第11話 夏の最後は、夏祭り①/お誘いを待っているかも?

 愛奏と映画に行ってから暫く経った。

 夏休みがあと三日で終わる今日この頃。


 あれからは特に大きなイベントはなかった。

 ちょくちょく愛奏と風見さんから連絡が来ては、返事するくらいだ。

 いや、それでもかなりの前進だ。


 一周目の夏休みを思い返せばゲームして、ファイターの映画を一人で見て、漫画見て、アニメ見て。

 外に出た記憶があまりない。


 それを考えると女子と他愛ないやり取りをしているのだ。

 過去を変えていると言えるだろう。


「四十八、四十九、五十!」


 俺は腕立てを終える。


「ふう。トレーニング始めてから一カ月くらい立つけど、やっと安定してきたな」


 筋トレ始めたときは筋肉痛でのた打ち回った。

 実はカラオケした時も映画に行った時も、筋肉痛で少し体が悲鳴を上げていた。

 それを表に出さないように取り繕ったが、体中に湿布張り付けて何とか耐えていたのだ。


 それが今では、ほんの極僅かだが筋肉が付いてきている。

 食べる量も増やしたおかげか、体もほんの少しだけ大きくなった気がする。

 理想には程遠いが、それでも赤島に負けない堂々とした体に、一歩ずつ進んでいる。


 来るべき日はまだ先だが、それでも赤島が愛奏に絡んできている以上、油断はできない。

 たまにこちらから連絡して、それとなく確認してみたが、彼女は断りきれず赤島達と何回か遊んだらしい。


 知った時は胃に刺すような痛みが走った。

 未来の事を知っている俺としては、彼女が地雷原で散歩してるみたいで、気が気でなかった。


 さて、一階に水分補給しに降りる。

 すると咲良が相変わらず、ぐでーっとしていた。


「夏休みも終わるってのに、大丈夫かそんなグダグダで」


「だいじょーぶ。わたしは、やるときはやるから」


 全部ひらがなで聞こえてくる返事だ。


「それよりお兄ぃ。私、明日は晩ごはんいらないから~」


 料理作ることが家族に知られてから、最近は晩御飯も俺が作ることがあった。

 その方が母さんが楽できるし、俺も料理の練習になって嬉しい。

 家族会議の結果、週に二回は俺が作ることになったのだ。


「え? なんだ夜から出かけるのか?」


 中学二年生が夜に出かけるなんて、まさか不良化の兆しか?


「お兄ぃ知らないの? 明日、光珠みたま神社でお祭りだよ」


「お祭り? ああ、そういやそんな話があったような?」


 記憶の片隅にあるような無いような。


「友達とお祭り行くから、ごはんいらない。お母さんにも許可もらってるよ」


「了解。気を付けて行ってこいよ」


 夏休みの終わりにお祭りとは。

 これはまた風流だなぁ。


「お兄ぃはこの間、映画見に行った近衛さんだっけ? 行かないの?」


「んー。ここ暫くのやり取りじゃそんな話出なかったし、かといって今から誘うのも都合があるだろうしなぁ」


 他の友達と行っているんじゃなかろうか。


「待ってるんじゃないの? お兄ぃからのお誘い」


「え~? まさかぁ」


 流石にそんな。ねぇ。

 友達になったが、いきなりお祭りに誘うのはどうだろうか。


 いや、行きたいよ。正直。

 でも仮に断られたら、ちょっと凹むというか。


「悩んでる悩んでる。キモッ」


「おいコラ、ケンカ売ってんのか」


 コイツはいつか理解わからせなければいけない気がする。


「断られたら凹むなんて思ってるんだろうけど、ダメで元々じゃん。誘って砕ければ良いじゃん」


「まぁなぁ。それも一理あるか」


 赤島に誘われていたら、それはそれで嫌だな。

 とりあえず、やってみるか。


 ■□■□


【ゆうま】:急にゴメン 明日光珠神社でお祭りあるんだけど行かない?


【近衛さん】:行く!


【近衛さん】:あでも、雫玖と真田瑠姫さなだるきさんと行くんだけど合同でいい?


 おっと、なるほど。

 風見さんと、もう一人と行く予定だったのか。


 どうしよう。

 こっちも幸治ゆきはるを誘おうかな。


【ゆうま】:愛奏やみんなが良いなら、こっちは問題ないよ


【ゆうま】:ちな、こっちも八条を誘っていい?


【近衛さん】:〈同意するスタンプ〉


 どうやら良いらしい。

 さっそく幸治に連絡を入れてみる。


【ゆうま】:おーい 明日暇か?


【幸治】:暇だけどなんだ?


【ゆうま】:明日、近衛さん達と光珠神社ってところの夏祭り行くんだけど、お前も来る?


