第9話 映画に行こう!③/初めてのプレゼント

 近衛さん、いや愛奏と映画館に向かう道中。

 絶対に言おうと思っていて言っていなかった、ある事を思い出した。


「そういやゴタゴタで言いそびれてたけど、今日の服装、大人っぽくて良い感じだね」


「あ、わかる? 実はちょっと背伸びしてみたんだ。にしてもちゃんと服の感想言うなんて、偉い偉い」


 愛奏は嬉しそうに言う。


「あはは。でも背伸びなんて感じないよ。あい、愛奏はもともと落ち着いているから、しっくりくるというか。うん、やっぱり良い感じだ」


 名前を呼ぶとき詰まってしまった。

 だが、彼女はそんな事を気にせず言った。


「そう? だったら嬉しいな。優真君もちょっと今日はお洒落してきたんじゃない?」


「そう見えるなら頑張った甲斐があったなぁ。女子と映画行くなんてどうすりゃいか正直、頭抱えたんだよね」


「大丈夫、大丈夫。イメチェンの効果もあって良い感じだよ」


 ありがとう美容室のお兄さん。

 ありがとう、お母さま。

 俺は今、女子に服装を褒められるという陰キャの夢を叶えています。

 全て遠き理想郷アヴァロンはここにあったんだ。


「俺は今日、愛奏と来てよかったって思うよ。人生最高の日だ」


「まだ映画も始まってないよ!?」


 そんなやり取りをしつつ、映画館に到着した。

 映画館は結構な人がいた。


 夏休みだからか、子供連れもいる。

 チケット販売機もかなり並んでいた。


「うわ、人が多いね。チケット大丈夫?」


 愛奏が不安そうな顔をした。

 予約してあることは伝えているが、映画館に滅多に行かないなら、ちょっと不安になる人数だな。


「大丈夫。予約した人の発券は直ぐだから。ちょっと待ってて」


 俺はさっさと予約者の列に並び、パパっと発券する。


「お待たせ。はいコレ」


 愛奏にチケットを渡した。


「ありがとう。本当に早かった。手慣れた感じだけど優真君って映画、結構行く人?」


「考えてみれば結構行ってる気がするな。毎年ファイター映画は年二回あるし、プリナイの映画もあるし、他にもミラクルマンの映画とかもたまに行くし。一年で三回以上は行ってるかな」


 特オタって他のオタクと違って、映画がめちゃくちゃあるからな。

 Vシネマ系列の期間限定上映まで含めると、本当に三回は確実に行っている。


「すごい。私なんて映画館来たのって、二年くらい前だよ」


「あーなるほど。普通はそんな頻度かもなぁ」


 今じゃ配信で見られるものがほとんどだ。

 映画館までわざわざ行く人って珍しいのかもしれないなぁ。


「でも、優真君と仲良くなれたから、映画行く頻度が増えるかもね」


「そそそ、そうだね。冬映画は冬休みにあるから、時間が合えば行けるね」


 そんな、まだ今日も始まったばかりだというのに。

 また俺と一緒に行ってくれるのか。

 いや待て。


『増えるかもね』ってことは今日が失敗したら次がないってことだよな。

 あれ? ひょっとしてハードル上げられた?

 この先の俺の計画が、今日この日に掛かってるってこと!?


