第5話 カラオケ行くよ!①/からかい好きの風見さん
カラオケ。
それは仲が良い友達同士で、各自の好きな歌を歌いながら時間を共有すること。
それが、なぜ俺と?
「ダメかな?」
近衛さんが少し困ったように言う。
思考を止めるな、俺。
今すぐ返事しろ。
「いやダメじゃないけど。俺で良いの? 二人で行く予定だったんじゃ?」
「本当はもう一人いたんだけど、ちょっと来れなくて。クーポン券が3人以上でないと使えないの」
ああ、人数合わせで丁度良いいと。
いやそれでも、これは予想外なチャンスだ。
「なら喜んで三人目として参加するよ」
俺は努めて平静に言う。
すると風見さんが残念そうな顔をした。
「あれ~? もうちょっとテンパると思ったのに」
「揶揄わないでくれ。これでもドキドキなんだから」
「いひひ。女の子二人に誘われるなんて、良かったね」
風見さんはニヤニヤと楽しそうに笑う。
「いやぁ正直、今年の運を使い果たした気分だよ」
「ぶははは。運しょぼすぎでしょ」
風見さんは爆笑した。
この微妙にイラっとくる感じ、創作が創作ならチャラ男か悪いおじさんに
まぁ彼女の提案がなければ、近衛さんとカラオケなんて行けないから、俺は感謝してるけども。
「ちょっと雫玖。笑うと失礼だよ! ごめんね深影君」
近衛さんが申し訳なさそうに謝ってくる。
小悪魔な風見さんと違って、彼女が清らかな天使にみえるよ。
俺は微笑んで言う。
「気にしてないよ。それより行こう。どこの店?」
「えっと駅前のとこのソングパーク」
「ああ、あそこか。じゃ行こう」
俺達は歩き出す。
と、ここでまた風見さんが意地悪そうな顔で言ってきた。
「荷物持ってくれたら、キミの両腕をアタシたちが組んであげるよ~?」
「ちょ! 雫玖!」
近衛さんが慌てた。
俺は苦笑しながら手を出す。
「腕組むのは流石に勘弁してくれ。そこまで心臓が強くない。でも荷物は持つよ」
「え、ガチ? らっきー!」
風見さんが荷物を渡してくる。
どうやら服の買い物していたようだ。
「もう雫玖! ダメだよそんなことしちゃ」
「いいよ近衛さん。女子二人とカラオケ行けるなら、荷物持ちするよ」
俺は彼女に手を差し出した。
「えっと、なんかごめんね」
近衛さんは観念して荷物を渡してきた。
「それにしても、今日は二人で買い物だったの?」
「うん。雫玖が服買いたいって言って。ついでにカラオケ行きたいって」
「なるほど。お昼とか食べたの?」
「カラオケで何か食べようってなったの。深影君は?」
「俺はさっきそこのトンカツ屋で食べた」
風見さんがそれを聞いて驚いた。
「おー。 深影っちお金持ち~。昼からトンカツとか良い身分じゃん」
深影っちとな。
風見さん、ぐいぐい踏み込んでくるな。
これが真の陽キャというヤツか。
「夏休みくらい贅沢に行きたいと思ってさ。美味かったよ」
「それじゃカラオケおごってよー。今ならぎゅーって抱き着いてあげるよ。愛奏が」
「え!? 近衛さんが!?」
「いいかげんにしなさい! 雫玖!」
「あはははは。深影っち揶揄うの楽しー」
悪びれもせずケラケラ笑う風見さん。
それに対して可愛く怒る近衛さん。
その間に挟まれて苦笑いする俺。
三者三様で賑やかに、カラオケ屋に向かうのだった。
■□■□
そして、カラオケ屋に着いて。
個室に入って一息。
「あ゛ー。暑かったぁ」
風見さんがドリンクバーで入れたウーロン茶を飲む。
「ほんとだねー」
近衛さんもハンディファンで涼みながら同意する。
汗かいた美少女二人と個室で涼む。
俺は今、桃源郷にいるんじゃなかろうか。
多分、今際の際にみる夢だろこれ。
つーか思ったけど俺、臭くないよね?