【幸治】:寝言は寝て言え


【ゆうま】:いいんだな。女子三人と遊べるチャンスだぞ


【幸治】:お前誰だ? 変なもん食べたか?


 コイツ。俺だって信じてないな。

 いや、さもありなん。

 そういやこの夏、幸治と遊んでないからイメチェンした事知らなかったな。


【ゆうま】:この夏に色々あったんだよ

 

 すると、幸治から電話がかかってきた。

 なんだ、なんだ一体。


 ■□■□


「もしもし」


『お前、まさか彼女できたんじゃないだろうな!!!!!!!』


 クソデカイ声で怒鳴り散らしてきた。


「うるせーよ!!」


『どうなんだ!!!!』


「違うよ。たまたま夏休みに近衛さん達と連絡先交換して、それで試しに誘ってみたんだよ」


『は? 幻覚やウソではなく?』


「ちげーよ」


『おまえ、本当にどうしたんだ。騙されてないか?』


「ちげーよ!!」


 俺はキレながら、この夏の経緯を説明する。


『はぁ!? カラオケ行って、映画行っただぁ!?』


「まぁ、そのなんだ。イメチェンしたら上手くいったんだよ」

 

 俺も信じられないが、事実だ。

 言っててマジで幻覚の類の気がしてくるな。

 

『……』


「おい、どうした?」


『本当に近衛さん達来るんだよな』


「来るよ」


『怖いお兄さんとか来ないよな』


「美人局じゃねーよ」


『なら、行く! 俺も夏の思い出がほしい!!!!!』


 切実な悲鳴だった。

 たぶん泣いている。


「なら、詳しい話はあとでRINEするからそっち確認してくれ」


『おう。分かった』


 通話が切れる。

 まったく。喧しかった。

 俺は再び愛奏に連絡を入れた。


 ■□■□


【ゆうま】:八条もOKだってさ


【ゆうま】:時間どうしよう?


【近衛さん】:一八時に光珠駅集合にしよう


【ゆうま】:〈了解のスタンプ〉


 よし、十八時だな。

 いやー誘ってみるもんだ。

 きっかけをくれた咲良には、こんど何か奢ってやろう。


 俺はルンルン気分でスマホを閉じようとした時だった。

 近衛さんからまたメッセージが届く。


【近衛さん】:赤島君からも誘われたけど断っちゃった


 あっぶねぇ! マジで誘ってるじゃないか。

 つまり一周目じゃこの夏祭りは、あいつ等と行く予定だった可能性があるな。

 それがきっかけで急接近とかあり得る。

 あいつ等と夜に会うとか危なすぎるだろ。


【ゆうま】:てことは、また現地でしつこく誘ってくるかも?


【近衛さん】:かもしれない


 うーむ。これは少し気を付けた方が良いな。


【ゆうま】:なら、また守るよ


 これくらいは格好付けてもいいだろう。


【近衛さん】:ありがとう 無理しないでね


 優しい。

 なんかほっこりした。


 それはそうと手を打つ必要がある。

 俺は再び幸治に電話した。


 ■□■□


『なんだよ。何かあったか?』


「ごめん。幸治は赤島って知ってる?」


『赤島? 知ってるよ。評判はあんまり良くないぞ』


「近衛さんに絡んできてるらしいんだ」


『また、面倒な』


「たぶん明日も何かあるかも。こちらから打って出るつもりはないけど、対策はしたい」


『つってもなぁ。俺らオタクに何ができるって話だし』


「誰か知り合いを誘えないか? 数多い方が有利だ」


『んー。知り合いねぇ』


 幸治が思案する。

 ややあって返答してきた。


『一人、心当たりあるな』


「誰だそれ?」


『同じクラスの藤門ふじかど竜一りゅういち君』


「藤門君? え、お前知り合いなの?」


 たしか記憶にある藤門君はメチャクチャ怖いイメージがある。

 俺達とは無縁な感じだが。


『ゲーム友達なんだよ。あいつ目つき悪くて、空手だったか武道を習ってるから用心棒なら最適だな』


「用心棒って。それって失礼じゃないか?」


『んにゃ。外見が怖すぎて友達いないから、誘ったら多分来ると思う。女子もいるって言ったら分からんけど』


「騙して連れてくるのか?」


『大丈夫だよ。なんだかんだ言ってアイツも女の子が好きつーか、ムッツリだし』


「そ、そうか。まぁ彼が良いっていうなら歓迎だよ」


『おう、なら声かけとくわ。で、時間決まった?』


「一八時に光珠駅集合」


『りょーかい』


 こうして、不安がありながらも夏の締めくくりのイベントが決まった。


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【番外情報】

優真君の言う通り、一周目は赤島君達とお祭りに行っていました。

夜、夏祭り、チャラ男と遊ぶ。何も起きないはずがなく……。

優真、無自覚でインターセプト成功。



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