


「えへへへへへへへ」


いけない。

彼に見られたら、絶対に嫌われるほどの気持ち悪い笑いになってしまった。

でも落ち着いた。


メンタルリセット!

大きく伸びをする。


そう、今の私は高校一年生!

自殺したらなぜか転生じゃなくて、タイムスリップしていた。

いや後で調べたら、意識だけ過去に飛ぶタイムリープと言うヤツらしい。

とにかく私はタイムリープして、十年前の世界で生きている。


ただし、これは夢だ。

やけにリアルで痛みもあるが、私の望みが形になった夢なのだ。

きっと神社でお参りしたことが、功を奏したのだろう。


死ぬ間際に見る都合の良い夢しあわせ

だって、この過去はおかしいのだ。

オタク友達だった深影優真君が、イケメンになって私を助けてくれるのだから。

イメチェンしたとか言ってたけど、私に都合が良すぎる。


「優真君」


はぁ。とため息が漏れる。

一周目じゃ、性格は良くても見た目がダメすぎてアレだった。

けれど今じゃ仮面ファイター武王の葛葉剛太みたいに私を守ってくれる。


今の私はレオンに絡まれたとき、一周目の出来事がフラッシュバックして動けなくなる。

たぶん、魂が彼に隷属してるんだろう。

レオンに命令されたら逆らえない。


でも、彼がいれば大丈夫。


『愛奏は俺と遊ぶから、他所へ行け』

『愛奏が嫌がってる。俺も君とは遊びたくない』


なんて言って、内心ビビってるのに、私のために強がってくれる。

そして意外と強い力で引っ張って、連れ出してくれるのだ。


「今思い出しただけでも、三回はイケる」


あの仮面ファイターの映画をみた日や、お祭りに行った日は、帰ってからだいぶ一人で盛り上がってしまった。


というか彼、可愛すぎでしょ。

私の事好きだーって気持ちが出まくりで、必死に私と仲良くなろうとしてくるのだ。

そのくせ、ちょっと揶揄ったら顔真っ赤にしちゃって。


「うふふふふふふふふふ」


いけない。変な笑い声が出てる。


『愛奏! 今日から学校でしょ! 早く起きなさーい!!』


おっと、お母さんが呼んでいる。

私は支度するために活動を開始した。


■□■□


家を出て懐かしの通学路を歩く。

最初は戸惑ったこの夢だが、今じゃすっかり慣れたものだ。

綺麗に忘れていた道順だって、すぐに思い出せる。


「はぁ新学期は楽しみだけど、夏休み終わっちゃったなぁ」


さわやかな朝とは真逆に、ちょっと憂鬱な気分だ。

こういう時こそ、楽しい事を思い出す。


自殺したあと気付いたら、高校一年生の夏休みの始まりにタイムリープして、私はこの夏を謳歌した。

優真君とカラオケ行って、優真君と映画行って、優真君とRINEして、優真君と夏祭り行って。

最高だった。


その合間にレオンと遊んでいるのが、我ながら彼の奴隷だと認識させられる。

断ったり、逆らったりした時の怖さを知っているだけに、従順になってしまう。


まぁ雫玖とまとめて犯された日はもう少し先なので、だいぶアタリが優しめではあった。

せいぜい距離が近くて、スキンシップが多いくらいだ。


「いけない。暗い気持ちはナシ、ナシ」


私は思考を切り替える。

せっかくの二周目という夢の世界。

私はここで幸せになるんだ。


そうなると、やっぱり優真君とは付き合いたい。

彼と一緒に、一周目でできなかった事をするのだ。


もっとデートして、一緒に勉強もして、美味しい物食べて、文化祭や体育祭とか行事を楽しんで。

そして仲良くなって抱き合ってキスして……♥


「うへへへへへへへ」


垂れそうになったよだれを拭って正気に戻る。


とにかく友達以上、恋人未満くらいの関係を楽しんでイチャイチャしてやるんだ。

いきなり告白するより、ちょっとずつ関係を深めて、お互いの事を知っていく青春がしたい。


もう体の相性から始まる性春なんてしたくない。

爛れた関係、ダメゼッタイ。


「よし、メンタルが安定してきた」


この二学期の最終目標は、彼と恋人になること!

それまでは甘々な感じで友達として付き合おう。


「だからどうか、この夢から覚めませんように」


私は夏祭りで神様にお願いした事を、もう一度空に向かってお祈りして、意気揚々と学校に向かうのだった。



-----------------------------------------

以上、愛奏の真実でした。

彼女もタイムリーパーです。


彼女視点でこの物語のタイトルをつけるなら「高校の時にチャラ男に染められて破滅したけど、偶然にもタイムリープした私は今度こそ好きな人と幸せになって青春がしたい」です。


次回からは、予定通り新学期編。

視点は優真君に戻ります。


読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る