毎日、風呂は入ってるから大丈夫だと思うけど。
そんな俺のドキドキを知ってか知らずか、近衛さんは俺に声をかけてきた。
「深影君はさ、カラオケってよく行く?」
「友達の幸治……八条となら偶に行くかな。映画見終わった帰りとか」
「ああ八条君ね。ということは、映画って仮面ファイター?」
「うん。知っての通り特オタだから、毎年夏と冬は必ず行ってる」
「今年のデービルズも楽しみだよね! 最終回後の話をするって予告で言ってたし!」
「そうなんだよ! オマケに最近の傾向からして、絶対にサプライズを用意してるはずなんだ。どんなビックリが飛び出すかめちゃくちゃ楽しみだよ」
和気あいあいと話しているが、俺は泣きそうだった。
俺、今、十一年ぶりくらいに近衛さんとオタトークしてる。
近衛さんって実は隠れオタクだからな。
こうやって話して盛り上がった事が、俺の人生のハイライトだった。
既に結果を知っている映画だから、ネタバレにならないように気をつけなきゃな。
「おーい。アタシを忘れるなー」
風見さんから抗議の声が上がる。
「あ、ごめん。雫玖」
「ごめん。風見さん」
二人で謝罪した。
「妙に仲良いね。愛奏と深影っち」
「そ、そうかな。俺に話を合わせてくれてるだけだと思うけど」
「んー。愛奏も隠れオタクだし、案外相性いいんかもね」
「確かに深影君とはよくオタ話するよね。普段寡黙だけど話すと面白いし、ちゃんと私のマニアックな話を聞いてくれるし」
近衛さんは頷くように言う。
「そそそそそんな照れる……よ」
面と面向かって言われて、昔の俺が顔を出す。
そんなこと言われたら照れるよ、近衛さん。
「あーガチで照れてるぅ。カワイイ〜」
風見さんはクスクスと笑う。
「ほんとだ。可愛いー」
近衛さんもニコニコ笑った。
うう……嬉しいけど、恥ずかしい。
「それじゃあ、歌おっか。アタシが先陣切るよ!」
風見さんはマイクを持つと、パパっと曲を入力。
音楽が流れ始めた。
曲名は知らんが、ロックぽい。
そもそも俺はアニソンと特ソンくらいしか分からず、有名アーティストもアニメか特撮関係で歌ってないとほとんど知らない。
「ふふーん。深影っち。アタシの歌聴いて驚くなよー!」
何かえらく自信があるようだ。
近衛さんとの絡みで、たまーに話す事はあったが、今かかってる曲と同じく、彼女の事もよく知らないんだよな。
「――――♫」
そんなことを考えてると彼女が歌い始める。
結論から言おう。
ガチで上手かった。
これ普段から歌ってないと出せないような声量だぞ。
曲が間奏に入ると風見さんはニカッと笑う。
「どーよ! 軽音部で鍛えてるアタシの歌ぁ!」
「風見さんって軽音部だったんだ」
「いいぞー。雫玖ー!」
近衛さんはノリノリだった。
風見さんは、そのままラストまで圧倒的な歌唱で歌い切った。
「イェーイ。やっぱ歌は楽しく歌わなきゃなー」
彼女はスッキリした顔で言う。
俺と近衛さんは拍手で讃える。
「やっぱ雫玖は上手いね。さすが本職」
「いやでもこれ、この後歌う俺達のハードル上がってない?」
「いーのいーの。歌なんて好きに歌えば。テクニックだの音程だの小難しいこと考えずに、歌えばいいの!」
なにか妙に拘りがありそうだ。
すると近衛さんが言った。
「雫玖、今のバンドメンバーとケンカ中らしくて。今日はそのストレス発散に付き合ってる感じなの」
「あーなるほど」
音楽性の違いってやつなのか?
俺にはよくわからない。
「はいそこ! イヤな事思い出させない!」
「あははゴメン、ゴメン」
「じゃあ、次は愛奏」
風見さんはそう言ってマイクを渡す。
「え~っとじゃあ、せっかく深影君いるしこれで」
近衛さんが選んだ曲は仮面ファイターゴーズのテーマ曲だった。
なんて、気遣いできるいい子だ。
オタクに優しい女子はここにいたぞ。
曲が始まり歌いだす。
「――――♪」
本来は力強いボーカルの曲だが、こういう澄んだ感じの声で歌うのも良いな。
さわやかっていうか、突き抜けた青空の下で歌ってるっていうか。
そもそも彼女も歌が上手い。
この二人の後に歌えと申すか。
俺が内心焦っていると、曲が終わった。
「やーっぱ愛奏も歌上手いよねぇ。いいじゃん、いいじゃん」
風見さんが、やんややんやと拍手する。
「そーぉ? 雫玖に言われるとちょっと自信つくね」
「アタシなんかより綺麗な声だから、正直うらやましい」
「ふふふ。ありがとう。それじゃあ、はい深影君」
近衛さんがニコニコとマイクを渡してくる。
「あ、あんまり期待しないでくれよ」
歌うのは好きだが、本当は人前で歌うなんて、カラオケでも勘弁願いたい。
でもそういう俺を変えて、近衛さんと仲良くならねば。
いざ、俺の歌を聞け。
入力した曲は獣電戦団キョウリュウダーのテーマ曲。
盛り上がれて、かつ作中概念であるブレイブにあやかってみた。
「WoW~♪」
そう今の俺は、作中よろしく地球から湧き出す曲を歌う男。
ブレイブに火を付けろ。
なんて思いながら歌う。
この歌は料理している時や風呂掃除のときに、鼻歌でよく歌うから十八番でもある。
「~ブレイブ・オン!♪」
生まれて初めて女の子の前で歌い切った。
「え~っと、お粗末様でした」
俺は照れながらマイクを置く。
「いやいやいや。深影っち、めっつっつちゃ上手いじゃん!」
風見さんが驚いたように言う。
「えー? そうかなぁ?」
「そうだよ! 歌詞にちゃんと感情が乗ってるし、この歌が好きって感じわかるし。いや、ちょっと予想外だったんだけど」
「うん。深影君の声低くて良く通るから、歌声で聴くと耳が幸せだね」
ダメだって! それは俺にとってオーバーキルだ。
「しょ、しょうかな? あ、あっりゃがとう」
「ぶふっ、照れて思いっきり噛んでんじゃん。可愛い」
風見さんが笑いだす。
「ちょっと雫玖! 揶揄わないであげて」
近衛さんがたしなめた。
ほんといい子だ。
「そうだ! 良いこと思いついた」
風見さんは、俺と近衛さんを交互に見ると告げた。
「これだけ歌
爆弾発言。
負けられない戦いのゴングが鳴った気がした。
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今日はこの話のみ更新です。
読んでいただき、ありがとうございます。
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