第22話

「私は持っていけません。彼が訪ねてきたら、直接渡してあげて下さい」

「清、来る?いつ、来れる?清、ちゃんと、来てくれる?」

「きっとすぐ、会えますよ。そのために、私も頑張ります」

光希はきちんと真実を話してくれている。光希は毛布を強く抱きしめた。

「刑事さん、すごいね。嘘、ばれちゃった」

「嘘ではありません。少し間違えただけです。私は、そう思っていますよ」

光希は目を丸くしてから、ぱっと笑った。

「刑事さんね、すごい。俺、毎日見てた。夕方の、刑事さんのドラマ。たくさん調べて、絶対、事件、解決しちゃうの。だからきっと、バレちゃうって、思ってた。でも、俺…清が、捕まっちゃうの、嫌だった。清が、全部、清のせいにしようとしてたから。俺が、そうしたから。だから、全部、俺がやったって、言いました。俺、清の、お兄ちゃん、だから。清のこと、守って、あげなくちゃ」

光希はまたポロポロと涙を零す。刑事ドラマが好きだと、昨日も言っていた。権田の警察手帳をまじまじと眺めて見つめていた。 

清と光希、二人は互いを庇いあっていた。これで二人の話は繋がった。権田は光希にティッシュを差し出す。

「ありがとうございます。また、お話を聞きに来ると思います。何度も、お辛いでしょうが…」

「だいじょぶ、です…清、に…ニャンニャン、貸してあげるねって、伝えて下さい」

権田は頷いた。清はきっと光希に会いに来るだろう。光希は毛布に顔を埋めて泣いていた。

権田は光希に一礼し、病室を出た。





警察署のベンチで権田は缶コーヒーを煽る。隣に腰掛けた高輪は甘ったるい乳飲料を飲んで一息ついていた。

病院での話は調書にまとめて上に出してある。鈴木清と光希についての処遇も決定した。

「ふぃ~っ。やっと口割りましたね~あの二人」

「あぁ。今から弟の方に話しに行く。田町の件でこれからも話を聞くことになるからな。入院してる兄貴の方は…なるべく負担はかけないようにしてやりたい。あの子は被害者だ」

隣で相棒の高輪はムッと顔をしかめる。

「弟君だって、被害者でしょ」

「そうだな…しかし、あいつは兄ちゃんのために強くならなきゃならん。強くなれる子だ」

「ふはっ…ごんさん、弟君のこと大好きっすね」

今度は権田がムッと顔をしかめた。高輪はひぇっと声をあげて肩を竦める。

「好きか嫌いかじゃねぇ。俺は更生できるかどうかで人を見てんだ。あいつは…あの兄弟は、大丈夫だ」

「肩入れし過ぎっすよ」

「俺だって人間だからな。そのためにお前がいんだろ、相棒」

これから鈴木兄弟を被害者として扱うことになる。そしてダイベンシャの事件での証言者となってもらわなければならない。事件について数多く清に伝えてきた。本来ならば伝えなくても良いだろうことも。情報を与え、信用させて、証言を引き出す。実際今、清は権田と警察を信用してくれている。汚い大人のやり口だ。

利用するような真似をして申し訳ないと思う。その分、今後彼らがどう生活していくのか、権田は少しでも道標になれたらと思っている。肩入れしすぎているかどうか、客観的に見るためにも相棒である高輪の存在は必須だ。

「相棒って…ドラマの見すぎっすよ、ごんさん」

「そんな暇ねぇよ」

生意気に笑う高輪に、権田はコーヒーを飲み干した。高輪も乳飲料を煽る。ふと高輪は笑みを引っ込めて真剣な顔で視線を落とした。

「あの子…お兄ちゃんの方。なんか、エロいっすよね。不謹慎すけど」

「あ?てめ、何言…」

「いや、俺の好みだとかそういうことじゃないんですけど。なんつーか…不思議な、雰囲気のある子ですよね」

権田は缶コーヒーの空き缶を手の中で弄ぶ。正直、権田も感じていた。高輪も権田も女性が好きだ。高輪は違うかもしれないが、権田は男性相手に性的な興味は湧かない。しかし、鈴木光希は男性だが『愛らしい』と思う。邪気がなく、幼い子供のような彼に、権田は庇護欲が掻き立てられているのだと思っていた。しかし高輪の見解は違うようだ。

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