「時間まだあるよね? グッズ見てみようよ!」


 俺の内心を知ってか知らずか。

 愛奏は売店の方に行ってしまった。

 落ち着け、俺。


 かのファイターの主題歌曰く『ショーは待ってくれない。幕が上がれば終わりまでやりきるだけ』だ。

 やるしかない。


 接点が減れば、赤島に取られるかもしれない。

 そうなれば彼女が破滅するのだ。

 気楽な映画鑑賞のはずが、失敗が許されない重要ミッションとなり、俺は気合を入れ直した。


 ■□■□


 映画鑑賞中。

 いよいよクライマックスだ。


『滾ってきたぜ! 行くぞデビー!』


『応よ! カズキ!!』


『『変身!!!』』


 主人公と相棒の悪魔が大きなスクリーンで躍動する。

 変身が完了してデービル1とデービル2になり、大見得を切った。

 すると背中で大爆発。

 劇場内が爆音で震える。


 いやぁ、十一年ぶりくらいに見たけど、この映画熱いなぁ。

 ふと隣の愛奏を見ると、めちゃくちゃキラキラした目で集中していた。

 どうやら楽しんでいるようで何よりだ。


 劇場の雰囲気も良い。

 マナーの悪い客もおらず、俺の反対に座っている子供の息をのむ声が聞こえる。


 やっぱファイター映画はこうでなくては。

 応援している子供達の声や息遣いがあってこその作品だ。


 そんな事を考えていると、劇中では必殺技がド派手に決まり、今回一番の爆発が起こる。

 あったなーコレ。

 監督がCGじゃ味が出ないとか言って、火薬多めにぶち込んだシーンだ。

 スーツアクターが死を覚悟した爆発って言ってたっけ。


 十一年後の未来じゃCGとAIのブレンドで、本物の火薬爆発も珍しくなったからなぁ。

 久しぶりに見る爆発に俺も感無量だった。

 そうこうしているうちに、映画はエンディングへ。

 スタッフロールが流れる中、愛奏が小声で言ってきた。


「どうする? 出る?」


「トイレ大丈夫なら、最後まで見た方が良いよ」


「そうなの?」


「うん」


「じゃあ見る」


 たしかこの映画、最後に次シリーズの仮面ファイターが出てきて、終わるから勿体ない。

 エンディングが終わり、画面が切り替わった。

 イケメンの役者がスクリーンいっぱいに映る。


『さぁ楽しいゲームはここからだ』


 そうそう。初期の仮面ファイターキュウビーは設定固まってないから、こんな感じだった。


『勝利は俺が掴む!』


『変身!!』


 新しい仮面ファイターが映り、タイトルが燃えるようなエフェクトで堂々と出た。

 そして暗転して、劇場に光が付く。

 ざわざわと劇場内で声がしてきた。


「ね。これがあるから、ファイターの映画は最後まで立てないんだよ」


 俺はドヤ顔で愛奏を見た。


「すごかったね。次のファイターも格好良かった!」


 ほくほく顔の愛奏と劇場を出る。

 お互いにトイレ行って、それからもう一度物販コーナーへ。

 実は映画見る前はレジが混んでいて、並ぶと上映に間に合わなかったので、後回しにしたのだ。


「うわー、さっきと変わってないよ」


「まぁ映画の終わる時間が同じだから、そうなるかぁ」


 物販って混むときは混むからなぁ。

 せめてパンフレットだけでも購入したいところだが。


「どうする? 俺は並んでも平気だけど?」


「私も欲しい物が売っていたから、並ぶ」


 と言うことで、俺達は欲しい物をピックアップ。


「優真君は何買うの?」


「俺はクリアファイルとパンフレットかなぁ」


「私、このチャームが欲しいんだよね」


 そういって見せてきたのはランダム排出のキャラクターチャームだ。


「狙いは?」


「デビー!」


「じゃあ、俺も買って当たったら譲るよ」


「え、それは悪いよ」


「気にしないでよ。劇場用の限定チャームだし、愛奏が当たった方と交換でもいいからさ」


 と言っても当たるかどうか分からないのが、この手の商品だ。

 箱買いして開けまくる手もあるが、なんだかそれするとドン引かれそうなので自重する。

 とりあえず、三つ購入することにした。


「そういえばパンフレットって面白いの?」


「面白いかどうかは人によるかなぁ。でもやっぱ役者さんと監督とかのインタビューが載っているのが魅力だよね。高い方ならDVD特典付きだし」


「そうなんだ。私も買う」


 そして、二人で並んで(ちょっと時間がかかった)会計を済ませて、映画館の隅のベンチに座った。


「何が当たるかな?」


 愛奏はワクワクして例のチャームを開けた。


「あ、カズキだ」


 どうやら主人公のカズキが当たったらしい。


「じゃ、俺も」


 一つ目は今回の敵ファイター。

 二つ目は味方のいわゆる二号ファイター。


「最後はどうかな?」


 三つ目に出てきたのは。


「あ、デビー!」


「わぁ、ほんとうに当たった!」


 まさかの目当ての物が出た。

 と言うことでさっそく愛奏に渡した。


「はいコレ。デビーが当たって良かった」


「ありがとう。じゃあ私からはカズキね」


「え、でもそれは揃ってないとでしょ。いいよ」


 せっかく主人公コンビがそろったんだから分けるのは勿体ない。


「良いの! ほらあったじゃん。お互いの物を交換して中深めるって話。だから私がデビーで、優真君がカズキ。これでお互い相棒だね!」


 あー! あったあった。そんな話。

 そんなキラキラした目で相棒なんて言われたら、ちょっとドキドキしてしまう。


「わかった。大切にするよ。ありがとう」


「学校の鞄に付けたら、わかる人にはわかるお揃いの物だね」


「それは、同士を見つけるためのアイテムだなぁ」


 意外と面白いかもしれない。


「さて、愛奏。お昼ごはんどうする?」


 時刻は昼を若干過ぎたくらい。

 ランチタイムはまだやっている。

 俺は彼女に訊いてみた。


「お腹すいたから食べようよ」


「じゃあ移動しようか」


 俺達は昼飯を食べるために映画館を出た。




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次回、彼女とお昼ごはん。


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