第12話 夏の最後は、夏祭り②/賑やかな道中

 そして翌日。

 俺は集合の三十分前に光珠駅に着いた。


 他の皆はまだ来ていない。

 十五分くらいスマホ見て待っていると、声をかけられた。


「こんばんは、深影君!」


 近衛さんだった。

 しかも浴衣だ!


「こんばんは、近衛さん。浴衣イイね!」


「えへへ。ちょっと頑張ってみました」


「良い。凄く良い。俺は今、感動している」


「大げさだなぁーもう」


 近衛さんは照れていた。

 可愛い。


「みんなはまだ?」


「うん。俺が一番だった」


「そっかぁ。あ、雫玖しずく瑠姫るきは今、電車乗ってるってさ」


「幸治と藤門君ももうすぐ着くって」


 状況を報告しあい、二人で待つ。


「なんか今日は花火もあるんだよね」


「そうそう。去年は天候不良で中止だったみたいだけど、今年は晴れてるからね」


「高一の夏の終わりにみんなで花火かぁ。なんか青春って感じだね」


「ほんと、そう。陰キャだった俺からすると隔世の感があるよ。去年の俺に教えたら絶対に頭おかしいって言われる」


「去年の自分かぁ。そういえば深影君ってタイムスリップて出来ると思う?」


「え? タイムスリップができるかって?」


 俺はドキリとした。

 タイムスリップではないが、ここにタイムリープしてきている男がいる。


「できるんじゃないかな。その方がきっと面白いし」


 俺はそう答えた。


「そっか。そうだよね。その方が面白そうだよね」


 近衛さんは柔らかく笑った。

 どうしてそんなことを聞くのか。


 気になって訊ねてみようとした。

 だが、それは明るい声で遮られた。


「おーい。おまたせー」


「あ、雫玖、瑠姫!」


 近衛さんがやってきた二人に手を振る。


「ごめん。今の忘れて」


 近衛さんはそう言って、二人の方へ行ってしまった。

 いったい何だったんだろう。

 俺は妙に気になった。


 ■□■□


 全員が予定通りに集合して、光珠神社まで歩いていく。

 俺はさっきからじーっと見つめられて、ちょっと居心地が悪かった。


「さっきから何だよ。幸治」


 幸治は俺の事を穴が開くくらいに見ていた。

 集合した時にもの凄く驚かれてから、こうなっていた。


「信じられん。お前は誰だ」


「そのやり取りさっきもしただろ。俺は深影優真だよ」


「ウソだ! 陰の者特有の髪型に、しゃべり方。そして弱弱しい雰囲気! お前にそれが無い!」


「ケンカ売ってんのか! イメチェンしたんだよ!」


「イメチェンでそんだけ変われるなら、俺だって変わりたいわ! どーやった!!」


 幸治が切実に聞いてくる。

 たしかに、幸治は幸治で陰の者の匂いがするからな。


 髪はさっぱりしているが、ちょっと猫背だし。

 もう少し背筋伸ばせばいい感じなんだが。


「どうって一念発起して、髪切って筋トレして、しゃべり方変えたんだよ」


 それを聞いて幸治は愕然とする。

 なんで、そんなにショック受けているんだよ。


竜一りゅういちぃ! 俺の友達がチャラ男になっちまったぁ」


 幸治が人聞きの悪い事言いながら、後ろを歩いていた藤門ふじかど竜一りゅういち君に縋った。


「凄い。変わろうとすることが大切なんだな。勉強になる」


 めちゃくちゃイケメンボイスで、うなずいている。

 こうしてガッツリと関わったのは初めてだが、藤門君は体が大きくて、ガッシリしている。


 髪は短く刈っていて目つきが鋭い。

 でも威圧感はないし、穏やかな感じだ。

 しかも今日はお祭りだからか、甚平を着ていて風流だった。


「なになに? 藤門君もイメチェンするの?」


 風見さんが興味深そうに聞いた。


「えっと、その」


 藤門君は戸惑っている。

 どうやら女の子と話すのは苦手らしい。


「ん~?」


 小柄な風見さんがニマ~っと笑顔で迫っている。

 あ、悪魔だ。純情な少年を弄ぶなんて。

 やっぱり風見さんには、角と尻尾が生えている気がする。


「止めなさい。雫玖。藤門君が困っているでしょう」


 真田さなださんが、風見さんを引きはがす。

 彼女は真田瑠姫さなだるきさん。


 クラス委員長にして、ド真面目が服着て歩いているような女子だ。

 眼鏡かけていて、セミロングの黒髪。

