第34話
宗教村の実態は、借金で足抜けできない債務者達の牢獄だった。
今のところ、元信者の中で光希や清を追おうとしているものはいないようだ。清と光希は、団体を解体に追い詰めた。復讐しようとする人間が現れることを警察も清自身も警戒していたが、その兆候はないらしい。
この宗教団体を資金源としていた組織は、清と光希に対しては一切の興味を持っていない。元々宗教団体は一時的な資金源だったそうだ。太く稼いで警察に摘発されれば田町を足切りして組織は無関係を貫く。特に組織と田町は仲違いをしていたこともあって、一切田町に対して手助けをしていないらしい。むしろ組織は警察に対してかなり協力的で、田町の罪に対して多くの証言をして証拠を提示しているそうだ。
組織にとって田町は簡単に切り捨てられる存在だった。
両親を自殺に追いやられた清と、体と心に深い傷を負わされた光希は、組織の人間達にとって取るに足らない存在だった。追い回されない生活に安堵しているが、ここまで人の人生をかき回しておいて歯牙にも掛けない彼らに対して、怒りを感じる。
光希はまだこんなに苦しんでいるのに。
光希は二人暮らしを始めてから入院することはなく通院をして経過をみている。完治することはないのだろうとは思っていたものの、症状は軽快したり悪化したりを繰り返している。時々、今のように嘔吐を繰り返して立ち上がれないほど消耗してしまう。きっかけは様々だ。今回は暴行事件のニュースを見てしまったことが原因のようだ。光希自身の過去と重ね合わせてフラッシュバックしてしまったのだろう。最近は特にひどいようで、吐きながら何度も何度も謝っている。もう全て吐ききってしまったのだろう。えづくばかりで何も出てきていない。
「ご、ごめんね、俺、働けなくて、ふ、普通に、生活、できない。清に、迷惑かけてる。ごめんね、ごめんなさい」
「光希はなんも悪くねぇ。悪いのはお前を傷つけたやつらだ」
「でも、もう、何年も、経ってるのに…なんで、おれ、普通に、できないの?気持ち悪いオジサンに、いっぱい、きっ、気持ち悪いこと、されて、俺…どうしたら、いいの?清に、迷惑、かけて、なんで、ちゃんとできないの?ご飯も、作れないの、おれ、どうして」
「…なんでだろうな。なんでお前がこんなに、苦しむんだろうな」
清は強く光希を抱きしめる。光希は清の胸の中で泣きながら吐いた。清は光希の背中を撫で続ける。
5年。まだ若い清と光希には5年の月日はとても長い。
「悪いのは、周りの大人だよ。光希を残して死んだお前の親と、光希をエロい目で見てたジジイ共と、脅されたくらいで俺と光希を残して死んだ俺の親と。全部、あいつらが悪い」
光希は清の胸の中で首を横に振る。
「お、おれっ…ぼく、が、さそうから、悪、くて」
「ちげぇよ。中学生のガキに手ぇ出した、豚が悪い。苦しんだこと知ってて手ぇ出そうとしたジジイが悪い。例えお前が裸で誘ったって、服着せて守るのが大人だろ。あいつらがおかしいんだよ。俺達はなんにも悪くねぇよ。子供守んのが、大人と親じゃねぇのかよ。なんでお前が、俺達が、苦しむんだよ。なんで………なんで、なんだろうなぁ」
清は天を仰いだ。どうして光希が、自分が、こんな想いを抱いていなければいけないんだろう。大人達の勝手で苦しめられた。今も、苦しめられている。
「きよし…ごめんね、苦しいね、清、も…ごめんなさい」
光希は慌てたように顔を上げた。光希が清の頬を撫でる。光希の目の焦点が合っている。えづきも止まっていた。
「吐いて、少しスッキリしたか?」
「うん…ごめんね、おなか、すいた?ごはん、どうしよう」
光希はしょんぼりと落ち込んでいる。今朝、今日の夕飯はカレーがいいと、清がリクエストしていた。
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