第43話 完
『光希の父親の、あんなはした金にしがみつくんじゃなかった。さっさと私の養子にしてしまえば良かった。あのガキに、清に光希をとられた。私から、連れて行った。奪ったんだ!許さん、カミサマの、罰が、当たるぞ!!!』
田町は興奮し、口から泡と共に清への恨みを吐き出していた。光希が清の家に引き取られたのは、夫婦共に残っている住民が鈴木家だけだったからだ。他の子供がいる家庭は父か母、どちらかがいなかった。消去法で、鈴木家が選ばれた。
あの家に引き取られたことは光希にとって、清にとって良いことだったのか。
権田は光希のためには良いことだったのだろうと思う。田町の残していた映像の中で、光希の受けた虐待は筆舌に尽くしがたい非道なものだった。男性に恐怖心を抱く光希を当然だと思う。しかし光希は清と逃げ出した先のホテルでそういうことをした。そういうことをした清と今も共にいて清といたがっている。それだけ光希の中で清は信用に値する男なのだろうと思った。お互いを庇い合う光希と清を、清も光希が大切なのだろうと思った。だから清に様々な話をして光希を守るための弊害もこれからどうすべきなのかも指し示した。それが二人にとっての最善だと思ったからだ。
「俺はな、無神論者だ。カミサマなんざいねぇ」
「まぁた。ごんさん、暴論~」
「カミがいるなら、なんであの二人は救われねぇんだ。なんでまだ、苦しんでんだよ」
茶化した高輪は口を噤んだ。権田は黙った高輪に吐き出していく。光希と清と、なぜまだ苦しんでいるのか。体調に支障をきたして、光希に至っては働けないでいる。なぜあの二人が辛酸を嘗めるのか。
「ごんさん。心の傷って、すぐ治んないんですよ。完治することもないんです」
「あと、何年苦しむんだ?あいつらは…」
「あの二人はゆっくり、あの二人のペースで癒やしていくしかないんですよ。話を聞いて、見守ってやりましょうよ。俺達警察は捕まる場所じゃなくて、頼る場所でしょ?使われてあげましょうよ。あの子達が、泣かなくて済むまで」
高輪の静かな物言いに、権田は眉間を抑えた。
心の傷はそう簡単に癒せない。わかっている。光希は今も、事件の捜査で苦しめられている。清を警察で拘束していた時、権田は清に事件の真相について話をした。あの村の存在理由、資金調達のために作られた宗教団体であったこと、ダイベンシャもカミサマも作られた偽物でること。清には真実を知って、光希を守るために強く、真実を見極められるようになってほしい。
でもそれだけじゃなかった。
光希の正当防衛は早々に決まっていた。署内の空気は加害者である田町の罪を暴くこと、引いては背後の組織解体に向けて、すぐさま方向転換されていった。
信頼を得るために清に真実を教えた。村に暮らしていた清から、捜査のための情報提供を受けやすくするために。ただ優しさだけで清に接しただけじゃない。まだ若く幼い清から信頼を勝ち得るのは、正直簡単だった。机を隔てて対峙していて、心配になるほどに。権田は
どうしてあの子達が、ここまで苦しまなければならないんだろう。
その原因は自分にもある。権田は目を閉じてぐっと息を止めた。二人を苦しめる要因に、権田自身もなっている。
無神論者であり、今回のことで恨みすら感じている権田は祈った。
カミサマ、いるなら返事をして下さい。
どうか彼らを、助けて下さい。
権田は目を開けて、深く息を吐き出した。
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます