第10話 映画に行こう!④/愛奏とお昼ごはん
「事前にいくつかお店をピックアップしたけど、何食べたい?」
「あ、ちゃんとリサーチしたんだ。じゃあ優真君のセンスにお任せで」
そう来たか。
気温はかなり高いので、ちょっと早めに店に入る方が良いだろう。
「カレーって大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ焼きカレーの店いこう」
俺は移動が少ない場所をチョイス。
少し歩いて、大通りを外れた路地に立つビルの二階。
そこに目当ての店があった。
「ここだ。階段急だから気を付けてね」
俺は率先して上がる。
店内に入って二名と告げて、店員が案内した席に座った。
昼時だったが、空いていてよかった。
店員がメニューを持ってきた。
「俺は焼きカレーにするけど、愛奏はどうする?」
「私も同じのにする」
「じゃあ、焼きカレー二つで」
俺は店員に注文。
メニュー片づけて、出されたお冷を飲んだ。
「なんだか、大人っぽいお店だね」
愛奏が店を見回して言う。
たしかに、落ち着いた雰囲気の店だ。
客層も大人の女性や、お金持ちそうなお婆さんがいて、高校生が来るような場所っぽくない。
「ネットで見たけど隠れ家的な喫茶店らしいよ。ランチやっててハンバーグとか焼きカレーが有名なんだってさ」
「そうなんだ。手慣れてるっぽいけど、こういうトコよく来るの?」
「外出てご飯食べるときは、こういうお店入るかな。ほら『孤食のリーマン』ってドラマあるの知ってる?」
「知ってる知ってる。深夜に見たらお腹すくって言われてるよね」
「そのドラマにあやかって、美味しそうだなって思ったら入るようにしてるんだよね」
まぁ、そうなったのは大人になってからだけど。
一周目の当時の俺ならファストフード店を案内していただろう。
「へぇ。そういえばこの間も、トンカツ屋さんで食べたって言ってたね」
「あれも美味しかったけど、ちょっと値段がね。ここはリーズナブルだから安心して」
ここは八百円から千円台で食べられて、女性が落ち着ける店だ。
いくつかピックアップした中では、ここが本命と言える。
「なんだか、優真君が大人に見えるよ」
「そうかな? 俺的には美味しいものに目がない、食いしん坊って感じかなぁ」
大人の雰囲気が出せたのなら、成功だ。
肉体と精神年齢のギャップが俺のアドバンテージ。
赤島達から奪うなら、こういう所でポイント稼がないとな。
「食いしん坊でも良いじゃん。だって私も結構食べるよ」
「あ、そうなんだ。ちょっと意外だな」
「ほら、美味しい物食べると幸せになるじゃない? だから食べるの好きなんだよね~」
そうだったのか。
考えてみれば、俺は彼女と話すことはしても、昼休憩で一緒にご飯食べることもなかったし、こんな話をすることもなかった。
つくづく思うのだが、俺は「近衛愛奏」と言う女性の事をほとんど知らなかったんだな。
それから焼きカレーが来るまで映画の感想を話した。
「愛奏は今日の映画どうだった?」
「すっごく面白かった! 映画館で見ると迫力あるよね!」
「だよね。仮面ファイターの劇場版は映画館で見るに限るよ」
愛奏とのオタトーク楽しすぎる。
しかも共通の映画見て、その日に話せるなんて。
「そういや、愛奏ってどうして特撮とか好きなの?」
俺は一周目で聞けなかった事を訊ねてみた。
今の状況ならきっと教えてくれるはず。
「んー。小さい頃はプリナイの方を見たついでに、イケメンの役者さんが出てるから見てたんだ」
「なるほど。そういう人いるってよく聞くなぁ」
「でも、だんだんお話が分かるようになって、格好良いイケメンが、格好良く戦ってるところ見て、恋しちゃったんだよね」
恋とな?
それは誰だ。
「えっとそれってどのファイター?」
「仮面ファイター武王の葛葉剛太」
「へぇ~。ひょっとしてそれが初恋?」
「うん。ベルトも実はこっそり持ってて。今でも好きなんだ」
ちょっと照れてる。
可愛い。
いやまて、そういや俺の今の髪型って。
「あのさ、優真君。この間は聞きそびれたんだけど。その髪型って葛葉剛太のイメージ?」
愛奏が恐る恐る聞いてきた。
「実はそうです。あそこまでイケメンじゃないけど。その色々と、あやかってます」
俺は白状した。
「やっぱり、そうなんだ! 凄く似合ってるよ!」
「あ、えっと、ありがとう」
ありがとう。あの時提案してくれた美容師さん。
まさかの愛奏にクリティカルなヘアスタイルだったよ。
「武王も面白かったよね。俺は拳王が好きだったなぁ」
「あ、拳王も良いよね! というか武王はイケメン大集合で目が幸せだったなぁ」
さっきから話していて気付いたが、どうやら愛奏はイケメン好きらしい。
まぁ確かに赤島はイケメンだ。
そしてホストにハマった経緯もなんとなく見えてきた。
イケメンにちやほやされて沼ったわけだ。
こうなってくるとどれだけ髪型が好みでも、人間にしかなれない俺は、かなり不利な気がしてきた。
いや、かの葛葉剛太もあきらめず、最後は人間を超えたのだ。
俺だって人間を超えてみせる。
そう心の中で決意した時、カレーが運ばれてきた。
「おまたせしました」
やってきたのはサラダ、ピクルス、小さなキッシュそして焼きカレーが乗ったワンプレートだ。
焼きカレーは、焦げたチーズと真ん丸な卵黄が乗せてあって、めちゃくちゃ美味しそうだった。
「器が熱いので気を付けてお召し上がりください」
店員はそういうと立ち去る。
「うわー美味しそう! サラダにフルーツも入ってるよ!」
「アツアツだから火傷に気を付けて食べないとね」
とりあえず俺達は、ワンプレート全体を写真に撮ってからスプーンを持つ。
「「いただきます」」
俺達は空腹を満たすため、食べ始めるのだった。
■□■□
食べ終わって。
お互いに余韻を噛みしめていた。
「もの凄い美味しかったね」
「だね。これは当たりだったなぁ」
いやホント美味かった。
焦げたチーズと卵黄を混ぜて食べるカレーは最高だった。
「サラダも酸っぱめのフルーツが良い感じだったね」
「サラダにフルーツ乗せる発想はなかったなぁ」
メイン以外も美味しく、これで千円超えないのは凄い。
「これは余韻を楽しんで、食後にアイスコーヒー飲むべきだな。愛奏は何か頼む?」
「え、どうしよう。うーん。このパフェが美味しそうだけど、ちょっと手が出ないかなぁ」
メニュー表を見ると、確かにちょっと高い。
なるほど、喫茶店だからこっちが主で、ランチは多少安くても採算取れてるわけか。
「俺も食べたいし、ちょっとくれるなら半分出すよ」
俺は提案してみた。
「え! 良いの!?」
「こういう時くらい遠慮はしない方が良いよ」
「えっとじゃあ頼もうかな」
「決まりだね。すいませーん」
俺は店員を呼んで、注文する。
しばらくして、コーヒーとパフェが運ばれてきた。
「すげぇ。イチゴとイチゴの間にクリーム入って、イチゴが乗ってる」
出てきたのは、イチゴがこれでもかとギッシリ詰まった一品だった。
「かわいい~」
愛奏は楽しそうに写真を撮っている。
「それじゃ、いただきます!」
カレー食べた後にこれ入るの凄いな。
甘い物は別腹とはよく言ったもんだ。
「う~ん。おいし~幸せ~」
ニッコニコの愛奏。
その笑顔が見られて俺も幸せだ。
「あ、そうだ。はい優真君。あーん」
「いっ!? そ、それは、ハ、ハ、ハ、ハードルが高いよ!」
何の前触れもなく「あーん」してきたので、俺は焦った。
「あははは。そうかなぁ。じゃあ、はいコレ」
スプーンを渡してくる。
いや、これも間接キスだよな。
良いのかコレ。
良いんだな。
俺は受け取って食べる。
あま~い味が広がる。
「うん、あまい」
「ふふふ。優真君、顔真っ赤。かわいい」
「あんまり、揶揄わないでくだしゃい」
「ぶふっ噛んでる」
うう。なんだか思い切り揶揄われた。
■□■□
その後、パフェを堪能した彼女と店を出た。
相変わらず茹だるような暑さだったため、屋根付きの商店街に避難。
少しブラブラしてから、やっぱり暑かったので午後四時くらいに解散することになった。
光珠駅まで戻ってきて、駅の改札口で別れる。
「今日は楽しかった! 付き合ってくれてありがとう!!」
「いや、こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」
最初はどうなるかと思ったが、この飛び切りの笑顔を見れば、大成功だと言えるだろう。
「それじゃ、またね!」
「うん。気を付けて帰ってね」
俺達は手を振ってそれぞれの帰路に着いた。
いやはや、大きな案件を終えたような満足感と疲労感だ。
家に帰ったらキンキンに冷えたビールでも飲みたい。
今は未成年なので、キンキンに冷えたオレンジジュースでも飲もうかな。
とにかくこれにて、愛奏との初デートミッションはComplete(電子音声)だ。
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というわけで、デート編でした。
ちなみに作中の焼きカレーは、とある店で私がリアルに食べた物です。美味かったです。
読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ応援、★評価、感想などいただけましたら幸いです。
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