第13話 夏の最後は、夏祭り③/三人とも悪魔だな

 光珠神社に着くと、出店がにぎわっていた。

 夏休みド終盤のイベントともあって、最後の思い出にという事なのか人が多い。


 光珠神社はこのあたりの地域では比較的大きな神社だ。

 鬱蒼と茂る森を背に建っている。

 祀られている神様に因むのか、蛇の意匠があちこちに見えた。


「さぁ! 何から回ろうかなぁ」


 風見さんが出店を見回す。


「俺はまずはお参りでもしようかな」


 せっかく神社に来たのだ。

 二周目の人生が実りあるものになるよう、神様にお祈りしたい。


「私も行くよ、深影君」


 近衛さんは俺と行くようだ。


「俺も行く。爺さんにお参りしておけと言われた」


 他にも藤門君が来るようだ。


「じゃあ、私たちの分もお祈りしておいてよ。行こう瑠姫、ハッチ」


「もう、強引なんだから」


「え? ハッチって俺のあだ名?」


 残りの三人は出店に突撃していった。


「それじゃ、行こ。深影君、藤門君」


 近衛さんの後を追って、俺と藤門君は歩き出した。

 境内の奥に進むと意外と参拝客がいた。

 ちょっと並んでいる。


「二人は何をお願いするの?」


 近衛さんが訊いてくる。


「俺は二学期以降も上手くいきますようにかなぁ」


「俺は、神様に挨拶するだけだ。願いはない」


「へぇ。神様に挨拶するんだ。なんか、面白いね」


 近衛さんが興味深そうに言う。


「ウチの道場に、ここの分霊を祀っている社がある。だから来たときは必ずお参りしろって言われているんだ」


「なるほどなぁ。分霊か。ここって蛇の意匠が目立つけど、どんな神様祀ってるか知ってる?」


 俺も興味が出てきた。

 というのも、一周目の大学時代はこの手の文化人類学を学んでいた。

 オタクとして、アニメとマンガを研究して、果てはその元ネタとして広く伝わる妖怪や都市伝説なんてものも研究していたのだ。


 ちなみに大学時代は地元を離れていたから、この神社を調べることはしていなかった。

 もう少し興味を持つべきだったかなぁ。


「見たとおり蛇の神様だと聞いている。詳しくは知らない」


「ふむふむ。屋根を見る限りじゃ、女性の神様を祀っているみたいだね」


 俺は視線を本殿に向ける。

 神社って屋根見たら主祭神の性別が分かるんだよなぁ。

 パケモンのオス・メスみたいで面白いと思ったことがある。

 教授に言ったら不敬すぎるって怒られたけど。


「深影は随分詳しいな。好きなのか?」


「詳しいってわけじゃないけど、好きだよ。ほら、マンガやアニメって神様が良く出てくるじゃん? だから興味持って調べたんだよね」


「勉強熱心だね。深影君」


 近衛さんが感心したように言った。


「まあ、聞きかじった程度だけど」


「気になるなら、爺さんに訊いてみるといい。紹介する」


 藤門君が提案してくれた。


「ありがとう、藤門君。ぜひ、お願いするよ」


「竜一で良い。幸治と友達なら、良かったら俺とも友達になってほしい」


「わかったよ、竜一。よろしく」


 ガッツリ握手する。

 幸治以外に男友達ができた。

 二周目の快挙だ。


「あ、順番来たよ」


 近衛さんが促してくる。

 ということで、俺達は賽銭投げて、お参りする。


『この二周目の人生が実りあるものになり、どうか近衛さんを破滅から救えますように』


 俺はしっかり祈念した。


 ■□■□


 お参りが終わって、三人で出店に向かう。


「そういや、近衛さんは何をお願いしたの?」


 俺と同じく随分と熱心に祈っていたように思う。


「んー。秘密」


「えー、俺らに聞いておいてそれはないよ」


「だってお願いって、言ったら叶わないって話あるし」


「あーなるほど。そういやそんな話聞いたことあるな」


 ちょっと納得してしまった。


「乙女には秘密があるの。詮索しないのがスマートだよ」


「「なるほど。勉強になる」」


 俺と竜一はハモってうなずいた。


「それにしても、幸治たちはどこにいるのやら」


「晩飯がてら、どこかで食べてるんじゃないか?」


 竜一があたりを見回す。


「いたぞ。あそこだ」


 示した方に向くと確かにいた。


 臨時で設置されたベンチに座っている。


「ん? 何やってんだアレ?」


 幸治を挟んで、風見さんと真田さんが何かしている。


「ほんとだね。何やってるんだろ? おーい」


 近衛さんが三人に声をかけた。


「愛奏おかえり。てーか見てよ。ハッチを。顔真っ赤で可愛いんだけど」


