第23話

「表現難しいんすけど…淫靡、つーんすかね。色気が漂ってる。なんか、危ういんですよ、あの子。たぶん、これからも似たような目に合うんじゃないっすかね」

権田は納得した。鈴木光希の幼い容姿と子供のような中身。それだけではない彼の魅力は高輪の言う『色気』だ。それが田町の慰み者になっていたからなのかその前からなのかはわからない。その『色気』が光希自身わかっていて発しているのか無自覚なのかも、わからない。幼い仕草や口調がわざと煽っているのかのように見えるときがある。

危ういとは言い得て妙で、『色気』を自覚していようが無自覚だろうが、光希を危険にさらしてしまうだろうと思う。

だからこそ、清に強くなってほしい。ただ力が強いだけじゃなく、光希と自身の置かれた状況とその事実を知った上で、正しく判断する力が必要だ。清がこの先、光希を守り共に過ごしていくという意思があればの話だが。

権田は清に光希を守り庇護してやってほしいと願う。光希のために罪に手を染め、その罪を全て被るつもりだった清の光希に対する想いは並大抵のものではない。そうであってほしい。

権田は空き缶に力を込める。改めて気合を入れて、権田は空き缶をゴミ箱に入れた。






昼が過ぎ、清は再び権田と向き合った。

「お兄さんに毛布をお渡ししました。とても喜んでいました。何度も申し訳ない。体調は、どうですか」

「大丈夫です。光希が喜んで…良かった」

毛布を抱えて喜ぶ光希が浮かんだ。きっと間の抜けた顔でニャンニャンを抱えているのだろう。

「今回の件で、大切な話をします。よろしいですか」

権田の空気が変わった。真剣な瞳に清は頷く。権田は少し間をおいて口を開いた。

「あなたは罪に問われません。お兄さんも、です。おじいさんに連絡を取りました。身元を引き受けてくれるそうです」

「罪に、問われない?なんでですか、そんな…」

清は怪訝な顔で聞き返す。殺してはいないだけで、傷つけそれを隠そうとした。権田は表情を変えずに続ける。

「お兄さんは正当防衛、それに付随するあなたの証拠隠滅もあの村にいては仕方のないことだった、という結論になりました。お兄さんとあなたの話しに整合性が取れたことも大きいです。齟齬がなくこれ以上疑うべき点がない。他の犯罪も見受けられない。再犯の可能性の低さと自首をしたこと、様々な要因が絡んでいます。ただ、今回は、ということです。そもそも人を殴る、その上通報せずに逃げることは良くないことだと、おわかりですね?」

「はい」

清は頷いた。悪いことだとわかっている。だから逃げたのだ。自首をして罪を償う覚悟もしていた。無罪放免であると言われて、清は実感が湧かなかった。警察に自首をして、刑務所にはいるのだろうという想像以外していなかった。 

戸惑う清に権田は間をおいて話を続ける。

「ただ、鈴木さんには今後も捜査にご協力いただきたいんです。ダイベンシャのことです」

「ヤツの捜査、ですか?」

「はい。ダイベンシャ…田町、という男ですが、複数の罪で捜査対象となっています。まずはお兄さんの、光希さんへの暴行と虐待について。これはお兄さんに話を聞くことになりますが…傍にあなたがいたほうが良いと、私は思っています。事情を知っている、あなたを窓口として連絡させていただきたい。よろしいでしょうか」

「はい。構わないです」

清は頷いた。

ダイベンシャは勾留されていると聞いた。複数の罪、ということは、ヤツのしでかしたことは光希への暴行だけじゃないらしい。できるだけ長く刑務所に入っていてもらったほうがいい。権田は一息吐いて目を逸らして、また清を見た。

「それから、まだ捜査段階ですが、あなたのご両親に対しても脅迫をしていたのではないかという疑いがあります。こちらについても、ご協力いただきたいんです。辛い思いを、させてしまいますが…」

なんとなく察してはいたが、権田が少し言い淀んでいたのは清の両親に関することだったのようだ。

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