 普段はザ・優等生といういで立ちだが、今日は近衛さんと同じく浴衣だった。


「え~。瑠姫は固いなぁ。ああいう男子の反応が可愛いんじゃん」


「あなたが軽すぎるのよ雫玖。一歩間違えればいじめよ。いじめ」


 あの二人、性格が正反対そうなのに友達ってのは、ちょっと驚いた。


「深影君。にぎやかで何か良いね」


「そうだね」


 俺は近衛さんと頷きあう。

 考えてみれば、六人なんて人数で遊んだことないな。

 俺、ほんと友達いなかったからなぁ。


「竜一ぃ! アイツ、近衛さんとなんか仲良さそうだぞ! アイツ裏切りもんだぁ!!」


 幸治が目ざとく見つけて、絡んでくる。


「女子と話せるなんて。深影は凄い」


「関心してる場合かよ!」


 あーあ。もう。

 幸治のヤツ、女子と遊べるからってちょっとテンションがおかしいな。

 そんな陰キャムーブしてると悪魔の餌食になるぞ。


「あー八条君、羨ましいんだぁ。自慢してやりなよ深影っち。私達とカラオケ行きましたーって」


 ほらみろ。風見さんが食いついた。

 つーか俺にまで火をつけないでほしい。


「それ! 優真! それを詳しく教えろ。どうやったんだ!」


「どうって、昨日話しただろ。たまたま道で会って声かけて、誘われたから行ったんだよ」


「いくらクラスメイトだからって、声かけるなんて。お前はどうしちまったんだ。女子は何か怖いって言ってただろ。一学期のお前を思い出してくれよ」


 なぜか泣きそうな声で訴えてくる。

 コイツ、俺を何だと思っているんだ。


「深影君、ほんとうに変わったのね」


 真田さんまで目を丸くして驚いている。


「一学期終わって、このままじゃ友達ができないと思ったんだよ。だから対人関係に気を遣うようになったんだ」


「最初、深影君だって分からなくてビックリしたよ」


 近衛さんが思い出したようにクスクスと笑う。


「イケメンのナンパだーって思ったよね」


 風見さんがウンウンと同意する。


「イケメンって……。まぁダメで元々、気味悪がられても友達いなかったから、デメリットないと思って勇気だしたんだ」


「意外と原動力はネガティブなのね」


 真田さんは目を瞬かせた。


「でもそれで声かけて知り合えて、こうして夏の終わりにお祭りにみんなで行けるんだから、嬉しいんだ」


 俺はしみじみと言う。

 そうだ。近衛さんを救うために変わろうと決意して、一周目と違う夏になった。


 マンガやアニメじゃ、過去は変えられないと言われているが、違ったのだ。

 今を生きて、未来に向かって動けば、過去は変えられる。


「私もだよ。深影君。なんか楽しーって感じ」


 近衛さんが笑ってうなずく。

 この笑顔を絶やさないために、俺はこれからも動かねばならない。


「あー。なんか通じ合ってるぅ。この間の映画デートで何かあったんじゃない?」


 風見さんが特大のニヤニヤで言ってくる。


「そうだ! こいつ、映画にも行ったんだ! 俺を誘わずに女子と行きやがったんだ!」


 幸治が嫉妬の形相で言ってくる。

 血涙を流す幻覚が見えた。


「女子と映画! 深影はなんて男だ」


 藤門君がもの凄い尊敬のまなざしを向けてくる。


「いやいや、そんな大したことじゃないって。半分は風見さんのおかげだし」


「雫玖。あなた何やったの?」


 真田さんが呆れたように言った。


「えー? 別に悪い事じゃないよ」


「そうそう。おかげで私も楽しかったし」


 近衛さんが風見さんをフォローする。


「でしょー。で、何があったの?」


「別に何もなかったよ。あ、でもお昼に食べた、焼きカレーは美味しかった」


「ぶー↓ なんかつまんない」


 風見さんのお気に召さなかったのか、ブーイングしてくる。


「アイツ、女子と食事したんだ。ちくしょう。友達が大人の階段上ってやがる」


「幸治! さっきから人聞き悪い事言うなよ!」


 コイツ嫉妬しすぎだろ。

 そんなこんなで賑やかに、俺達は祭り会場まで向かうのだった。



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おや? 近衛さんの様子が……?


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