 ケラケラと笑って風見さんが言う。


「フフッ。確かにこれは、ちょっと面白いわね」


 真田さんも何やらSっ気のある顔で言う。

 俺達は幸治に視線を向けた。


「……( ゚Д゚)」


 幸治は茹ダコのように顔を赤くして、どうやって出してるのか分からない声で固まっていた。

 なぜか、顔文字がイメージできたぞ。


「雫玖、何があったの?」


 近衛さんが怪訝そうな顔で訊いた。


「それがさ、両手に花だったでしょ? だから瑠姫と一緒に屋台で買った、たこ焼きをあーんしてあげたら固まっちゃって」


 なんつーことをしているんだ。

 そりゃ思春期のオタクにそんな事すればそうなる。

 俺が戦慄していると、続けて真田さんが言う。


「口に持っていったら、機械みたいに開けて食べるのよ。それも微動だにせず! 面白すぎる!」


 ククククと笑いを堪えていた。

 真田さんェ。君は止める立場だろうに。


「しまった。瑠姫もノっちゃうとSっ気だして、雫玖と悪ノリするんだった」


 俺の心を読んだのか、近衛さんが後悔するように頭を抱えていた。

 竜一が見かねて、幸治に近づく。


「幸治。しっかりしろ。大丈夫か」


「……(*^_^*)」


 だからどうやって声出してるんだよ。

 意味は伝わるけど。

 俺も幸治に近づいて揺った。


「おい、目を覚ませ。お前の世界が陽キャに侵略されているぞ」


 ハッと気が付いたのか、俺に向けて穏やかな笑みを向けた。


「俺、今日の事を忘れねぇ。この思い出を胸に人生を歩んでいくよ」


「そうか。いい加減、正気に戻れ」


 軽く叩いて正気に戻す。


「あはははははは。ハッチ大げさすぎ! 女の子二人に揶揄われて、あーんされて。ぶはははははは」


 何にツボったのか雫玖さんは爆笑した。


「コラ! 雫玖。笑うの失礼だって言ったよね!!」


 近衛さんが嗜める。


「そうよ。雫玖。いくらなんでも笑いすぎよ」


 真田さんも共犯のはずなのだが。

 彼女は幸治に近づくと、頬に手を添えて言う。


「ごめんなさい。八条君が可愛かったから揶揄っちゃったの。ゆるして」


「ゆるします。ゆるします」


 幸治はそれはもう、凄まじい勢いでうなずいて、謝罪を受け入れていた。


「こら! 瑠姫も止めなって!」


 近衛さんは今度は真田さんを窘めた。

 暴走する子が二人になると大忙しだな。


 というか、近衛さんも俺に対してたまに揶揄ってくるよな。

 この三人、オタクを勘違いさせて弄ぶ小悪魔すぎる。

 類は友を呼ぶってやつか。

 悪魔の角と尻尾を幻視してしまう。


「まぁ幸治が許したんなら、良いか。それより俺、何か買ってくるよ」


「あ、私も買う」


「俺も行ってくる」


 近衛さんと竜一が付いてくる。


「だったら、全員で回ろーよ」


 そんなわけで風見さんの提案で、全員で回ることになった。

 物色していると目移りしてしまうなぁ。

 りんご飴、焼きそば、たこ焼き、牛串焼き、焼き鳥、綿あめ、ベビーカステラ……etc.


「まずは腹を満たすために、やっぱ焼きそばだな」


 俺は焼きそばの屋台に突撃する。


「すいませーん。一つくださーい」


「あいよ。四百円ね」


 俺は代金を払って受け取る。

 焼きそばは目玉焼きが乗っていた。


「深影君は焼きそばにしたんだ」


 近衛さんが手に持っていたのは、たこ焼きだった。


「近衛さんはたこ焼きか。そっちも美味しそう」


 ふと竜一を見ると串焼きを二本買っていた。

 串肉を両手に持っていると、山賊みたいだな。

 言ったら傷つきそうだし言わないけど。


「竜一。おめーが持つと、山賊みたいだな」


 幸治が普通に言っていた。


「そうか? がおー」


「お前、ちょっと浮かれてるな」


「そうだな。優真という友達ができた。女子と遊べている。俺は今日の思い出を胸に人生を歩んでいく」


「そりゃもう俺がやったネタだ」


「幸治。お前はネタじゃなくてガチで思ってただろうに」


 俺は耐えきれずツッコんだ。


「うるせぇ。俺は今、人生のハイライトを刻んでんだ」


「また、大げさな」


 いや、気持ちはわかるよ。

 でもこれで終わらせるつもりはない。

 必要とあらば、これからも二人を巻き込んで遊ぼうと思った。


「ねぇ食べ歩きは行儀悪いし、さっきのところで食べましょ」


 というわけで、真田さんが促して、元のスペースに戻ることにした。




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