第42話

田町とは無関係を貫こうとしてた組の人間だったが、光希の話からあの屋敷に訪れていたことが解った。来客があると度々光希を同席させていたらしい。見せびらかすためだったようだ。

『私の光希がどれだけ可愛いか、見せてやるんだ』

まさか光希に性的な接待でもさせていたのかと思ったが、それはなかったらしい。逮捕された組員も証言している。

『可愛い顔のガキを侍らしてた。田町はクソ野郎だ、ガキに手ぇだした。俺はしてない、男はやれない。顔は確かに可愛かったけどな。田町のことはなんでも喋るんで、減刑で。頼んますよぉ』

組のことを話す田町は時々口を噤む。組の上層部の話となると肝心なところを話さない。そんな時は決まって光希の名前を持ち出していた。

『あの子は私が大切に仕込んだ可愛い子だ。他の人間に触らせるわけがない。光希に会わせろ。いくらでも喋る。光希をここに連れてこい』

調書を読んだ権田は机を叩きつけた。田町の発言には度々光希の名前が上がる。田町は光希に対してひどく執着している。それは今も変わらない。

一応田町の事件を担当している刑事も光希を被害者として扱ってはいるものの、事件解決のためにと容赦なく光希の受けた被害を突っ込んで聞いてくる。田町の話となると、田町を殴りつけたこと、その原因となった被害ついて思い出させることになる。光希を傷つけ、苦しめることになる。事件解決をさせたい刑事の焦りもわかる。双方の心情を思うと、権田は心苦しい。

田町の背後にいた組は今若い連中を使って詐欺を行っている。これ以上若い人間が使われ傷つけられてはいけない。権田も早急な解決と上層部の逮捕、組の解体を望んでいる。

田町が逮捕されてすぐ、光希の正当防衛が課内ではほぼ決定事項となった。家宅捜索で田町のあの屋敷からは光希の映像がいくつも押収された。一番古い映像は、光希が初めてあの屋敷に連れて行かれたであろう日のものだった。

光希が泣き叫ぶ様と田町の笑い声の入った映像に、見ていた署員は皆、言葉を失った。

光希は何をされているのか、その行為が何なのかもわかっていないようだった。それを田町は楽しそうに嬲る。なんともおぞましい映像がいくつも記録されていた。ある時は縄で縛り、ある時はよくわからない玩具を使っていた。

まるで拷問だった。

親族に危害を加えるような発言をしたことがきっかけで、光希は田町を殴りつけた。その発言がなくとも映像だけで光希の反撃は正当な防衛だと判断されただろう。そのくらい凄惨な映像がいくつも残っていた。

まして田町は死んでもいなければ、出血はしたものの、たいした怪我でもなかった。外出を許されなかった光希は筋力がかなり落ちていた。そんな光希の一撃は田町を失神させただけだった。

映像があったことを、まだ光希にも清にも伝えられていない。伝えるべきだが、伝えたらきっと光希は今以上に傷ついてしまう。本来なら保護者に伝えるべきだが彼らにはその保護者がいない。戸籍上の弟だがそれ以上の感情を光希に抱いている清に伝えることも憚られる。まして今日の状態を見てはますます伝えられない。ひとまず事情を知り映像を見た人間は、光希と清に配慮して口を噤むことにした。

あの映像の内容を光希は思い出すことになる。権田は顔を覆って深いため息をついた。

「カミサマなんて、いんのか」

「へ?あぁ、田町の、アレですか。ふざけたシノギですよね」

権田の問いに高輪は鼻で笑った。ダイベンシャ様に祈りを捧げてカミサマから赦しを得る。債務者を村に住まわせて、ダイベンシャこと田町を信仰させて金を巻き上げていた。

光希に執着している田町だが、金のために自ら引き取ることはしなかった。これについて、田町は何度も後悔を口にしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る