第21話
「僕…僕、嘘ついてないです」
「嘘だと、思っていません。間違えてしまったんじゃないかと思うので、もう一度お話を聞きたいんです。弟さん…清さんを、守るために。あなたは、ヤツに、何をしましたか。あなたが、埋めましたか?」
光希はギュッと毛布を抱きしめて震えていた。沈黙の中、権田の隣に立つ医師が半歩前に出る。光希が青い顔で声を絞り出した。
「清…まもる、ため?」
「そうです。違いがあると、擦り合わせるために拘束期間が延びます。もしも、万が一嘘があれば…嘘をついたことは罪になってしまいます。弟さんは、嘘をついていますか?」
「ち、違う!清は、嘘、ついて…」
光希は青い顔のまま目を泳がせている。
権田は光希の嘘を確信している。光希の体格ではダイベンシャを運んで埋めるのは不可能だ。何より状況証拠が物語っている。裏山に続いていた足跡は清のものしかなかった。穴をほったというスコップについていた指紋も清のものだけだった。
土のかけられていた、血のついた金色の像についていた指紋は光希のものだけだった。そういったものの指紋が拭き取られていなかったのは彼らが幼く、犯罪に手を染めきれていない証だろうと思う。
齟齬があれば拘束期間が延びる。いらぬ嫌疑をかけなければならなくなる。できれば二人、早く真実を話してほしい。
光希は何度も逡巡して、口を開いた。
「なぐ、殴ったの、俺です。埋めたの、は………清、です」
光希は事件について話し始めた。医師は止めようとしていたのだろう。声を出した光希に、権田は医師を制した。
事件についてのあらましは清の話と同じだった。光希がダイベンシャを殴り、清が部屋に入ってきた。清がダイベンシャを埋めて帰宅し、夜中に清に連れられて家を出た。
「あの人を埋めるのも、村から連れ出してくれたのも、清です。俺、清があの人にやられてるって、思って、思い込もうとして、清に言いました。見てるだけだったの、ごめんなさいって。清が、こ、殺したって、思っちゃった、から、埋めに行くの、協力しました………清は、きっと、俺がまた、勝手に頭の中でお話を作ってること、わかってた。ダイベンシャ様に、清が、や、やられてたんだって、言ってた…清じゃ、ないです。俺のせいで…俺が、清に、やらせ、た、です。清、悪く、ないです」
光希は泣きながら何度もごめんなさいと謝っていた。二人の話に齟齬がなくなってきた。二人の想いを利用するかのように話を聞き出している。多少の申し訳なさはあるが、これが二人にとって最善となるはずだ。
もしや二人がダイベンシャこと田町の自宅から盗みでも働いたのかと思ったが、持ち物や所持金からそれはないことがわかっている。光希と清が田町を殴り埋めただけであり、その証言が齟齬なく二人から取れれば、これからの光希と清の処遇は大きく変わってくる。
清と光希はお互い、罪を被るために嘘をついていた。お互いを守るためだったのだろう。
「弟さんが、あなたをとても心配していました。我々はあなたも弟さんも守りたい。そのためにも、真実を明らかにさせていただきたいんです。何度も嫌なお話をさせてしまいますが…」
「清…元、気?」
「うまく、眠れていないようです」
権田は清の目の下の隈を思い出した。色濃い隈は、しばらく眠れていないと言っているようなものだ。光希は下から権田を見上げている。
「ごんたん、清とお話してるの?」
「権田です。あなた方お二人を担当していますので。なにか…伝えたいことはありますか」
光希は抱えた毛布に目を落とした。
「これ…ニャンニャン、清に、あげてほしい。お城で、寝てたから」
権田は光希の差し出した毛布を見つめた。幼児向けのキャラクターが描かれている。持ち出すときにも思ったが、ずいぶん古いもののようだ。
権田は首を横に振った。
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