第21話 新学期の最初は大忙し⓻/竜一の家に行こう!

 バイトの面接に始まり、お弁当の一件もあり、なにかと忙しかった新学期初めの一週間。

 今日はその最後。竜一と約束した日だった。


 そう、清道流古式格闘術の見学の日だ。

 俺は竜一から持ち物を聞いて、それらを入れた鞄を持って家を出る。

 彼の家は光珠駅から一駅の白紐しらひも駅から徒歩十分のところにある。


「おーう。優真」


 白紐駅で幸治と合流。

 女にモテるかもと煽ったら、素直に見学に来た。

 女子に迫られるとキョどるくせに、女には飢えているらしい。


「ゴメン、幸治。待たせたかな?」


「んにゃ、俺も今来たところだ。つーか、このやり取りは女子としたいんだが!」


「贅沢言うなよ。本番のための練習と思ったら?」


「服の感想でも言ってやろうか?」


 などと軽口を言いつつ、歩き出す。

 竜一の家には、普通にネット地図を見たら出てきた。


 道場を開いているので、公式Webサイトまで出てきた。

 色々とやってるんだなぁと思った。


「それにしても、優真。運動苦手だろうに、よく興味持ったな」


「イメチェンの一環だよ。この貧相な体を改造するには、苦手でも運動するしかないって思ったんだ」


「なぁるほどな。竜一のところって空手じゃなくて、古武術ってやつだろ? どんな事するのかね」


「さぁ。運動したいなら歓迎するって言われたよ」


「なるべく優しい感じなら良いんだがなぁ」


 幸治も運動は苦手だ。

 俺達二人は生粋のインドア派ってやつだ。

 そんなこんなで歩いていると、竜一が手前から歩いてきた。


「あれ? 竜一。おはよう」


「おーっす」


「おはよう、優真。幸治。待ちきれなくて迎えに来たぞ」


 竜一は既に道着を着ていた。


「待ちきれないって、おめーどんだけ待ち遠しかったんだ」


 幸治が呆れて言う。


「仕方ないだろう! 友達が俺の家に来るんだぞ。それもウチの武道に興味を持ってくれている。こんなに嬉しい事はない」


 鋭い目が、えらくキラキラしている。

 そうか、友達少ないって話だし、家に招くのが一大イベントなのか。


「そ、そこまで期待されてもアレなんだけど。まぁ今日はよろしく頼むよ」


 俺は温度差に若干引きつった。


「ああ! 任せろ。精一杯魅力を教えるぞ」


「お、お手柔らかに頼むぞ、竜一ぃ……」


 幸治も少し引いていた。


 ■□■□


 竜一に案内されて、彼の家に着いた。


「大きい門だなぁ」


「おまえ、金持ちだったのか!?」


 俺と幸治は驚く。

 家に大きな門があり、さらに左右に壁が伸びていて敷地の広さが察せられた。

 まさにザ・旧家といった雰囲気。


「藤門家は確かにこの辺では地の家だが、そうでもないぞ。古いだけだ」


「そうかなぁ? 俺の家だったら三軒くらい余裕で入りそうな敷地してるけど」


 俺はその規模に気圧された。


「俺ん家の部屋なら、どれだけだろうな」


 幸治はしみじみと言う。

 そういや幸治のところはマンションだったな。


「ひょっとして、引いたか?」


 竜一が不安そうに言う。

 あー。もしかして、本人の見た目の怖さもあるけど、この家でも敬遠されてるな?


「いや、そうじゃなくてスゲーって思っただけだよ」


「そうそう。庭付きなんだろ。池とかありそうだよな!」


 俺達は素直に言う。


「そうか! 実は池はあるぞ。鯉と亀がいる」


「マジかよ。良いな! 生き物を飼えて。どんな亀だ? 見せてくれよ!」


 幸治って生き物が好きだよなー。

 理科室で飼ってるメダカも世話してるらしいし。


「こっちだ」


 竜一は嬉しそうに目つきを鋭くさせて、案内してくれた。

 俺達は門をくぐって庭を進む。


 おお。庭もちゃんと手入れされていて、日本の家って感じだな。

 そしてマジで庭に池があって、生き物がいた。


 すげー。マンガみたいでちょっと感動してしまった。

 何より、本気で嬉しそうにしているのに、目つきがどんどん鋭くなってくる竜一が面白かった。

 あれ、たぶん笑ってるんだな。


「おめー、それ笑ってるんか?」


 幸治が遠慮せず指摘する。


「ああ、笑うと目つき鋭くなって、引かれるんだ。すまない」


「謝んなよ。面白過ぎるだろ。笑うとパケモンの技みてーに『にらみつける』が出るの」


「このまま、声出して笑ったら、シュールだよね」


 俺も失礼ながら笑ってしまった。


「そ、そうか。お前たちは良い奴だな」


 オタクは見た目は気にしない。

 中身で分かり合えるなら、親友である。

 一周目じゃ親しくなれなかったけど、面白い友達と仲良くなれて良かった。


 ■□■□


 そして、庭だけでも興味深かったが、とりあえず今日の目的である道場に向かう。


「道場に入ったら一礼してほしい。一応、マナーになっている」


 竜一がお願いしてきた。


「わかったよ」


「おうよ」


 靴を脱いで揃えて、言われた通り一礼して道場に入った。

 道場は畳張りで結構、広かった。

 そこには、何人か稽古している人たちがいた。


 大人の男性が三名。

 大人の女性が一名。

 小学生っぽい男の子が二名。

 中学生っぽい女の子が一名。


 合計、七名だ。

 その中で年配の男性が俺達に気づいた。


「おう、竜一。戻ったかの」


「ああ、爺さん。友達を連れてきたぞ」


 竜一が誇らしげに言う。


「まさかお前が友達を連れてくるとはのぉ。明日は槍でも降るじゃろうな」


「失礼な。まるで俺に友達がいなかったみたいじゃないか」


「事実じゃろが」


 ちょっとピリピリくる睨み合い。


「ま、え。ようこそワシの道場へ。ワシは藤門竜厳りゅうげん。孫が世話になっとるの」


 竜厳さんは、豪快にニカっと笑って自己紹介してくれた。


「竜一君の友達の深影優真と申します。本日はよろしくお願いいたします」


「え、そういう感じで挨拶? えっと、八条幸治って言います。よろしくお願いします」


 俺は魂に染みついた社会人式あいさつで対応。

 幸治はそれに倣ってあいさつした。


「わっはっはっ! こりゃまた随分と礼儀正しい少年達だの。結構、結構」


 どうやら掴みはバッチリらしい。

 ここで不興を買うと、竜一にも迷惑かかりそうだしな。


「二人とも普通で良いぞ。爺さんはそういうの気にしないタイプだ」


 竜一が恐縮したように言った。


「そうそう。堅苦しいのは無しでえ」


「えっとそれじゃ、そうします」


「よかった。俺も堅苦しいの苦手なんすよ」


 とりあえず俺達は態度を崩す。


「さて、さっそくあっちで着替えてくるとえ。そうしたら清道流の体験講座を始めるぞい」


 というわけで、俺達は更衣室でジャージとTシャツに着替える。

 んで再び戻ってくると、竜一と竜厳さんが対面で正座していた。


「二人とも、まずは礼から教えよう。ここに座れ。武とは礼に始まり、礼に終わるものだ」


「おお、なんか格好いい。正座なんて久しぶりだなぁ」


 俺はその格言にときめきつつ、竜一の隣に正座する。


「正座なんて何年ぶりだよ。おい」


 幸治も俺の隣に正座する。

 だが、俺達の正座を見て竜一が指摘した。


「少し固いな。もう少し足を開いて、背筋を伸ばして、肩の力を抜いて、手を膝に置くんだ」


「へぇ。えっとこうかな?」


「か、肩と背骨がバキっていったぞ」


 俺達は見よう見まねで姿勢を正す。


「うん。いいぞ。で、手を畳について礼をする。――よろしくお願いします」


 竜厳さんに対して綺麗な礼だった。

 すげー。ただの礼なのに格好いい。


「「よろしくおねがいします」」


 俺達も竜一に倣って礼した。


「で、姿勢を戻す」


 竜一の声で、俺達も元の姿勢になる。

 竜厳さんはうなずく。


「うむ! よろしくお願いします」


 こうして、清道流古式格闘術の体験講座が始まった。


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